福利厚生施策としての確定拠出型年金の可能性─導入・移行・廃止とガバナンスを中心に

要約

壁谷 順之(長崎県立大学教授)

確定拠出年金制度(DC制度)が導入されて既に20年余りが経過している。この間,企業年金制度を取り巻く環境は大きく変化し,DC制度も当初の想定から相当に様変わりしたと言える。こうした中で,DC制度は加入状況が年々拡大傾向にある。一方で,長引く低金利政策の下で,企業年金の運用環境の悪化は企業自体に年金制度の存続意義が問われる深刻な事態を誘引している。大企業と中小企業における格差や,企業業績を見据えた福利厚生制度の見直しなど,さまざまな企業内部での変化につながっているからである。このような状況に鑑みると,確定拠出年金制度は今後どのように推移していくのか,企業は同制度等をどのように見直していくべきなのか,といったことが本稿の問題意識である。これまでの先行研究や制度設計に関する実務書等を基に分析し,今後の企業経営や福利厚生の見直しなどについて言及していく。分析・考察の結果,本稿では企業型DCを廃止する企業についての現状と課題,選択型確定拠出年金制度やキャッシュバランスプラン(CB制度)の検討,投資教育の推進などの5つの論点について詳細に検討することができた。企業側と従業員側の双方の視点から,企業型DC運営に関わるさまざまな課題点を整理し,制度面と実証面で取り組んできたことが本稿の貢献である。企業型DC採用企業においては,従来の投資教育の在り方が少しずつ変化し,近年では金融経済教育が話題となって当該企業や投資教育を後押しする形になりつつある。


2025年7月号(No.780) 特集●福利厚生の意義を問い直す

2025年6月25日 掲載