メリトクラシーは男女間格差を縮小するか

要約

金井 郁(埼玉大学教授)

本稿では,能力に応じた賃金や地位といった処遇の決定とジェンダーの関係を考察することから,メリトクラシーが男女間格差を縮小するのかについて検討した。顕在能力として,仕事の実績や実際に担っている職務を評価するにしろ,潜在能力として職務遂行能力を評価するにしろ,どれだけペイドワークに時間を割けるのか,転居転勤できるのかといったことが含まれて,その能力の「結果」が決まるのであれば,ケアを不均衡に女性が担っている中で,メリトクラシーによって男女間格差は縮小されないし,むしろ固定化される。そして,「能力」次第で昇格・昇進できるにもかかわらず,ステップアップしないことがマイナスにもみなされるようになり,女性への評価をさらに下げる可能性も示唆される。ジェンダー公正な能力評価を構築していくためには,すべての人がアンペイドのケアを担うことを前提にした働き方とし,その中で発揮する「能力」を評価することが必要である。そのために,能力発揮のために必要とされるペイドワークを何時間として想定するのか,その労働時間内での「結果」や「能力」を公正に評価し,そうした評価が労使にとって納得できるものとしていけるように,社会や労使で議論を積み重ねていくことが重要である。


2024年5月号(No.766) 特集●ジェンダー平等における「公正」と「経済合理性」

2024年4月25日 掲載