トラックドライバーの夜間早朝出発を伴う不規則勤務スケジュールが血圧・動脈硬化に及ぼす影響の検討

要約

松元 俊(労働安全衛生総合研究所研究員)

日本では,過重労働やそれに伴う疲労の蓄積を背景とした,脳・心臓疾患による過労死が問題となっている。運輸業の,その中でもトラックドライバーの過労死による労災認定数は他の業種・職種に比して多く,その業務起因性は長時間労働かつ不規則な働き方を行っている点が多くの労災事例において評価されている。過労死防止に有効な対策点を明らかにすることを目的として,本研究はトラックドライバーの不規則勤務と脳・心臓疾患のリスクとなる血圧および動脈硬化との関連を調べるための長期間の観察調査を行った。長距離トラックドライバー(4事業所67人)と地場トラックドライバー(7事業所60人)に対して,1人につき休日を含む30日間連続の自宅睡眠測定と,勤務中の点呼時に血圧および動脈硬化度の測定を行った。マルチレベル分析の結果,長距離トラックドライバーでは勤務中の収縮期血圧の上昇には,離床回数が多いこと,拘束日数が長いこと,起床時刻が早い(早朝に近づく)ことが関連していた。また地場トラックドライバーでは勤務中の血圧および動脈硬化度が高くなる要因は,出発時刻が遅い(勤務が夜間に近づく)こと,起床時刻が早い(早朝に近づく)ことであった。また,出発時刻が遅い勤務で拡張期血圧が上昇し,出発時間差が大きいほど動脈硬化(上腕)が悪化する関連が見られた。夜間・早朝勤務や不規則な勤務時間帯が脳・心臓疾患のリスクとなることが示唆された。トラックドライバーの血圧や動脈硬化に関する健康管理には,夜間・早朝勤務回数の制限や,出発時刻などの勤務時間と総就床時間などの睡眠時間の変動が小さくなるような日々の勤務スケジュール調整が重要であることが確認された。


2024年2・3月号(No.764) 特集●モノを運ぶ仕事の労働問題

2024年2月26日 掲載