エールフランス、経営再建をめぐる労使対立
―格安航空会社Transaviaの事業展開とパイロット労働条件

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2016年3月

経営再建策に向けたエールフランスの労使交渉が暗礁に乗り上げている。2015年10月5日には人員削減等を含む厳しい提案に対し、労組側メンバーの一部が反発して暴徒化し、役員にけが人が出る事態に発展した。2016年1月には経営側が出した人員削減を伴わない新たな提案も、労組側が拒否した。このまま対立が続きパイロットによるストが起きれば、売上への大きな影響が出ることは避けられない。大株主であるフランス政府は同社の経営改革は不可欠という姿勢をとっており、その意向を受けた経営側と労組の交渉は先行きが不透明な状態となっている。

格安航空会社の展開とエールフランス

ヨーロッパでは、格安航空会社LCCのシェアが拡大して競争が激化している。2014年の輸送人員 (旅客数)でみると、格安航空会社は大手航空会社に迫る勢いが見られる。ドイツのルフトハンザグループでは1億600万人、エールフランス=KLMグループは8740万人、ブリティッシュ・エアウエイズとイベリア航空などのインターナショナル・エアラインズ・グループは7730万人であるのに対して、格安航空会社のライアンエアーは8640万人、イージージェットは6500万人にまで成長している。このような厳しい経営環境の中、エールフランスはここ数年、赤字が続いている。

経営改善計画の実施をめぐる労使対立

同社は2012年、経営改善計画「Transform 2015」を策定し、退職者の不補充や希望退職の募集による従業員数を削減、パイロットの年間飛行時間の増加、子会社の格安航空会社トランサヴィア(Transavia)の積極的な展開によって収益を改善させる計画を実施した。「Transform 2015」の達成率は、職種ごとに違いが見られ、地上職(営業や整備、企画、法務など)と客室乗務員は、経費節減目標をおおよそ達成しているのに対して、パイロット職は目標の3分の2程度の達成率にとどまっている。

これに対して、経営陣はパイロットが経営改善計画に則った就労をしていないとして、2015年6月、労働組合・全国路線パイロット労働組合(SNPL)を訴える申請を裁判所に提出。司法の場でパイロット労働組合に対して「Transform 2015」の履行義務の確認を申し立てた。この提訴に対してSNPLは、「対話再開をさぐっている中での宣戦布告のようもの」 (SNPLのフィリップ・エヴァン代表)と反発。SNPLは、労使合意した「Transform 2015」の有効性に対して疑義を申し立てている。エヴァン代表は、「Transform 2015での労使合意には、夜間就労の報酬引き下げの影響による収入の低下を防ぐため、夜間就労時間数の増加という前提条件があったが、経営側は尊重していない」として、そもそも労使合意は有効でないと主張していたが、10月16日、ボビニー(パリ郊外)の大審裁判は、経営側の訴えを支持する判決を出した。SNPLはその結果を不服として控訴した。

パイロットの生産性向上をめぐる労使対立

Transform 2015」に続き、競争力と収益力の強化を目的とする「Perform 2020」の策定のため、労使交渉が2015年4月から同年9月末の期限で行われた。経営側はパイロットに関して17%の生産性改善を求めた。具体的には賃金を据え置いた飛行乗務時間の引き上げ、中距離担当パイロットの年間休息日を13日から11日に削減、長距離便パイロットの休暇を年3日削減、寄港地の休憩時間を48時間から24時間へと縮小、1機当たりの乗務員の削減などによる生産性向上案であった。労組側は難色を示し、交渉は難航した。

交渉期限の9月30日に経営側は、「Perform 2020」が合意に至らなかったと宣言するとともに、10月5日には、新たな経営再建策を発表した。その内容は、解雇も含めた従業員削減など、これまでよりも踏み込んだ計画だった。従業員削減数は2016年と2017年の2年間で2900人。内訳は地上職1700人、客室乗務員900人、パイロット300人だった。労組側はこれまで以上に反発を強め、組合員ら数百人が、エールフランス本社に押し寄せ、幹部らに詰め寄った。組合員の一部は暴徒化し、役員の中には服を破られる者も出た。10月9日には、労使交渉の再開が決定されたものの、10月22日に同社・アレクサンドル・ド=ジュニアック社長は、経営再建策のうち2016年実施予定分は交渉を経ずに予定通り実行に移すことを宣言した。その中には、1000人の人員削減も含まれている。

