所得格差の世代間連関─教育の役割

要約

赤林 英夫(慶應義塾大学教授)

直井 道生(慶應義塾大学教授)

本稿では,所得格差の世代間連関が発生するメカニズムに焦点を当てて,理論・実証の両面から近年の研究動向を概観する。所得格差の世代間連関を説明する理論モデルとしては,人的資本理論に基づき,家庭における教育投資の役割を重視するBecker-Tomes-Solonモデルを取り上げる。このモデルにより,親による教育投資と子の人的資本蓄積,それによる世代間の所得の連関の発生と世代内の格差の形成という一連のプロセスが統一的に説明されることを示す。実証面では,親子2世代にわたる所得情報を利用可能なデータの整備が進んだことにより,所得の世代間弾力性(IGE)を計測する研究が拡大してきた。本稿では,特に教育を通じた所得の世代間連関の推計という観点から,代表的な実証研究をいくつか紹介する。また,日本では,データの制約から研究が限定されてきたが,近年では「日本家計パネル調査」(JHPS)をはじめとして,親子の所得データが整備されつつある。筆者らによる最近の分析結果も交えながら,我が国におけるこの分野の研究動向を整理し,今後の研究の方向性について展望する。


2025年9月号(No.782) 特集●労働研究における教育

2025年8月25日 掲載