1995年 学界展望
労働調査研究の現在─ホワイトカラーの人事管理、女性労働、国際化(全文印刷用)

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目次

出席者紹介

  1. はじめに
  2. ホワイトカラーの人事管理
  3. 女性労働
  4. 国際化
  5. 今後の研究テーマ

出席者紹介

八幡成美(やはた・しげみ)日本労働研究機構主任研究員

1946年生まれ。神奈川大学工学部工業経営学科卒業。日本労働研究機構主任研究員。主な論文に「情報ネットワーク化の進展と仕事の変化」(『労働の人間化の新展開』総合労働研究所)など。経営工学・労務管理専攻。

橋元秀一(はしもと・しゅういち)國學院大學経済学部助教授

1955年生まれ。東京大学大学院経営学研究科博士課程単位取得退学。国學院大學経済学部助教授。主な論文に「能力主義と賃金体系」(栗田健編著『現代日本の労使関係』労働科学研究所出版部)など。労働経済・労使関係専攻。

福原宏幸(ふくはら・ひろゆき)大阪市立大学経済学部助教授

1954年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科修了。大阪市立大学経済学部助教授。主な論文に「80年代労働市場フレキシブル化の現実と課題」(竹中恵美子編『グローバル時代の労働と生活』ミネルヴァ書房)など。労働経済専攻。


はじめに

八幡

今回の学界展望は1992年から94年までの3年間を対象にホワイトカラーの人事管理、女性労働、国際化の3テーマを取り上げた。参加者3名がそれぞれの関心に従って、調査をべ一スに書かれた実証的な論文を中心に、調査報告書、場合によっては実務家の書いた著述、講演録などにも視野を広げ、現実の問題解決にどのように貢献しつつあるのかを取りまとめてみた。

サービス経済化の進展、高学歴化などによりホワイトカラーが量的に増加したこと、そのうえ、高度成長期に大量採用した層を中心に余剰感が高まっていることなどから、ホワイトカラー労働への関心が高まっている。当初は広くホワイトカラーの生産性、人事労務管理制度など全般の問題を取り上げようとしたが、議論が拡散するので、ここでは近年の研究動向をふまえて、ホワイトカラーのキャリアに限定して議論することにした。

女性労働では、まず、男女雇用機会均等法が施行されて10年近く経つが、その当時採用された女性を視野において、キャリア形成やコース別人事制度、昇進・昇格の問題を取り上げた。さらに、パートタイム労働者問題や女性の就業選択の問題にも触れている。パートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善などに関する法律)の施行に伴って、典型パート(短時間パート)についての雇用管理上の問題はかなり整理されてきたが、残された課題は何であるか、そして、広く女性の就業選択はどうなるのかといったことも含めて取り上げた。

国際化では、海外現地生産の展開と労働面での対応として、日系企業で行われている人事労務管理上の問題や広い意味での技術移転の問題、それの資本国籍別にみた対応の違い、さらに中小企業でのそれらの問題を取り上げた。同時に、内なる国際化として、外国人労働者も取り上げている。彼らの就労実態がどのようで、日本人との協業関係がどのようであり、何が課題になってきているのか、また、団体型外国人研修生受け入れ事業が本格的に動きだしたが、その実情と問題点、課題は何なのかなどを取り上げることにした。

議論に参加した3人の問題関心はそれぞれ異なるが、日本的雇用慣行の見直しがジャーナリスティックに叫ばれるなか、冷静に評価しようとのスタンスでは一致していたと思う。そして、どの程度成功したかは疑わしいが、原点を意識するなかから少しでも何かをつかみ出したいとの意欲は強かった。われわれの議論が今後の労働調査研究に少しでも貢献できれば幸いである。


