諸外国における外国人材受入制度 ―非高度人材の位置づけ
―フランス

本フォーカスの記事一覧をみる

フランスでは、セネガル、チュニジア、コンゴなど旧植民地であるアフリカ諸国との間に二国間協定が結ばれ、農業をはじめとする季節労働者としての受け入れがなされている。これらの受け入れに関しては、個別に入国及び滞在に関する諸条件が定められており、例えば、季節労働者には、フランス国外を主たる居住地とすることが求められ、1年につき半年を超えてフランスに滞在することはできない(注1)。フランスは、上記以外の非熟練労働者受入スキームを設けておらず、域外からの非熟練労働者受入に関しては抑制する方針を堅持している。

図表
区分 レベル 業種(職種) スキーム
高度熟練の労働者 高度・専門 専門分野あるいは科学分野の修士。3カ月以上の雇用契約の締結、年間給与総額は、3万5,963.20ユーロ以上。 滞在有効期間は雇用契約期間と同じ(最大4年まで)。
革新的企業の従業員 企業の研究開発プロジェクトに直接関与する職務(年間給与:3万5,963.20ユーロ以上)。 長期滞在ビザ(4カ月から1年)。
給与所得者 フランスを拠点とする企業との雇用契約の締結(最低年間給与:3万2,366.88ユーロ)。 長期滞在ビザ(4カ月から1年)。
学術研究者 公的及び民間研究機関の研究者、大学レベルの教員。 研究機関等の受け入れ証明(管轄する自治体の知事による)。
起業家 商業、工芸、工業に関するプロジェクト事業の実現。 長期滞在ビザ(4カ月から1年)。
投資家 永続的な利益(少なくとも資本の10%)を確保する会社に対する個人的投資等フランス領土に少なくとも投資30万ユーロの有形または無形資産へ投資。 長期滞在ビザ(4カ月から1年)。
執行役員 企業組織の法定代表者。年間総額給与:5万3,944.80ユーロ以上。 長期滞在ビザ(4カ月から1年)。
芸術・文化関連職業 芸術的・文化的活動家及び制作者。 最長4年間の制限内で、滞在中のフランスの活動期間または雇用契約期間が有効滞在期間。
国内で特に不足する職種の労働者 非熟練 農業その他を対象とした季節労働。 セネガル、チュニジア、コンゴなど旧植民地諸国との二国間協定。
学生   留学生 就労時間上限。

他方、フランスの労働市場にもイギリス、ドイツと同様に、EU第5次拡大以降の新規加盟国出身労働者が多く参入している。加盟国の労働者は、原則としてフランス国内の労働市場へアクセスするに際して許可等の手続きをとる必要がないことから、非高度人材労働市場においても広く就労していると見られる。

フランスが域外からの非熟練労働者の移入を厳しく制限している背景には、フランスが過去において非熟練労働者を大量に受け入れた歴史が深く関係している。フランスが第二次世界大戦後の経済成長期に労働力の受け入れを行ったのは、主には旧植民地であったマグレブ系(北アフリカのモロッコ・アルジェリア・チュニジアの3国)の労働者だった。彼らの一部は受け入れ停止後も帰国することなく滞留し、家族を呼び寄せるなどして移民のコミュニティを形成した。現在は二世もしくは三世の世代に移ってきているが、彼らが集住している地域の貧困や治安の悪化が社会問題として顕在化している。フランス脆弱都市地区観測所の報告(2011年11月)によると、困窮都市地区の失業率は20%以上に達しており、フランス全体の平均の2倍以上となっているという。この地区に居住する者のうち、半数以上が移民出身者で、またその半数以上をマグレブ系出身者が占める。地区においては学校を中退する若者も少なくなく、教育水準の低さはエンプロイアビリティの低さにつながり貧困を固定化させている。

フランスは、外国人を対象とした社会統合政策として「共和国統合契約」を実施している。詳細は資料シリーズNo.207の第3章フランスをご覧いただきたいが、外国人に対する言語教育及び市民教育を実施することによって、外国人をフランス社会に包摂しようという政策である。現在のマクロン政権は、この政策を推進する一方で、不法滞在者に対しては厳しく対処していこうという方針を見せている。

2019年1月 フォーカス:諸外国における外国人材受入制度 ―非高度人材の位置づけ ―イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、韓国、台湾、シンガポール

関連情報