旧・JIL国際講演会 デンマークセミナー
デンマークにおける1990年代の雇用・労働市場政策
(2000年9月7日)

目次

講師プロフィール

講師Ⅰ:イェンス・ベック・アンダーセン
生年月日 1948年9月7日
所属職名 ヴァイレ地方労働市場事務局兼公共雇用サービスセンター局長
教育
  • 1979年:デンマークオーフス大学政治経済学修士課程修了
  • 1984~1985年:デンマーク国立公務員教育センター公共政治・企画経営学 各種修士号取得
職歴
  • 1979年:デンマーク国家労働市場局課長
  • 1982年:ヴァイレ市公共雇用事務局本部局長
  • 1987年:ヴァイレ地方労働市場事務局兼公共雇用サービスセンター局長(現職)
※1990年より現在に至るまで、東欧諸国、ロシア、アジア、北欧など計13カ国において、デンマーク雇用サービスシステムの紹介・セミナーの開催など各種プロジェクトに参加している。

講師Ⅱ:ヨーゲン・エッケロス
生年月日 1948年6月24日
所属職名 デンマーク労働省雇用斡旋・促進局長
教育 1974年:コペンハーゲン大学経済学修士課程修了
職歴
  • 1974年:デンマーク労働総同盟(LO)経済部
  • 1977年:北欧労働組合連合会事務局(ストックホルム)
  • 1986年:デンマーク労働総同盟(LO)チーフ・エコノミスト
  • 1993年:在米国ワシントンD.C.デンマーク大使館参事官(労働市場担当)
  • 1997年:労働省労働安全・厚生局長
  • 1998年:労働省雇用斡旋・促進局長(現職)、各種委員会委員経歴(デンマーク労働総同盟関連)
  • 1974~1977年:社会保障委員会疾病給付会議委員
  • 1975~1977,1980年:労働省低所得委員会委員
  • 1981~1993年:産業貿易委員会財政監督局保険協議会委員
  • 1984年:労働省労働時間委員会委員
  • 1985~1986年:産業省企業年金基金委員会委員
  • 1987年:財務省労働市場拠出金技術委員会委員
  • 1988年:労働省労働市場年金委員会委員
  • 1989年:労働省労働市場労働市場構造問題三者委員会委員
  • 1990年:財務省雇用促進・教育・訓練委員会委員
  • 1992年:財務省労働市場改革委員会委員

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主催者開会あいさつ

齋藤日本労働研究機構理事長

ブルックナー駐日デンマーク大使閣下、デンマーク労働省のアンダーセン局長及びエッケロス局長並びに本日お集まりの皆様、デンマークセミナーにご参加いただきまして、誠にありがとうございます。セミナーの開催に当たりまして、一言ごあいさつ申し上げます。

本セミナーは、昨年10月に来日されましたデンマークのイェスパーセン社会大臣が当時の牧野労働大臣と会談をされました際に、イェスパーセン大臣から、日本とデンマークの間で雇用・労働問題にかかわる議論の場を設けてほしいという提案がございました。その具体的な形といたしまして、我が国労働省、デンマーク労働省及び駐日デンマーク大使館のご協力によりまして、本日のセミナーを開催する運びとなったわけでございます。

後ほど講師の方から詳しいお話があると思いますが、デンマークは1990年初頭までは失業率も高く、雇用情勢は極めて厳しい状況にありました。しかし、94年に失業保険受給期間の見直しや長期失業者への職業訓練、教育制度の改善などの積極的な労働市場政策が実施されました。その結果、96年には失業率が10%を下回るなど、非常に大きな成果を上げてこられました。この成功は「デンマークモデル」とも言われ、世界的にも注目を浴びているところでございます。

一方、我が国におきましても、現在、景気はやや回復基調にあるとは言われておりますが、経済のグローバル化、情報化、サービス経済化等の一層の進展による産業構造の転換などによりまして、失業率は4%台後半で推移しており、雇用失業情勢は依然として厳しい状況にあると言われております。このような機会に、大きな成功を収めておりますデンマークの事例を直接お伺いすることができるということは、我が国にとりましても非常に意義深いものであると思います。本セミナーが皆様方にとりまして、いささかなりともお役に立つことができましたら幸いでございます。

最後になりましたが、本セミナーのためにデンマークからわざわざおいでいただきましたお二人の講師の方々、そしてまた、お忙しい中をコメンテーターとしてセミナーへの参加をお引き受け下さいました我が国の政労使の皆様方に心から感謝を申し上げまして、甚だ簡単ではございますが、私の挨拶とさせていただきます。

それでは、よろしくお願いします。どうもありがとうございました。

ブルックナー駐日デンマーク大使

齋藤理事長、そしてご列席の皆様、まず初めに、本日はどうもありがとうございます。ここでこのような機会をいただきまして、1990年代のデンマークの雇用と労働市場政策についてお話しできますことを心よりうれしく思っております。

グローバル化と申しますのは、どの国にとっても非常に大きな挑戦であると言えましょう。海外からの競争が導入され、新たな形の情報通信技術が入ってまいりました。また、貿易の自由化も進んでおります。そのため、私どもがこのような課題にこたえていくためには、やはり専門知識やノウハウというものをそれぞれの分野で交流していくということが重要になります。今回のセミナーはそのよい例だと思っております。

最近、デンマークの経済は非常に堅調に伸びております。また、失業率も大幅に低下してまいりました。しかしながら8年前は、デンマークにおいても、現在の日本が直面しております経済の停滞や失業といった同じような問題を抱えていたのです。そこで、私どもは1993年半ばから経済の回復をはかり、94年春から雇用が増大し、失業が減少してまいりました。

デンマークにおける労働市場改革は94年に開始されました。その後、改革そのものは定期的に環境の変化に合わせ調整してまいりました。ターゲットを絞った雇用促進措置、より効果的な措置の運用、失業保険給付条件の変更、見直し、雇用給付金の削減、そして権利と義務についての原則の導入などです。こうした措置によりまして、労働市場の改革は大きな成果を上げてまいりました。柔軟性のある労働市場が生まれてまいりました。しかも94年の失業率が12%だったのが、99年には5.6%まで下がってまいりました。本日は、こうした点についてスピーカーがお話しさせていただくことになっております。

今回この二人の話によりまして、新たな、そして先を見通した実践的な措置のアイデアが生まれてくればと考えております。このように2国間の交流を通じて新たなものが生まれてくることを期待します。また、お互いに学ぶことも多くあると思います。デンマークは失業対策という意味では、ヨーロッパで大成功を収めた国であると思いますが、また同時に、私どもは日本から学ぶことも多々あると思っております。

その一つは、民間企業の社会的責任ということが挙げられます。私どもデンマークでは、これに大きな関心を抱いております。

デンマークの大使館といたしましても、このような意見交換がお役に立つことを心から願っておりますし、このセミナーが成功裏に終わることを願っております。

どうもありがとうございました。

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講演Ⅰ:「デンマークにおける1990年代の雇用促進と労働市場改革」

イェンス・ベック・アンダーセン(ヴァイレ地方労働市場事務局兼公共雇用サービスセンター局長)

齋藤理事長、ブルックナー大使、並びにご出席の皆様方、本日私は、90年代のデンマーク労働市場の動向や経済的な枠組みについてお話ししたいと思います。労働市場政策の進展について理解するためにはこれが重要であるからです。それから次に、90年代の労働市場政策の主要な原則、さらに最近行われた労働市場の改革と、それ以降の改革に対して行われた調整について説明します。その後、労働市場政策の経験についてまとめをいたしまして、最近行われました積極的な雇用促進措置の効果について分析したいと思います。そして、最後になりますけれども、この積極的な労働市場政策の将来の課題についてご説明したいと思っています。

デンマークの経済動向ですが、1980年代の半ばから93年までは低成長でありました。雇用が縮小し、失業率が高くなった。これはエッケロス局長が言われたとおりです。経済が7年間停滞し、93年の半ばから回復の基調となりました。94年の春には、労働市場にも回復の兆しがみえてきました。雇用が拡大を始め、失業率は93年以降下がってきています。失業率が最高に達したのは93年であり、35万人が完全失業でありました。これは労働力の12.5%に相当します。99年には15万8,000人が完全失業であり、これは労働力の5.7%、そして直近の数字ですが、2000年6月では5.4%という数字になっています。実際、この数字は第一次石油危機以来、最低レベルの失業率となっています。

また、同時に重要なのは、若い失業者が減ってきているということです。現在は3~4%という数字になっています。デンマークでは、80年代に非常に多くの若者の失業問題がありましたが、現在は問題になっておりません。労働市場の動向は、より全体的な経済の動向と合わせて考える必要があります。まずGDPで見る経済成長ですが、94年以来、プラスのバランスの取れたレベルになっています。大体2.5~3%となっています。またインフレは低く、安定した率で推移しています。金利も比較的低い状態で推移してきました。