LCC事業展開をめぐる労使対立

エールフランスでは近年、人員削減をはじめとする経営改革をめぐって、労使の対立が続いてきた(図表1参照)。

2014年9月には2週間にわたる大規模なストライキがあった。このときの争点は、子会社の格安航空会社Transaviaの路線拡大を目的とする新しい欧州事業会社設立をめぐるものだった。労組側は、Transaviaがフランス国外で低賃金のパイロットを雇用することで、フランス国内のパイロットの労働条件が低下することを懸念。具体的にはエールフランスの(元)パイロットがTransaviaに雇用された場合に賃金などの労働条件が悪化する可能性や、Transaviaの路線が拡大してエールフランス本体の運行路線は削減されることで、国内で必要なパイロット数が減少し、雇用が海外へ移転されるリスクがあるとして経営側の提案に反対した。ストは2週間にわたって行われ、1998年以来の大規模なストとなった。
国内・国際線問わず多くの便が欠航し、利用者に大きな影響が出た。その結果、エールフランスの売上高は3億ユーロ減少したとされる。

図表1:エールフランスにおける最近の労使対立
2013年1月 CA労組が人員削減計画に反対して2月27日から3月3日までのストを予告。
2013年11月 7月31日の労使会合で2800人規模の人員削減が提示され、この計画に反対して労組は11月20日から24日にかけてのストを予告。
2014年4月 スト開始の48時間前までにスト参加の有無を経営側に届け出ることを義務付けるディアール法(2012年制定)がスト権行使の実質的な制限であるとして、同法の改正を求めて5月3日から30日までのストを予告。その後、ストの回避を決定。
2014年9月 格安航空子会社Transaviaの欧州展開に関するプラン公表。SNPLが公表直後に反発。9月15日から22日までスト実施を予告。予告よりも延長されて9月28日までスト。
2015年9月 9月7日、パイロット組合との交渉で経営側から大量解雇の可能性の示唆。労組側は10月5日にストの実施を呼びかけ。
2015年10月 10月5日、従業員代表を集めた会合で、2900人(パイロット300人、CA900人、地上職1700人)の人員削減計画を正式に通知。管理職(人事部長、長距離輸送部門責任者など)が乱入した者たちから暴行を受け、7人の負傷者。

出所:現地紙各紙報道に基づいて作成

スト期間中、バルス首相は「ストの正当な理由はなく、フランスのイメージを損ない、エールフランスに重大なリスクをもたらす」としてSNPLにスト停止を促した。SNPLは政府に対して交渉打開のための調停人の任命を求めたが、政府は拒否。労組に否定的な世論が強まっていったことから、SNPLは、労使合意が成立しないままスト停止を決定した。 その後、労使交渉が行われ、12月4日にフランスを拠点とするTransaviaの展開強化で労使が合意した。エールフランス所属のパイロットが、エールフランスの労働契約を維持したまま、任意でTransaviaで就労することを可能にするということがその内容である。副操縦士は人員過剰気味であるため、Transavia勤務を後押しする目的で報酬面などについて配慮することも合意された。一方、Transaviaの欧州事業をフランス国外を拠点として展開するという構想を放棄することに経営側は同意した。

経営側の譲歩にも応じない労組

2016年1月15日に、経営側は新経営プランを従業員に提示した。そこには従業員が生産性向上に応じて、新規採用を行うことが盛り込まれている。経営側が労組に対して歩み寄りの姿勢を示したと言えるが、労組連合(最大のパイロット組合SNPLを含む11労組:CGT、UNSA、UNAC、FO、SNPNAC、Alter、SUD、SPAF、CFTC、SNPNCが参加)は1月26日に、経営側の提案を拒否する方針を明らかにした。労組連合側は、経営側の計画では長距離便向けの航空機体の数が2014年の水準と比べて増えていないことを指摘した上で、成長戦略が専らTransaviaを対象に展開されている点を批判。採用増加やフランス国内の投資拡大などの要求を掲げた上で、経営側が応じない場合は、早い時期に抗議行動を開始すると予告した。

エールフランスの経営再建は今後も先行き不透明な状態が続くと考えられる。

(国際研究部)

参考資料

(ウェブサイト最終閲覧:2016年3月8日)

参考レート

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