使用者による福利厚生の配分と均衡待遇(不合理な待遇差の禁止)規範─労働法からみた福利厚生
要約
労働法を構成する諸法規において,福利厚生を明確に定義してそれ自体として規制対象とする法律は見当たらない。賃金の確実な支払い方法の確保および不当な労働者拘束手段の排除を目的とした労働基準法上の諸規定が,現物給付による賃金の支払いや賃金控除を原則として禁止すること等を通して,実質的に福利厚生の給付の在り方を規制してきた。こうした労働基準法上の諸規制は,いわゆるブラック企業における歪な報酬体系や不当な労働者繫留策の持続に照らすと,依然として重要である。近年では,男女の均等待遇(差別禁止)法制ならびに非正規労働者と正規労働者との均等待遇(差別禁止)・均衡待遇(不合理な待遇差の禁止)法制の発達により,使用者による福利厚生の配分の均等待遇(差別禁止)規範ないし均衡待遇(不合理な待遇差の禁止)規範への抵触が争われる事案が増加している。とくに非正規労働者と正規労働者との均衡待遇(不合理な待遇差の禁止)をめぐる法的紛争の増加に対しては,正規労働者に適用されてきた住宅手当等の福利厚生を廃止する企業も現れ,こうした福利厚生の廃止それ自体が新たな法的紛争を惹起するに至っている。本稿は,以上のような福利厚生に対する労働法的規制の現状を踏まえて,まずは福利厚生に対する労働法的規制を概観した上で,福利厚生の配分をめぐる均等待遇(差別禁止)規範および均衡待遇(不合理な待遇差の禁止)規範の適用が争われた裁判例を分析し,福利厚生に対する労働法的規制の今後の課題を展望する。
2025年7月号(No.780) 特集●福利厚生の意義を問い直す
2025年6月25日 掲載