論文要旨 労働契約法改正の「意図せざる結果」の行方
─小売業パート従業員の分配的公正感を手がかりとして

平野 光俊(神戸大学大学院経営学研究科教授)

労働契約法の改正に伴い、有期雇用の非正規を無期雇用の限定正社員に登用する動きが広がっている。本研究では、WEB調査会社に委託して行った質問票調査データのうち小売業に勤めるパート150名の回答を抽出して、限定正社員に関わる人事制度および正社員への転換制度の導入の有無と、分配的公正感の関係を分析した。分配的公正感とは、賃金やボーナスの他、誰を昇進させるかといった報酬を、従業員にどのように配分し、それを従業員が公正と感じるかどうかといった報酬配分の公正知覚のことである。結果は以下の3点に集約される。1)短時間正社員制度の導入はパートの分配的公正感を高める、2)正社員への転換制度の導入はパートの分配的公正感を低める傾向がある、3)正社員への転換制度の導入がパートの分配的公正感にマイナスの影響を与える傾向は、パートが組織都合の拘束性を受容する程度が高い場合一層顕著となる。2)および3)の理由として、正社員への転換制度の導入が、正社員との比較という非正規の意識を覚醒させ、それが非正規の不公正感を惹起しモチベーションの減退につながるという「意図せざる結果」について議論される。人事制度改訂によって生じる「意図せざる結果」を封じ込めるために、「何でもする」「どこでも行く」「いつでも働く」といった、いわゆる正社員にこれまで課してきた拘束性を緩和すること、正社員登用の門戸を広げること、および同一職務同一賃金の均等処遇が求められる。

2015年特別号(No.655) メインテーマセッション●正社員の多元化をめぐる課題

2015年1月26日 掲載