雇用労働におけるジェンダー平等の法学的探求─企業実務・労働法制・労働法学批判

要約

相澤 美智子(一橋大学教授)

わが国においては,企業実務はもとより労働法制および通説的労働法学においてさえも,「公正」と「経済合理性」は,雇用におけるジェンダー平等を推進する「車の両輪」であるという理解が根強い。しかしながら,「車の両輪」という思考は,基本的人権の保障という「公正」の観点から,「経済合理性」の発動に強い制約を課す日本国憲法を「国の最高法規」とするわが国において,法学的には許容することができないものである。現実の雇用社会における女性は,正規労働者として働く局面においても,出産・育児期を迎え,正規労働者としての職業生活と家庭生活が両立困難となり,非正規労働者として働くようになる局面においても,差別を受けている。換言すれば,企業実務においては,「公正」が「経済従属性」に従属するものとなっている。こうした日本社会の現実は,法の問題としては,1 法解釈の問題―(1)労働契約と労働契約法の解釈の問題と(2)その他の制定法の解釈の問題―と2 立法の問題として把握,分類しうる。残念ながら,労働法制(判例,立法)も通説的労働法学も,企業実務を追認・正当化するものとなっており,憲法14条からの乖離が甚だしい。本稿は,企業実務,および,これに追随して,憲法から離反する労働法制および労働法学を批判的に検討することを課題とする。


2024年5月号(No.766) 特集●ジェンダー平等における「公正」と「経済合理性」

2024年4月25日 掲載