論文要旨 企業内養成訓練の日仏比較─日本型は有効か

関家 ちさと(学習院大学大学院経営学研究科博士後期課程)

大学新卒者を一括採用し、職場で手厚く育成するという人材育成策(本研究では、企業内養成訓練と呼ぶ)は、日本の人事管理において、重要な役割を果たしてきた。しかし、グローバル化や技術の急速な変化を背景に、その有効性は疑問視されている。そこで本研究では、フランスとの比較を通し、日本企業の企業内養成訓練の強み・弱みを明らかにする。

この研究目的にそって、大企業の人事部門に5年以上勤めた者(日本9人、フランス8人)を対象にヒアリングを行ない、「大学での教育経験」、社内での「仕事経験、教育経験」「学部卒業後5年目、10年目の育成水準」について調査した。

調査によって明らかにされた主要な点は以下の二つである。第一に、日本の企業内養成訓練の特徴は、職場の手厚い教育体制のもとで、専門性や職業経験をもたない新卒者を、入社から10年かけて、幅広い人事機能の実務から企画までの業務全般を担当できる人材へと段階的に育成していることにある。一方、フランスは職場での教育は限定的であり、専門性や職業経験をもつ新卒者に、特定人事機能の企画から運営までの業務を任せ、10年目には幅広い人事機能の責任を担える人材へと育成している。

第二に、企業内養成訓練の結果としての育成水準を日仏で比較すると、5年目は日本とフランスは同等の水準にあるが、10年目はフランスが日本を大きく上回る水準にある。つまり日本は学部卒業後5年目までは十分な訓練効果を得られているが、6年目以降は育成効果を十分にあげていない可能性がある。

2015年特別号(No.655) 自由論題セッション●第3分科会(職場とキャリア形成)

2015年1月26日 掲載