旧・JIL国際講演会
「雇用・職業訓練・競争力のための同盟」における経験
~労働問題解決に向けたドイツ政労使の取り組み~
(2000年4月26日)

バルター・リースター
ドイツ運邦労働社会大臣

ヘルベルト・マイ
OTV公務・運輸交通労働組合委員長

ハンス・シュライバー
BDAドイツ経営者連盟副社長

司会者: お待たせいたしました。
 皆様、本日はお忙しい中、また、お天気の悪い中お集まりいただきまして、どうもありがとうございます。ただいまから、「『雇用・職業訓練・競争力のための同盟』における経験」と題しまして、講演会を開催させていただきます。私は司会をさせていただく日本労働研究機構の末広でございます。
 ドイツからお越しいただきました御三方は、今朝早く日本にお着きになりました。これから日本の政労使のトップの方と会見・会談をするなど、非常に忙しいスケジュールの合間をぬって、この講演会のために時間を割いていただきました。
 本日の講演は、同時通訳で行います。チャンネルは、ここに書いてありますように、日本語が1番、ドイツ語が2番となっております。
 それでは、本日のプログラムについてご案内いたします。まず最初に、ヴァルター・リースター・ドイツ連邦労働社会大臣にご講演いただきまして、それから公務・運輸交通労働組合ヘルベルト・マイ委員長、続きましてドイツ経営者連盟ハンス・シュライバー副会長からお話をいただきます。その後、時間は必ずしも十分取れないかもしれませんが、まとめて質疑応答の時間を用意しております。
 それでは、まず開会にあたりまして、日本労働研究機構理事長、斎藤より簡単に御挨拶申し上げます。

日本労働研究機構理事長 斎藤邦彦: 日本労働研究機構理事長の斎藤でございます。本日はお忙しいところを多数お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。本日はリースター・ドイツ連邦労働社会大臣、公務・運輸交通労働組合のマイ委員長、ドイツ経営者連盟シュライバー副会長をお招きし、最近のホットな話題を中心に御講演いただく予定にいたしております。
 ご承知のように我が国日本では、最近の経済のグローバル化ですとか、あるいは技術革新の進展、サービス経済化の進展という世の中で、いろいろな形での構造改革、変革、あるいは就業構造の変化が起こってきています。それを背景に景気は最近、若干上向きとはいうものの、雇用情勢は極めて厳しい状況が続いています。失業率は2月で4.9%、3月は、おそらく今週末に公表されますが、どういうことになりますか。厳しいことを覚悟しなければいけないと前々から言われております。このような中で日本でも政府の政策、対策がいろいろなかたちで行われていますし、また、民間企業においても、いろいろな乗り切り策が講じられてきております。
 ドイツにおいても、これと同じような事情があると思いますし、確か3月の失業率は10%というふうに聞いております。非常に高い水準が続いている中で、ドイツでもいろいろな努力がなされているとうかがっているわけでございます。
 今回の講演会では、「雇用・職業訓練・競争力のための同盟」についてお話しいただくことになっております。これもドイツにおいて政府、労使、それぞれの立場で、何とか苦しい中を乗り越えようとしている努力の一つの表れだろうと思います。
 そういう意味で、本日は非常に貴重な機会をいただいたと思います。直接いろいろなお話をされている三者の方からそのお話をうかがい、考え方をうかがうのは、われわれにとっても非常に貴重な経験になると思います。
 私ども日本労働研究機構もいろいろな事業をしてまいりましたが、このような国際講演会も数多くやらせていただいております。これからもこのような機会を捉えて、いろいろな講演会を運営していきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。
 本日は、限られた時間ではございますが、ぜひ皆様方にとって有意義な会になりますよう、心から期待しておる次第でございます。簡単ではありますが、開会にあたりまして一言だけ御挨拶させていただきました。どうか今日はよろしくお願いいたします。

司会者: それでは続きまして、本日の講演会にご後援いただきました労働省の岩田総務審議官からご挨拶をいただきます。

労働省総務審議官 岩田喜美枝: ご紹介いただきました、労働省の総務審議官をしております岩田と申します。本日は、こんなにたくさんの方にご参加いただきまして、ありがとうございます。ドイツの労働事情について私どもがいかに関心を持っているかに、改めて感じ入りましたし、また、今回ドイツから政労使のお客様をお招きすることに携わった者の一人として、たいへん嬉しく思っております。
 今日ご講演いただきますドイツの労働社会大臣であるリースター大臣と、労働組合のリーダーであられますマイ公共企業体運輸交通労組委員長、そしてシュライバー・ドイツ経営者連盟副会長の三方は、実は日独の政労使、三者構成の対話のために来日なさいました。これまで日独間はさまざまな交流がございましたが、政労使三者そろって、それも大臣が団長となって訪日するというのは、私どもも初めての経験でございまして、たいへん嬉しく思っております。滞在中に日本とドイツの政労使が各三者で会談する、すなわち六者で会談することを予定しているわけでございますが、その六者会談のテーマは「三者構成主義」、トライパーティズムと言っておりますが、政労使で政策協議をしていこう、というものの考え方、そして日独の雇用問題ということ。このトライパーティズムと雇用問題という二つのテーマで会議をすることにいたしております。
 その六者会議は、政労使のトップの方だけの会議でございますので、せっかく日本にお招きいたしましたのにトップの方たちだけの会議ではもったいないと思いまして、今日は政府の関係者、労働組合関係者、産業界の皆様、そしてマスコミの皆様に対し、こういうかたちでオープンに、ドイツの経験を直接聞いていただける機会を設けることになりました。これは本当に日本労働研究機構のおかげでございまして、斎藤理事長はじめ皆様に厚くお礼を申し上げます。
 今日のテーマはドイツの「雇用・職業教育・競争力のための同盟」でございます。この同盟はドイツで失業問題に取り組むための、政労使の高いレベルでの合意形成の場、コンセンサスを作る場であるとうかがっておりますし、何回かの議論を経て税制改正や職業訓練の促進、高齢者の早期退職問題、賃金のありかたと生産性の関係の問題など、具体的な分野について合意ができたという実績も持っておられると聞いておりますので、今日のお話を楽しみにいたしておるところでございます。
 それでは、限られた時間ではございますけれども、皆様方と良い、有意義な講演会ができますことを祈念いたしまして、ご挨拶といたします。本日はどうぞよろしくお願い申し上げます。

司会者: どうもありがとうございました。それでは今回ご講演いただきます皆様方につきまして、簡単にご紹介申し上げます。
 まず、ヴァルター・リースター・ドイツ連邦労働社会大臣は1957年にIGメタルにお入りになり、1966年にはSPD(ドイツ社会民主党)に入党されました。その後DGB、IGメタルの要職を経て、1988年にはIGメタルのシュツットガルト地域長、1993年にはIGメタルの第二委員長になられ、1998年10月から現職の労働社会大臣でいらっしゃいます。
 次にお話しいただきますヘルベルト・マイ委員長はウーテーファウ(OTV)、公務・運輸交通労働組合ですけれども、これに1964年にお入りになりまして、その後69年~71年には、ヘッセン州首相府行政監察官のお仕事もなさいました。また、71年からはOTVの要職を歴任され、1995年には委員長に選出、その後1996年には欧州公務労働組合連合会の委員長、また国際公務労働組合欧州支部委員長にも選出されておられます。
 三番目のハンス・シュライバー・ドイツ経営者連盟副会長は、1968年にドイツIBMの人事部人事研究課長になられ、その保険会社にお入りになり、要職を歴任されました。そして1987年にはマンハイム保険および生命保険会社の取締役に就任され、1988年には同社の取締役社長、そして1991年にはマンハイム医療保険会社の取締役社長に就任されるとともに、ドイツ保険業経営者連盟の会長に就任されておられます。
 それでは、以上御三方のお話をお聞きしたいと思います。まず最初にヴァルター・リースター大臣から、どうぞよろしくお願いいたします。

