パネルディスカッション:正社員・非正社員の雇用区分を越えて
JILPT研究フォーラム2007 「労働市場の構造変化と多様な働き方への対応」
第26回労働政策フォーラム(2007年9月7日)

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パネルディスカッション 正社員・非正社員の雇用区分を越えて

出席者(写真)

佐藤 いくつかのテーマを取り上げて、議論を深めたい。

第1は、シンポジウムのタイトルにもある従来の正社員・非正社員の区分についてで、ある時期までは合理的だったが、両者の重なり合いが増えており、他方で処遇については従来の二元的な区分が存続している。これをどうするのか。

第2は、正社員の働き方の多様化をどう進めるか。

第3は、現場のマネージャーはプレーイングマネージャー化していて、忙しいだけでなく、従来、自分が学んできた方法では人材活用の変化に対処できなくなっている。ここをどうするのか。

第4は、派遣社員などいわゆる外部人材の活用をどうすべきなのか。この4点について、議論したい。

処遇の二元化をどう解消するか

最初の点について若干触れると、一つの解決策は、人材活用を元に戻す。二元化してしまえばいい。もう一つは、処遇も変えていくことである。しかし、後者は難しい点がある。

たとえば非正社員の中でも正社員と同じような仕事をしている人、他方で、正社員でも非正社員と同じような仕事しかしていない人がいる。そうしたなかで、全体的に処遇を見直すことになると、一定のパイを前提にすれば、ある正社員は処遇が高いという問題がでてくるかもしれない。ここが非常に難しい。それを現場で合意しつつ改革しなければならないというハードルがある。

武石 佐藤先生が提起したように方法は2つあるが、元に戻ることは、できないと思う。働き方が多様化したのには、それなりの合理性があったはずなので、その合理性を捨てて戻る会社は少ないだろう。やはり処遇の仕組みを働き方に見合った形で見直す方向に進めなければならない。

そのときの問題は、賃金などの処遇面もあるが、人材育成やキャリアをどう考えるかは重要だ。正社員は通常定年まで働くことが予定されているので、企業はこれを前提に訓練投資をする。しかし、非正社員は有期なので、正社員並みに企業が投資するインセンティブはない。正社員並みの高い能力を持った非正社員に対していろいろな施策を導入する企業がでてきているが、逆に貢献度の低い正社員をどうするかという問題もある。正社員についても、処遇や人材育成は多様になり得ると考えている。

佐藤 非正社員で処遇が上がる人もいれば正社員で下がる人もでる。これをどう納得性を高めて進めるかは、大きな課題だ。ただし、正社員と非正社員の処遇均衡が進み、正社員の雇用と処遇の多元化も進めば、問題は自動的に解決するのだろうか。

武石 そうなると、正社員と非正社員を分ける意味がなくなる。育児・介護などの必要性から一時的な短時間正社員になるのではなく、入社から定年までずっと短時間正社員という区分ができた場合に、フルタイムと短時間の正社員とでは一体何が違うのかということになる。育成の考え方も変わってくると思うが、処遇が多様化し、正社員も多様化していくと、正社員と非正社員に分ける理由は何かということにもなる。

正社員の多様化をどう進めるか

小倉主任研究員

小倉 労働条件も一般的にそうだが、福利厚生、能力開発、昇進・昇格等も含めた区分が多元化しているのに処遇が多元化していない。そこにギャップが生まれているので、多元化した雇用区分に合わせた処遇をしていくしかない。もう元に戻れないとしたら、ギャップがあるところを埋めていくしかない。

そうなると、均等・均衡処遇を進める際に、正社員の既得権をどうするかが問題になるだろう。パイが拡大していけば、その相対的な配分を既得権の大きい正社員からそうじゃない人たちに分けられるが、パイが同じならば、正社員の既得権はその分、下がる。そこを正社員中心の企業別組合で、どこまで議論できるのか。こうした分配が、次の課題になると思われる。

また短時間正社員の現状は、短時間に力点はなくて正社員に力点がある。つまり、正社員に事情があって一定期間、短時間になっているのであって、(1日6時間・週4日働くというような)短時間正社員よりも長く働いているパートはたくさんいる。しかし、処遇の格差はそこに追いついてない。それを壊していくと、影響は正社員にも及ばざるを得ず、そこが大きな課題だと思う。

佐藤 大久保所長は、正社員も多様化、多元化して処遇も均衡がとれた場合には、人材育成の方法やあり方をどのように変えていく必要があると考えているか。

大久保 非正社員が増えてきたことで、人材育成は根本的に考え直さなければならなくなっている。とはいえ正社員の人材育成は、じつは、これまでそれほど計画的に行われてきたとは思ってない。新入社員を職場になじませるまでの教育研修は、わりと体系的になっている。しかし、それ以降は階層別研修が若干ある程度で、一般的には計画のないOJTが中心となり、それほど体系化されてこなかった。そこに多数の非正規社員が入ってきた。

