論文要旨 卓越したベテラン技術者のキャリア形成
─建設業界で働く15人へのインタビュー調査結果の分析

山崎 雅夫(法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程)

本研究の目的は、卓越したベテラン技術者のキャリア形成を追うことで、若手・中堅技術者を育成する際に何が必要かを考察するものである。建設業界で働く、卓越したベテラン技術者15人へインタビューを実施した。卓越したベテラン技術者とは、「業界においてその人にしかできない技術を持つ者」のことであり、「技術者直観」の水準が高い者をいう。技術者直観とは、「技術者がある環境下において、問題発見・原因究明・問題解決を同時に瞬時にこなす能力」と定義される。分析の結果、卓越したベテラン技術者には、共通の特質があるという結果が得られた。彼らは、責任の重い仕事に就くために、自己意識を高く持ち、日々研鑽し、一緒に働く人たちとの関わりを多く持つという要因を同時に満たしていた。また、本研究では、技術者直観の水準が上昇する型を観察したところ、(1)比例型、(2)青年期突出型、(3)壮年期水平型の3つが見出された。この分析から得られたのは、責任者として意思決定する経験の重要性である。若手・中堅技術者を育成するには、卓越したベテラン技術者の特質を踏まえ、責任者として意思決定する経験が必要となる。しかし、全員がそのような経験をできるわけではない。2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて建設分野の仕事が急増している現在は、育成の格好の機会である。この機会を上手にとらえて、ベテランの技術を若手・中堅層に伝承することが建設業界の課題である。

2015年特別号(No.655) 自由論題セッション●第3分科会(職場とキャリア形成)

2015年1月26日 掲載