特集趣旨「似て非なるもの、非して似たるもの」
「どうしてここだけロジットなんでしょうね?」当雑誌の編集委員会で投稿論文の審査をしている過程でしばしば耳にした台詞である。就業などを統計的に分析する離散選択モデルにどのような確率分布を用いるかという話なのだが、経済学ではプロビットモデルがよく用いられる一方、社会学ではロジットモデルがよく用いられる。経済学でプロビットモデルがよく用いられるのにはランダム・ユーティリティ・モデルという歴とした背景があるのだが、学際的な当雑誌の編集場面では、各分野が当然のように想定している前提が、果たして同じことをいっているのか、違うことを想定しているのか、違うならばその違いは些細なことなのか、にわかに判断できないことが多い。本特集は、労働研究の初学者に向けて、こうした概念上の異同を明確にすることを目的に編集されている。題して、「似て非なるもの、非して似たるもの」である。
理想的には、分野間での比較(たとえば労働経済学における「労働契約」と労働法学における「労働契約」はかなり異なる)ができればよいのだが、当雑誌の執筆陣をもってしてもそれには足りず、同一分野のなかで「実は似ていると思われているのだがよく考えてみると違った概念であるもの」や「まったく違うと思われているのだが実のところ同じものなのでは」という対概念を40種類取り出し、見開き2ページを基本に解説を請うた。各々は当該分野の研究者ならば知悉しているが、同じ労働研究に携わっていても異分野の研究者にはその異同は知られていないかもしれない。その場合、この解説を読んで、自分の分野での概念装置と比較考量していただければ幸いである。
40種類の話題は、「似て非なるもの」と「非して似たるもの」にわけてある。この分類の違いは類似点を強調するか相違点を強調するかという相対的なものに過ぎないので、読者によっては不満を抱くかもしれない(筆者にはどちらかへの分類も含めて依頼したが、実際に読んでいただければおわかりのように、こうした二分法自体に違和感を表明している筆者も少なくない)。自分だったらこの点に力を入れて別に分類するという思考実験ができれば、その概念をかなりの水準で使いこなせている証左といえよう。
2015年4月号(No.657) 印刷用(PDF: 527KB)
2015年3月25日 掲載