序文:諸外国における外国人材受入制度 ―非高度人材の位置づけ
―イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、韓国、台湾、シンガポール

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JILPT 調査部部長 天瀬 光二

本稿は、JILPTが今年9月14日に公表した資料シリーズNo.207『諸外国における外国人材受入制度 ―非高度人材の位置づけ ―イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、韓国、台湾、シンガポール』の序章部分を一部加筆修正して転載するもの。

はじめに

外国人を労働力として受け入れる場合、大別すると、高度人材の受け入れと非高度人材の受け入れという2種類の受け入れ方がある。ただし、一口に高度人材と言っても、例えばA国においては主に高い知識を持つ人材を指す一方で、B国においては優れた技術を持つ人材を指すなど、その中身は受け入れ国の労働市場の構造によって異なる。また、その基準についても、例えばA国では一定の教育レベル以上の者を高度人材と呼び、B国では一定の報酬額以上を得る者を高度人材と呼ぶように、国によって様々である。よって、A国とB国の高度人材受入制度を比較する前提として、その人材の種類またはレベルが必ずしも一致するものではないことを認識しておかねばならない。

このことは同様に非高度人材にも当てはまる。A国とB国における高度人材が異なるということはまた、高度人材と非高度人材を分ける境界ラインが異なるということも意味する。さらに複雑なのは、この両者を隔てる境界ラインは、同じ国の中においてさえ、時として上下することがある。労働市場における外国人材のニーズが時代によって異なるからだ。すなわち、受け入れた外国人材を高度人材と称するか、非高度人材と称するかは、基本的にはその国の判断に委ねられているわけである。これらのことは、外国人材受入制度の国際比較が容易ではないことを示している。

本稿においては、以上の前提に留意した上で、労働市場における非高度人材(非熟練労働者)(注1)の位置付けに注目しつつ、7カ国の外国人材受入制度を比較した。比較対象としてとりあげたのは、外国人材の受け入れについて長い歴史を持つ欧州主要国のイギリス・ドイツ・フランスのほか、経済成長とともに人の移動が顕著に拡大しているアジア諸国の、実質的な非熟練労働力受入制度である雇用許可制を導入した韓国、小規模ながらユニークな受入制度を展開する台湾・シンガポールである。また、制度が大きく異なるため比較には適さないが、移民国家として施策が注目されるアメリカの状況については各論にとりあげた。

本稿では、非高度人材労働市場の全体像を把握するため、まず1)外国人材受入制度における非高度人材の位置付けを考察した上で、2)非高度人材とは誰か、3)非高度人材受入スキームの時間(受入期間)及び4)非高度人材受入スキームの規模(枠・人数)について横断的に比較考察し、5)最後に若干のまとめをしたい。

1 非高度人材はどう位置づけられているか

非高度人材を受け入れるスキームは、外国人労働者受入制度の中でどのような位置付けにあるのだろうか。これを明らかにするには、各国の制度の内容に踏み込み、それぞれの国における非高度人材受入スキームを比較してみなくてはならない。

  1. イギリス
  2. ドイツ
  3. フランス
  4. 韓国
  5. 台湾
  6. シンガポール

以上、非高度人材受入スキームの位置付けについて各国別に概観した。しかし冒頭でも触れたように、各国の制度は多様であり、枠組の上の比較だけでは制度の実像にアプローチすることは難しい。そこで非高度人材受入スキームをより深く理解するため、各国制度を横断し、次の3つの視点で比較検討してみたい。第1の視点は、そのスキームで受け入れている非高度人材とは一体誰なのか(彼らがどこから来て、何をする人なのか)、第2の視点は、非高度人材受入スキームの時間(受入期間)について、そして第3の視点は、非高度人材受入スキームの規模(枠・人数)についてである。

2 非高度人材とは誰か

各国の制度を比較するための第1の重要な視点は、受け入れている非高度人材とは一体誰なのか(彼らがどこから来て、何をする人なのか)である。彼らがどこから来たかについては、欧州主要国に共通して言えることがある。欧州主要国においては、1950年代~1970年代前半にかけてが大規模な移動の時期に当たる。わが国の高度経済成長期に当たるこの時期は、欧州主要国においても第二次世界大戦後の混乱が収束し、各国とも力強い経済成長を遂げようとしていた。経済成長を背景とした旺盛な労働需要に支えられ、多くの労働者が欧州主要国を目指した。彼らはおしなべて特別な技能を持たない製造業や建設業に従事する非熟練労働者であった。イギリスはかつて大英帝国に属していた国々から労働者を積極的に受け入れ、フランスはスペインやポルトガル、マグレブ諸国などから大量の労働者を受け入れた。ドイツは、二国間協定によりイタリア、スペイン、ポルトガル、ユーゴスラビアなどから、さらにトルコからは1960年代末に年間100万人規模の労働者を流入させた。見落とされがちであるが、今日われわれが目にする欧州都市の繁栄は、これら外国人労働者の貢献に負うところが少なくない。