ホワイトカラーの人事管理

論文紹介

橋元

ホワイトカラーは、高学歴化、経済のソフト化、サービス化の進展のなかで非常に増加し、また企業の経営戦略のうえでもその位置づけが重要となってきた。こうした状況を反映し、近年、ホワイトカラーの研究もかなり多くなっている。加えてバブル経済が崩壊し、景気後退局面で中高年ホワイトカラーが雇用調整の主たる対象となったこともあり、ホワイトカラー問題は日本的雇用慣行の帰趨と関連して議論が活発化したものの、これらに実証的なものは少なく、ここでは取り上げない。実証的調査研究に絞ってみると、この間、とくにキャリアをめぐる問題についての研究が蓄積されつつあり、この点に着目してホワイトカラーのキャリアとそれにかかわる人事管理問題を中心に、近年の動向をサーベイしていきたい。ホワイトカラーのキャリア問題については、周知のように、ジェネラリストとみる従来の通説的な理解に対して、小池氏をはじめとする研究が着々と重ねられ、「専門性のなかでの幅の広さ」というところにホワイトカラーのキャリア形成の特徴があるとする見解が示されている。ヒアリング調査や事例調査を中心とするこのような研究に加えて、この間、大量データに基づく調査研究が始まってきており、ホワイトカラーの本格的なキャリア研究が事例調査ばかりでなく、アンケート調査を含めた大量データの解析による研究という方向で本格化してきた。その成果を簡単に紹介しつつ、キャリア研究に新たにどういう論点が加わってきているのか、そして、キャリア形成をめぐる論点にかかわって昇進など人事管理の問題点がどのように明らかにされてきているのかを検討したい。

異動にみるキャリアの幅

産業労働調査所の報告によれば、首都圏に住む1部、2部上場企業の団塊世代の部課長の異動経験は、4分の1が異動なしまたは1回の異動、39%が2,3回、4,5回が24%であった(仕事・職務群を14分野、勤務場所を7カ所、全部で98に区分)。仕事だけで8分野に大ぐくりした異動では、1分野のみという人が33%、2分野が36%であった。電機労連の組合員調査では、いっそう異動範囲は狭い。40歳未満の事務・技術労働者(年齢中央値29.8歳)を対象にした調査であるが、男性では10部門のうち1部門しか経験していない人が77%(35~39歳でも62%)を占め、事務系で70%、技術系で78%とやや差はあるがともに部門間異動は少ない。電機産業では、課長になってからの異動が多いという。また、この調査は技術系では製造技術、事務系では管理・企画での異動が相対的には多いとし、技術系・事務系それぞれのなかでも差異のあることを示している。

鈴木論文は、大企業18社628人の調査結果である。15業務部門のなかで「精通し、自信のある専門分野」にみるキャリア形成は、多様な職務経験を経て30歳代後半に専門分野が固まってくるのが一般的であり、幅広い異動を経て30歳代後半に一定の専門性を持つものとしており、とくに電機労連調査とはかなり異なった結果を示している。専門特化の度合いは事務・技術の2区分では技術系のほうが強いが、事務系のなかでも営業系はかなり専門特化度が強く、また技術系のなかでも差がみられるという。

これらの個人調査結果は、ホワイトカラーのキャリア形成の専門性につながる異動の幅の狭さを示すものばかりではない。一般に部門を超えて幅広く異動しているとする見方はもはや妥当しないことが明らかとなったと言えようが、部門を超える異動も少なくないこと、事務系・技術系で差があるばかりでなく、事務系のなかでもまた技術系のなかでも部門によって異動の幅に差があることが示されている。こうした結果は、産業による違いであるのか、企業規模によるものであるのか業務部門や職務群によるものであるのか、いまだ十分検討がなされているとは言いがたい。また、得られたデータが示すキャリア形成の時期が持つ意味の検討はなく、その特徴は従来も現在も同じであることを意味するのか曖昧となっており、変化の有無を意識した分析が求められよう。こうした調査研究が進むことによって、どのような専門性がどのようなホワイトカラーにみられるのかが明らかになろう。このかぎりでは、専門性のなかでの幅広さと結論づけるには、いまだ部分的なデータにとどまっている。

