労働政策研究報告書 No.199
大都市の若者の就業行動と意識の分化
―「第4回 若者のワークスタイル調査」から―

平成29年10月20日

概要

研究の目的

本報告書の目的は、若者の移行過程や就業意識がこの15年間どのように変化したのかについて、4回の「若者のワークスタイル調査」から明らかにすることである。

第1回の「若者のワークスタイル調査」は、90年代後半以降に生じた若者の移行やキャリアの不安定化、とりわけ「フリーター」と呼ばれる若者が増加する中で、若者の就業行動の変化や意識を捉えることを目的に実施した。その後5年ごとに調査を実施し、本報告書は「第4回 若者のワークスタイル調査」を過去の調査との比較を軸に整理したものである。

研究の方法

住民基本台帳に基づく無作為抽出法により、東京都の若者(25歳から34歳)8,000人を抽出し、2016年8月から10月まで郵送にて調査を依頼、WEBやスマートフォンでも回答が可能なように設計した。調査票での回収が2,440名、Webの回収が552名、合計2,992件を回収した(回収率は37.4%)。

主な事実発見

この15年間の若年者雇用は長い不況、いざなぎ超え、リーマンショック等の景気変動を経験してきた。他方で全国的にこの15年間は急激な高学歴が進行した時期であったが、特に東京都の高学歴化は著しいものであった。

  1. この15年間を通じて全体として若年者雇用は改善の方向にあるが、改善の程度は属性によってかなり異なっている。男性については全体として現職正社員の割合が増加しているが、「非典型一貫」「正社員から非典型」は大学・大学院卒男性で特に減少したため、高卒者との格差が大きくなった。高卒女性の場合、2006年以降は「非典型一貫」が最も多くを占めている。他方で大学・大学院卒女性は「正社員から非典型」「非典型一貫」は半減したため、男性よりもさらに学歴による正社員割合の格差が拡大した。以上からこの15年間学歴間の格差は拡大したが、特に女性において顕著であった。

    図表1 性・年齢段階・学齢別 職業キャリア構成の経年変化(25~29歳・高卒大卒等のみ図示)

    図表1画像

  2. 第1回調査(2001年)と第4回調査(2016年)における20代後半層の新卒就職後の離職者の離職理由を比較した。男性の場合、第1回調査においては「仕事が自分に合わない、つまらない」が1位だったが第4回調査では4位に後退し、「労働時間(残業を含む)が長い」が1位となった。女性の場合にも、第1回調査では「健康上、家庭の事情・結婚・出産」が1位、「仕事が自分に合わない、つまらない」が2位であったが、第4回調査では「労働時間(残業を含む)が長い」「健康上、家庭の事情・結婚・出産」が1位となった。
  3. 2001年から2016年の若者の職業意識の変化を「フリーター共感」「能力向上志向」「栄達志向」「仕事離れ・迷い」を軸に検討した。この15年間「フリーター共感志向」はフリーター経験の有無にかかわらず低下した。また若者の仕事上の「強み」を尋ねたところ「スキル・資格」が多くを占めた。
  4. 2001年にはフリーターの4割を高卒者が占めていたが、2016年には大卒者が4割を占めるようになった。またフリーターになった理由やきっかけについては、「夢追及型」「モラトリアム型」「やむを得ず型」の3類型から把握してきたが、高学歴化に伴って3類型では十分に捉えられないと考えられたため、「ステップアップ型」(つきたい仕事のための勉強や準備、修行期間としてフリーターになったと回答した者)を加えた4類型から把握することを試みた。各類型内における大卒以上の者の比率を比較したところ、「ステップアップ型」は高学歴者が最も多くを占めていた。さらに直近の第3回調査(2011年)にも遡って比較したところ、「ステップアップ型」が漸増していることが明らかになった(図表2)。

    図表2 フリーター4類型の分布

    図表2画像

  5. またフリーターから正社員への離脱についてはあまり改善しておらず、特に男女間の格差が開いていた。新卒者の就職は全体として改善しており、不況期に比べて正社員への離脱が容易な者が占める比率が低下しているため、離脱があまり改善していないものと推測される。

  6. 東京都を都心区・都心周辺区・周辺区・多摩地域に分類し、地域区分による働き方や意識について検討したところ、地域区分によって大きな違いが見られた。意識面では都心区では独立志向や有名志向が高く、多摩地域では長期勤続志向が高かった。また正社員比率は都心区や周辺区で高く、大卒・大学院比率も都心区の男性で8割を超えていた。

政策的インプリケーション

  1. 若年者の雇用がきわめてよい状況においても、離学時の状況がキャリアに与える影響は大きい。学校やハローワークが把握できていない若者層に対する働きかけは一層重要である。
  2. 若い時期からの学び直しについては、特に「非典型から正社員」の若者層におけるニーズが高く、一層の拡充が求められる。
  3. 東京都内においても若者の意識や就業行動には差異が見られることから、労働行政においてはよりきめ細かな対応が効果的である。
  4. 若年女性のキャリアの急激な変化について、キャリア教育においても知識として伝えていくことが有効である。
  5. 「フリーター」の高学歴化に伴い、若い時期から正社員になることが難しいタイプの仕事を目指す「フリーター」が含まれるようになった。彼ら彼女らの不安定な時期を職業能力形成からサポートするような支援が求められる。

政策への貢献

若年者雇用の理解に資する。

本文

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※本報告書の図表で使用されている「N」はサンプルサイズの「n」を意味しております。

研究の区分

プロジェクト研究「多様なニーズに対応した職業能力開発に関する研究」
サブテーマ「若者の職業への円滑な移行とキャリア形成に関する研究」

研究期間

平成27年度~平成29年度

執筆担当者

堀 有喜衣
労働政策研究・研修機構 主任研究員
谷 謙二
埼玉大学教育学部 准教授
小杉 礼子
労働政策研究・研修機構 特任フェロー
小黒 恵
労働政策研究・研修機構 研究助手

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