時間分配のジェンダー平等

要約

田中 洋子(法政大学大原社会問題研究所客員研究員)

仕事の時間と子育てなどケアの時間をどのような形で男女の間で配分するか,その時間分配のやり方において,日本はとりわけ女性に不利になる仕組みをつくりあげることで,ジェンダー平等を損なっているのではないか。社会的公正に反するのはもちろん,女性の力を十全に活かさないことで経済性も毀損しているにもかかわらず,多くの政策は時間分配の男女間不均衡に踏み込まず,日本的雇用における強固な男女別の時間分割を保持することで,女性だけに負担を負わせ続けてきたのではないか。こうした問題意識にもとづき,本稿では,日本がジェンダーギャップを改善できない問題の本質は,時間とその分配,調整の仕組みにあることを論じる。これを明らかにするため,ここでは第一に,日本と同じ男性稼ぎ主・主婦モデルから出発しながら,近年ジェンダーギャップを大きく縮小しているドイツを取り上げ,国際比較の視点から考察する。第二にさまざまなインタビュー調査等にもとづき,女性が働く際に実際に直面してきた時間調整問題を歴史的に検討する。時間を調整する仕組みが,女性の育児休業や短時間勤務から男性の育児休業や短時間勤務(主にドイツ)へと進んできた歴史的展開をたどる中で,ウルストンクラフト以来の近代家族のジレンマを解く鍵は,仕事時間とケア時間を調整して男女で分配する仕組みにあること,日本は女性の非正規雇用を通じて根本的にこれを損なっていることを論じる。


2024年5月号(No.766) 特集●ジェンダー平等における「公正」と「経済合理性」

2024年4月25日 掲載