大企業における賃金決定の実態─賃金制度と賃上げに変化は生じているのか?
要約
本稿の目的は,大企業における賃金制度改定と賃上げの実態を明らかにすることである。近年,「ジョブ型人事」の導入やいわゆる「官製春闘」以降のベースアップ報道が注目されているが,制度の内実や賃上げの配分の実態は不明瞭である。そこで,大企業を対象に2018年から2020年に実施した聞き取り調査に基づき,制度および賃上げの実態を整理した。分析から,多くが組織内基準に基づく賃金制度を維持していた。社員等級においては,現在の仕事内容を格付けの際に重視する制度からそこまで重視しない制度まで多様な形態が確認された。賃金表も「積み上げ」「シングルレート」「洗い替え」「ゾーン別昇給」と多様であった。特定の組み合わせが普及しているわけではなく,各社が自社に適した制度を選択している。また,2010年代以降の制度改定は,賃金コスト抑制など企業側の要因のみならず,従業員の納得性確保といった労働供給側の要因も反映しており,その結果,制度変化は可逆性を有していることが確認された。賃上げでは,外部労働市場への対応力の強化や社員のインセンティヴ設計を重視した配分が実施されていた。以上より,日本の大企業における賃金制度は,組織内基準を重視するという原則を維持しながら,多様化している。その中で労使は,制度設計においては「内部整合性」を重視し,「外部競争性」は,労使の集団的な賃金交渉を通じてその確保が目指されていることが示唆される。望ましい賃金決定システムの在り方を検討する際には,量的把握が困難な企業の賃金制度や賃上げの実態も踏まえたうえで議論を行う必要がある。
2026年特別号(No.787) パネルディスカッション●賃上げをめぐる労働政策
2026年1月26日 掲載