このようにして受け入れられた労働者であったが、1970年代初めのオイルショックを引き金とする景気後退の影響から、どの国もこうした受け入れを一斉に停止することになる。移民としてではなく、一時的な滞在者として受け入れられていた労働者らは、労働契約の打ち切りと同時に帰国を余儀なくされた筈だった。しかし現実は必ずしもシナリオ通りに運ばなかった。受け入れられていた労働者らは、それぞれの国ですでに生活の基盤を築いており、帰国しないまま一部が滞留したのである。その中には多くの不法滞在者も含まれていた。そして滞留した労働者らは家族を呼び寄せるなどしてその数を水面下で次第に増やしていった。

言うなれば彼らは、この時点ですでに帰国を前提とする「労働者」ではない。むしろ「移民」と呼ばれるべき存在であろう(注2)。彼らは1カ所に集住するようになりコミュニティを形成していった。これが2000年代以降各国で社会問題として認識されるところとなる。

受け入れが停止されて以降は、各国とも基本的には非熟練労働者の受け入れを抑制しつつ、例外的に二国間協定などで個別の協定を結んだ国からの受け入れにシフトしていたが、その後欧州における労働移動の地図は、中東欧諸国がEUに加盟した第5次拡大を境に大きく書き換えられることになる。すなわち、これまで域外から欧州主要国に流入していた労働者は、ポーランドやスロバキアなど新規加盟国(A8・A2)出身の労働者に順次置き換えられていった。これら新規加盟国からの労働者の市場参入については、国内労働市場への影響を最小限に抑えるとの趣旨から、当初段階的な移行措置(流入制限)が設けられた。しかし、その後それも全て終了し、EU諸国における加盟国間の労働力移動は、基本的に自由となっている。現在、欧州主要国において新規に非熟練労働者を受け入れるスキームは、一部の例外を除いて存在していない。つまり、EU第5次拡大以降、欧州における非熟練労働市場の主役は、域外労働者ではなく、中東欧諸国出身の域内労働者に移っていると言える。

他方、アジアにおける移動は、地理的な要因が大きいようだ。例えば韓国は、国境の外であるが韓国近辺に居住する同じ言語を持つ在外同胞を大きな供給源としているし、シンガポールはマレーシア、インドネシア、フィリピンといった近隣諸国からの受け入れが主である。また、アジアにおいてはかつて送り出し国であった国が受け入れ国に転じるなど、より多様化が進みつつある。

次に、彼らが何をする人かについてであるが、これは国によって異なるようだ。そもそも、非高度人材受け入れの動機が国によって異なるためであるが、基本的には、労働者が不足している業種(職種)、それも当該国の労働者が忌避するような業種(職種)が存在する場合、そこに外国人材を受け入れるという場合が多い。国内における不足労働力を補うことによって国際的な競争力を維持しようという方策である。しかし、こうした分野への外国人材の受け入れは他方で、古い産業構造の温存につながり、産業構造の転換を遅らせることから、産業近代化の阻害要因になるのではという指摘がある。構造自体が古くなっている産業については、市場競争の中で淘汰されるべきで、安易な保護をもって維持させない方がよいという考え方である。こうした両極の議論は、各界の利害を反映させる形で、国内の各ステークホルダー間においてなされるものであり、結果として採択されるスキームは各国各様のものとなる。結局、彼らが何をしているのかについては、各国の制度の中身を注意深く見るしかない。各国における制度上の工夫(例えば労働市場テストや外国人受入枠決定システムなど)や受け入れをめぐる議論については、資料シリーズNo.207の各国報告(第1章~第7章)において詳述してあるので参考にしていただきたい。

3 受入スキームの時間(受入期間)について

各国の制度を比較する第2の重要な視点は受入スキームの時間(受入期間)である。非高度人材受入スキームは、定住化を防ぐために、一定期間就労させた後に帰国させることを前提としたローテーション方式で行われることを特徴とする。すなわちこれは、体の良い建前を取り払って直截に言えば、使い捨てシステムのことである。既述の通り、このシステムはローテーションが守られていれば問題ないが、もし管理できなかった場合、不法滞在という形で滞留を招くリスクを内包する。つまり使い捨てるつもりが、それがリスクとなって跳ね返ってくることがあり得るということだ。では、ローテーションが守られる適切な時間(期間)というのはあるのだろうか。逆に、どの位の時間を経過すれば滞留のリスクが高まるのか。