では、一体どうすればいいかという問題に直面しているわけだが、方向性の一つとしてはっきりしている軸は、OJTをどうやって計画的、システム的、科学的に実施していくかということではないか。これ抜きには非正社員の戦力化を進めることはできない。しかし、そのOJTを従来型の組織長であるマネージャーに全部任せてしまってはだめだ。専門の人にトレーニングのサポートをしてもらう体制をとらないと、うまくいかないだろう。

正社員と非正社員が働いている組織を見ると、2つのパターンに分かれている。パートと正社員の職務の切り分けが明確な職場がある一方、意図的に重なる部分をつくっている職場がある。多様な人たちを活用する合理的なアイデアの一つは、雇用形態別に職務を切り分けることだろう。しかし、敢えて2つの職務が少し重なる部分をつくっておくと、じつは登用促進にもつながる。正社員と非正社員が共存する組織をうまく回していくためには、正社員登用の適切な仕組みを運用することが大切だと考えており、そのためには、職務は少し重なっていた方がいい。どちらの職務設計のスタイルをとるかがもう一つの重要なポイントだと思っている。

佐藤教授

佐藤 新しく雇用区分を設計することは重要だが、他方で、雇用区分間の移動も必要になる。特定の雇用区分から他の雇用区分へ移動できないのでは困る。正社員の雇用区分間の移動の仕組みを導入している企業はあるが、さらに非正社員と正社員を含めてすべての雇用区分が再編され、かつその雇用区分間で移動できるようにすることも大事だと思う。

ある程度、分けながら同時に重なりをつくっておくことが、能力開発やキャリア展開のモチベーションにつながる。他方、重なっていても移動できず、処遇も上がらなければ問題になってくる。この雇用区分の設計や雇用区分間の転換について、武石先生はどうお考えになるか。

武石 正社員転換制度について、企業のヒアリングをしたことがあるが、企業にとってのメリットは、採用チャネルが増えるので、学卒とは明らかに違うタイプの人材を採用できる点にある。ある小売業では転換制度によって、「販売が天職」のような人が採用できたという。企業にとってもメリットがあるということをきちんと伝えていく必要があるのではないか。

それと大久保所長の話にあったように、非正社員の育成が上手なマネージャーの下にいると正社員になれるが、そうではないとうまく使われるだけになってしまう。やはり現場のマネージャーは大事な役割を担っている。

OJTも重要だと思うが、短時間正社員になると働く時間が短いので、フルタイムに比べると、仕事を覚える経験が少なくなってしまう。その少ない分をキャッチアップできるようなポジティブアクションを考えていくなど、別のチャンスを与えるような仕組みも必要になるのではないか。

佐藤 企業にヒアリング調査すると、正社員転換制度は有効だという。しかし、難しいのは、現場管理者からすると、この人は優秀だから正社員に転換してほしいと人事部門に頼んでも、人事部門はその人が優秀なだけじゃなく、転換後も中長期的なキャリアを担えるかどうかを見て判断する。その辺りが、運用上、難しい点だ。計量分析では、正社員転換制度があっても(従業員の)満足度が低くなったという結果があるようだが。

小倉 佐藤・武石両先生のお話を聞いて、調査の中に現場管理職の対応が分かるような変数があればもう少し違う結果になったかもしれない。転換制度をどう有効活用するかは、計量的には図れないレベルの話なのではないかという気もする。

現場マネージャーの課題

佐藤 もう一つ大事なのは、多様な人材が意欲的に働けるように、彼らをうまく人材育成していくマネジメントを現場のマネージャーができるかどうかということだ。同時に、現場マネージャーは業績や生産性をあげ、数値を達成しなければならない。これを両方やるのは難しく、短期的にはマイナスになることもありうる。プレーイングマネージャーは問題だという指摘もあったが、仕組みとして新しいマネジメントができるマネージャーをどう育てるのか。

大久保 今のマネージャーの人たちは、非正社員が入ってきたことによって、より本質的なマネジメントを求められるようになった。佐藤先生が先ほどきちんと説明しなければならないと指摘していたが、それは正社員に対してもいえる。だからマネジメントに携わる人間は、人事制度、その背景にある労働関係の法律に関しても本質的な理解があり、相手に通じる言葉できちんと説明できる能力が必要だ。これは、避けて通れない能力開発だと思う。

パネルディスカッション風景

一方で、何でもかんでも現場のマネージャーに投げる傾向がある。民間企業の組織も結構縦割りになっており、法務、人事、経理から現場のマネージャーに仕事が降りかかっている。これでは破綻してしまう。プレーイングマネージャーは会社組織にとっては便利だが、うまくいくわけがない。もう少しミドルマネージャーの職務を分化する。例えば、マネジメントとプロフェッショナルプレーヤーを分けることもあるし、人材育成に特化して、トレーナー型のマネージャーを事業部門ごとに配置する役割分担も必要かもしれない。

