労災保険制度におけるメリット制に関する一考察─メリット収支率の算定対象の妥当性
要約
労災保険制度におけるメリット制については,メリット制の導入当時と比べて,明白な災害性事故ではない労働災害,すなわち過労性疾患のような形態が増加している現状において,現行のメリット制がそのまま維持されることが適切か否か,かねて議論がある。本稿は,令和7年7月に「労災保険制度の在り方に関する研究会中間報告書」が発表されたことを受け,メリット収支率の算定対象の妥当性に係る論点につき検討を行うものである。当該算定対象として,同研究会において①高齢者及び障害者並びに外国人労働者に対する保険給付及び②脳・心臓疾患及び精神障害に係る保険給付が主要な論点とされたことを受け,各論点につき近時の議論を紹介した上で検討する。その結果,①高齢者及び障害者並びに外国人労働者に対する保険給付については,メリット収支率の算定対象から除外する必要はないとする一方,②脳・心臓疾患及び精神障害に係る保険給付については,算定対象から除外することが妥当とする。その理由として,現行の認定基準に照らせば,これらの疾病に関しては労働者の個別事情が労災認定を左右する要素になりやすいことから,事業主の労働災害防止に向けた努力には限界があり,必ずしもメリット制の趣旨である事業主間の公平性の確保や労働災害予防につながらないためとする。その上で,労働者を迅速かつ公平に保護するために,メリット制の目的の1つである事業主による保険料負担の公平性の担保は,おのずから制約を受けることが織り込まれているとする。
2026年特別号(No.787) 自由論題セッション●第1分科会
2026年1月26日 掲載