欧州においては、非熟練労働市場の主役が移動制限のない中東欧労働者となっているので、もはや時間(期間)は関係ない。ただし、かつては域外労働者向けの非熟練スキームが存在したイギリスの例をまず見てみよう。

非高度人材労働市場が域内労働者に完全解放されるまでイギリスに存在したのは、業種別スキーム(SBS)と季節農業労働者受け入れスキーム(SAWS)の2種類。前者が主に農業労働者をウクライナ、ブルガリア、ロシア、ルーマニアなどから受け入れたのに対し、後者は食品加工(食肉・水産加工)労働者をバングラデシュ、パキスタン等から受け入れた。いずれも国内労働者が忌避するいわゆる3K職種である。期間については、SBSが1年以内と滞在を制限し、SAWSの方は1回の滞在につき最短で5週間、最長でも6カ月の制限をかけ、滞在期間終了後直ちに出国しなければならないとしていた。しかし、前出のCOMPAS(Center on Migration, Policy and Society) によれば、それでも不法に滞留してしまう例が後を絶たなかったという。結局この両スキームともEU第5次拡大を機に廃止されてしまった。

また、フランスが二国間協定で受け入れている季節労働者は、12カ月の滞在につき、6カ月を超えて滞在することはできない。虚偽の就労(当局への申告なしに季節労働者を雇用した場合)については、雇用主に対し、最高で3年間の禁固刑もしくは4万5000ユーロの罰金が科される。いずれもかなり厳しい制限をかけていることがわかる。

他方、アジアのスキームはどうだろうか。アジアにおいては欧州におけるような量的にも豊富で質的にも概して均一な供給源を持たないため、受け入れ対象国はバラエティーに富み、期間は長期化する傾向にある。

まず韓国であるが、一般雇用許可制については、当初基本滞在期間を3年としていたが、2009年の改正で1年10カ月の延長を可能とし、12年改正により、滞在期間4年10カ月(基本3年+延長1年10カ月)が終了後、3カ月出国後同一事業主が雇用許可申請をする場合において、さらに4年10カ月の滞在を可能とした。すなわち、最長で9年8カ月までの滞在が可能となっている。在外同胞の特例雇用許可制の方は、基本的な就労期間は3年(1年10カ月の延長可能)であるが、再入国に制限はかけていない。

台湾は、外国人労働者の導入を定めた1992年「就業サービス法」において、非熟練労働者の滞在期間を当初1年と定めていたが、98年の改正で2年を基本雇用期間として1年延長可の最長3年とし、次いで2002年の改正で最長6年に延長した。その後2007年改正で最長9年に、さらに2012年改正では最長12年にまで延長(基本雇用期間も2年から3年に延長)し、同時に基本雇用期間終了時に台湾から一時出国させる規定も廃止している。

また、シンガポールの労働許可は出身国により雇用期間を設定しているが、R1(上級技能)パスで22~26年、R2(基礎技能)パスでも14年とかなり長いことが特徴となっている。

以上の通り、アジアにおける非高度人材の受入期間は長期化する傾向にあると言える。問題はこうした長期において滞在した労働者が滞留してしまうのか否かであるが、ここで各国が最後の滞在期間の延長を決めた時期に着目して欲しい。韓国が最長9年8カ月としたのが2012年、台湾が最長12年としたのが同じく2012年、シンガポールの直近の改正が2018年、つまり現時点(2018年)において、まだ全体の評価の判断はできないのである。

4 受入スキームの規模(枠・人数)について

第3の視点は、受け入れの規模である。欧州においては、前述した通り、域内に移動制限はなく、従って各国毎の非高度人材の規模を正確に把握することは難しい。また一部域外向けの二国間スキームにおける受け入れ規模はどれも小さく、あまり参考にはならないだろう。

アジアはどうか。まず韓国であるが、一般雇用許可制の発行件数が27万9000件、特例雇用許可制が25万5000件(各2016年) であり、合わせると50万件を超える規模となっている。導入当初(2004年)は両方合わせても1万件に満たなかったことを考えると、かなりの伸びである。また、台湾の非熟練労働者は約68万人(2018年)。業種別に見ると、製造業が約41万人と大半を占め、介護業が約25万人と続く。経済危機後一時減少したが再び回復、やはり増加傾向にある。シンガポールは、労働許可枠の非高度人材が現在約100万人で、うち家事労働者は25万人(2017年)。増加の主な要因は建設分野における労働者の拡大がある。このように、アジアおける非高度人材の市場規模は、地域の活発な経済状況を反映し、基調としては拡大する傾向にあると言える。

