法定福利費の動向と課題─社会保険料の事業主負担の視点から
要約
本稿では,法定福利費の課題を,社会保険料における事業主負担のあり方という観点から捉え,社会政策および経済学の視点から考察した。日本の社会保険制度は,企業福祉制度を起源とし,日本型雇用システムと相互補完関係にある企業別の社会保険代行組織が機能するなかで,事業主負担の根拠が形成されてきた。しかし,少子高齢化の進行に伴う保険料率の上昇や,日本型雇用システムの後退により,事業主負担の意義は再考を迫られている。特に,保険料の一部が「その他制度への移転」として用いられる現状では,負担と給付の対応関係が不明確になり,制度への信頼性を損ないかねない。社会保険料が実質的に社会保障目的税としての性格を強めている点も,制度の根拠を揺るがす要因となっている。もっとも,事業主負担は必ずしも企業のみに帰着せず,労働者に転嫁されているとの指摘も多く,単純な企業負担とは言い切れない。また,行動公共財政論の知見によれば,社会保険方式や労使折半原則の正当化も一定程度可能である。今後は,負担と給付の透明性を確保しつつ,労使双方が社会保険料の意義をどのように評価するかが,制度の持続可能性にとって重要な論点となる。
2025年7月号(No.780) 特集●福利厚生の意義を問い直す
2025年6月25日 掲載