キャリアに対する本人の意識

これらの個人調査は、キャリアをめぐる違いにもかかわらず、キャリアについての本人の意識についてはかなり共通した結果を明らかにしている。それは、これまでの自分のキャリアに多くが満足していること、自分はジェネラリストであると6割以上が考えており(産業労働調査所報告)、自分のノウハウは社会でも通用すると多くが考えている(鈴木論文)ことである。また、企業内で「余人に代えがたいキャリア」(電機労連報告)を積み、昇進したいという強い志向性を持っている(鈴木論文)ばかりでなく、「幅広い視野と人的ネットワークづくり」(電機労連報告)や「企業を超えた職業人としての自立」(鈴木論文)を求めていることである。キャリア形成への意識は、企業内でのある程度専門的なキャリア志向と特定の専門分野さらには企業性に縛られることのないキャリア志向とが同居していることを示している。特定能力を発揮することで企業内での保障を得つつ、同時に専門特化しない幅広さを求めており、処遇の「保障は捨てがたいし、自由にも憧れる」(神谷論文、電機労連報告)というアンビバレントな気持ちの存在が広く明らかにされている。

今後のキャリア問題や人事管理を考えるうえで、考慮すべき重要な意識状況が明らかにされたが、このような意識がどのような構造のなかで生じているのか、とくに人事管理との関連はどうなっているのかは不明である。他方で、今後はキャリアを自由に選択できるようにする人事管理が重要であるとの提案がなされているがキャリアの幅を広げ、選択できるようにするということが、こうした意識とどこまで整合的であるのか、とくにアンビバレントな意識状況にどこまで対応しうるものであるのかについての検討は不十分である。今後、企業調査とも併せて分析しつつ、賃金と処遇、それらとキャリア形成との整合性を含めて検討していくことが必要であろう。

異動、昇進と人事管理

次に、異動や昇進といったキャリア問題を、人事管理としてみた場合、どのような特徴がみられるのか、企業調査によって明らかになっていることを検討する。

日本労働研究機構(4)は1000人以上の企業640社(調査時点は平成2年1月)、日本労働研究機構(5)は300人以上の企業1010社(4年9月)の調査である。前者では、配置転換の目的は対象年齢によって差があり、若年ほど育成のための配置転換であり、かつ配置転換は若年ほど積極的にやろうとしていることが示されている。言われてみれば当たり前のことであるが、人事管理のスタンスとしてはこれが一般的であり、異動は育成ばかりでなくいろいろな目的で実施されている。後者は、その若年時の最初の異動が入社後3~5年で行われ、事務系では「仕事の変更を伴う部門間異動」が36%、技術系では「仕事の変更を伴う部門内異動」が26%で最も多く、入社後10年間ぐらいまでの方針としては事務系が「初任配属部門内のキャリア形成」が35%、「初任配属部門を基本にほかの部門も経験させる」が29%、「できるだけ多くの部門を経験させる」が27%で1技術系はそれぞれ47%、33%、9%としており、両者の間に異動の範囲について差があることを明らかにしている。そして、両報告書とも人事管理としての現実の配置転換は、「異動の力学」が大きく影響し、人事部門が考えているとおりにできるわけではないことを指摘している。さらに、昇進させるときに配置転換の経験の有無についてはほとんど考慮しておらず、9割の企業が能力・業績それ自体を問題にしており、異動の幅と昇進は直接関連しないという(日本労働研究機構(4))。

企業の人事管理の実態と方針としての異動や昇進は、言うまでもなく、キャリア形成を図ることのみが追求された結果ではない。環境に対応しつつ人事施策がとられ、社内事情等に影響されながら、企業が必要とする人材の確保・配置を図った結果である。川喜多論文も、上場企業498社のデータ(調査時点:平成3年7~8月)から、今までは異動のルールはなくて個別に対応していたのが実際で、今後ルール化しようとしていることを明らかにしている。そうであるとすれば、異動がどこまでキャリア形成たりうるのかという問題を考える必要があり、1領域中心の異動層がある程度存在しているにしても、仕事も部門も異なる部門に異動する2~4割の存在(日本労働研究機構(5))を含めた異動状況の示す特徴が明らかにされる必要があろう。小池論文は、アメリカのホワイトカラーの実態を描きながら、日本との差異が小さいことを示しつつ、日本のより遅い昇進と幅広い1領域型の利点をより立ち入って考察している(中村論文も同様)。異動の実態を丹念に調査しキャリア形成の特徴を解明することは重要ではあるが、他方でその異動・昇進がどのような人事管理の展開として行われ、キャリア形成を特徴づけることになっているのかを明らかにする調査研究が求められよう。これはホワイトカラーの人事管理の特質ばかりでなく、キャリアに対するホワイトカラーの意識の構造をさらに解明していくうえでも重要である。