ドイツ連邦労働社会大臣 ヴァルター・リースター: 斎藤理事長、そしてお集まりいただきました皆様。まずはじめに、皆様のこの美しい国にお招きいただいたことに感謝申し上げます。また、今回来日いたしました公務・運輸交通労組委員長ヘルベルト・マイ、ドイツ経営者連盟副会長ハンス・シュライバー、および団のメンバー一同を代表いたしまして、同じく感謝の意を述べさせていただきます。
 理事長、そして皆様。初めてこの国を訪れた1989年のあの日々を、私は楽しく思い返しています。当時はドイツ最大の産別労組であるIGメタルを代表して貴国に滞在したものです。このときは3週間の招聘で、その間に大変いろいろなことを学ぶことができました。それが私の労働組合の仕事に、たいへん利益をもたらしたものです。
 あれから日本もドイツも大きく変化しました。私自身にも大きな変化がありました。今日、私は皆様の前に、統一後ほぼ10年を経たドイツの労働社会大臣として立ち、話をさせていただいています。
 数十年に渡って分断されていた我が国が再び統一を見た喜びは、今では政治的日常の陰に隠れてしまいました。今日のドイツでは、統一による経済的苦境よりも、この時代に多くの工業先進諸国が直面している諸問題に議論が集中しています。
 キーワードはグローバル化、社会構造の変革、そして人口構造の変化です。大量失業問題は依然として、この複雑化した社会事情に深く根を下ろした最大の問題となっています。私たちの時代は、さまざまな分野で起こっている根本からの社会変革が一大特徴となっています。今、私たちは、一国の国民経済という枠が意味を失ったことを、ひしひしと感じています。このような変転を推し進めている原動力がグローバリゼーションであり、また、近代的な情報通信技術を駆使した経済活動のワールドワイドのネットワーキングです。私たちは現在、工業社会からサービス社会、情報化社会への転換を経験しているところです。これに唯一匹敵し得る大変革はおそらく、農業社会から工業社会へと脱皮したときのそれのみでしょう。情報化社会の訪れとともに、どんなに遠く離れた相手とも、複数の相手とも、面と向かい合わなくても楽々とコミュニケーションができる構造ができあがりました。この発展は技術革新のテンポを驚異的に加速しています。新技術の半減期というか、価値が半減する期間は、今や10年にも満たないほどです。同時に、知識の水準は飛躍的に向上しました。人間の知識というものは、5年~7年も経てば2倍になるものと思わなければなりません。こうした枠組み条件と構造の変化はリスクではありますが、それと共にチャンスでもあります。国家の、あるいは経済の、そして社会の先頭に立つ責任ある人々に科せられた挑戦課題として、今ここで新たな未来形成の任につくことが求められているのです。
 すでに指摘したように、経済の重点は変わりつつあります。我が国では次のようなトレンドが、はっきり現われています。産業全体に占める製造業の従業員の割合は後退しています。農林業の割合は、すでにGDPの1%ほどという微少なレベルに落ち込んでおり、今後もさらに後退するでしょう。逆にサービス部門は成長を続けています。技能に対する要求を見ると、比重が単純作業から、より高度な作業へと移っています。従って、特別な技能を持たない、または低い資格、技能しか持たない人々を雇用体制にどう取りこんでいくか、という問題が大きくなっています。
 また、労働組織にも変化が生じています。新しい通信技術は、通信の形態を変えてしまいました。新しい職業が生まれています。知識が時代遅れになるスピードが、ますます速くなっています。人々がそれについていくための継続教育の負担は大きくなる一方です。つまり、教育と職業的な教育、資格、能力というものは、個人が職業的な成功を得る上で、また国の経済が発展する上で、以前よりずっと重要な鍵を握るようになっているのです。
 それほどドラマチックではないとはいえ、経済と社会のほとんどすべての領域を網羅する変革があります。それは社会構造の変革です。一例を挙げますと、平均的世帯の構成人数は、ドイツでは2.2人になりました。単身世帯はすでに全世帯数の1/3を超えています。全世帯の65%は子供なしで、残りの35%も一人っ子が圧倒的多数です。4人またはそれ以上の子だくさんの家庭は、消えなんとする少数派です。
 社会構造の変化は、社会的なキャリアの変化にも表われています。働く女性は喜ばしいことに増加しました。パートタイムは増え続けています。しかし、この分野で働く人たちは、今でも圧倒的に女性なのです。将来はもっと多くの、しかも高い資格を要するレベルのパートタイム職場が要求されると思われます。フレキシブルな労働形態を求める労働者の要求に応えるためにも、家庭と仕事の両立を助けるためにも、完全に退職する前に時期にフレキシブルに働けるようにするためにも。また、職種に必要になる能力向上のための教育を受けられるようにするためにも、パートタイム労働は重要な助けとなるでしょう。
 もう一つ重要なトレンドとしては、人口動態の推移があります。どの先進工業諸国でも、高齢者の割合が高くなっています。それには二つの理由があります。一つは、平均寿命がドラマチックに伸びていることです。これは喜ばしいことではあります。二つ目は、出生率が落ち込んで、そのまま上がってこない状態にあることです。これは、あまり嬉しいことではありません。出生率の低下と伸び続ける平均寿命が、人口の年齢構成比をすっかり変えてしまいました。全人口に占める高齢者の割合は劇的に増大しました。逆に若年層、中年層の世代は、出生率の低下に伴って絶対数的にも減少しています。
 このため、社会の様子はすっかり変わってしまいました。経済的にアクティブな現役世代と、すでに現役を退いた世代の比率が逆転しつつあります。ドイツでは2010~2015年以降、稼動人口、就労人口が急速に減少する見込みです。女性の職業進出が活発になり、また国外からの人口流入があってもなお、この傾向には歯止めがかからないでしょう。
 こうした流れに対し、政治と経済と社会は手を打たなくてはなりません。このプロセスは、政治のどの分野も無関係では済まない問題ですが、特に深くかかわってくるのが社会政策です。
 一見すると、労働市場の問題は慌てなくても時間が経てば自ずと解決するだろう、という意見は正しいように思われるかもしれません。しかし問題は、もちろんそんなに単純ではありません。それには二つの理由があります。
 第一に、人口動態の推移によって、労働市場の問題は長期的に見て解決するとしても、別の面で、もっと大きな問題にぶつかることになるでしょう。たとえば、増大し続ける高齢者の晩年を生活を財政的にどう支えるか、といった問題です。
 第二に、労働市場は今日すでに、たいへん悪い状況にあります。ドイツでは400万人、つまり10%にもあたる人々が失業しています。私たちには10年も15年も待っている余裕はありません。すぐに行動する必要があります。ですから1998年秋に発足した新政府は、失業問題の解決と雇用の増加を政府教書の中心に据えたのです。
 新政府は、この戦いには労組の協力なくしては勝利できないことを承知していました。そこで早くも1998年12月に、「雇用・職業訓練・競争力のための同盟」を呼びかけたのです。今日の「雇用のための同盟」には、直接の手本となる先例、そして試みがありました。1967年から1977年まで続いた協調行動も、その一つです。これによって第二次大戦後の時代、60年代半ばのドイツの第一次経済危機は、コンセンサスという道によって克服されたのです。
 1967年に、当時の経済大臣であったカール・シラー教授のイニシアチブの下に行われた活動の成果は、抜本的な法律の施行でした。その代表的なものは1967年の経済成長安定法と、69年の雇用促進法です。政・労・使が協力する中で、協調行動はグローバル・コントロールのコーポラスティスティック・モデル、結束型モデルの成功例となり、「雇用のための同盟」に、ある種の手本となる役割を果たしました。この協調行動と並行して、労働社会大臣の主導により、70年代初頭には三者同数ずつの構成による懇談会で重大な社会政策的問題が討議されるようになりました。1996年初頭、政府、経済団体、労働組合の代表たちは、400万人を超えるまでに増えた失業者を減らすため、雇用と立地確保のための同盟の発足に同意しました。この試みに、当時の連邦政府は成果を得ることができませんでした。
 前政権がこの試みに失敗したことを考えれば、政権交代の直後、1998年のうちに「雇用・職業訓練・競争力のための同盟」が発足したことは注目に値します。その背景には新政権が組閣直後に積極的に動いた、ということがあります。また、労使が当初からイデオロギーや政治的な聖域を廃し、予断、偏見なく解決の道を探る用意があることを表明していたことにも、特に言及する必要があると思います。
 「雇用のための同盟」には連邦首相の他に、五つの省と各大臣、主要労働組合、また主要経済団体の代表者が参加しています。第一回会合は1998年12月7日に行われ、首相が座長となって、政労使の代表者たちが「雇用のための同盟」の目標、組織構造、作業手法などを決定しました。これまでトップレベルで5回の会合が持たれ、それぞれ共同声明により、重要な合意事項や成果が発表されてきています。
