大学全入時代における大学進学を考える

要約

黒田 雄太(東北大学大学院講師)

本稿は,大学の総定員数と大学進学希望者数がほぼ等しくなり,大学進学率が5割を超えた日本において,大学進学の意味とその経済的・社会的含意を再検討するものである。進学率の上昇や大学数の増加により,大学教育の内容や入学者の選抜基準は大きく多様化し,従来の経済学における古典的な理論や進学率といった指標では大学教育の実態を十分に捉えきれなくなっている。特に,学力試験を伴わない入試の拡大や,定員割れによるフリーパス化により,大学卒業というシグナルの意味は一様でなくなっている。さらに,地域間や大学間で進学率・教育内容に顕著な差がみられ,大学進学が必ずしも人的資本の蓄積や高い将来収益に結びつくとは限らない。本稿では,基本的な統計と先行研究を用いて大学進学の現状を把握するとともに,大学の選抜性や教育内容の異質性を踏まえた上で,高等教育の便益と課題,および今後の研究の方向性について多面的に検討する。


2025年9月号(No.782) 特集●労働研究における教育

2025年8月25日 掲載