論文要旨 日本における人材育成の主要課題と政府の役割
本報告では、第1に、日本での人材育成に対する政府関与につき、課題、理論的根拠、政策理念、関与方法の相互関係を整理した。第2に、現在の企業訓練主導職業教育・職業訓練分離モデルから、自助、共助、公助がミックスした職業教育・訓練統合モデルへの移行をいかに実現すべきかを論じた。
日本の人材育成上の課題は大変に幅広い。人材育成への政府関与の理論的根拠には、(1)基本権、(2)市場の「不完全性」の補完、(3)準公共財、(4)セーフティ・ネットが挙げられる。政策理念では、(1)キャリア権(生存権を基底とし、労働権を核にして、職業選択の自由と学習権を統合した権利)、(2)エンプロイアビリティ(技術や労働市場の変化に対処することで、質の高い仕事を安定的に得る能力)、(3)生涯学習、(4)フレクシキュリティ(労働市場の柔軟性と雇用・所得の安定性の両立を目指す包括的な政策理念)、(5)「潜在能力」(ケイパビリティ。人が善い生活や人生を送るために選択可能な機能の集合)などがある。
政府の関与方法は、(1)情報提供、(2)教育訓練成果に対する評価尺度の提供、(3)資金提供、(4)時間の確保、(5)教育・訓練機会の提供、(6)教員・指導員の育成等多様だが、基本権ないしキャリア権との関係が深く、より一般性が高い、(1)情報提供、(2)教育訓練成果に対する評価尺度の提供等が次第に重要性を増している。教育政策、訓練政策の一体的かつ本格的改革により、新たな日本的職業教育訓練モデルを実現する必要がある。
2015年特別号(No.655) 自由論題セッション●第1分科会(労働政策、ワークルール)
2015年1月26日 掲載