 主要な目標として掲げられたのは、雇用促進効果のある労働の分配、労働時間の柔軟化と時間外労働の削減、企業の競争力の強化、早期退職のための可能性を改善していくこと、雇用促進効果のある協約政策、法定福利費の引き下げと社会保険の構造改革、さらに若年失業と長期失業に集中的な対策を講じることでした。目標設定の合意がすでに、三者全員が譲歩をしたことを示しており、ギブ&テイクの精神が同盟の原則として受け入れられるだろうとの期待を抱かせてくれるわけです。
 「雇用のための同盟」の構造と進め方は、かなり明確に規定されています。たとえば、雇用問題にかかわる重要な案件であれば、まず専門作業部会で、担当大臣が取りまとめるかたちで協議されます。そこで得られた成果は運営部会へ回され、再び政治的な協議を行い、また政治的な評価を行って、妥当であるとの結論が出れば、首相を座長とするトップ会談に提出され、最終決定の運びとなります。運営部会はこの他にも重要な諸テーマについて、著名な大学人からなるベンチマーキング・グループに、労働市場でどのような効果を持ち得るのか、国際的視点からの調査を依頼しています。その際、似通った条件にある諸外国の最良の解決法を探し出すことを主要な目的としています。
 こうしたテーマのこれまでの例として、税制の国際比較、低賃金分野ないしは職業能力の低い労働者の雇用機会の問題、また、国民経済の主要データ − これは「ベンチマーキング・ジャーマニー」といってもいいと思います − があります。この他、労働時間に関する政策、また、労働事情政策の国際比較なども行っています。この他にも数多くの専門分野やテーマ毎の対話が、各省の主導の下に行われています。
 すでにこういった具体的な成果が現われており、雇用のための作業分野の一つ、職業訓練、能力向上訓練で、99年1月1日から若年失業解決への緊急対策が実施されています。この緊急対策には総額20億マルクを投じていますが、そのおかげで99年には17万9000人ほどの若者が職業訓練、能力向上訓練を受けることができました。その結果、若年失業者の数は明らかに減り、これは失業している各分野の中で、最も減少が大きい分野となりました。この成果を受けて、政府は2000年も、この緊急対策を継続することを決定しており、予算は再び20億マルクとされています。
 さて、情報技術はすでに現在でも、あらゆる国の経済発展の鍵を握っています。政府は期間を限定して、一定数のIT専門職をドイツに受け入れることを決定したばかりです。その数は2万人までとされています。「雇用のための同盟」においては、IT専門職の不足を中期的に解消するための対策を講じることで一致しています。たとえばIT分野の職種の訓練ポストを大幅に増加させることも合意されています。
 すでに申し上げましたが、職業能力が低い人、長期失業者などは今、非常に苦しい状態にあります。従って、特にこれらのグループを支えていく対策が、労働市場政策にとって大きな意味を持っています。そこで同盟のパートナーたちは、低資格労働者と長期失業者の雇用機会を改善するためのモデル・プロジェクトを決定しました。
 さらに、同盟がもたらしたもう一つの成果は、経営側と労働側の主要団体が1999年7月6日の第三回トップ会談において、一連の重要な問題に関して合意し、その成果を共同声明のかたちで発表したことです。この声明では、雇用効果のある協約を結んでいく方針が合意されています。その中には、目標実現の手段として、パート労働の拡大など、中高年パート制の利用を強化し、早期退職を可能にしていくというような具体的な策も、はっきりとうたわれています。そして、賃金協約政策においては中・長期を視野に入れています。さらには、地域一律協約制度の改革も出てきています。この共闘の?共同の?声明によって、実質的な進歩が計られたと考えています。
 今年1月9日に得られたコンセンサスは協約当事者に、交渉における特別な責任を負わせています。協約当事者は、こうした中で、早期退職などに具体的な対策を取ること、また、中高年のパート制を拡大することなどを決めています。このような近代的な労働政策は、それにより再び人員の補充がなされるので、若年失業者にとってチャンスの拡大となっています。現在、存在している労働を、どのようにして公平に分配するかが、そこで扱われていますが、このテーマが同盟のパートナーにすべて受け入れられたということを、はっきりと示しているわけです。従って、賃金協約について、賃金について語ることだけが同盟の課題である、というような理解は、もはや過去のものだと思います。
 現在の成長率の伸びを考えた場合、それで雇用効果を出すためには、少なくとも中・長期的に年間4%以上の成長を実現しなければいけませんが、それは非現実的な希望にすぎないと思います。
 ちなみに、隣国オランダのように同盟で成功している国々は、労働の分配を有効な手段として使っています。オランダの例では、83年から97年までの間に、パート労働比率が21%から38%に上昇しました。同時に、年間平均労働時間は1,400時間を割っています。ドイツでは現在、約1,600時間です。
 2000年1月9日には、改めてもう一つのコンセンサスが得られましたが、その中では協約当事者がまた、特別な責任を負うことになっています。この責任は2000年最初のいくつかの労働協約で充分に果たされています。具体的には化学、金属、建設産業分野での労働協約です。これらの産業分野の合意は、これまでの同盟の作業の大きな成果として評価できるものです。その中では、労働市場の状況好転のために、今年1月9日、同盟の会合で合意された内容を、最も進んだかたちで実現しています。つまり協約期間が複数年度にまたがっていること、また、中高年のパート制や、早期退職による年金の減額を埋め合わせるための退職一時金などがそれです。
 これらの労働協約は、同盟のパートナーがすでに合意し、制定が予定されている「中高年パート制に関する法律」を実質的に取り入れたもので、中高年パート制のアクセプタンスの改善に大きく貢献するものです。中高年パート制を利用する人々が増えれば増えるほど、より多くの人員が補充されます。なぜなら、公的助成を受けるためには、人員の補充が条件となっているからです。特に若年失業者が、この制度の恩恵を受けることが予想されます。また、これらの協約は、各分野で予想される生産性の伸びの範囲で考えていると、専門家の見方は一致しています。従って協約当事者は、雇用効果が確実に出るよう、経済的に見て理性的で信頼性のある枠組み条件を提示したといえます。
 こうした背景から、我が国経済の順調な伸びが、今年のうちにも雇用増大と失業者数の目に見える減少をもたらすことに、自信が持てるわけです。
 さて、ご出席の皆様方。最後になりますが、批判点について簡単に触れておきたいと思います。とりわけ同盟での形式的な妥協は拘束力を持たないのではないか、という批判があります。
 同盟の発足以来16カ月しか経っておらず、少なくとも現政権の任期全体を視野に入れたこのプロセスを正しく評価するには、時間が短すぎるという点は別としても、その批判には、こう言いたいと思います。確かに合意点の多くがトップレベルでの意思表明であり、それは実際に意味を持つ、実行レベルでの具体化を必要とする、ということです。それは確かです。しかし、これまでの協約交渉の中では、今述べたように、それが充分に成功しています。ということは、同盟の場での一般的表現のコンセンサスでも、効果は必ず出るわけです。そして、その結果として、相互信頼、同盟の作業全体への信頼を高めることにつながっています。
 私たちは「雇用のための同盟」において、この相互信頼を拡大する努力を続けています。これまで成功したコンセンサス・モデルを見てみると、関与する当事者の間で必要な相互信頼が育った場合のみ、成功をもたらし得ることが分かります。従って信頼は不可欠です。ギブ&テイクは個別の妥協の中で必ずしも直接、または同時に相殺され得るのではないからです。ある点についてコンセンサスを得るために、当面、あるいはより多く妥協する側が、次の機会には相手側がより多くを与えてくれる用意があるだろう、という確信を持てるようでなければいけないのです。実際に即して言うなら、こういうことになります。組合は、経営側が雇用を増やすために最大限の努力をするだろう、という確信を抱くことができて、はじめて穏健な協約政策に同意することができるのです。
 さて、ご出席の皆様。ゲルハルト・シュレーダー首相は98年11月10日の所信表明演説ですでに「雇用のための同盟」を失業問題解決のための常設機関である、と表現し、特効薬ですべてが解決するかのような期待に警告を発しています。現在の困難な状況を考えれば、「雇用・職業訓練・競争力のための同盟」は、発足16カ月で手始めの成果を見せはじめたわけで、これを基礎にいっそう前進できると思います。ドイツの大量失業を解決する最終目標への道のりは、まだ長いのです。しかし「千里の行も足下に始まる」という素晴らしい言葉があります。
 ご静聴、どうもありがとうございました。