このように、90年代の経済及び労働市場の好転には幾つかの理由があります。政府は、安定した財政政策、均衡予算、固定相場を土台に経済政策を組み立ててまいりました。同時に政府は、幾つかの主要な構造改革政策を行いました。例えば税制改革や労働市場改革です。この労働市場改革については後ほど詳しくご説明いたします。

雇用を拡大し実質賃金を上昇させていくためには、節度ある名目賃金の引き上げが必要であるということを、政府及び社会的パートナーが共通に理解していました。

それから最後に、これは大事なことですが、90年代の後半、欧州では全体として経済が好転をし、それがデンマークにもプラスの効果を与えたということが言えます。

まとめますと、90年代は経済が好転をしたということ、そして、労働市場において非常に重要な動向としては失業率が下がったということです。

このような良好な市場の状況というのが労働市場政策の成功の前提となっていますが、しかしながら、他方で、積極的な労働市場政策をとったということがバランスのとれた成長、インフレを伴う経済の加熱に至らなかったということの重要な前提条件であると思います。積極的な労働市場政策により、労働の有効供給が高まり構造的失業が減りました。比較的高い失業給付の保障を下げるという形をとるよりも、積極的な労働市場政策を意図的にとったわけです。

この高い保障というのは、デンマークの福祉政策の中でも長年にわたって非常に主要な要素の一つでありましたが、これがあったからこそ、労働力が労働市場の変化に対して柔軟に適応できたし、労働の移動も容易に行えたという面もありました。

それでは、1990年代の労働市場改革の主な原則について説明していきたいと思います。93年以降、何回か非常に大きな変化がデンマークの労働市場政策に導入されました。まず最初の労働市場改革が94年に行われ、その後、改革と経済開発の整合性を持たせようということで、95、96、99年に変更がありました。これらの変更の目的は、労働市場政策の積極策を強化するという内容のものです。94年の労働市場改革には3つの大きな原則があります。これらの3つの原則は、今でも根本的なものでありまして、最近になりまして法的な枠組みの調整が行われましたが、それでも重要な柱となっています。

まず第1にニーズ志向である、必要性を重視するということです。失業者に対して積極策をとっていくということですが、これは失業している個人とその地域の労働市場のニーズをベースにしたものでなければなりません。その積極策の内容が職業訓練であれ、教育訓練であれ、その他の措置であれ、それぞれ失業した個人のアクションプランが作られ、これが積極策のガイドラインとなります。例を挙げますと、ある失業者がいたとします。この人は正式な資格がない、職業的な資格がない、教育をきちんと受けていないとします。この場合には、まず教育を受けて、資格を取って、それから職業訓練を行う。それとは反対に、もう既に正式の資格を持っている、教育を受けている人には職業訓練を集中的に行うということです。

2番目の柱として分権化というのがあります。労働市場政策をつくり、ターゲットグループを絞っていく仕事を分権化して、地域の労働市場協議会に行わせるようにしました。つまり、労働市場政策を多様性ある地域のニーズに合ったようなものにするわけです。

3番目ですけれども、これはエッケロス局長が先ほど既に言われたことですが、社会的パートナーを関与させるということです。社会的パートナーを労働市場政策のマネジメントにかなりの程度関与させる。例えば、地域の労働市場協議会に参加してもらったり、全国の労働市場協議会に参加してもらいます。全国労働市場協議会というのは、労働大臣の諮問機関となっています。

そして、その後にこの改革に幾つか調整が加えられました。この労働市場改革が行われたのは、失業率がピークに達した時でありました。先ほども申しましたように、経済状況はそれ以降大幅に変わってきました。雇用も拡大し失業率も下がってきました。このような経済状況の変化により、きちんと資格、能力のある労働者が有効に供給されることを確保しなければならないということで、労働市場改革の調整を、95、96、99年に行っています。この調整の内容でありますけれども、これは労働市場政策の積極策により重きを置くということです。

まず積極的な雇用促進のシステムですが、その中では、権利、義務の双方を強調しています。失業中のある一定期間を、積極的雇用促進策に継続的に参加する権利と義務です。この積極策への参加については、失業した早期の段階から参加するように変えていきました。3年目から1年目に変わっています。また、失業保険の給付については引き締めを行い失業者は積極的に求職しなければならないという義務を強調しています。

このようにして、2001年1月から、失業者に対して次のような枠組みが提供されるようになります。まず、失業者で25歳以上の人については、失業保険制度で4年間をカバーします。この4年間のうち、まず1年目は失業保険給付期間となっておりますが、地域のニーズの評価を行った上で1年目でも積極策に該当する可能性があります。そして、残りの3年間については積極的な雇用促進期間の対象となります。また、その間にはフルタイムで労働市場プログラムに参加する権利、義務が生じます。25歳未満の場合でも4年間の失業保険のカバー期間がありますけれども、半年間は失業保険給付期間、残りの3年半につきましては積極的雇用促進策に参加する権利、義務を有することになります。

つまり、失業1年目は主に積極的な求職活動を行ってもらうため公共職業サービスの指導を受けます。1年目に雇用促進策の対象となる人たちはあくまでも厳密にニーズがある人のみに限ります。ですから、1年目はできる限り多くの人が自分たちで仕事を見つけてもらおうと。そして、その後積極策をオファーします。ただし、公共職業サービスが、例えばその前の段階でも、この人は長期的に失業者となるというリスクがあると考えた場合、また、その地域の労働需要を考えると、そのような積極策が必要だと考えられるような場合には積極策を受けてもらいます。

この改革の特徴は、労働市場政策の積極策を強調するというものになっています。失業者の権利義務、それからまた、失業期間を徐々に前倒しにしていく。これは若い人でも成人でもしかりであります。それから、継続的に積極策の対象となっていくということが大きなポイントとなっています。

ニーズを重視する、分権化をする、社会的パートナーを関与させるという3つの柱については、基本的に不可欠な労働市場政策の柱として維持されています。積極策が強調されてもここは変わりません。積極策のプライオリティー、それからまた権利義務の原則によりまして、90年代にはこの積極策の規模が随分大きくなってきました。90年代を見てみますと、この積極策に参加した人たちがその前の10年間と比べますと倍増しています。また、95年以降現在までその数は上昇傾向にあります。この積極策のターゲットグループとなった人は、94年以降減っているにもかかわらず、積極策に参加している人は増えています。雇用も拡大し、失業率も下がってターゲットグループは減っていますが、参加している人は増えています。

積極策のターゲットグループとして入っている20万人のうち、6万人が能力アップのためのコースに参加しています。3分の2は教育訓練、3分の1が職業訓練その他補助金給付つきの雇用に入っています。積極策を重視するということで、毎年毎年、労働力のうちのおおむね4%が雇用促進プログラムに参加していますので、それを考えてみますと、労働市場政策の効果についてきちんと調査をする必要が出てきます。

それでは、私たちの経験について、その分析の結果をお話しします。積極的な労働市場政策の効果については現在でも継続的に分析されていますが、全般的に見まして、このような積極的な労働市場政策が非常に良い結果をもたらしたとご報告することができます。これは労働省が行いました政策成果によっても裏づけられています。

ここで、この積極的な労働市場政策のプラスの効果についての分析例を幾つかご紹介していきたいと思います。失業者個人個人を見た場合、3つの効果が確認できました。まずスキルアップが実現できたというのが1つ目です。それから労働意識が高まったということ、さらに給付期間が短くなったということです。

まずスキルアップが実現できたということについてですが、この積極策に参加した人たちで、このプログラムを完全に終了した人たちの方が、プログラムに参加しなかった人に比べて失業給付の受給期間が短かったという結果が出ています。それぞれの資質を上げるということですが、これは同時に失業者の公的給付の支払い期間を短縮したという成果も生み出しました。

また、積極策に参加したことでその後の雇用可能性が高まったという結果も出ています。96年から98年を見てみますと、公的給付の支払いは、就職促進プログラムに参加した人たちは、プログラム終了後の1年で約15%も削減されたという結果が出ています。公的給付金の支払いが約15%少なくなっています。このように、積極策への参加により、その後の雇用確保の可能性が高まってきたということが言えますし、また同時に、公的給付に依存している人々の数も削減できたという結果が出ています。

分析によりますと、このような効果は96年から98年の間にさらに改善しているのですが、これは、一つには同じ時期に経済状況そのものがプラスに転じたということも一因していると思います。もちろん、効果といいますのは、どういった人たちが参加したのか、どういった職業促進計画があったのかなど、それぞれ具体的なものによって違ってまいりますが、民間企業の職業訓練の方がより大きなプラスの効果を出しているという結果も出ております。これは公共の職業訓練や教育訓練と比べてということでありますが、民間による職業訓練の方が、よりスキルレベルの高い失業者を対象にしていたということも一つの原因かもしれません。

