人的資本経営時代における福利厚生の有効性
要約
近時,注目を集める人的資本経営への流れがこれまでの人材マネジメントに変革を迫っている。日本企業を取り巻く経営環境変化が著しい時代にあって,価値創造に寄与できる人材の確保が今まで以上に重大な経営課題となった。福利厚生は企業の人事労務制度群のなかにあって,独自の機能,役割を果たすものとして,これまで「個人と組織」「生活と仕事」との結節点となり,両者を融和的,相乗的に結合させるべく進化してきたが,さらにその進化の加速が求められている。それは,多様化する従業員のニーズ,リスクに応えつつ,求められている企業価値を高める経営的効果を提供できる「人材投資としての福利厚生」への進化である。福利厚生に求められる経営的効果は,従来からの採用力,定着性などに加え,ウェルビーイングの向上,心理的安全性の醸成,そしてエンゲイジメントの高揚などに拡がっている。これらの経営的効果の多くは,人的資本経営が注視するものである。それは人的資本として持続的に価値を創造するために重視される従業員態度であり,経営的効果なのであろう。本稿では人的資本経営が拡がろうとしている今日にあって,福利厚生が人的資本経営を支える経営的効果をもたらす可能性を再確認すると同時に,人的資本経営が目指している価値創造の唯一の土壌となる従業員の個人生活や職場生活,そして仕事での満足感の形成に寄与するものである点を検証する。
2025年7月号(No.780) 特集●福利厚生の意義を問い直す
2025年6月25日 掲載