論文要旨 正社員の多元化をめぐる課題─労働法の視点から

池田 悠(北海道大学大学院法学研究科准教授)

わが国におけるこれまでの労働法は、いわゆる「正社員(正規雇用労働者)」といわゆる「非正社員(非正規雇用労働者)」の2通りの労働者が存在し、両者が厳然と分かれる雇用モデルを暗黙の前提にして展開されてきた側面が強い。そして、わが国では、バブル経済崩壊後に非正社員の割合が一貫して増加しているとはいえ、未だに正社員と呼ばれる存在を中心に据えた雇用モデルが展開している。ところが、近年、正社員・非正社員という二者の厳然たる区分を揺るがすような存在が、立法・実務の双方を通じて意識的に導入されつつある。そして、立法や実務において実現が図られている正社員の多元化に関しては、労働条件設定の側面における相違に基づいて、従来の日本型雇用システムが想定する正社員とは異なる労働法上の位置づけが必要になる。まず、多元化した正社員の労働条件が、就業規則法理(労働契約法7条・9条・10条)の適用を受けない場合には、当該労働条件を変更する手法として、いわゆる変更解約告知の処理が問題となる。また、多元化した正社員の労働条件が、職種や勤務地の限定に当たる場合には、配置における柔軟性の欠如を理由として、実質的な雇用保障の後退が認められ得ることになる。このように、労働法において、正社員の多元化は、解雇規制との関係だけから単純に議論されるよりも、労働条件変更との関係なども含め、伝統的な日本型雇用システム全体との関係から論じるべき現象と言える。

2015年特別号(No.655) メインテーマセッション●正社員の多元化をめぐる課題

2015年1月26日 掲載