このように拡大傾向にあるアジアの非高度人材受入スキームであるが、人数については、もちろんこれを無制限に受け入れているわけではない。では、受け入れの枠はどうやって決められているのだろうか。韓国の場合は、外国人労働者政策実務委員会(労働側代表、使用者側代表、公益代表、政府委員25名)が、経済状況や国内労働市場の状況、不法滞在者数などを勘案し、受け入れ割当数を調整している。台湾の受け入れは基本的に二国間協定によるので、個々の受け入れについては個別の協定で定められる。また総量については、政府(労働部)が調整する。シンガポールでは、Sパスと労働許可で雇用する企業に対し、外国人雇用上限率(DRC)が定めら、この率は全就業者に対する外国人労働者の割合で産業別に定められている。

小括

各国の労働市場において、非高度人材がどう位置付けられ、どのような実態にあるかを見てきた。欧州諸国の状況を見ると、域外からの非熟練労働者については、流入を極めて制限しながら、慎重な政策で一貫していることがわかる。これは、欧州主要国が、EU第5次拡大により域内に非熟練労働力の供給源を得たことももちろん大きいが、過去の政策により受け入れた労働者がそのまま滞留し、社会問題化していることと無関係ではない。

外国人労働者を自国の社会に受け入れるということは、労働条件の整備だけではなく、外国人にも対応した教育、医療、その他諸々の生活環境インフラを整えておく必要があることを意味する。これらインフラの必要性は、外国人労働者を受け入れた直後から発生するからだ。また、労働者が一定期間滞在すれば、社会保障との関わりも生じる。もし受け入れる外国人労働者の規模が大きいとすれば、自国の社会保障制度に組み込まれることを想定して、制度を再設計する必要性も生じるだろう。滞在する外国人労働者がその家族を呼び寄せた場合、合法、違法にかかわらず、本人だけでなくそうした家族のケアも必要となる。違法に呼び寄せた子供だからといって、教育を受けさせず放置するわけにはいかない。もしそれを無視すれば社会の潜在的なリスクとなる。外国人材の導入は、例えそれが帰国を前提とした期限付きの受け入れであったとしても、一部が滞留してしまうことを欧州主要国の経験は示している。

何故彼らは滞留してしまうのか。ローテーションシステムを完全にコントロールすれば彼らを問題なく帰国させることも可能ではないかとの疑問も生じよう。しかし、欧州の経緯を見る限り、この答えは否定的にならざるを得ない。これは、当然のことであるが、労働者が同時に生活者であることに起因する。たとえ一時的な就労スキームで受け入れた労働者であっても、彼らはスキームで括られる一群の塊ではなく個々の存在であり、労働者であると同時に人間としての生活者であり、生活者である以上、人生で起こり得る様々なエピソードが、その地で発生し得るということである(注3)。これらのことは、今日の欧州社会が社会統合政策(資料シリーズNo.207の各国報告(第1章~第7章)の社会統合政策を参照)にどれほどの国費を投じ、どれほどの努力を費やしているかを想起すれば容易に理解できよう。

他方、アジアに目を転じると、そこにはまた多様な人の移動が展開している。韓国は、実質的な非熟練労働力受入スキームである雇用許可制度を導入した。また台湾も二国間という形ではあるが、製造業を中心に非熟練労働力を受け入れている。シンガポールも多くの家事労働者を受け入れており、彼らは社会の中で不可欠な存在となっているようである。非高度人材の受け入れ期間については、長期化する傾向にあるが、どの国も欧州ほどの時間を経過していないため、滞留等のリスクを判断するには時期尚早だろう。また、受け入れ規模も拡大しつつあるが、受け入れの総量については枠を設定して調整するなど、各国とも工夫しながら制度を運用している様子が窺える。

しかし、これらの国の、スキームだけを取り出して比較・評価してみても実はあまり意味がない。A国で上手くいっていると評価されているスキームであっても、そのままB国に導入できる訳ではない。必要な視点は、これらの制度がその社会に適合的であるかどうかであるからだ。そして、国民の間に、コンセンサスが醸成されているかどうかが最も重要な点となる。

これらの国に共通するのは、どの国も経済成長を遂げるプロセスで高学歴化が進んだ学歴偏重社会であり、国民が非熟練職種を忌避する傾向が非常に強いことである。これは社会に内在する格差とも関係する。格差のない社会を目指すのか、格差があることも是認しつつ経済発展を目指すのか。こうした判断は、それぞれの国のそれぞれの国民において為されることである。

参考文献

2019年1月 フォーカス:諸外国における外国人材受入制度 ―非高度人材の位置づけ ―イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、韓国、台湾、シンガポール

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