 


司会者: それでは続きましてヘルベルト・マイ委員長にお願いいたします。

公務・運輸交通労働組合 ヘルベルト・マイ委員長: お集まりの皆様、まず、ご招待に対し、心から感謝申し上げます。
 現在ドイツで行われている「雇用・職業訓練・競争力のための同盟」は、もとはといえば1995年に労働組合の提案で始まったものです。この時の内容を要約すれば、労働側が毎年の賃金交渉で賃上げ要求をインフレ率だけにとどめる代わりに、使用者側は生産性の向上を雇用創出に使ってほしい、というものでした。それによって40万人の雇用を創出してほしい、というのが、その内容でした。前の保守党政権も、このような同盟の立ち上げに意欲を見せたのですが、今、ヴァルター・リースター労働大臣からお話があったようないきさつがありました。しかし、私たちが見る限り、企業側の要求にばかり肩入れし、労働組合には受け入れ難い法律を押し付けて冷遇したので、このときの試みは96年にはすでに失敗という結果を出しています。このときの失敗が選挙の結果に少なからず影響し、1998年秋の政権交代に至る大きな要素となったことは否定できません。
 連邦首相ゲルハルト・シュレーダーは、「雇用・職業訓練・競争力のための同盟」を新政権の基本政策の中心に据えると言明しました。その場合、労使両者は政府ともども失業問題の解決のために効果のある策を立ち上げるために、それぞれ貢献する、ということが前提となっていました。これまでの経過を見ると、特にドイツ使用者連盟とドイツ労働総同盟が、同盟の牽引役を果たしてきたことがよく分かります。特に、この両者による99年6月6日の共同宣言は、そのことを如実に証明しています。これは大臣のお話にもありました。
 本日は三つのことをお話ししたいと思います。第一に、これまでに得られた成果、そしてその波及効果についてお話します。第二に、同盟の仕事が労働組合の内部でどのように受け取られ、論議されているかをお伝えします。第三に、労働組合の目から見て、近い将来の重要課題として同盟の中で取りあげなくてはならないテーマは何か、ということです。
 第一の点ですが、同盟ではこれまでに非常に大きな成果が得られています。その一つに、高年労働者と若年労働者の間の雇用の橋渡しがあります。このために同盟のパートナーは、それぞれのサイドから貢献してきました。その結果、高年労働者は自由意志で、つまり、あくまで本人が望む場合に限り、定年以前に早期退職ができるよう、労働時間規定の改正が行われ、中高年パート制度が導入されました。法律の適用期間は延長となり、またパート勤務ができる期間も延長されました。すでにパート制度を利用している者は、年齢が進むと一層の時短を要求できるようになっています。その際に生ずる賃金の減額分は、一部が補填されます。同じく年金減額分にも補填が行われます。その土台になっているのは、一つは法律の規定、これは政府の貢献分ということになります。また、もう一つは労働協約による合意で、これは労使の貢献分となります。一方、これによって多くの若者には、雇用と職業教育の機会への扉が開かれました。また、すでに職についている者は、その雇用が安定したものになりました。これを雇用の橋渡しと呼んでいます。
 次に、職業教育に関するコンセンサスがあります。同盟に参加した企業の代表者は、できる、そしてやる気のある若者なら誰もが1999年に職業教育の場を得られるようにする、と約束しました。そして前の年よりも1万6000の自主ポストを増やし、情報技術という新たな分野では、今後3年間に4万の自主ポストを用意すると約束したわけです。
 これに対して労働組合側は、特定の職業について、新しい労働の概念が速やかに確立するよう、最大限の協力を約束しました。
 これらに加えて地域レベルでも、職業訓練に関する協議会を設置する旨の申し合わせがなされました。そこでは使用者側と労働組合、地方自治体、ハローワークにあたる労働監督所が協力して、なるべく多くの若い人たちに自主ポストや雇用が行き渡るよう、現場レベルでの努力をすることになっています。
 第三は、低い資格ないしは技能しか持たない人々のためのモデルテストです。ドイツでは、低い資格や技能しか持たない人々は、高齢者と並んで失業率が高くなっています。これについても、リースター大臣がお話をなさいました。そこで私たちはモデルテストを行って、低所得者への公的機関による補助金をどう支給していけば良いか、そうした支給を検討することにしています。このテストは、こうして低所得層に雇用を増やし、低い資格能力の人々が労働市場へ参入しやすくなればという希望から生まれた試みです。
 これは、まずモデルテストのかたちで計画されています。それは、こうした補助金政策が雇用創出につながるか否かについて、意見が分かれているからです。われわれ労働組合では懐疑的・否定的な見方がすう勢ですが、学者や経営者の間では、成功疑いなしの方策という見方が圧倒的です。
 私たちは「雇用のための同盟」において、実りなき対立より、その効果を3年間のモデルテストで試してみるという合意をし、建設的な道を取ることにしました。そして2000年を目処に、労働協約の上でも、その基礎を打ち立ててきました。中庸な賃金要求をすることにより雇用の増加を促す、という道を取ったわけです。労働組合はそれによって、雇用の促進効果を期待したのです。
 現在の状況のなかで、政・労・使の協力関係がこのようなかたちで成立するということは、政策は単に経済指標によって決まるのではなく、雰囲気というものが大事であるということがあります。このような雰囲気づくりが、「雇用のための同盟」ではたいへん重要なファクターになります。その中では、政策的な討議も行われます。
 この同盟は決して、議会や政府から決定権を取り上げようというものではありません。ドイツの世論の中でよく「第二の政府」というような言葉が聞かれますが、そのような言葉で懸念される肩代わりのつもりは決してありません。ただ、私たちがこの同盟の中で、政府がある政策をとった場合には労使からどんな反応が出てくるか、それを早く示すため、そういった意味では諮問をしているということになるでしょう。
 次に第二の点です。組合側は同盟の作業をどう受け止めて議論しているか。組合側には基本的に二つの反応が見られました。組合員の多くは、同盟に過大な期待を寄せていたので、合意された対策は手ぬるいという意見が出てきました。失業問題も思ったほど早く解決に向かっていないとの見方がありました。また、雇用効果のある確約を望んでいて、たとえば時間外労働の削減や時短などの確約に対する大きな期待がありました。しかし経営者側の約束が完全には実行されなかったために、職業教育に関するコンセンサスの効果に失望感が生まれました。批判によると同盟は「ぐずぐずしている」「仕事が遅い」「中途半端な手を打っている」などと言われています。リースター大臣も失業者の話をされました。つまり400万人も失業者がいるのだから、経営側と合意できないことでも、多くは政府が法律をもって断行すべきであるということです。
 また中には、同盟の作業がある意味で早すぎる、先へ進み過ぎるという懸念を持ち、不信感を抱いている者もいました。とりわけ、協約に関する総括的な合意が、労働組合の協約委員会のアウトノミー(自治)を侵害するのでは、という懸念があります。組合の協約委員会は、協約に関する自治権(タリフアウトノミー)を持っています。要求事項などを取りまとめたりする作業に対して自立権を持っているわけです。ここでの批判は、組合が持っている民主主義に同盟が制限を加えるのではないかということです。
 DGB(労働総同盟)には150万の組合員がいます。そこで、こうした中で16カ月という短期間に、この150万の中で間違った評価が生まれないというようにするのが、たいへん大事なことになります。
 「雇用のための同盟」では、多くの事業所レベルの行動があります。それが同盟による指示を得、また、そこで生まれる雰囲気が成果を生んでいきます。このようなかたちで各企業にも同盟に似た組織ができてきたことを、私ども、そして当該の企業の従業員代表委員会はたいへん誇りに思っています。もう一度、積極的な働きが期待されています。
 将来の展望をお話します。同盟が今後、早急に取り組んでいかなくてはならない問題は、目前に並んでいます。EU外からIT技術専門職を迎えようということなどが、その一例です。近代化があまりに早く進み、それを追いかけていくために、今第二の手段を打たなくてはならない状況にきています。次の段階というのは、この分野での職業訓練をもっと改善していくという必要です。
 また、ドイツでは年間18億時間にのぼる時間外労働が行われています。これを削減する手段を見い出さなくては。400万という失業者がいる一方で、働き過ぎて健康を害する人々がいるという現象を、このまま続けることはできません。
 この他、パート労働制に積極的に取り組む必要があります。つまり、パート労働制をもっと具体的に拡大していく道を探らなくてはなりません。ヨーロッパにおいては、このようなかたちでパート労働を拡大することが正しい道である、という理解が広がっています。それは、労働を公平に分配する上で利用できる道です。
 また、将来性の高い分野で新たに雇用を見い出さなくてはなりません。たとえばコンサルティング会社を巻き込んだ省エネ振興策や公的医療保険、民間医療保険における医療サービス、その他のサービスです。また、労働者が利益の分配に参加することができるような道を開くことが大きなテーマとなります。それによって貢献していくことができます。
 結論として、雇用のための同盟は私たちにとっては正しい選択でした。これまでのように、雇用を見い出すポテンシャルや技術革新がドイツでは十分に活用されていないと嘆き、近代化を阻む問題だと争うかわりに、今や私たちは手を組んで、有利なポイントを増やし、弱点を克服し、そうすることによって雇用と職業教育のための新たなポストを創出していく道を、手を取り合って探しているのです。
 ありがとうございました。