また、高齢者の成果はあまり高いとは言えません。6%のみでした。これは、この年齢の人たちの雇用機会が低いという全般的な動向を反映していると思います。

次に労働意欲ということで見ていきたいと思います。失業者の求職活動といいますのは、積極策に参加しなければいけないという気持ちがあったほうが高まるという結果が出ています。すなわち、先ほど申しました権利と義務の条件が発生する直前に求職活動が高まるということです。また、このプログラムに参加する直前に失業から雇用への状況改善が見られるというケースが多いと言っていいでしょう。失業者が失業給付を受ける状態から通常の雇用状態に移行するという状況を見たときに、この受給期間の長さというものにも一つの要因があるということがわかりました。失業給付の受給段階から雇用段階への移行は、失業期間の最初の26週間目に大きく起こっています。また、給付制度が2年間たちますと、その人はより移行が高くなるという結果も出てきています。

98年における権利と義務の積極策のプログラムに参加した人たちの結果によりますと、失業者が積極策期間に求職活動する度合いが弱まってしまうという傾向がありますが、これはある意味では、スキルアップの成果と労働意欲の成果を相殺し てしまうものと言わざるを得ません。ですから、就職促進活動との関連で、この効果を分析しなければなりません。求職活動がこの雇用促進活動に参加している間に下がってくるということも一つの大きな要素として考えていかなければなりません。 ですから、失業の早い段階で、雇用状態に移行してもらうということを促進していかなければなりません。こうした場合には、就職促進活動に参加していなくても移行を早めていくという努力が必要になりましょう。

やはり労働市場の中でも一番スキルレベルの高い人たちには、自分たちで雇用を確保する能力があると言ってよいでしょう。ですからこそ、雇用促進プログラムを実施する場合には、その対象となる人たちをだれにするのかということ、すなわちニーズを失業の初年度に把握しながら決めていかなければなりません。

一人一人の失業者が就職への努力をすること以外に、90年代に実施された幾つかの労働市場政策の中で、皆様方にご紹介したい点がもう一つあります。それは公共雇用サービスについてです。

経済状況も全体的に好転し、スキルの高い労働力の需要も90年代に増えてまいりました。公共雇用サービスは一人一人のニーズに合った就職促進策というものを打ち出していかなければいけませんが、同時にその地域の労働市場の需要に合った人材も確保していかなければいけないわけで、これも公共雇用サービスの一つの原則的な役割と言ってよいでしょう。

また、より困難にさらされている失業者を対象に、より前向きな市場というものをつくっていかなければなりません。長期失業者にさらに配慮していかなければならないと言っていいでしょう。労働市場におけるこうした人々への対応が、今後、公共雇用サービスの大きな役割になりますが、これはそれぞれの地域の労働市場の様々な関係者との密接な協力を必要としています。

例えば、失業保険の基金、あるいは、各社会福祉の当局、そして地方政府や公共、民間企業との協力も必要になってまいります。労働市場政策においては、やはりスキルアップというものが重要になりますし、労働意欲の創出も非常に重要だと申しました。また、一人一人のニーズに配慮した地方分権も重要であるというお話をしてまいりました。地域の労働市場というものに配慮して、個々の失業者のニーズに合った形の政策というものも要求されるわけです。ですから、労働市場政策の積極策は、労働市場の構造そのものを改善したとも言えます。構造的な失業という状況は、90年代後半に大幅に改善してまいりました。また同時に、賃金の上昇は比較的低く抑えられていました。失業率は5、6%でしかありませんでしたが、しかし、ここで注意しなければならないのは、給付金を長く受給するということがありましたら、やはり初期の段階で雇用促進措置というものを正確にターゲットを絞って実施することが重要になってくると思います。

最後に、将来のデンマークの労働市場政策にとってどのような課題があるのかについてお話ししておきたいと思います。

この政策は今後とももちろん非常に重要な政策であると言えます。デンマーク的な構造政策と相まって、労働市場の政策と申しますのは、我が国において、より重要な役割を果たしてまいりました。これはより幅の広いマクロ経済の意思決定というものが必要だからというだけではなく、やはりEUという域内での調整も必要とされるからなのです。

90年代の積極的な労働市場政策が大成功を収めましたけれども、まだまだ私どもの前面にはいくつかの大きな課題が残っています。1つは、労働市場において、そして社会政策において、効果的な労働力の供給を実現するためには、さらなる積極策の強化というものが必要だということです。失業者のスキルアップを進めていくということ、そして、積極的な求職活動を行うための奨励策を示していくということが、継続的な経済成長にも基本的な要件となると思います。

2つ目は、失業初年度における積極策をもっと的を絞って実施していくことが必要になります。そうすることで、自分たちで求職活動ができる人たちに対する積極策は必要なくなると言えます。また同時に、失業者の初期の積極策導入というのは、長期的な失業のリスクをも高めてしまうことにもなりかねません。できるだけ通常の雇用を早い段階で求めるようにという努力をしていかなければなりません。

3つ目は、さまざまな措置というものを行ってまいりましたが、こうしたものをコスト効率のよい形で分析し、そして積極策の資金をよりよい形で利用できるようにしていかなければなりません。多くのプラスの効果が出てまいりましたが、今後とも、さらにその対象となる人たちをすべての範囲に広げていき、誰でもが、必要であれば最高のスキルアップの機会を与えられるという環境をつくっていかなければなりません。また同時に、積極策の質そのものを高めていくことも重要でしょう。今後とも、このような積極策の期間において、プログラムがより厳密で具体的なものが必要とされるようになると思います。そうすることで、そのプログラムの実際の中身よりも、いかに失業長期化のリスクを減らしていくかも考えていかなければなりません。また、これが同時に、雇用促進措置の質そのものも高めていくことができると思います。

4つ目は、より弱い立場の人々に対して、より効果的な新しい方法を取り入れていかなければなりません。先ほど申しましたように、失業者という人たちは失業という問題だけが唯一の問題ではありません。失業者という立場になることによって、その他の問題も浮き上がってくるといってよいでしょう。そうした人々は、職業的な能力がない、スキルがない、民族的に少数民族の立場にある、不利な立場に置かれている人たちかもしれません。こうしたことを、私どもが導入する措置でも配慮していくことになりましょう。そうすることで、より弱い立場の人たちを排除することがないように、公共雇用サービスとその他の民間や公共部門の人たちとの協力とパートナーシップをよりうまく機能させていかなければなりません。

最後に、この雇用促進策、そして雇用斡旋サービスをより効果的に行うためには、様々な関係者の対話を強化していかなければなりません。やはりこの目的は、通常の雇用を提供するということになりますし、そのためには、よりよい斡旋活動も必要になります。また、民間、公共の雇用主との接触も重要になりましょう。そうすることで、通常の雇用という形で雇用促進措置のより前向きな効果を高めていくことができると考えております。

どうもありがとうございました。

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講演Ⅱ:「デンマークにおける労働市場政策の制度的枠組みと主な特徴 —労働市場での労使の意思決定や協議への一般的な関わり—」

ヨーゲン・エッケロス(デンマーク労働省雇用斡旋・促進局長)

齋藤理事長、ブルックナー大使、並びにお集まりの皆様方、まず最初に、デンマーク労働省にかわりまして、本日のデンマークセミナーにお招きいただいたこ とに対してお礼申し上げたいと思います。

労働市場政策の分野におけるお互いの経験を交換できる機会を設けていただいたことに感謝いたしております。また、このセミナーが将来のための新しい発想 が生まれるきっかけになることを期待しております。

私の講演では、デンマークの労働市場政策の制度的枠組みに焦点を当てたいと思います。

最初に1990年代前半の非常に大きな労働市場改革の実施の背景について述べたいと思います。次に、デンマークモデルの主な特徴、それからまた、伝統的 な社会的パートナー、労使との連携について話していきたいと思います。さらに、デンマークにおける労働市場政策の地域化についてご説明します。最後に、こ の大きな労働市場改革の実施に当たっての我々の経験についてご説明いたします。

まず初めに、デンマークに関して幾つかの基本的なことを説明しておいたほうがわかりやすいと思います。人口は530万人です。そのうちの半分強が労働力 人口でありまして約290万人です。男性の労働力率は82%、女性の労働力率は73%です。デンマーク全体の労働力率は78%でありまして、これはEUの 中で最も高い数字となっています。

デンマークで採用している方法で計算した失業率は、94年の13%近くから、現在では5.2%まで低下しています。また、国際比較で用いられますEUの 統一的な計算方法に従いますと、デンマークの失業率は現在4.5%となります。従いまして、ヨーロッパの中でもデンマークは最も失業者が少ない国の1つと なっています。

