旧・JIL国際講演会:日韓政労使交流
経済構造改革と雇用対策 -政労使の協力-
(2001年12月14日)

 日本労働研究機構では、2001年12月に、日韓政労使をパネラーとして「経済構造改革と雇用対策」をテーマに講演会を開催した。韓国労働部のイ・ジェカプ雇用政策室雇用政策課長、FKTU=韓国労働組合総連盟のカン・イック中央研究院運営室長、韓国経営者総協会ナム・ヨンウ労使対策課長の講演要旨を紹介する。

イ・ジェカプ雇用政策室雇用政策課長

   韓国は1997年、通貨危機に見舞われた。政府はこれを克服すべく経済の構造改革をすすめ、雇用についても大量失業対策と構造失業対策とを同時に行ってきた。
 97年12月、為替レートは3カ月前(1㌦=910ウォン)の二倍以上となる2000ウォンに急騰。外為保有高は、224億㌦(9月)から39億㌦(12月)に急減した。通貨危機は、高度成長期における構造問題が累積してあらわれたもの。国際競争力の弱体化も一因で、金融機関が大量に負債を負い、市場の監督体制も甘かった。こうしたなかで、東南アジアの金融不安の余波に飲み込まれてしまった。
 打破にむけ、政府は、①金融市場の健全化②財閥体質の改善③労使の協力関係の定着、市場の柔軟化、労働者権限の強化④公共事業の縮小――の四大部門の改革を行った。
 当然、問題は発生したが、通貨危機を克服できた。国際通貨基金(IMF)からの借入れは、予定より3年繰り上げて返済。2001年には、外貨保有額は1009億㌦まで増え、経済成長率は、マイナス6.7%(98年)からプラス2.8%まで回復した。
 韓国で失業率が最も高かったのは98年。6.8%を記録したものの、99年第3四半期には5.9%、第4四半期には4%台。2000年第2四半期には3%台となった。2001年2~3月、再度の構造改革で一時4.2%にアップしたとはいえ、第2四半期には3.7%へ下降。IMFの管理体制前に比べれば依然高いが、現在は3.5%を維持している。
 すべての問題をわりとたやすく解決できたのは、98年度の初めに設置し、現在では大統領の諮問機関になっている労使政委員会に負うところが大きい。労働分野を含めすべての社会問題を約90項目あげて合意し、協議してきたほか、政府関係者に説明義務も課せるようになった。
 98年から毎年、労働部主導で総合的な失業対策をうち立ててきた。投入予算は莫大で、98年には約5兆ウォン、99年には7兆ウォン、現在は3兆ウォン。減らす方向にあるのは、効果が現れているからだ。
 対策には4本の柱がある。
 1つは、職場の創出。中小、ベンチャー企業の創業を支援し、規制緩和にも努力してきた。2000年第1四半期と01年の第3四半期の就業者数を比べると、サービス部門が七%増。なかでも、個人事業、公共サービス部門は7.8%のプラスだ。一方、公共勤労事業は低所得層の向上意欲をそぎ落とすため、2000年は12万人まで削減している。
 青少年のインターン支援にも取り組んできた。イギリスのユースプログラムを参考にしたもので、中小事業主が青少年を研修生に採用した場合、ひと月50万ウォン(約5万円)を助成する。地方大学出身の女性に多く利用されてきたが、経済の回復に伴い、純雇用創出効果が抑えられるという副作用も現れた。政府は今年から、純粋に職場を体験するインターンシップ制度への助成に切り換えるとしており、例えば歴史科の卒業生は博物館の職場を経験するなど、より専攻と事業所のマッチングを高める見込みだ。
 2つめは、セーフティーネットの拡充。遅ればせながら95年から雇用保険制度を導入し、現在はほとんどの事業所に適用されている。日雇い、パートにも広げる動きがある。また、インターネットを通じた雇用安全情報網「ワークネット」を、99年より運営。誰もが家から、求人・求職を登録したり、政府が認定した情報を引き出したりできる。無料のため、かなり利用されている。
 さらに昨年は、事業主に構造調整イコール人員削減ではないと認識してもらうことにも尽力。マニュアルを作成し、労使協定を通じ望ましい方向に持っていくにはどうすべきか、改めて提示した。アウトプレースメント・サービスについても、雇用保険制度を改善し奨励金を設置。利用条件を労使合意とし、大手を中心に申し込みがある。今年は、中小が共同で利用する場合への適用も検討する。
 3つめの柱は、職業訓練。98、99年と規模は拡大し、対象は従来事業の80倍以上、17万人まで増えた。プログラム強化に向け、さまざまな改正法案も上がっている。例えば、オーダーメイド・トレーニング。会社側が必要とする人材を機関に依頼し、機関がニーズにみ合った人を訓練する制度だ。今年は15%を占める。
 柱の最後は、就業の促進。例えば中高年層について、政府は、彼らにビジネスを創業してもらうよう力を注いできた。青少年の高級人材に対しては、製造業に就業するよう強制もできないので、製造業の人材不足には中高年失業者をあてる施策と複合し、対応を試みている。

韓国労働組合総連盟(韓国労総)カン・イック中央研究院運営室長

 4大部門の改革は昨年2月末で大体終わり、現在は常時の構造改革がすすめられている。電力産業については、2000年4月から国営の韓国電力公社が六つに分割された。モデルケースはイギリスで、成功のいかんを判断するのは尚早だが、日本やイギリスと違い、独立の配電事業所を持たない例としては成功だろう。
 鉄道事業については、英レールトラック社が惨事と五年で破産、日本のJRもまだ20兆円の負債を抱えているにもかかわらず、韓国でも同様の形で進めている。大変残念に思えてならない。
 60~70年代、経済のけん引役であった石炭産業をみると、350あった炭坑が現在は11カ所。同産業が中心のテベ市の人口は13万から6万に減り、地域社会が崩壊するほどだ。構造調整は、失業とともに、貧困、家族崩壊、青少年問題、失業者の都心集中による交通、環境、住宅問題を引き起こす。構造調整をすすめるにあたっては、同時に地域共同体をいかに活性化していくか、勘案しなければならない。

韓国経営者総協会ナム・ヨンウ労使対策課長

 構造調整において企業が重点を置いたのは、3点。1つは、財閥所有の弊害を踏まえ、個別企業へ権限を委譲することと、社外理事・監査制度の積極的な導入など、透明性を高めること。2つめは、不要なビジネスを海外へ売却し、コア部門を強化すること。アウトソーシングも危機以来大変活発になっている。 
 3つめはリストラ。韓国の整理解雇法は四つの要件があまりにも厳しいので、せめて経営上の理由に係る、「緊迫した」という文言を削除するよう要求している。また組合との事前協議もネックで、例えば現代自動車は組合の反対で少しの整理解雇しかできず、早期退職金を費やして応じる者を募集している。
 今年からは常時的な構造調整体制に入った。民間に比べ公共部門における調整は進んでいない。鉄道、ガスなどでは民営化が進められようとしているが、労働界の反発で法案の提出すらできていない状況だ。