司会者: それでは、ハンス・シュライバー副会長、よろしくお願い致します。

ドイツ経営者連盟副会長 ハンス・シュライバー: ありがとうございます。
 私が使用者側の代表として話をするときまで我慢強く待っていただき、ありがとうございました。もちろん、話の中で、多少アクセントが違ってきます。従って面白い話になると思いますので、ぜひ聞いてください。
 私は、「雇用のための同盟」について評価をするには、まだ時間が早すぎると思います。本当の意味での評価を下すには、まだこれから多少の時間を必要とすると思います。われわれの努力に意味があったのか、そして、「雇用のための同盟」が他の国にも有効なモデルになるのか、というような点についての判断です。
 しかし基本的には、私の前に話された二人の方が肯定的な評価をされたことに同意をいたします。たいへん良い経験をしてきたわけです。従って、今後とも成果を得られることを信じて進んでいこうと思います。
 しかし、私が述べるアクセントは、少し違ってきます。グローバルな競争の中でドイツ経済が競争力の強化をすること、それによってドイツの失業問題を解決していこうということ、これが、われわれには非常に大事なポイントだと思っています。また、職業訓練も、マイさんもおっしゃいましたが、非常に大事だと思います。
 第一に取り上げなければいけないのは賃金協約政策。次に税制の問題。そして社会保障システムの改革が大事です。労働大臣がすでに人口動態の変化についてお話しなさいましたが、それと関連しています。その次が労働市場の規制緩和です。この4点が、私どもの観点から非常に大事だと思っており、この4点が競争力を改善するため、すなわち失業の解決に向けた競争力強化のために、非常に大事だと思っている点です。
 企業の中での対策には、職業訓練の問題が非常に密接に関わってきます。われわれは、すでに作業を始めています。賃金政策、協約政策をテーマとして取り上げることが、われわれにとって非常に大事な一歩でした。というのは私どもは、これが最も中心的なテーマでなければこの同盟の成果を得られない、と考えていたからです。オランダの例がそれをよく示しています。オランダでも同じように、協約政策、賃金政策についての協議が一番最初にありました。
 しかし、こうした問題については基本的なコンセンサスが必要です。それがなければ失業問題の解決の実行は得られないし、競争力を高めることもできません。
 ドイツにはもちろん、産業立地として大変良い条件があります。インフラも良いし、労働者のレベルも高い。しかし欠点は、世界と比べた場合に労働コストが非常に高いということです。この高い労働コストはもちろん、生産性が高いので、ある程度は受け入れられるわけですが。この高い労働コストはしかし、企業の競争力に非常に難しい問題を投げかけ、結果的に失業の問題にもつながっているわけです。
 そうした中で考えなければいけないのは、ドイツの労働市場は分割されているということです。専門職に対しては、非常に大きな需要が存在します。ファイナンス分野などがその例ですが、その他の専門職についても、まだまだ労働力が足りないというところもあります。同時にまた、現在のサービス化社会で要求される能力をなかなか身に付けられないでいる人たちもいます。労働市場にこのような亀裂が入っているという事実が、労働を分配しようというプロセスを実行する際に、困難として立ちはだかっているわけです。
 われわれ経営者側としては、雇用のための同盟において、賃金政策、協約政策について話していくことが非常に大事だと思っています。最初、99年の段階では、これは不可能でした。98年12月には、雇用効果のある賃金政策を目標とすることに合意しましたが、その数カ月後には、労働組合側がそれに合意したという面影すらも見せないような協約交渉が行われ、3%の賃上げが提示されました。ドイツの生産性の伸びを考えれば、当時は1%の賃上げでも高すぎる状況だったのですが。99年の協約交渉で、このように賃上げ要求のレベルが高かったために、失業問題の解決は、その後なかなか前進しませんでした。
 しかし、ここで強調しておきますが、2000年の協約交渉については、「雇用のための同盟」他の努力のおかげで、たいへん良い方向に動いています。われわれに対し、賃金政策の全般的な正しい方向を示してくれるという役割を果たしています。この方向性とはすなわち、生産性の伸びを100%、賃金上昇で使い切ってしまうのではなく、雇用効果を上げるために投資をするべきである、という基本的な考え方です。2000年の協約交渉の中のこのような方針が、どこでも現在までのところ守られています。もちろん、ドイツにおいては枠組み状況が非常に有利に作用し、この合意を実現させているという事情もあります。現在、経済成長がすでにインフレの伸びを上回り、1ポイント以上も上がっています。従って今年、抑制的な賃金妥結が行われれば、今後とも経済成長が予想されます。
 その次の私どもの重要な方針は、特に協約政策の分野において、将来は労働協約を複数年度にまたがる長いものにするということです。これは企業に、計画をするためのきちんとした基盤を与えるということです。現在、2年以上にまたがる労働協約が、すでに妥結されています。われわれは3年以上の長いものを考えていましたが、1年より長い協約が妥結されたことはすでに前進である、と見ています。
 われわれ経営側はもちろん、今まで非常に柔軟な態度を取ってきました。たとえば早期退職の柔軟な形式、これはすでに合意があったものですが、その他にもいろいろな対策が取られています。このように、退職への移行において、できるだけ賃金のマイナスなしに年金生活に移行できるように考えているわけです。