1970、80年代を通じまして、デンマークでは深刻なマクロ経済上の収支不均衡の問題を抱えていました。そして、80年代半ばまでには、深刻な国際収 支の不均衡の問題に対処する必要性が広く認識されるようになりました。20年から25年もの間、デンマークは常に国際収支が赤字の状態にあり、80年代後 半には、累積対外債務がGDPの約40%にまで拡大してしまいました。

こうした深刻な国際収支の不均衡の問題に加えて、デンマークはまた、大きな財政赤字の問題も抱えていました。さらにこの期間は、物価・賃金が急騰した時 期でもありました。このため、デンマークの競争力にマイナスの影響が生じ、商業や産業の利益を減少させることになりました。その結果、輸出は停滞し、新た な投資も生まれなくなりました。しかしながら、最も大きな問題は、貯蓄が極端に低いことでした。このため、貯蓄を増大させることが喫緊の課題となりまし た。

その第一歩として、86年に税制改革、87年に財政政策を引き締めるという政策がとられました。そして、87年秋の三者間の協議によって、翌年以降の所 得政策と経済回復政策の成功の基礎がつくられました。これはまた、労働市場改革、年金改革に向かっての第一歩ともなりました。

問題は、国際収支の不均衡と国家財政だけではありませんでした。第3の課題として、高い失業率と長期にわたる失業の問題がありました。先ほど述べたよう に、賃金は非常に上昇しました。80年代後半の状況は、ある産業や職業においては労働力不足の状態にありながら、他の分野では失業率が高いというパラドッ クスにありました。

80年代半ばまでには、構造的な失業が増加しつつあることを示す兆候が見られるようになりました。このため、80年代の終わりに労働市場の構造的問題に ついての活発な議論が起こるようになりました。90年代前半には、この議論は社会的パートナーとのより正式な協議へと発展していきます。端的に言うと、構 造的な失業が高水準にあるのは労働市場における能力の需要と供給の間にミスマッチが存在するためです。これは、労働市場の需要と供給の二つの側面を適合さ せることが必要であるにもかかわらず、そのための仕組みがうまく機能していないということを示しています。この仕組みは、主として賃金の形成、教育訓練シ ステム、失業者の就職促進のための積極策と職業斡旋のシステム、そして、失業給付システムとその給付にかかわるルールであります。当時の労働市場は硬直的 で、中央集権過ぎました。

このようなシステムの中では、個々の失業者のニーズや可能性を見つけたり、また、各地域や地方のニーズや条件に適合するように、ターゲットを絞った措置 を講じることは不可能でした。デンマークのような小さな国においても、それぞれの地域に合った措置をとることが重要です。コペンハーゲンのような大都市に ターゲットを絞った措置を講ずるか、地方にターゲットを絞るかということは重要な問題です。

今述べたことが、新たな労働市場改革を立案する上で考慮しなければならないことでした。簡単に言えば、デンマークにおいては、マクロ経済上の非常に大き な、深い問題が存在していたことと、労働市場が、常に変化する現在の労働市場の需要と供給にマッチしていなかったということであります。

デンマークの労働市場が抱える問題の原因は明らかでした。デンマークは労働市場に深刻な構造上の問題を抱えたままの状態で90年代を迎えたのです。この 問題に対する解決策も同様に明らかでした。公的で、ダイナミックな労働市場政策を実施することにより、制度的枠組みを改革し、そして、各地域ごとの条件や 周期的な変動に適合した柔軟な措置の導入を可能とするような実質的な改革を行うことが必要であったのです。

労働市場改革の意図は、労働市場をより柔軟なものとすること、労働市場政策のマネジメントを分権化することにありました。個々人のニーズや可能性ととも に、地域ごとの労働市場の条件をより一層、できる限り考慮に入れることができるようにすることが意図されていたわけです。この目的を達成するためには、労 働市場政策の責任を地域化するとともに、社会的パートナーに一層権限を委任することによって社会的パートナーとの協力をさらに発展させることが自然で、論 理的でありました。

これまでデンマークにおける労働市場改革の導入の背景とその改革の意図を簡単に説明してきましたが、ここで、より具体的にデンマークの労働市場政策をま とめている制度的枠組みについてお話ししたいと思います。そして、いわゆるデンマークモデルの特徴点についてもご説明したいと思います。

デンマークモデルの一つの特徴は、賃金、労働条件のルール設定の大部分が労働協約、その他の協約という方法によって、社会的パートナーに委ねられている ということです。実際には、これらの協約がその他の労働市場の条件を決定しています。これはデンマークの労働市場政策のシステムが、他のEU加盟国に比べ てより労使交渉によるシステムとなっているということを意味しています。他の加盟国では、労働組合の組織率が低く、労使交渉よりも成文法に重点が置かれて います。ただ、この点については、今日ではデンマークにおいても労働市場政策の分野で法令の活用が進む方向にあることを認めざるを得ません。

しかしながら、このことによっても社会的パートナーとの連携というデンマークの深く根づいた文化に変化はありません。100年以上にわたって労働市場政 策の立案、実施に当たり、関係団体との連携を図るという政治的な伝統が発展してきました。労働市場分野におけるこのような三者間の緊密な協力関係は、国際 的に見ても非常に高いデンマークの労働組合の組織率を反映しています。

労働者側においても、使用者側においても、労働組合や使用者団体の加入率が高いことがデンマークの特徴です。例えば、デンマークの労働者の80%以上が 労働組合に加盟しており、労働協約が適用される労働者の割合は、全部門の平均で70%となっています。部門ごとにばらつきがありますが、サービス部門では 約50%、そして、公共部門ではほぼ100%となっています。

労働市場における大きな改革を実施するにあたって政府が行うことは、社会的パートナーと労働市場の解決策についてのコンセンサスを得るために協議すると いうことです。実際には、社会的パートナーは多くの場合、法案がデンマーク議会に提出される前の段階で協議を受けます。このため、社会的パートナーはプロ セスのごく早い段階で意見を述べて影響力を行使することができます。政治プロセスの初期の段階に労使団体に協議するのは、最終的に得られる結果が社会的パ ートナーに受け入れられるようにするためです。このように、デンマークモデルは、デンマークの一般的な労働市場政策に労使団体が影響力を行使できるように しているのです。

デンマークモデルがうまく機能するためには、労使団体がお互いに良好な関係にあり、そして、労働市場の解決策についても、本来は相反する利害関係にあり ながらも協力し合えるということが重要な前提条件となります。共通の利益が大きければ大きいほど、労使団体が影響力を行使できる可能性も大きくなります。 この点でも、デンマークモデルはよく機能しています。

これまで述べてまいりましたように、三者間の協力がデンマークモデルの中核をなす特徴です。そして、デンマークにおいては、政府と社会的パートナーとの 間で行われる対話こそ、労働市場が活力にあふれ、うまく機能していくための非常に重要な前提条件であると考えられます。

デンマークにおける政府と社会的パートナーの協力は、様々な形を取ります。例えば、大きな改革の実施に先立って設けられる特別委員会のような場でも協力 が行われます。各省庁の職員が社会的パートナーの見解や意見を知るために労働市場対策について意見を聞く、社会的パートナーの代表と非公式な議論を行うと いうこともよく行われています。また、政府と社会的パートナーとの協力は、例えば公務員や社会的パートナーから構成される、より恒常的な市議会、委員会の ような、より制度的なものであることもあります。例えば、三者による協力関係が制度化されているものとして、教育訓練や職場における安全衛生などが挙げら れます。そして、このような委員会の設置、構成、役割は、明文で規定されています。

デンマークモデルの特徴であるコンセンサスモデルは、意思決定の段階では、ときとして時間がかかるように見えます。これは必ずしも常に三者間で合意に達 することができるわけではないことを反映しています。しかしながら、一方で、労働市場政策の改革を社会的パートナーが一旦受け入れれば、コンセンサスモデ ルはデンマークの労働市場政策に一種の安定性をもたらすことができます。

デンマークモデルでは、三者間の協力というものを促進するための制度的な枠組みを打ち出しております。そうすることで、社会的パートナーが94年以降、 労働市場政策の運営にかかわり、参加してまいりました。これは失業者のための雇用促進措置という形でも実現されております。デンマークにおいて、94年に 初めて労働市場改革が推進されましたが、これはその方策そのものの内容だけで改革が実現しただけではありません。これに加えて、その政策改革の運用そのも のも変わってきたと言っていいでしょう。すなわち、これまでは中央の運営というものが強かったのですが、それがより地方への権限移譲というものに移ってま いりました。70年代及び80年代は、労働市場政策は中央中心でしたが、その後は中央から地域や地方へとその中心が移ってまいりました。