佐藤 課長クラスのラインマネージャーは何をやるべきなのか。例えば営業なら売り上げの数値目標などがある。どうやって達成するのかというと、もちろん、部下と相談しながら営業計画を立てるわけで、そのあとやるべき仕事を部下に割り振る。部下の中には、Aさんは能力があるが、Bさんは能力不足、Cさんは配置に不満があり異動を希望している、というようにいろんな人がいても、与えられた仕事を部下が気持ちよくこなせる環境をつくり、課せられた数値を達成するのが、マネジメントの本来の姿だろう。そういう意味では、管理職の仕事の成果は部下の働きに依存する。だからこそ、部下の育成が重要なのだが、今の管理職は非常に忙しくかつプレーイングマネージャー化して、自分で仕事を抱え込んでしまう。その結果、部下が育たない。仕事を任せなければ育たないが、任せて教えるよりも自分がやった方が早い。ここを変えていかなければはならない。

武石 今までは、仕事のできる人がマネージャーになってきたと思う。以前は、頑張れと言えば頑張ってくれる正社員ばかりだったので、マネジメントスキルはあまり必要なかったかもしれない。したがって、仕事ができることと、マネジメントできる能力が一致しないことがあっても問題は大きくなかったのかもしれない。しかし、職場が多様化・多元化するとマネージャーの専門性とは何かを考える必要がでてきた。サラリーマンにとってマネージャーになることが一つの目標だったが、これからはそうではなく、仕事で成功しても部下は持たないというモデルがあってもいい。マネージャーとはどういう人たちなのかを考える時期ではないか。

小倉 突き詰めると非常に難しい問題だ。例えば、法律・制度を知っているとか、あるいはプレーヤーとしての経験から何かを伝えることができる人はかなりいる。しかし、非正社員が多数入ってきて雇用区分が多元化した中で、いろいろなバックグラウンドを持ち、属性の違う人たちに対して、あなたの仕事はこうだよと、「相手の言葉」で言えるかというと、非常に難しい。

派遣など外部雇用の活用と課題

佐藤 非正規といっても直接雇用関係がない派遣社員なども増えてきている。そこも新しいマネジメントが求められる。

大久保所長

大久保 派遣社員については、バブル崩壊以降、人事が新規採用や退職者の補充を抑制するなか、人手不足で回らなくなった現場でその活用が進んできた。しかし、最近は人事が派遣社員の雇用管理にコミットするように変わってきている。一つは、派遣に切り替えても決してコストダウンにならない。人事管理の全体のコスト適正化を図るためには、派遣社員も視野に入れないと人事の職務が果たせなくなってきたためだ。

もう一つの理由は、派遣社員とその仕事の指揮・命令を担当する人の間でトラブルが絶えないことがある。それは、どうモチベートするかといったレベルではなく、根本的なところでトラブルが起こっている。こうしたトラブルを防ぐためには、派遣社員を使う人にもう少しノウハウを提供した方がいい。

日本とほかの国における派遣労働を比較すると、大きな違いがある。日本の場合、派遣期間が長い。他国の方が短期的で、スポット的な業務を任せている。日本の場合、派遣社員として長く働きたいという人もいるので、海外とは随分、性格が違う。そうすると、その人たちのキャリアをどうするのか。貢献に応じて時給をアップするのか、あるいは役割をどうするのかということなど、もう少し考える余地がある。

佐藤 雇用区分の再編といったときに大事なのは、直接雇用している人だけではなく、派遣社員なども含めてどう再編成するかということ。コストの面でも、確かに総額人件費は減ったが、派遣社員などの物件費が増えており、それを含めたら人にかかわるコストがあまり変わらないという会社は結構多い。

武石 派遣で長く働く人も多いが、パートでも勤続20年といった人も珍しくない。それはやはり、正社員のコストの問題がある。正社員のコストは、企業にとってのコストと、働く人にとっても正社員になることのリスクがあって、正社員への転換制度が機能しないのはこの問題も絡んでいる。正規・非正規の間の働き方がグラデーション化していると言いながら、正社員の働き方が長時間労働化するなかで、非正社員から正社員に転換するハードルが高くなっていると感じる。

雇用保障の均衡・均等へ

佐藤 正社員と非正社員の二元的な区分が過去のものとなり、両者の活用が重なる場面が増えているなか、先進的な企業では、人材活用に合わせて処遇も多元化してきている。しかし、こうした企業でも、これからの課題は何かというと、今度は、雇用継続期間(雇用保障)の均衡・均等の問題になってくる。正社員・非正社員という区分をやめて、人材活用の実態に即して処遇をそろえる企業がでてきているが、雇用契約についてみると、従来の非正社員は有期のまま。雇用契約については均衡・均等になっていない。なぜ企業が、有期契約の更新を続けているのか、これは大きな問題だと思う。