 こういったものを、企業年金という形で法的請求権を与えるようなかたちで一時、私どもは妥協しました。連邦政府としても、そのような法整備を行っているところです。こうした制度は今、さらに改善されています。その他、経営側は労働組合との間で多くの合意をしましたが、追加的な老齢保障を積立方式で行うことについても合意しています。これによって、現在のような付加方式による公的年金制度で年金の額が減っていくのを、ある程度相殺をしていこうと考えているわけです。
 国民がますます高齢化・少子化することになれば、年金保険を付加方式でまかなっていくのは難しくなります。従って、積み立て方式が考えられなければいけないと思います。早期に退職をする場合、年金額はある程度減額しますが、このような追加的な老齢保障があれば、一定程度の相殺は可能だと思います。
 協約政策の中で、早期退職制度の拡充については、それほど具体的な対策はとられませんでした。ただ、同盟の作業としては、これまでさまざまな交渉、協議を通じ、従来の硬直した協約交渉のやり方を改善をするような作用を与えています。このようなかたちで大きな前進が見られているところもあります。はっきり申し上げますが、同盟における協約政策、そしてそこから発する良好な効果は、われわれの同盟にとって非常に大きな成果でした。これは「!」マークをつけて、特に強調しておきたいと思います。
 今年は非常に良好な経済成長が見込まれており、すでに先週までの協約交渉の妥結を折り込んだ上で、ドイツ経済の今年の成長はまた上昇すると、情報推測をしているところです。
 将来、私どもの方向として見ていかなければならないことは − その作業は具体的に始めていますけれども − マイさんも言っておられました。その一つは、労働時間政策の問題です。労働時間の柔軟化、パートの拡大、そして生涯労働時間という考え方等々があります。まず賃金協約についてお話ししてきたわけですが、労働時間については、まだそれほど具体的な成果が見られません。職業訓練については、それほど大きな成果は出てきていません。 しかし、いろいろ合意はありました。そして、その中で、訓練ポストの数も拡大されましたし、職業能力の低い人たちに対する対策において、手始めの成果も見られます。これは同盟がなければなかったと思います。
 しかし、やるべきことは、まだまだたくさんあると思います。一つは企業税制の改革です。もう一つ、社会保障制度の改革という課題もあります。この二つについては同盟の中で、まだ協議も行われておりません。従って、この分野において必要な改革をするために、幅広いコンセンサスを得ていくことが最も肝要だと考えています。
 そのような中で連邦政府が、政府の方からした確約を守ってくれることを期待しています。これは企業税制の改革で、企業に対する税負担の緩和をすでに約束しています。さらにもう一つ約束している点は、社会保障制度の改革です。このような分野における医療コストを長期的に引き下げていく方向へ向けての改革を約束しています。この約束を守っていただきたいと期待しているわけです。
 われわれの確信では、この点について、対立点はますます少なくなってきています。というのは、老齢保障制度には人口動態の変化が大きな影響を及ぼすので、ぜひとも改革しなければいけないという点で、幅広い意見の一致が見られるようになったからです。こうしなければ将来の貧困を防ぐことができないと、皆が見ているのです。
 もう一つの観点について申し上げたいと思います。これは共同決定の問題で、企業体組織法の分野であり、外国ではなかなか理解されないところです。これはドイツの特殊な伝統に基づくものです。ドイツは戦後の経済再建の中で、労使関係に新しい見方を導入しました。ドイツは経済の奇跡を果たしたと言われていますが、これは労働組合や事業所委員会の積極的な支援がなければ不可能でした。このような歴史的な背景を受け、私どもは共同決定法、企業体組織法というものに、非常に大きな価値を見い出しているわけです。しか、現在グローバル化社会の中で、この、すでに存在している個別の規定については再検討を必要とするものもあると考えています。たとえば労働市場における規制緩和が今、特に求められています。このようにして、ドイツ経済の競争力を全体的に強めていかなければなりません。賃金協約、税制問題、社会保障制度の改革、労働市場の規制緩和といった個別の対策、そして将来を見据えた職業訓練制度 − こういったものが成功のために不可欠な要因です。
 現在までのところ、非常に多くの問題はまだ解決されていませんが、賃金政策、協約政策においては非常に大きな前進がはかられたと言えます。これは、ドイツの労使関係の中で、いわゆる協約実施もきちんと守った上で成功しています。98年秋に、新政権に対し、また新労働大臣に対して一定の疑念を表明しておりました。私どもはこの間、労働組合、経営側、そして政府も交えて共に政策を講じていくならば、我が国の競争率を高めて失業を解決できると考えています。われわれ経営側はドイツにおける、非常に長い間改革の停滞があった状況を打開していく用意があります。他のパートナーと協力していく用意があります。
 ご静聴どうもありがとうございました。

 


司会者: 今まで三人の方から、いろいろ立場の違いが鮮明な、非常に貴重なお話をいただいたと思います。

 それでは会場の皆様から質問をお受けしたいと思います。実は、この後の日程が非常に詰まっておりますので、誠に恐縮ですが、時間通り5時20分でこの会は閉じさせていただきたいと思っています。皆様の御協力をお願いします。では、御質問のある方は挙手をお願い致します。
 それではどうぞ。