異動・昇進をめぐる人事管理の近年の変化としては、同一年次の者がほぼ同時に昇進し個人間に差をつけない期間が短くなっていること(5年程度とする企業が63%。1987年の労働省調査では10年ぐらいが最も多かった)、役職昇進の年次間の逆転がかなり広がっている一方、昇進格差の拡大を専門職制度や資格制度の導入・活用で対処していること(以上、日本労働研究機構(4))、また専門を深めるよりもキャリアをより広げようとする動きにあること(中村論文:100人以上187社の調査、時点2年10月)が指摘されている。さらには、何歳ぐらいまで昇進に差をつけない管理をしているのかは企業によってかなり異なっており、人事労務管理部門が「ホワイトカラーにとって働きやすい、キャリア管理も充実している」と自己採点をしている企業ほど、異動する従業員の割合が高く、実力で差をつけたり早くから差をつける傾向が強い(川喜多論文)という。

専門性のなかで幅広いキャリア形成をしながら10年ないし十数年のところで昇進格差が生じていくというモデルに集約しえぬ動向が示されており、遅い昇進も変化のなかにある。昇進格差のありようとそれへの対応も企業によって多様であることがわかる。近年の動向をさらに精査するとともに、なぜこうした事態が生じているのか、人事管理との関連、管理施策を規定する要因等との関連を明らかにする調査研究が必要となっている。

昇進と職務異動の構造

日本労働研究機構(1994)は、大変注目される調査である。日本の代表的重工業企業(従業員3万5000人)の男性事務・技術正社員7937人の昭和62年までの人事データを分析し、ホワイトカラーの異動・昇進の実態を明らかにしている。事例の特徴をどのようにとらえ、そのバイアスをどのように理解するかという問題が残されているが、代表的な日本の大企業のデータを利用してキャリアをめぐる構造を全体として明らかにしたという点で、きわめて重要な調査研究である。

この文献は、昇進競争が一律年功型、昇進スピード競争型、トーナメント競争型の3種のルールによる構造をなしていることを明らかにしている。職務異動については、技術系は若年時に職務内異動を多く経験し勤続が長くなるにつれて職種間異動が増える、事務系はキャリア段階による変化はあまりなく職務内も職務間も同程度に異動する、管理職(部長)は一般にジェネラリストとは言えず、特定職務を中心にキャリアを積んできた人も多種の職務を経験してきた人もいる、といった傾向がみられるものの、全体としてキャリアを通じた職務の関連性はさまざまで異動構造はファジーであるという。職務異動は、増員・欠員補充の組織要請や昇進構造を維持する処遇面での配慮など「日本的雇用ルール」に強く関係しているからである。段階的選抜システムと職務異動の不明確さは、1975年以降、環境変化に対応する人事施策によって組織と人員の多様な調整を図ってきた結果であり、「終身雇用と年功制の維持」、「長期的な視野に立った人材育成を可能にしてきた」が、「より多くの人材を育成する反面、中高年層の無駄遣いに帰結する」という大きな問題点を持つとしている。そして、今後、係長時代(30歳代)に専門職を含めた多彩なキャリアを選択できるようにする必要性を指摘している。

この研究は、異動・昇進の実態全体からキャリアの特徴を明らかにし、人事管理施策の展開による異動・昇進の構造を示した。事例の特徴を十分考慮して理解することが必要であるが、異なるタイプの企業についてもこのような研究が蓄積されていくことによって、キャリアと人事管理の研究は大きく前進していこう。