それぞれの地域で労働市場協議会というものが設定されました。我が国には14の地域がございます。この地域というのはおそらく日本の県というものに相当 すると思います。地域の労働市場協議会がその地域の就職促進計画を策定いたします。また、公共雇用サービスもその地域の中で計画を進めてまいります。協議 会のメンバーは、それぞれの地域での社会的パートナーの代表と地域内の当局の代表です。事務局的な役割は公共雇用サービスが果たします。94年の労働市場 改革では、14地域の労働市場協議会がそれぞれ地域の活動の予算案をつくりました。ただし、地域の予算案は、中央で決められた予算の枠組みの中で決められ ていきます。またこの協議会は、地域内の労働市場におけるさまざまな活動を計画する責任を担っており、その地域での目標の設定、中央で決定された要件の実 現に向けて地域レベルでの要件の設定も行ってまいります。

地域の協議会は毎年中央政府と契約を結びますが、その中で地域の協議会の自由裁量により具体的な目標を設定し、その活動から得られる成果を決めていくわ けです。

こういった、改革により、地域レベルの労働市場の活動というものが非常に短期間で功を奏し、しかも柔軟性のある形で実現することができたわけです。また 同時に、それぞれのニーズに応じた活動を打ち立てていくことができます。一人一人の失業者の職業に対する好みや、地域の労働市場のニーズというものをきめ 細かく配慮することができるということは、失業者にとっても、そして雇用主にとってもメリットがあることと言えましょう。

また、このような方策により、社会的パートナーの影響力というものを発揮することができますし、地域レベルにおける当局の介在も積極的になることができ ます。このような社会的パートナーが前向きに、建設的に参加するということを、中央でも地域でも進めてまいりました。これにより、同時に、失業者と企業と の間の密接なかかわり合いというものを深めていくことができました。、三者の協力によりまして、比較的多額な予算を自由な形で利用することができる体制が できていると言ってよいでしょう。

デンマークには、社会的パートナーが意思決定に参加するという伝統が従来より根強くあります。これがまた、デンマークモデルの根本にある考え方であると 言えましょう。デンマークにおいては、どんなレベルをとってみましても、雇用者であれ、使用者であれ、それぞれの組織が契約という形で受け入れた条件を尊 重いたします。このような、契約の尊重、コンセンサスの重要性というものを背景にして、雇用者、使用者がより責任を持った形で行動することができると言え ましょう。

もう一つ重要なことは、労働市場の雇用促進措置の実施にあたっては、それぞれの側の職場における具体的な活動・職場の参加が必要になります。コンセンサ スのモデル、そして社会的パートナーの果たすべき責任というものが広く受け入れられていますので、それぞれの地域や職場で導入されるさまざまな活動はあま り労使間の対立がない形で実施することができます。当初からコンセンサスをベースにしていたからと言っていいでしょう。

また、この関連でもう一つ言えることは、デンマークは世界の中でも最も平和的な労働市場であると言っても過言ではないと言うことです。これがまた、デン マークモデルの基本にあると思います。我が国の密接な社会的パートナーの協力というものは、地域レベルだけで実現しているわけではありません。このような 密接な協力体制というのは、全国レベルで、中央政府でも実現されており、全国労働市場協議会が設置されております。これは、労働省に対する諮問機関という 役割を果たしています。同じような機関が公共衛生部門にも存在しています。全国労働市場協議会の参加者は、労働組合組織、使用者組織のナショナルセンター の代表、地域当局の代表、また、労働省や全国労働市場局もこの協議会に参加しています。全国労働市場協議会は、新しいルールや規制について協議を行います し、また同時に、労働省に対する諮問機関でもありますから、労働市場の様々な活動の策定についても議論の対象となります。

毎年設定するターゲットや、その成果の要件の設定、また、活動の優先順位の設定にもかかわってきます。毎年、財務法により労働市場の様々な活動に対する 予算の計上が14地域の労働市場協議会に対して行われますが、これは全国労働市場協議会の合意のもとに計上されます。また、このような予算には公共雇用サ ービスの運営費用も入っています。資金は14地域の雇用サービスに割り振られますが、これは全国労働市場協議会の勧告をベースに分配されてまいります。

労働市場政策の計画策定段階においては、全国労働市場協議会と地域の労働市場協議会との協力によって進められていきます。全国労働市場協議会は年間計画 というものを出してまいりますが、それと同時に、それぞれの地域で定性的・定量的にこのような活動が実施されているかのモニターも四半期ベースで行ってい きます。

この全国労働市場協議会のもう一つの仕事といいますのは、労働市場の進展状況をモニターするということです。また、労働市場の発展状況について年次報告 書も策定していきます。この報告書の中には、協議会が必要とみなした変更のための提案も含まれています。

ですから、このような労働市場改革というものが労働市場そのものを柔軟にすることができましたし、労働市場政策の地域化というものも行ってまいりまし た。また、社会的パートナーの役割をさらに強化したと言ってよいでしょう。こうしたものが相まって、多くの前向きな成果を出していくことができました。労 働市場政策の地域化ということによって、よりよい、より関連の深いデータや情報を収集・提供することができました。また、このような措置により、一人一人 のニーズとスキルレベルに合わせた雇用を探し出すことができるようになったわけで、地域の労働市場のニーズにも即していると言ってよいでしょう。

この労働市場政策の地域化のもう1つの成果としては、94年以降、雇用を12%増加させたという結果があります。

この期間に、13%あった失業率が、今年の初頭には5%まで下がったという結果も出ています。ここで非常に重要なことは、このような成果が実現できたの は、賃金や物価の上昇というものがあったにもかかわらず、実質賃金においてかなりの上昇が見られたことによるということです。

もう1つの成果として、全国レベルでばらつきのあった失業について、地域、業種、職種、年齢、性別といったばらつきを減らすことができたということもご 報告しておきたいと思います。ターゲットを設定し、それを実現するための枠組みというものを実現してまいりました。こうした制度が成功した要因に、やはり それぞれの地域に自由裁量権を与えて、その措置を実行してもらったということだと思います。

このような枠組み、そして地域における措置というものは、今後とも調整が必要だと思いますし、今後とも議論を要するのではないでしょうか。我が国におい て、その地域化というものが広くサポートされていますが、さらなる議論も必要だと思います。労働市場政策の地域化により、その政策の実行がさらに高まって まいりました。それによって、より高いニーズに焦点を絞った措置を実行することが可能になりました。そうすることで、社会的パートナーは企業レベルであ れ、地域レベルであれ、労働市場政策において果たす役割というものが非常に重大であるという認識も広まりその結果、持続可能な経済成長を確保することがで きます。

このように、私どもの改革のプラス面をお話ししてまいりましたが、しかし、今後ともやはり調整をしていかなければいけません。経済状況も変わってまいり ます。ですから、新たな改革を求められるかもしれません。しかしながら、90年代のこの労働市場改革を支えた基本的な考え方、柔軟性、順応性、そして、中 央政府面でもオープンな思考を持つということ、そして、外からのさまざまな課題にこたえていくということもこれから求められることです。このように、労働 市場政策の形成における制度的な枠組みについてお話をしてまいりました。これは将来の調整や順応に対する非常にすばらしい第一歩を築くことができたと考え ております。

また、ここでもう一つ強調してもし過ぎることがないことは、やはりさまざまな分野での対話の必要性です。経済的な成長は、経済や金融政策だけで実現でき るものではありません。逆もまた真なりと言ってよいでしょう。労働市場の政策は、それだけで経済成長をもたらすものではありません。すなわち、継続的な成 長と雇用と福祉というものを築いていくということは、スキルを持った人々や、地方重視の柔軟性のある労働市場を確保していくことだと思っております。

ご静聴ありがとうございました。

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コメンテーター発言

勝田室長

労働省の海外労働情報室長をしております勝田でございます。

本日はデンマークの経験につきまして、エッケロス局長とアンダーセン局長のお二人から、貴重なお話を伺いまして大変参考になりました。どうもありがとうございました。

私からはデンマーク労働省のお二人からのお話に対して、聴衆の皆さんにご参考になるようにといいますか、日本の労働市場政策の概略についてお話をしたいと思います。

日本では、景気の後退を反映しまして、90年代後半から雇用、失業情勢が悪化しました。失業率は、かつてに比べ非常に高いものとなり、これは景気の低迷によるもののほか、経済のグローバル化による国際競争の激化等の構造的な要因もあるものと考えております。