質問者1: 今朝、来日されたばかりで、大変お疲れのところ、熱弁をふるっていただきまして、ありがとうございました。たいへん貴重な話だったと思います。
 四点ほどおうかがいしたいと思います。リースター労働大臣のお話の中で、2010年から15年にかけて労働人口が急減する、一方、現在の失業率が10%失業率である、とありました。10~15年経つとと、この失業率は解決するのかどうか、それが一点です。解決し、更に労働力不足になることもあり得るのかどうか。そして、それと関連して、ドイツの経験である外国人労働者の問題について、その時点でどう考えるのか。これは予測の問題ですので、もしその時点でまだ失業率が高ければ、そういう問題はないと思いますが、労働力が不足するような事態であれば、そういう問題をどうするのか、これが一点です。
 二点目は、20億マルクの費用を投じて17万9000人の若者に対して職業訓練を施し、それによって若年労働者の失業者が減少したというお話でしたけれども、具体的にどのくらいの人数が雇用を得たのか、そのへんについて実体をお示しいただければありがたいと思っております。
 三点目は、これは私はたいへん関心を持って聞いたのですけれども、中高年パート制です。これはフルタイムからパートタイムに切り替えるということですけれども、具体的に、実際に適用された人数がどのくらいだったのか。そして、それにともなって賃金あるいは年金保険料が政府から補充されるということでしたが、その年間予算はどのくらいの実績があったのか。そして国家予算との比率がどのようなものであったのか、おうかがいできればと思います。
 四点目は、日本では今、年間労働時間の約10%が残業、所定外労働時間で、その所定外労働時間をゼロにすれば、現在5%といわれている失業は全部解決できると、これは数字上の問題ですが、そう言われています。これに関連しまして、私が日本政府に-岩田さんは帰られましたが − 申し上げたいのは、たとえば企業で残業をゼロにして新規雇用をした場合、賃金の補充をするという方法もあると思います。そういったことを是非やっていただきたいと思っておりますけれども、実は、四点目の質問は、雇用のためのいろいろな政策について、ドイツでは地方単位で特色のある政策を打ち出しているような事例があれば、おうかがいしたいと思います。たとえば日本では、55歳以上の中高年齢者を採用した場合、政府が賃金の一部を補助する制度があり、県によっては対象を45歳以上まで拡大するなど、上乗せをしているところもありますけれども、ドイツでもっと目立った、地方単位での雇用のための政策をやっている事例がありましたらお示しいただければと思います。
 以上の四点であります。よろしくお願いいたします。

司会者: それではリースター大臣、よろしくお願いいたします。

リースター: 全部メモしましたら四点以上だったように思いますが。まず最初は、2010年から2015年まで労働力が減るという話についてですが、私どもは、これから従来までの分野でも新しい分野でも、新しい雇用を作り出すことができると思います。しかしながら、何もしなければ、雇用は減っていくと思います。積極的な労働市場政策を行えば − これは雇用促進を図っていくということで、雇用政策は市場政策以上のものですし、経済、技術、教育、税金、コスト、更には労働市場政策にも、すべての分野に関係するもので、非常に密接な関係を持っています。私が今日お話したのは「雇用のための同盟」の話だけでしたが、大事な点は連邦政府が昨年から、戦後最大の財政再建策を取っていることです。今年については280億ドイツマルクの歳出の削減を考えており、2003年までに500億マルクの削減を考えています。さらに税制の改革も考えており、2005年までの間に250億マルクの税制負担の軽減になるはずです。これがすべて、失業問題の解決に役に立つと考えているわけです。
 また、これまで職業能力の低かった人たちを再訓練することによって雇用を改善するという対策を取っていますが、これにも限界があります。というのは、新しい産業分野では、これまで失業していた人を簡単にそこに補充として入れるというわけにはいかないからです。しかし、新しい市場が出てきています。ドイツの特徴はEUの中で最も進んだ、開放的な労働市場です。従って、ドイツ国内だけの労働市場を考えるわけにはいかない状態になっています。
 三番目、特に若年失業に対して20億の予算を割いたという件ですが、18万人近くの若者が、このプログラムに参加しています。現在まだ8万人が、このプログラムで教育・訓練を受けている最中です。昨年10月の調査によると、4万人がすでに雇用を得ている、また、きちんとした訓練ポストであるということが分かっています。この対策で具体的な数字がどこまで出るかは、もう少し待たないと、統計の数字が出てきません。
 その次の質問は中高年パート制に関して、何人、そしてどれだけのお金がかかっているかということですが、現在は10万人程度が、この中高年パート制を利用しています。そして、この人たちが連邦雇用庁の補助金、助成の対象になっています。実質的にかかった予算は比較的少ないものです。というのは連邦雇用庁が金を払う、すなわち助成を行うのは、パートに移った人の代わりに人員の補充が行われた場合のみとなっているからです。中高年パート制を導入している理由の中には、人員を補充しないで、労働の経費を引き下げるために行っているケースがあるということです。
 最後の質問、時間外労働ですが、これは一言ではお答えしにくいものです。ドイツでは、さまざまなかたちで時間外労働を削減する方法が取られています。たとえば労働時間の柔軟性、フレックスタイム導入などです。ドイツ最大の自動車産業フォルクスワーゲン社では、労働時間デポジット制を導入し、それを行う場合に、中高年パート制を取り入れたり、いろいろな形態が取られています。最終的には、時間外労働を減らしていこうという方向で進んでいます。中高年の方々で、いわゆる第一労働市場で雇用を見い出せない人のために、地域の公共事業の分野に近いところで雇用を見い出すということが行われています。特に旧東独地域で、こうした対策が取られています。これは中高年の方々が、いわゆる第一労働市場では行わないような業務に就くような場合、これが自治体の分野で行われているようなときに、私どもは助成の制度をもって、こうした雇用を促進しています。

司会者: 他に御質問ございますでしょうか。はいどうぞ。
 誠に恐縮ですが、出来るだけ多くの方から御質問が取れるといいなと思っておりますので、できれば1問か2問ずつでお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

質問者2: それでは一点だけ質問させていただきたいと思います。
 今のお話の中にもあった労働組合が直面している問題、これはドイツも日本も、失業、雇用問題はじめ、共通の問題が非常にあると思います。このいろいろな問題に取り組むためには、労働組合の組織機構そのものの変革も求められているんではないかと思います。そこでマイ委員長にうかがいます。
 ドイツでは、DGB傘下の組合、そしてDAGを含めた新しい組織「ベルディ」の結成が、今作業が進められていると聞いております。この結成が実現しますと、世界最大の産別組織が誕生すると聞いておりますが、その背景、そしてこれからの見通しについて、もしできればマイ委員長からうかがいたいと思います。よろしくお願いします。

