特集趣旨

労働研究の何がいま議論されているか?

学問分野は近年ますます細分化されている。一方,社会問題はますます多様化している。このような中で,社会現象を解明し,政策課題の解決を考えるためには,分野を融合した知識と,分野内の深い知識の両方が必要になる。これらを同時に得るにはどうすればよいか。効果的な方法の1つは,大きく「同じ」とされるテーマ領域において,異なる学問分野の専門家に最新の議論を教授してもらうことである。その際,非専門家でもわかるように説明してもらえれば,学びの,そして研究の進展の効果は大きい。

労働研究についてそれを行えないか。学術的な労働研究を広く世に知らせることは,労働研究を広く長く扱ってきた本誌が目指すところである。本誌は,とくに新年度のはじめに,初学者を労働研究に誘うトピックスを分野横断的に紹介してきた。今年度は,「労働研究の何がいま議論されているか?」を題材に,各研究分野で関心の高いトピックスを取り上げ,専門家に,研究成果をまとめながら今後の課題を展望していただく。

経済学の分野からは,はじめに,労働市場動向の読み取り方について整理してもらう(向山論文)。続いて,日本の労働生産性の現状や課題と,人事や組織の経済学につながる内部労働市場分析の現在を論じてもらう(それぞれ滝澤論文と加藤論文)。また,より明示的に政策に着目したものとして,社会保険制度と,労働供給を促進する政策に関する議論をまとめてもらう(相澤論文と近藤論文)。最後に労働者の厚生に関して,国内外のケアワーカーを取り上げながら議論してもらう(浦川論文)。

経営学の分野からは,まず,企業の人的資源管理施策とその成果に関する研究が広く整理される(竹内論文)。続いて,労働管理に関する新しいトピックスとして,ダイバーシティ・マネジメントと在宅勤務の研究成果が取り上げられる(内藤論文と細見論文)。最後に,近年,社会的な関心も高い組織不祥事に関する知見が示される(中原論文)。

法律の分野からは,はじめに,労働法が捉える労働者の範囲と研究の課題について,法学を専門としない労働研究者にもわかりやすく解説してもらう(藤木論文)。続いて,常に関心が高く,近時の法改正とも関連して注目を集めている問題として,雇用形態差別と長時間労働問題が取り上げられ,今後の研究や法制度の課題が示される(大木論文と細川論文)。

社会学の分野からは,社会階層・社会移動に関する海外での研究成果について,労働指標に注目した議論が整理される(麦山論文)。また,新しい働き方のトピックスとして,男性ケア労働者と,ワークプレイスに関する研究について,研究の流れや今後の研究課題が示される(平山論文と秋谷論文)。

専門知識に基づいた究察は,分野や立場が異なる者にも広く伝わるだろう。今回の論纂が,各分野の研究者だけでなくこれから労働に関する学問を始めようとする学生や政策担当者に届き,研究や学びのきっかけとなれば幸いである。

(編集委員・小原 美紀)

2024年4月号(No.765) 特集●労働研究の何がいま議論されているか?

2024年3月25日 掲載