こうした情勢を踏まえまして、これまで政府は様々な雇用対策を実施してまいりました。デンマークの先ほどのアクティベーション・プログラムという話がありましたが、わが国でも、内容は多岐にわたっておりますが、そのほとんどの政策は積極的労働市場政策と考えております。例えば、最近では新規・成長分野における雇用創出に対する助成や離転職者の方に対する公共や民間訓練機関における職業訓練、さらに労働者の方が自主的な能力開発に取り組むことを支援するため、教育訓練費用の一部を支給する教育訓練給付等を行っております。また、この他にも従来から雇用保険制度において行っていたものとして、求職者の職業訓練の受講を促進する手当を設ける、あるいは失業者の再就職を促進するための種々の施策を行っています。

さらに、デンマークの話にもありました地方の実情に応じた政策ということに関して申しますと、地方への権限移譲としては、我が国においては、基本的な部分はもちろん国で決定していますが、地方の職業安定機関が地域の特性に応じてきめ 細かな対応をしています。特に、本年4月から地方労働局が創設されて以来、都道府県と地方労働局との話し合いの機会を 多数設ける等の対策を行っております。

また政労使間の話し合いにつきましても、これまでも各種審議会の他に、長年にわたって産業労働懇話会といった形で産 業労働政策に関する意見を労使間で、あるいは公労使間で幅広く交換し、相互の理解を深める機会を設けております。ま た、98年9月からは、雇用状況の改善に取り組むために、新たに「政労使雇用対策会議」を開催して、雇用の安定や創出に 向けた具体的な施策、あるいは政労使それぞれがどのようなことができるのかといったことについて話し合いを行っていると ころでございます。

これまでこうした協議を踏まえて決定した雇用対策を実施してまいりましたが、この結果と言ってよろしいのでしょうか、最 近では新規求人が若干増えてきています。特に、情報通信技術や介護関連の分野は増加しており、現在、この傾向をさらに 促進するための対策を行っているところです。

そこで今後の問題でございますが、アンダーセン局長は、先ほどデンマークの関係で今後の課題として、労働力の供給を より効果的にし、失業者の技能の向上を図るために労働市場政策と社会政策の積極的な連携強化を図っていくことや、就職 促進措置の一層の質の向上を図られること等を挙げておられました。

このような点は、我が国でも非常に重要な視点かと思っております。特に労働市場政策と社会政策における問題につきま しては、高齢者の雇用促進を中心に非常に重要なことでございます。また、我が国の労働市場政策としても、就職促進措置 ということで申し上げれば、能力開発という積極的な施策に重点を移していかなくてはならないということで実施しているとこ ろでございます。

特に、最近の我が国の雇用状況を考えますと、先ほどお話ししましたように、IT等の情報通信、あるいは介護関連では求 人が増加しておりますけれど、なかなか失業情勢は改善しない。特に、技能を中心としたミスマッチというものが相当数存在 するということで、労働者個々人のニーズと地域労働市場のニーズを適合させていくことは、日本でも重要なことであり、私ど もとしても今後とも取り組んでいかなくてはいけないと思っております。

私からのコメントは以上でございます。どうもありがとうございました。

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松浦労働グループ長

ご紹介いただきました連合の松浦でございます。私は、雇用・失業問題に対する連合の取組みと判断について、ごく簡単 に報告しまして、質問を2つほどさせていただきたいと思います。

デンマークにおける労働市場政策について、その具体的内容とともに、今後の課題についても明確にしていただき、ほんと うにありがとうございました。ご承知のように、日本でもバブル経済の崩壊によって、93年頃から失業率の増加が問題となり ました。98年4月に完全失業率が4.1%に達して以降、4%後半で高止まりをしているわけであります。

しかも重要なことは、単に失業率が高く、かつその状態が続いているということだけではなく、失業の実態、内容にも大きな 問題を含んでいるということであります。その1つは、長期不況に伴う不況失業と経済社会のグローバル化などに対応するた め、輸出関連産業はもとより、国内の流通サービス産業まで、あらゆる分野で産業構造、雇用構造の改革を進めているとい うことでございます。つまり構造的な失業が大量に発生しているわけで、そのために、景気が回復しても国内における雇用量 は元に戻らないという大きな問題点を持っていると判断をしております。また、その対象が職務対応力の低下したと言われる 中高年者に的を当てている、いわゆる構造的雇用問題ということが一つの大きな課題でございます。

2つ目は、バブル経済の崩壊に伴いまして、企業が抱えた不良債権、金融問題や産業構造の改革に対処できずに、企業 倒産が非常に多発しているということでございます。これはどういう問題を持っているかというと、予期せぬ失業であります。 企業が倒産するということは、転職の準備ができていないということで、これは物心両面で、金銭的にも、それから心の準備 もできていないという大きな課題を抱えているわけでございます。従いまして、大きなショックを受けるとともに、転職準備が できていないために、転職を非常に難しくしているという大きな問題を持っていると思います。

3つ目の課題は、就労期間が非常に長くなったということ、あるいは高学歴化が進みまして、生活にゆとりも生まれたことな どから、若年者を中心にして、いわゆる勤労観といいますか、価値観が多様化しております。例えば、大企業に偏るとか、あ るいは長期継続雇用や昇進などにこだわるという、こうしたこだわりが小さくなっております。日本ではご案内のとおり、フリ ーター、あるいはアルバイターと呼ばれるような働き方をする若者が増えております。中高年の失業と若年者の失業が極め て高いという実態を惹起しているということでございます。中高年の失業が多いということについては、概して職務対応力が 低いということから再就職が難しく、また職務対応力を持っている若者については意欲が低いということで、それぞれの中身 にもまた、別の課題というものを持っているということでございます。

こうした実態は、1つには少子化という問題とあわせて、社会保障制度の分母になる保険を掛ける人の数が少なくなってい るということから、社会保障制度をもぐらつかせているということが言えます。また、社会不安という問題を起こしかけているの ではないかという現象が最近起こっており、これらは、極めて大きい社会的ロスという判断を私どもはしているわけでござい ます。

こうした判断に基づきまして、私ども日本労働組合総連合会は、日経連とも共同いたしまして、雇用創出の研究会や検討 の場を設置し、これまで3回にわたって雇用創出について提案をしています。また、雇用安定宣言について採択をして、労使 が現在努力をしているわけでございます。

こうした取り組みにあわせまして、政府に対しては政労使雇用対策会議の設置と、その場における協議及び協議結果を踏 まえた雇用対策を実行することを私どもは要求し、98年9月にこれが設置されました。これまで7回の協議を行っておます が、その中で連合と日経連の共同研究によります100万人の雇用創出プランを提案し、徐々に実行されております。このほ か、雇用安定のための支援策、失業者の再就職支援策の拡充などについても提言をしております。

こうした協議、提言に基づきまして、政府は99年2月に雇用創出と安定化施策を提示しました。また、6月には緊急雇用対 策及び産業競争力強化対策とを予算をつけて提案しておりますし、さらに11月には、追加予算を含んだ雇用・就業機会創出 策を提示いたしております。労働省の方がたくさんおられる中で、全然進んでいないというのは少し言いにくいので、徐々に 成果は出ていると申し上げますが、しかし、回答ははっきりしているわけであります。失業者の数が新しい国内の雇用創出 の数に追いつかないといいますか、失業者の数が多過ぎるということもありますけれども、状況は全く改善されていないわけ でございます。私どもは、国内での雇用の場、雇用者数が引き続き減少している、IT産業では増加をしているけれども、これ は職務対応力が非常に難しいという職種に限定をされているというのが実態であると考えております。

また、経済の先行きが不透明で企業が常用雇用の採用を抑制しているというのも1つの要因であります。さらに、中高年の 職務対応力が低く、短時間ではこれを高めるということが非常に難しいといった実態。それから、若者の就労意欲の低さとい うものをどう改善するかという課題もございまして、これらの改善がなされていないということから、私どもは、必要ならば日経 連とも雇用の安定に関する社会的合意形成について、来年の春闘にでも取り組んでもいいという意思表示をしているわけで ございます。

ぜひデンマークモデルに沿って、私どもももう少し確実で、かつ着実な雇用対策について取り組みたいと考えているわけで ございますが、そこで2つほどご質問いたします。

まず1つは、積極的雇用促進措置の実践の方法についてです。政策についてはお伺いしましたが、実践方法、場所につい てもう少し具体的にお聞きしたいわけであります。例えば、労働者がスキルアップをしたいといった場合に、民間企業がどう 参加しているのか。労働者が希望する仕事に、一定期間民間企業で従事させて指導するなどの、いわゆる民間企業の支援 というものがとられているのか。それとも職業訓練所というところでやられているのかなど、もう少し具体的な実践の方法と場 所についてお伺いします。