マイ: まず、この五つの労働組合の統合に関連する展望ですが、これは、OTV、商業、銀行、保険業界、IGメディア、IGEドイツ郵便労組、DAGE、これらが統合し、それによってベルディという労働組合が生まれるわけで、サービス分野における300万以上の組合員を抱える最大の組織になります。発足は2001年3月に予定されています。
 その背景にあるのは、すでに講演の中でも出てきましたが、現在グローバル化が進んでいます。この中で、サービス分野においては大きなダイナミズムがあります。そして、コンツェルン、企業、サービス分野企業が、大きな新しいサービス分野を開発し、そうした中で企業活動を続けていこうとしています。
 ドイツにおいては公共企業体労組が、いわゆる古典的な分野というかたちで理解されてきましたが、そのままでは継続しないことが明らかになっています。たとえば公共企業体でも、民営化になったりというかたちで、まとめて言えば、極めて大きな、ダイナミックな動きをしているということを背景に、現在までの五つの労働組合が、これまでの競争状態を解消し、一つの大きな組織にまとまろうと合意した、ということです。五つの労働組合の力をすべて集めることにより、経営側に対しても政治に対しても、発言力を強めていくことを目標にしています。
 また、もう一つの目標は、協約交渉の中でもわれわれの発言権を強めようということです。今までの協約交渉の細分化した状態から、この大きな労働組合がまとまったかたちで、単一の労働組合として交渉すれば、強いポジションが取れるだろうということです。
 また、もう一つの背景は、働く人たちにとって魅力的な労働組合になろう、ということです。先進工業諸国、またサービス社会においては、労働組合員の数が減り続けています。それは労働組合のイメージというものが今、変わっていかなくてはいけないということを示しているのだと思います。法律問題や賃金の問題において、労働組合がサービス組織として、皆のコンサルティングをしなければいけない。
 このような新しい労働組合像を求めて、五つの労働組合が統合し、専門的な活動をしていこう、ということです。労働組合は統合しなければ、こうした面での活動を充分に行っていけないと考えました。地域においても国のレベルにおいても五つの組織が力を合わせ、力をまとめる、そしてナショナルセンターDGBの力をも強める、ということを目標にした統合です。例えば保険業界の問題などについても、すでに各国での決定ではなく、ブリュッセルで決定されることも非常に増えてきています。こうした中で労働組合サイドも組織の規模を大きくし、また、新しい組合員をたくさん獲得することによって基盤固めをしよう、ということです。その目標を達成できるかどうかは、まだ分かりません。しかし、それに向けてのプロセスです。こうした統合が失敗する例もあります。二つの大きな銀行が合併しようとして失敗した例も、最近ありました。というのは、労働組合も統合する中において、非常にたくさんの今までの労働組合員を、そのまま保っていけるのか。最終的な統合には、各組合で80%以上の賛成がなければいけないとなっているので、最終的に、本当に実現するかどうか、と。また実現に向けてのプロセスを、今から強力に推し進めていかなければいけないわけです。状況、環境は大きく変わってきています。われわれ労働組合側も、それに積極的に対応していかなければいけないのです。

司会者: それではどうぞ。

質問者3: シュライバーさんに質問があります。今、お話の中で、ドイツは労働コストが世界でも最高の国の一つであるとおっしゃいました。同じようなことを、日本の経営者団体の方も言っておられます。どのような労働コストを基に、世界でも最高とおっしゃっているのでしょうか。たとえば為替レートでいえば、1マルク=50円と考えているのか、あるいは100円=2マルクと考えるのか、それによっても変わってくると思います。

シュライバー: 私は連邦統計庁から出ている公式の統計を基にして言っているわけではなく、今おっしゃられたような現状に即して言っているわけです。失業というのは単純に、一つの原因で一つの結果が生まれるというものではありません。他にもいろいろなファクターがあります。競争力というテーマを取り上げて、失業を削減することを目標にするなら、いろいろな分野に目を向けなければいけません。従って、ローンダンピングだけが唯一の手段ではないということを、誤解を避けるためにはっきり申し上げたいと思います。

司会者: ありがとうございました。
 それでは時間なので、あとは、手を挙げておられるお二人の方に、ごく簡単に質問していただくということで。このお二人、そちらの方と、一番後ろの方、お一人ずつ手短にということで、申し訳ないですが、これで質問を打ち切らせていただきます。では、どうぞ、まず後ろの方から。

質問者4: シュライバーさんへの質問に続けた質問をさせていただきます。ドイツの労働コストが高いとおっしゃいましたが、その点について。労働コストを引き下げるためには重要な対策が必要だと思いますが、その点で労組側との合意は成立すると思われますか? それが同盟にとってマイナス、阻害になるとは思いませんか?

シュライバー: 私は、この二つの改革は今年中にも行われる、と楽観的な見方をしています。まず税制改革の問題が一つ。リースター大臣も、その点について言及されておられます。特に中・低所得層の減税を考えなければいけない。また、追加的な老齢保障を考えなければいけないとおっしゃったわけです。
 経営側としては、人々は自分の老齢保障は自分で考えるべきだと考えています。しかし、これは単に個々人の問題ではなく、長期的に税負担の軽減を考えるなら、企業税制の税制負担を考えるのであれば、これも個々人の問題だけではなく、事業所レベル、企業のレベルで考えていく必要もあると思っています。そういう意味では、補足的な企業年金を作っていくべきだと、私たちは考えています。企業にこのような追加的な年金、老齢保障を自由に行える余地を作っていくべきだと思います。それによって人事政策、雇用政策を考えていけるようにするわけです。
 私どもは、社会政策と税制、この二つをきちんと組み合わせて考え、一人ひとりの人にも、また、一つひとつの企業にとっても良い方向性を探していくことが大事だと思います。そのようにして税制の軽減、また法定福利費の軽減を講じていく必要があると思います。
 その他にも、やらなければならない分野はあると思っています。たとえばテレコムの分野では、連邦大蔵大臣からかなりの予算を割いてもらい、投資を行っています。同じようなかたちで、ポストバンク(郵便銀行)で、これが上場されれば、それによってかなりの収入が見込まれています。このような収入を、財政の健全化に用いることができると思います。こうした対策を総合すれば、全体的に税負担の軽減を実現できると考えています。

司会者: どうぞ。

質問者5: シュライバーさんにお尋ねしたかったんですが、ほとんど今、お答えいただいたと思いますが、社会保障に関して、年金以外の課題を持っておられるかどうか、お尋ねしたいと思います。

シュライバー: 本来はリースター大臣の分野だと思いますが、私に直接向けられた質問であれば、私からも答えさせていただきたいと思います。
 まず、いろいろな点での合意がありますが、具体化については対立があります。ドイツでは、保険料によって財政をまかなう付加方式による社会保険制度を将来も維持すべきかどうかについて、議論が分かれています。この点について基本的には、付加方式という原則は維持する、ということで政労使は一致しています。
 第二の点ですが、さまざまな審議会や専門家会議の意見としても、将来の人口動態の変化は単なる推測ではなく、きちんと、そうなるという予測が出ているわけです。その動きを見れば、保険料率が非常に高くなってしまう。これを避けるためには、社会保険による給付のレベルを徐々に削減していく以外に道はない、という点で意見は一致しています。また、こうした個人の分野、あるいは企業の保障の分野においては、積立方式による保険制度をある程度考えていく必要があるということです。基本的には、社会保障というものは維持する、また、二番目としては、ある程度給付の削減を考えていく。その相殺として個人、あるいは企業の分野における新たな社会保障制度を構築していく。この三つにまとめられると思います。

司会者: それでは非常に残念ですが、ここまででこの会を閉じさせていただきたいと思います。貴重なお話をうかがいました。御三方に、皆さん大きな拍手をお願いいたします。
本日はお集まりいただきまして、どうもありがとうございました。
 なお、資料をお持ちでない方は、入り口のところにございますのでお持ち帰りくださいませ。また、私どもはこれからもまた、こうした講演会で情報提供してまいりますので、ご利用いただきますようお願いいたします。どうもありがとうございました。

── 了 ──