基礎情報:韓国(1999年)・続き

※このページは、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

  1. 労働時間
  2. 労使関係
  3. 労働災害

1. 労働時間の概要

1996年から景気が下降局面に入ったのを機に労働時間は減少に転じていたが、1997年末の経済危機に伴う景気の急激な落ち込みと稼働率の低下により、1998年には超過労働時間の減少幅が著しい。

この影響で月平均労働時間は199.2時間を記録した。月平均労働時間が200時間を割ったのは1970年に統計を取って以来初めてである。

2. 労働時間に関する法律

1997年の労働法改正で、労働時間制度の柔軟性向上の一環として変形労働時間制をはじめフレックスタイム制と裁量労働制の新設、労働時間および休憩時間の特例規定の改正などが行われた。

変形労働時間制は1980年の労働法改正で廃止されて以来、特例として運輸、金融保険、医療事業など公益または国防上必要な場合に限って労働大臣の承認を得て実施できるものにとどまっていたが、1997年の労働法改正でつぎのように復活した。

まず2週間単位の変形労働時間制が就業規則に基づいて実施できるようになり、1カ月単位の変形労働時間制も労使間の合意の下で実施できるようになった。

変形労働時間制を就業規則に盛り込む際には、労働組合または労働者過半数以上の意見を聴取しなければならないこと、その意見を添付して労働大臣に申告しなければならないこと、このような就業規則を労働者に周知させなければならないこと、既存の賃金水準が低下しないよう賃金補填策を講じなければならないことなどが定められている。

労働時間の推移
  1996年 1997年 1998年
労働日数 24.4時間(-0.2%) 24.2時間(-0.2%) 24.0時間(-0.2%)
総労働時間数 205.6(-0.7) 203.0(-1.3) 199.2(-1.9)
通常労働時間数 180.9(0.0) 179.6(-0.7) 179.1(-0.3)
超過労働時間数 24.6(-5.4) 23.4(-4.9) 20.1(-14.1)

出所:労働部『1998年年平均賃金、労働時間及び雇用動向』1999年2月26日

3. 有給休暇の概要

有給休暇制度には韓国特有の月次有給休暇の他に、年次有給休暇、生理休暇、産前産後休暇などがある。

月次有給休暇は1カ月の所定勤務日数を皆勤した者に与えられるが、1年間に限って貯めたり、分割して利用することができる。

年次有給休暇は1年間皆勤した者に対して10日間、9割以上出勤した者に対しては8日間、そのうえ2年以上勤続している者に対しては勤続年数1年ごとに1日を加算して有給休暇を与えなければならないが、その有給休暇日数が20日を超過する場合は超過日数に対して通常賃金を支給し、有給休暇を与えなくてもいいことになっている。

1997年の労働法改正で年月次有給休暇制度本来の趣旨に沿って、同休暇の使用を促進するために、年月次有給休暇代替制が導入され、労使間の合意に基づいて、休暇の代わりに特定の勤務日を休みとすることができるようになっている。

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1. 労使関係概況

韓国の労使関係は1997年と1998年の労働法改正を機に、従来の「権威主義的労働統制」から完全に決別し、「社会合意的労使自治体制」の定着に向けて大きく動き出した。1980年代までの労使関係は、政府主導の輸出志向型工業化政策の手段として労働関係法や行政指導により上から強制された労使協調主義が貫かれていた。とくに1980年の労働法改正により、企業別組合と労使協議会を軸にした上からの労使協調主義は労働組合勢力と労働者を企業別労務管理体制に押さえ込むという点で「権威主義的労働統制の企業内部化」を徹底するところに大きな特徴がある。

1987年の民主化宣言に伴う労働法改正でこのような政府主導の権威主義的労働統制による上からの労使協調主義は幕を閉じるが、重化学工業の大手事業所や公共部門などで労働組合の交渉力強化に伴い多発する労使紛争に対しては、政労使共に最終的には法治よりは政治論理、合法的妥結よりは政治的決着にすがる体質にとっぷり浸かっているせいか、1990年代に入ってからも現代グループ労組総連盟による連帯闘争やソウル地下鉄公社等の公共部門の連帯闘争などでそのような動きが散見された。

1996年のOECDへの加入を機に、労働法改正論議においても国際基準が大きな軸をなすようになり、1997年と1998の労働法改正では集団的労使関係における労働基本権の保障と個別的労使関係における労働市場の柔軟性向上が最大の争点になった。

幾多の紆余曲折(労働界あげての労働法改正反対闘争、国会での二転三転、経済危機など)を経て、集団的労使関係においては「複数労組禁止、政治活動禁止、第3者介入禁止等」のいわゆる3禁条項が削除され、「教員労組法」が制定されるに至った。これにより、上部団体の団結力は一段と強化され、企業別組合体制から産別体制への移行に向けて産別組織の結成と統合の動きが広がっている。

その他、「争議期間中の賃金支給、労組専従者の賃金支給、争議行為中の通常業務妨害等」に対する禁止条項や罰則条項が新たに設けられ、従来の非合理的な労使慣行の是正も試みられた。