もう1つは、労働者の権利と義務という話がございましたが、義務の関係についてもう少し説明していただきたい。私の理 解では、労働者がどういう仕事をしたいのか、どの地域を希望するのかなど、ニーズを確認して対処するということですが、こ れに沿った措置を受けた場合、その労働者は必ず一定の期間就労義務というものを負うのかどうか。日本の場合には、教育 訓練を受けるということで、受けてもその半分程度の人は受けっぱなしで、その職務につかないという実態もあるわけでござ います。この積極的雇用促進措置というものをどのように労働者に義務化されているのか。この関係について、ルールがあ るのかどうかも含めてぜひお聞きしたいということであります。

少し長くなりましたが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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紀陸部長

日経連の紀陸と申します。

エッケロス局長とアンダーセン局長より、デンマークモデルの詳細についてご懇切なお話を賜りまして、御礼申し上げま す。

実は私どもの福岡専務理事をチーフにいたしまして、日経連のスタッフが6月半ばでございますが、デンマーク、オランダ、 ベルギーの雇用施策がどうなっているかについて勉強してまいりました。その検討の内容と、今程のお二人のお話を踏まえ て考えますと、デンマークモデルというのは、私どもの整理で言わさせていただければ、3つの特徴があるのではないかと考 えております。

1つは、労使自治の原則が徹底しているという点。第2は、労働市場の改革でございますけれども、政府が音頭をとってそ れに労使が積極的に協力して取組んできているということ。労働市場改革の取り組みであります。第3は、解雇の規制が非 常に緩い。解雇規制がほとんどございませんで、かつ労働市場が非常に柔軟化しているという点。解雇規制の問題と労働市 場の問題、この点が第3の特徴ではないかと考えます。

この3つの特徴に沿いまして、それぞれコメントを簡単に申し上げたいと思います。

第1の労使自治の徹底という点でありますけれども、労働問題の解決について、労使の話し合いによって柔軟に処理する という姿勢が非常に強い。この点は、日本の場合にも非常に参考にすべき点が多いと考えます。言うまでもないことですが、 日本の雇用問題の対処というような場合には、どちらかというと法律なり労働行政というものが主体となって、労働協約とい うものが従たる立場に置かれているのではないかという感じがいたします。労働時間の問題や定年延長の問題など様々な 個別企業内の労務管理の問題を、法律に従って云々という形がございます。労使の自治というものが後ろに置かれていると いう感じがいたしてなりません。その意味で、このデンマークモデルというのは、日本の労働行政にとっても学ぶべき点があ ると思いますし、日本の労使にとっても、大いに参考にすべき点があるのではないかと考える次第であります。

第2の問題、労働市場改革でございますけれども、特に94年以降、数次にわたってデンマークの政労使が色々な手を打た れてきている。これも結局は、労使自治を背景に、労働行政のほうでリーダーシップを発揮して問題解決にかなり積極的に 取組んでこられたという点は大いに評価すべきであるし、敬意を表したいと考えます。特に私どもは、地方に権限を与えて、 かつ失業者の個々のニーズをきめ細かくつかんで、個別に雇用問題の解決につなげているというのは、非常に参考にすべき 点が多いのではないかと考えます。実は、昨日講師のお二人から日経連のメンバーがお話を聞く機会がございましたけれど も、このデンマークのやり方というのは、相当にきめ細かい点があるかと存じます。今、松浦さんから実践方法はどうかという ようなお話もございましたけれども、この点につきまして、もう少し具体的な対処の仕方を後ほど伺えれば幸いかと存じます。

3番目の問題でございますけれども、解雇のコストが非常に安い、かつ労働市場が非常に柔軟化しているという点に関する 問題でございます。これはデンマークと日本では、相当に事情が異なると考えております。デンマークにおいて、私どもが非 常に問題だと考えておりますのは、こういう言い方が適切かどうかわかりませんけれども、失業者は非常に減少しておりま す。ただし、他方で高齢者等の方々が労働市場に参入していない割合が非常に高い。失業率は一見減っておりますけれど も、同時に労働市場に参入していない方々の層が減っていないという状況であります。ちょっと数字を上げて申し上げたいと 思うのですが、失業保険及び職業訓練サービスを受けている人たち、つまり失業者の方々ですね、こういう方々は95年に5 2万人おられましたけれども、98年には約10万人減って42万人に激減をしております。失業者は非常に減少しており、 様々な施策が成果を上げたということでありますが、一方で早期退職金を受給している方々、あるいは障害年金等を受給さ れている方々は、95から98年の間に46万人から47万人ということで増加しております。かつ、デンマークの場合には雇用 のコストが非常に高い。日本を100にしますと、賃金及び社会保障費負担、直接費用、間接費用を含めて、大体日本の1.2 倍くらいのコスト負担になっている。ほぼドイツに近いような雇用コストの負担であります。

そういう中で、やはりデンマークは将来的に労働供給が減少してくると考えられます。これは日本と同じかと思いますし、こ の状況で、雇用コストが高いままでありますとなかなか雇用機会を増やすことができない。従って、社会保障改革とりわけ早 期退職の方々に対する年金制度を見直すことが必要ではないか。雇用コストを下げて、高齢者とか女性の方々、女性の方 の就労率は非常に高いのですが、特に高齢者の方々の就労機会を増やしていくという努力が必要ではないかと考えます。

今程このような指摘をさせていただきましたが、これは実は日本でも全く同じでございまして、ご承知のとおり労働供給が 将来的に日本は確実に減ってまいります。我が国でも雇用コストを合理化していくとともに、一方で高齢者の方や女性の方 の就労機会を増やしていくことが、経済にとっても非常に重要な問題であり、雇用と成長の問題を解決しないと日本の将来 はないであろうと考えるわけであります。

とりわけ、日本の場合には、労働力需給のミスマッチがいわば構造化しているという状況にあるかと思います。少し景気が 立ち上がったきた段階でも、構造的な失業の率は非常に高いわけですので、ある程度の失業率の改善というのは多少見込 めますが、それ以上はなかなか数字としては減ってこないであろうと。この問題は長期的に考えていかなければならないと 考えます。その中で、これは繰り返しになりますけれども、デンマークのきめ細かい職業訓練のシステムですとか、あるいは 受給調整のシステムが、日本の場合には、高齢者や女性の就労機会の拡大という問題に大いに参考になるのではないかと 考えるわけであります。

お二人のお話は、日本の政労使の今後の雇用対策への取組みに大変貴重なご示唆になると考える次第でありまして、改 めて感謝申し上げて、私のコメントを終えたいと思います。どうもありがとうございました

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エッケロス局長

コメンテーターの方々、ありがとうございました。ある意味では同じようなご質問、あるいは課題についてのコメントがあったような気がいたします。私の 認識では、今出されたコメントとここ2、3日の私ども話し合いの機会を併せて考えてみますと、私どもが抱える問題と日本の抱える問題には類似性もあります が、また違いもあるということが言えると思いますので、これについて少し説明させていただきたいと思います。

失業という点に関しては、日本でもかなり深刻な問題であると考えております。新たな技術が導入され、グローバル化が進んでまいりました。そうしますと、 中高年にとってそれが何を意味するのか。企業規模の縮小や新技術の導入によって中高年が失業という状態に追い込まれるわけですが、この問題は、デンマーク でも同じように存在しています。ですからこそ、この問題が真剣に取り上げられているわけで、これについては後ほどお話ししたいと思います。

失業というのはもちろん、ヨーロッパ諸国やアメリカも同じような問題を抱えていると思いますので、日本だけではありません。この数年、私どもデンマーク におきましては、若者の失業に対する対策は功を奏してきたと思っております。96年にこの改革案というものが実施されましたが、これによって大きな成功が もたらされ、失業率の低下、特に若者の失業が減ってまいりました。デンマークでは若年者の失業率は3.3%ということですが、この数字というのは私どもの 改革の成果、96年に実施した若年者対策であると考えています。若い労働者、25歳未満の人たちは実際の教育を受けていませんが、しかし、6カ月間の失業 になりますと、1年半の職業訓練機会が与えられます。仮にこの機会を拒否いたしますと、失業給付の受給資格を失ってしまいます。労働意欲を高めていくこと も必要ですし、同時に職業訓練を通してスキルアップを図ることも必要です。その結果、多くの若者たちは職業を得ることができます。10年前を振り返ってみ ますと、若者の失業率というのは深刻な問題でしたので、私どもの労働市場政策は大いに成功したと言っていいでしょう。

2つ目の点ですが、デンマークの深刻な問題として移民の増大ということがあります。避難民もデンマークに入ってきています。こうした人たちを労働市場に 統合したいと考えています。デンマークの社会に統合したいと考えていますが、その場合にはやはり問題が発生してしまいます。これは当然の理由なのですが、 デンマーク語そのものが話せないという人たちが多いわけで、私ども公共職業サービスや教育機関がかなりの労力を払いまして、デンマーク語の熟達というもの を高めようとしてまいりました。日本と違うのはこの点だと思います。

