論文要旨 結婚プレミアム─KHPSを用いた再検証

孫 亜文(一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程)

日本では、既婚男性と未婚男性の間に確かな賃金差が観測される。この賃金差が結婚によって生じている場合、これを結婚プレミアムと呼ぶ。Becker(1991)は、女性が家事労働に比較優位性を持ち、男性が市場労働に比較優位性を持つとするならば、それぞれが片方の仕事に従事することでより生産性があがると論じた。つまり、もし結婚によって家庭内分業が起これば、それによって男性はより仕事に従事し、賃金が上昇することになると考えられる。これを分業仮説と言い、この仮説を支持する先行研究も、有意な結果は得られないとする先行研究もある。本研究では、妻の就業状態などを家庭内分業の代理変数として用い、結婚と家庭内分業が男性賃金に与える影響を分析ていく。

分析結果では、妻が専業主婦である男性の方が、妻が正規雇用である男性よりも賃金は高いものの、観測不能な個人属性をコントロールすると結婚も家庭内分業の影響も観測されなくなることを示した。これは、既婚者と未婚者の賃金差は家庭内分業によって生じているとは言えず、観測不能な個人属性が主な要因であり、結婚プレミアムはないと結論付けることができる。今後の研究課題として、既婚者と未婚者の賃金差を生じさせる観測不能な個人属性の解明と女性に関する研究が挙げられる。

2015年特別号(No.655) 自由論題セッション●第2分科会(労働市場、賃金)

2015年1月26日 掲載