特集趣旨「その裏にある歴史」

2009年4月号(No.585)

深刻化する不況のなか様々な労働問題がクローズアップされ、必ずしも専門家ではない人々も現下の労働社会を議論するようになった。すべての人々は潜在的に労働者であり、また現に多数が労働者である現実を考えると、多くの人々が自らの存する社会について思惟を巡らすことは望ましい。しかし、それぞれが独自の現場感覚を持つがゆえに議論が白熱する一方、労働問題や法規定のそもそもの歴史や背景は意外に忘れ去られているのではないだろうか。

どんな労働問題にも、どんな社会的ルールにも、それらが社会現象である以上、生成の理由があり、発展の歴史がある。ことに労働法規は立法過程や裁判過程を経て成立しており、ルールの存立に明確にヒトの意志が介在している。この意志を理解することは、ルールが何を指向していたのかを解き明かし、ルールに託された意味を明らかにする鍵となる。

このとき、日本における労働のルールの起源が意外に古いことには留意する必要がある。特に1930年代以降の戦前期や戦後改革期に端を発するものも少なくない。だとすると、家族のあり方や個人の考え方まで変化してしまった現代においても、当該ルールに付託された意志をすべて無前提に尊重するべきとはなるまい。もちろん、他方で労働社会にとって普遍的なルールも存在するだろう。この場合は、ルールの背後にあるヒトの意志は現代の私たちをも束縛する。結局、問題発生の契機、当時の状況、現代にいたるまでの議論の変遷や、現行法規が制定された経緯、当時の状況など、過去を振り返ることで、あらためて問題の本質を明らかにする必要がある。

本特集は、16の労働に関わる社会的ルールを取り上げ、その裏にある歴史を明らかにすることで、今後の議論の前提に一石を投じることを目的としている。16の論点には、現在議論が進行中のもの、今後議論が展開するであろうものをとりあげた。

2009年9月25日 掲載