生産性と実質賃金─ミクロデータ分析からの示唆
要約
本稿は,日本の生産性と賃金の関係について,ミクロデータによる分析を紹介するとともに,実質賃金を高めるための政策課題を考察する。マクロレベルでは生産性上昇率と実質賃金上昇率が乖離しているが,企業レベルでは生産性と実質賃金の間に頑健な正の関係がある。交易条件の悪化,企業の構成変化がマクロレベルでの乖離の要因になっている。一方,労働分配率の変化による被雇用者の賃金への影響は確認されず,また,労働組合組織率の低下が生産性と実質賃金の乖離をもたらしている可能性は低い。今後の人工知能・ロボットなど自動化技術の利用拡大は,生産性と実質賃金を乖離させうる潜在的要因である。生産性と実質賃金を高める上では,人的資本投資が政策の基本である。「働き方改革」は,労働者の経済厚生向上に寄与する一方,補償賃金のメカニズムを通じて実質賃金の伸びを抑制する可能性がある。最低賃金引き上げの生産性への効果は確認できないが,近年の大幅引き上げを対象とした精緻な分析が必要である。賃上げ促進税制を利用している企業は多いが,賃金への効果についての因果的なエビデンスは乏しい。経済危機下での過度な企業支援政策は,中長期的な生産性・賃金に負の影響を持つ可能性がある。実質賃金を引き上げる政策を考える際,生産性を押し下げている要因を縮減・除去するという視点も必要である。
2026年特別号(No.787) パネルディスカッション●賃上げをめぐる労働政策
2026年1月26日 掲載


