報告3:人材活用上の誤解と課題─雇用区分の再編を
JILPT研究フォーラム2007 「労働市場の構造変化と多様な働き方への対応」
第26回労働政策フォーラム (2007年9月7日)

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報告(3) 人材活用上の誤解と課題─雇用区分の再編を

東京大学教授 佐藤博樹 氏

佐藤博樹氏(写真)

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来年4月に改正パート労働法が施行される。企業の関心は相当高い。特に今回の改正ではパートと正社員との処遇の均衡が盛り込まれたことによる。過去10年を振り返ると、さまざまな労働にかかわる法律が改正され、人事部門はそれに合わせて就業規則や人材活用の運用を変えることに追われてきた。しかし、法律を遵守するだけでは人材活用は十分とはいえない。

法遵守は当然大切なことだが、必要最低限の取り組みだ。人事の目的は、法遵守に加えて人材活用の基本原則をきちんと実現することにある。つまり、企業が事業活動を展開する上で、必要な能力をもった人材を確保、育成し、その人に意欲的に働いてもらうことである。

今回改正されるパート労働法を例に挙げると、パート社員から、なぜ自分にはボーナスがないなど労働条件について説明を求められた場合に、企業は説明することが必要となった。説明責任である。説明責任があることから、企業はおのずと処遇制度を合理的なものに整備していくことになるだろう。

パート労働法は短時間勤務の人に適用されるので、フルタイムの有期契約社員から、処遇制度について説明を求められても、法律上は説明義務はない。しかし、パート社員に説明してフルタイムの契約社員に説明しないというのは、人材活用の観点からは問題となろう。すべての社員に納得して働いてもらうということが、人材活用の上では非常に大事な点である。

シンポジウムのタイトルに正社員、非正社員という用語があるが、法律のどこを探してもそうした言葉は見つからない。また、企業の就業規則も「正社員就業規則」ではなく、「社員就業規則」とか「職員就業規則」になっているのが通常だろう。

では、正社員とは何か。一般的に、雇用契約期間が無期のものと定義することが多い。しかしパート社員でも有期契約ではない人がたくさんいる。非正社員といわれる人の2~3割は、雇用期間の定めがないことから、雇用契約期間に定めがない人を正社員と定義するとおかしなことになる。

企業が社員や職員をどのように捉えているかというと、いわゆる正社員を「無限定社員」、非正社員を「限定社員」と言い替えたほうが、企業における雇用区分の実態に合っていると思う。「無限定社員」は、雇用期間を限定しておらず、定年まで雇用するだけでなく、活用する仕事も限定せず、事業所が複数あれば勤務地も限定しない。労働時間についても所定労働時間はあるが、必要に応じて残業もする。このように、雇用期間・働く場所・仕事内容・労働時間を限定せず働く人たちのことを、社員や職員と呼んできたのではないだろうか。

一方、非正社員である「限定社員」は、雇用契約期間や勤務地や従事する仕事や働く時間のいずれか一つ以上が限定されているものである。多くの企業において、パート社員は特定の事業所で1日6時間で決まった仕事をするという形で限定的に雇用される者が多い。このように、企業が正社員と非正社員に求める働き方を区別してきたことは、それなりに合理的だったと言えるが、いま、今、その見直しを迫られている。

なぜかといえば、従来の正社員の働き方が「限定化」されてきているからだ。例えば、転勤がない勤務地限定の正社員や職種限定社員、さらには一定期間残業しないとか短時間勤務になる正社員も出てきている。このように、正社員でも限定的な働き方を選択できる仕組みを企業がつくりはじめている。他方、非正社員の中で「無限定化」の動きがある。残業したり店舗間を異動したりするパート社員など、今までより広範囲な仕事をする非正社員も増えている。こうした結果として、従来の正社員と非正社員の働き方が重なってきたことで、雇用区分の再編の必要性が生じてきた。

雇用区分の再編については、「先に区分ありき」ではなく、業務に必要な能力やその育成方法に応じて、異動を経験しながら長期的に育成する人、特定の仕事をしてもらうため短期間で育成する人などを再整理して、雇用区分を設計すべきだろう。したがって、雇用契約期間は事後的に決まることになる。

もう一つ、大久保所長が言われたように、人材活用は人事部門だけが担っているわけではない。必要な人材を確保し、育成し、意欲的に働いてもらうことが企業の人材活用であるならば、人事部門が関わっているのは多くてせいぜい2割で、残りは部下を持つ現場の管理職が担当している。そういう意味では、人材活用の成否は現場のマネージャーにかかっているともいえる。

従来から現場管理職の人材活用能力は重要であったが、従来の方法が通用しなくなっている。とくに派遣社員の場合、人事管理の半分は派遣会社が担っている。将来のキャリアをどうするか、処遇についても派遣会社が決めることだ。派遣社員を活用する企業は、人事管理の半分だけしか担えない条件の下で、派遣社員に意欲的に働いてもらう必要がある。派遣社員の人事管理の難しさと言えよう。



第1部 シンポジウム INDEX
  page1 基調報告 「正社員・非正社員の雇用区分を越えて」
  page2 報告(1) 「これからの人材マネジメントの課題」
  page3 報告(2) 「「多様な働き方」への道筋」
(現在表示ページ) page4 報告(3) 「人材活用上の誤解と課題─雇用区分を越えて」
  page5 パネルディスカッション 「正社員・非正社員の雇用区分を越えて」

第2部 分科会へ (page 6 - 13)