個別的労使関係においては前述したように「整理解雇、労働者派遣、変形労働時間制など」の法制化によって、労働市場及び労働基準における柔軟性向上と法的手続きによる規制方式が実現した。

そして1998年8月の現代自動車における整理解雇をめぐる労使紛争とその解決プロセスを最後に、労使関係において政治論理に基づいた政治的決着の慣行には終わりを告げ、法治の原則に基づいた労使自治を定着させようとする試み(金大中政権が掲げている「新しい労使文化」の構築)が政府側に顕著にみられる。

その一方、新大統領の諮問機関として1998年の労働法改正を主導した「労使政委員会」は、1999年に入って労働界に続いて財界も脱退を表明し、開店休業状態に陥っていた。そのため、新政権は労使政委員会を「社会的合意に基づいた労使協調主義」を具現化するための場としてその地位と役割を強化するために「労使政委員会」の法制化に踏み切った。これにより、少なくともナショナルセンターレベルでは実りある話し合いの場が増え、労使間で健全なパートナーシップ(自律的な労使協調主義)が築かれるものと期待されている。

2. 労働組合と労使紛争

1996年からの景気低迷に伴い、休廃業に追い込まれる事業所が増えていることもあって、単位組合数と組合員数が減少し続けている。1998年には経済危機の影響で不渡りを出した企業数が2万2828社に上っており、企業別組合の減少傾向にも歯止めが歯止めがかからないのが現状のようである。そのうえ、1997年と1998年の労働法改正で、労働市場の柔軟性向上策の一環として導入された整理解雇や労働者派遣制等は、構造調整に伴う雇用調整(人員削減、雇用形態の多様化)を通して企業別組合の組織基盤に少なからぬ影響を与えるものとみられている。

労働組合組織の推移
  単位組合数 組合員数 組織率
1995年 6,606 1,614,800人 12.7%
1996年 6,424 1,598,558人 12.2%
1997年 5,733 1,484,194人 11.2%

注:組織率=組合員数÷総雇用者数×100

出所:韓国労働研究院『KLI労働統計1999年』

このような動きが広がれば、労働組合の代表性を示す組織率の低下傾向にも加速がつくかもしれない。ただし、このような流れとは逆に、労働組合の上部団体は1997年と1998年の労働法改正で団結力の強化と活動範囲の拡大に自由に取り組むことができるようになった。それだけに企業別組合体制の弱体化に歯止めをかけ、労働組合の代表性を維持するための上部団体の新たな取り組みに注目が集まっている。

労使紛争の推移
  発生理由別件数(件) 参加者数(人) 損失日数(日)
賃金未払 賃上げ 協約改訂
1996年 1 19 62 85 79,495 892,987
1997年 3 18 51 78 43,991 444,720
1998年 23 28 57 129 146,065 1,452,096

注:労使紛争の発生原因のうち、解雇は1996年と1997年には見られなかったが、1998年に11件に上った。

出所:韓国労働研究院『KLI労働統計1999年』

その一方、1998年の経済危機を機に、雇用の保障を条件に賃金凍結や賃金削減に合意する動きが急速に広がるなか、賃金や解雇をめぐる労使紛争は逆に増え、労使紛争への参加者数と労働損失日数も急速に膨らんだ。

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1998年の労働災害状況をみると、稼働率が急激に落ち込み、有害・危険を伴う作業に従事する時間が減ったこともあって、被災害者数、死亡者数、災害率等の減少幅は大きい。にもかかわらず、死亡災害の割合は1997年の4.1%から1998年には4.3%に上昇し、3カ月以上の療養を要する重度災害の割合も1997年の42.0%から50.2%に上がった。その他、経済的損失額は減少に転じたものの、その減少幅は災害率のそれに比べてかなり小さい。

労働災害補償保険法は事業の危険率、規模及び場所等を勘案して大統領令で定める事業(任意適用事業)を除いた、5人以上の全ての事業所(強制適用事業)に適用される。

1994年12月22日の労働災害補償保険法改正で、労災保険事業は勤労福祉公社体制から勤労福祉公団体制へと民営化された。労働大臣は勤労福祉公団に労災保険事業を委託するとともに、必要な財源を確保するために労働災害補償保険基金(特別会計の代わり)を設置することになった。

労働災害の推移 (カッコ内は増減率)
  1996年 1997年 1998年
被災害者数 71,548人 66,770人(-6.7%) 51,514人(-22.9%)
災害率 0.88% 0.81%(-6.7%) 0.68%(-16.1%)
死亡者数 2,670人 2,742人(-2.7%) 2,212人(-19.3%)
死亡率(1万人当り) 3.27人 3.33人(-1.8%) 2.82人(-12.3%)
損失額 67,767億ウォン 77,802億ウォン(-14.8%) 72,553億ウォン(-6.8%)
労働損失日数(延べ) 46,729日 41,511日(-11.2%)

出所:韓国経総『労働経済年鑑1998』

労働部『1998年産業災害統計分析』1999年3月19日付報道資料

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