雇ったばかりのときは、その人の能力がわからないので、半年か一年契約がありうるが、その後は、ほぼ自動更新になっている。長く働いて実力のあるパートにやめられたら困る企業は少なくないのに、なぜ有期契約のままなのか、きちんと議論する必要がある。

そのときの大事なポイントは、パートは勤務地や職種を限定して雇用しているという点だ。こうしたパートの人たちを無期契約にできるだろうか。無期契約にしたらどういう問題が起きる可能性があるか、じつはその部分が有期で更新せざるを得ない理由と結びついている。そこを解明しないと、雇用保障の均衡・均等が実現しないだろう。そういう意味では、雇用保障も多元化が不可欠となろう。

大久保 店舗などの現場で働く非正規社員を地域限定正社員にする動きが、幾つかの企業で見られる。地域限定というのは、正社員として期限を定めず雇用を保障する一方で、少し賃金水準の低い正社員としての枠をつくるという発想だ。当然ながら、ベースの給料を上げ、雇用を保障することになるので、企業としてはコストアップにつながる。ただ、離職されて新しい人を求人・採用し、教育するコストまで含めて考えると、地域限定正社員は相当合理的な制度ではないかと思う。短期的にはコストアップするが、コスト増の要因を吸収する余裕があれば多くの企業にとって、合理的な選択肢になるだろう。正社員・非正社員に二極化するなか、その中間的な形態が検討されて、導入されていくと予測している。

フランスでも、日本と同じように、正社員・非正社員の二極化問題が大きく、中間的な働き方を開発したらどうかということで、試用期間をつくり、その間は自由に解雇できるが、その後は正社員化するという議論がある。周知のとおり暴動が発生したこともあり、なかなかまとまっていないが、日本でもフランスと同じような議論が成立し得る。最終的には、どんな形で雇用契約の全体的な設計をするかという本質的な問題に立ち返るのではないか。労働契約の問題をどう整理するかという大きな問題が残っていて、そこまでいかないと最終的な解決にはならない。

武石教授

武石 議論を通じて、正社員のスタンダードな働き方とは何かということを考えた。残業が際限なく、転勤があるのが正社員のスタンダードでいいのかという気がする。短時間正社員というと、スタンダードから外れた正社員という印象を受けるが、正社員のスタンダードとは、フルタイムで働いて、基本的には定時で帰り、会社の都合で頻繁に転勤することもないという働き方ではないか。もう少し正社員のスタンダードを変えていかないと正社員の多様な働き方の実現は難しいのではないかと感じた。

雇用保障の均衡については、今の非正社員は、雇用も不安定で賃金も安くてキャリアも形成できないという、「ないないづくし」のイメージだが、あるコンサルタント会社では、かなり高度な専門職の中に、正社員のコンサルタントと有期雇用のコンサルタントがいて、雇用保障がないコンサルタントは、その分賃金を高く設定しているケースがある。能力が高い人は、ある程度の安定を犠牲にしても、高い賃金を得ようということで、有期にシフトする人も多いという。こうした安定と賃金のトレードオフの関係が、今まで発想としてなく、非正社員は不安定だし賃金も低いというイメージが定着している。しかし、こうした条件の組み合わせの中でいろいろな働き方が出てくる可能性がある。

最後に、個別的な労働条件とか働き方の決定に当たっては、労働組合の役割が非常に重要だと思う。これまで集団として一定の労働条件を勝ち取るというのが、組合運動の大きな方向性だったが、いろいろな人が組織の中にいるときに、それを組合としてどう支えていくのか。その新たな方向性も問われているということを問題提起として申し上げたい。

佐藤 本日のテーマには答えというものがあるわけではない。議論で提起された課題の解決策も一様ではないだろう。しかし、この問題に向き合い、取り組んで解決していかないと、企業は有効な人材活用ができないし、働く人たちにとっても安心できる、そして将来のキャリアが見通せる仕組みをつくることもできない。この非常に大事なテーマをこれからも皆さんと一緒に考えていきたいと思う。

(了)



第1部 シンポジウム INDEX
  page1 基調報告 「正社員・非正社員の雇用区分を越えて」
  page2 報告(1) 「これからの人材マネジメントの課題」
  page3 報告(2) 「「多様な働き方」への道筋」
  page4 報告(3) 「人材活用上の誤解と課題─雇用区分を越えて」
(現在表示ページ) page5 パネルディスカッション 「正社員・非正社員の雇用区分を越えて」

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