またもう1つ、将来起こり得る問題としては、経済成長を継続的に高めようとするわけですが、そうした過程において、労働力不足というものが出てくると思 います。人口問題は日本と同じような問題を抱えています。すなわち、失業率の現状の数字というのは、3%という数字が出ていますが、これらほとんどの失業 者は、何カ月あるいは何年も失業状態に置かれるわけです。特に高齢者、移民労働者、障害を抱えた人たちがそういった状態に置かれてしまいます。こういった 点は、日本と似ていると思います。しかし、将来の労働力確保ということで、この点に対応していかなければいけません。

連合の方から構造的失業というお話がありましたが、80年代は構造的失業というのが深刻な問題でした。我が国において、当時12~13%の失業率だった わけですが、この10年間で変わったものといいますと、現在、失業率は低くなっていますが、求人数もやはり低いという問題があります。その意味で、雇用す る側の労働力の需要を創出していかなければいけないと考えています。

次に、柔軟性についてですが、私どもがなぜ構造的失業を軽減することができたかと申しますと、デンマークの社会そのものが予想に反して柔軟性が高かった ということです。そして、労働市場もその一環であると言ってよいでしょう。これはOECDでも認められたことなのです。数年前、OECD諸国の労働市場の 柔軟性について分析を行った結果、デンマークはイギリスやアメリカと同様に、世界の中でも柔軟性の最も高い国であるという結論が出されました。これは予想 外のものでした。

そうしますと、日経連の紀陸さんのコメントにもつながると思いますが、デンマークには、レイオフに対する規制がほとんどありません。私どもの法律の中 で、事業主がレイオフを禁止する、特にブルーカラーの労働者に対してレイオフする規制は一切ありません。もちろん、労働協約というものがありますけれど も、色々な業界で、その解雇警告は非常に短い期間でしか出されていません。労働協約でうたわれていましても、1、2週間の猶予しかない、場合によっては1 日あるいは数日の猶予しかないということさえあります。ですから、ブルーカラーの人たちが1、2カ月前に解雇警告を受けるということはめったにありません が、解雇というものはある程度受け入れられています。

しかしもう一方を見てみますと、ほとんどの国民は失業給付としてかなり寛大な制度があると考えています。私どもの失業手当は、大体、雇用時の70~7 5%、高くて90%というところでしょうか。このような給付額というのは、あまり政治家の注目を喚起するようなものではありません。こうしたことから、レ イオフに対する条件に柔軟性があるのではないでしょうか。

もう1つ、私どもから見ますと、わが国に於いては法律で規制するよりも、労働協約により物事が進められており、これが労働市場の柔軟性の確保につながっ ているのではないでしょうか。

例えばアメリカでありますけれども、こちらは労働協約、団体交渉の構造が十分ではない。そして、分野によっては労働者の保護ということで非常に厳しい規 制が設けられています。私たちの国の場合には、そのような厳しい規制を法律に設ける必要はない。その理由というのは、労働協約で網羅される人たちが非常に 大きいからです。

それから最後のポイントになりますけれども、連合の方がおっしゃられたことと関連がありますが、90年代の私たちの雇用政策の成功の土台は、87年に敷 かれたと思います。三者のディスカッションを行いまして、その時私は組合サイドの代表で参加していましたが、政府、使用者と話し合いを行いました。そこ で、今後の賃金コストのターゲットをどうすべきかということを検討いたしました。労働協約で私たちの競争力が弱体化されるような内容のものはまず欲しくな いと。

ドイツはデンマークの競争力に大きな影響を与えます。私たちの輸出入の25%は対ドイツでありますから、ドイツの賃金コストなども私たちの競争力に非常 に大きな影響力を与えます。私たちは日本と同様、オープンな経済体制を敷いていますから、競争力は非常に重要であります。私たちの対外収支、国際収支の問 題にちょっと触れましたが、80年代にこうした国際収支の問題が起きたので、競争力を強化しなければならなかった。そこで、その競争力を将来きちんと確保 していくために、労働協約の中にそういった賃金の面も入れまして、私たちの競争力がきちんと維持できるようにしました。同時に、実質賃金は正当な形で上昇 するようにということを確保したわけであります。このような三者の協議によりまして、例えば現在の年金制度の土台も敷かれました。

以上で私からのコメントは終了させていただきたいと思います。

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アンダーセン局長

私もよろしいですか。手短かに申し上げたいと思います。

私たちは、積極的な雇用促進措置に非常に多額のお金を使っているというのはそのとおりでありまして、93年から構造的な失業が3~5%減りました。もし も1~1.5%が私たちの積極策によるものであれば、これは国家予算として均衡していると考えられます。1~1.5%で十分に均衡したという効果が得られる わけであります。ですから、きちんといろいろなほかの形でそのお金は還元して戻ってくるというわけであります。

何年も前のことでありますけれども、デンマークのほとんどすべてのエコノミストが、12、13%の失業率だったときに、非常に大きなボトルネックの問題 が生ずるであろうと予測しました。もしも失業率が8%になったならば大変であると。しかしながら、私たちは失業率をボトルネックの問題を発生させずに下げ ていくことに成功しました。そして、分析の結果でもわかっていますけれども、もしも積極的な雇用促進政策がとられなかったならば、これは可能にはならなか っただろうと思います。

それからまた分権化を行ったこと。この労働市場政策の意思決定の分権化を行ったということが非常に大きなポイントであると思います。具体的にどのように 実施したのかというご質問をいただきましたけれども、これについては、簡単にお答えさせていただきたいと思います。それぞれの14の地域におきまして、四 半期ごとに労働市場の分析を行います。この分析を行うに当たっては、企業から情報を収集します。企業のみが、例えばどういうような能力の人が必要である か、現在どのような人が多く入っていると言うことをきちんと把握しています。そして、その人たちの能力やスキルがいかに変わったかということを情報として 集めるわけであります。積極策をとらなければならない人たちに対して、こういう方向にトレーニングをしていかなければならないと、つまり、こういうような 能力については需要がありますよということがわかって、そちらの方向に向けた職業訓練をします。そして、四半期ごとに地域の労働市場協議会でこの情報につ いて話し合いを行います。そして、社会的パートナーがその情報を基にプライオリティをつけていくわけであります。

私たちの積極的な雇用促進プログラムの中でそのような情報がなければ、必要な需要に見合った訓練を行うことは不可能になります。私のいる地域は人口35 万5,000人ですから、日本と比べたらほんとに小さな地域でありますが、600~800の企業訪問というものを行います。四半期ごとに実際に訪問してい きます。さらに、これに加えてもちろん電話で企業の人たちと話をしたりということもしますが、その情報をもらうということが非常に不可欠な要素となってお り、それを聞いて初めて正しい優先順位をつけることができます。また、失業者に対しても説得力のある形で、「あなたがこのコースを取れば、あなたが補助金 とは関係のない仕事を得られる可能性はかなり高くなりますよ、仕事が必ず得られるという保証はできませんが、労働市場でのあなたの持つ可能性はかなり高く なりますよ。」と話すことができます。これがとても大事なことなのです。

また、四半期ごとに国レベルでの情報資料も出しています。例えば、失業率がこの1年でどれくらいの率、レベルで推移をするかという予測などをまとめてい ます。私のところのスタッフも、失業者と話をしながら、その人に合った積極策のプログラムを組んでいくということになります。

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主催者閉会あいさつ

議長、ありがとうございます。労働省国際労働課長の恒川と申します。

今回のセミナーの閉会に当たりまして、講師、コメンテーターの皆様、それからまた、活発な刺激のある議論に参加された 聴衆の皆様方にお礼を申し上げたいと思います。特にエッケロス局長、アンダーセン局長、ありがとうございました。

労働市場の現状ということで、デンマークでは1994年の失業率が12.9%、それが効果的な労働市場政策によりまして、 2000年には5%程度にまで低下をしてきているということですが、日本では、労働市場の改善の兆しは若干見られるもの の、現在も失業率は4.9%と高めに推移しています。また、日本は高齢化社会でありまして、労働市場の需給のミスマッチ の問題があります。これらの背景を念頭に置きますと、今回のセミナーは時宜を得たものであり、デンマークと日本の経験の 交流が十分にできたと言えるでしょう。

最後になりましたが、日本労働研究機構に対しまして、今回このような刺激的なセミナーを開催してくださったことに感謝申 し上げたいと思います。また、ブルックナー大使をはじめデンマーク大使館の皆様方、それからまた、日経連、連合に対しま して、多大なご協力をいただいたことに感謝したいと思います。皆様それぞれの職場に帰られると思いますけれども、ご健勝 をお祈りします。

以上をもちまして、私の閉会の辞とさせていただきます。

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