専攻選択におけるジェンダーギャップ
要約
先進国において教育水準における女性の不利は解消されたが,男女が専攻する分野は依然大きく異なり,STEMと呼ばれる理工系分野における女性は少数派である。この専攻選択の差は,男女の労働市場における成果の差を生むだけでなく,社会全体の人的資源の活用を妨げるおそれがある。本稿は,高等教育における専攻選択のジェンダーギャップ,特にSTEM専攻において女性が少数派となる背景要因について,先行研究を概観する。Zafar(2013)の離散選択モデルに基づき,将来の賃金といった金銭的要素のみならず,仕事の柔軟性などの賃金以外の特徴,結婚や家族形成への期待,在学中のコースワークの楽しさなど非金銭的要素を含めて,専攻選択に影響を与える要因を整理する。特に,サーベイを活用した手法により,これらの要素についての「主観的期待」と「選好」を分離しようとする近年の研究に重点を置いて紹介する。先行研究の知見からは,生得的な能力差や金銭的インセンティブ以上に,金銭的・非金銭的なさまざまな要因のうちのどれを重視するかという選好やSTEM分野の学習・キャリアを楽しめるかという嗜好の違いが,専攻選択における男女差に大きく寄与していることが示唆される。女性のSTEM分野の専攻を促進するには,進学前の選好形成,在学中の学習環境,卒業後の就業環境に働きかける多面的なアプローチが求められる。
2025年9月号(No.782) 特集●労働研究における教育
2025年8月25日 掲載