タレントマネジメントにおける人材育成の位相と課題

要約

柿沼 英樹(流通科学大学教授)

本稿の目的は,2000年代以降に理論と実践の蓄積が進んでいるタレントマネジメントに着目し,その枠組みのなかで従業員の育成がどのように論じられているのか,またどのような周辺課題が浮き彫りになっているのかを検討することにある。まず本稿の前半では,タレントマネジメントに関する先行研究をレビューし,タレントマネジメントが組織の戦略達成に過大な貢献をもたらす人材(タレント)の確保や活用にかかわる一連の取り組みを体系的に網羅した概念であり,人材育成がその中核をなす一要素であることを確認した。次いで本稿の後半では,タレントの育成に関する議論を切り出して独自の理論展開を図るタレント開発論に関する先行研究をレビューした。タレント開発論については,育成プログラムの個別化やカスタム化,あるいは育成スピードの加速化といった伝統的な人材育成とは異なる特徴が強調されていることに加えて,従前から論じられてきた人的資源開発とは異なる理論に依拠した研究展開がみられていることが明らかとなった。それと同時に,定義や概念的境界の曖昧さや,タレント開発の実践とその成果を捉える枠組みに関する議論の乏しさなどが大きな課題として残存しており,トピックとしては未成熟な状態にあることも確認された。


2025年9月号(No.782) 特集●労働研究における教育

2025年8月25日 掲載