人事管理の諸問題

最後に、キャリア問題以外について、若干紹介する。

ホワイトカラー労働条件問題研究会(1993)は、ホワイトカラーの今後の労働法制・施策を探ることを念頭に、その人事管理、賃金制度、労働時間、生産性等について検討している。ジェネラリストという観点から、ホワイトカラーの高齢化に伴う問題封鎖された内部労働市場要因から生じる労働条件の問題状況を整理している。高田論文は、最近、能力主義と個人主義の人事管理が登場しつつあるとし、個人のキャリア選択の余地が狭く会社人間をつくる日本企業の人事管理に個人の自由の進展可能性を指摘する。前述したように、ホワイトカラーはアンビバレントな思いのなかで「自由」をみており、人事管理として多様な選択が可能となる能力主義、個人主義がホワイトカラーの求める「自由」にどこまで沿うものであり、またそのニーズに対応するためにどのような問題があるのか、先進事例からの論点提示にとどまらず、人事考課や業務実態などの本格的な調査が必要である。

賃金問題では、近年、年俸制の導入がかなり話題になったが、事例紹介が多い。年俸制の実施によって具体的にどのような問題が起こっているのか、調査は今後本格化するものと思われる。出向等については、好景気下でも相当数の出向が存続していたことなどの状況についての調査が行われたが、その後の不況によって出向をめぐる動向は大きく変化していよう。

討論

職務区分の平準化

八幡

ホワイトカラーのキャリアについて、この間各種調査が出ていますが、サーベイして調査上の問題として感じたことを指摘したいと思います。

一つは、キャリア・データを比較するときに、何を比較しているのかが曖昧なケースが多いことです。つまり、職務区分をどのように平準化して比較するのかという問題に行き着くのですが、たとえば、事務系、技術系と専門分野を分けても、職務範囲や権限を平準化して比較しないとキャリア・アップする異動なのか、単に仕事の幅が広がっただけなのか判断は難しい。管理職処遇の課長といっても、製造部門のようにたくさんの部下を抱えるライン課長もいれば、企画部門のようにごく少数の部下しかいない場合もあるし、スタッフ管理職の人もいる。そういう人を課長ということで同じ職位グループとして扱うことが妥当かどうかということです。

また、職務の変化を計量化するのも、非常に難しい。たとえば、営業部門といっても、営業企画から第一線のセールスまで職能の異なる人材が集まっている。営業活動自体も、販売促進やプロジェクト企画に重点を置く総合商社的な営業活動から店頭販売や訪問販売に近いものまであるわけで、これをどう整理するのか。

さらに、業種特性による違いについての議論があまりないが、第3次産業、とくに金融。保険業のキャリア形成の考え方と製造業のそれとでは随分違う。特定企業に限定すればそういう議論は起こらないが、そういう問題が調査上の問題としてかなりある。

それから、橋元さんもご指摘のように、人事制度とキャリアとの関連性、とくに賃金とか処遇との対応を明らかにする必要がある。私もそれには賛成です。今の職能資格制度による状況では職位よりも、むしろ賃金のほうがインデックスとして有効だと思います。ただし、物価上昇分を実質化するような操作が必要ですが、賃金水準で相対的にどういう位置で処遇されていた人なのか、データを得るのが大変だと思うが、そういう視点からキャリアをみていったらどうなのでしょう。

それから、非常に気にかかるのは歴史的な背景です。経済変動によって企業の人事労務管理制度は変わるし、さらに新規事業部門ができたり、多角化で既存部門を分離したりといった組織変更も頻繁にある。また、組織の編成原理が時代とともに変わってくる。昭和40年代に職能資格制度が導入される過程では、「動態的な組織をどうつくるか」という議論もかなりあった。フラット組織を狙いとして、課制廃止とか、プロジェクト・チーム方式の公式化とかの議論です。そういうときのキャリアをどうみるのか。この議論が抜けると、日本企業のホワイトカラーのキャリアはみえてこない。なかでもエンジニアのキャリア形成では、どのようなプロジェクトに参加してきたかとか、生産子会社の生産立ち上げのために応援に出た経験があるかといったことのほうが、他部門への異動よりも大きな意味を持っている。

それから組織運営にかかわることですが、日経連の職務分析センターの調査(「人事・賃金制度と職務分析に関する実態調査」1988年)によると、職能資格制度を厳格に運用している企業は2~3割にとどまる。職務遂行能力や業績を厳格に評価して運用すると職能資格制度のもとでも賃金格差は非常に大きくなるし、相当早いうちに個人間の賃金にも開きが出てくるので、そのような企業では当然、キャリアにも差がついてくる。労使関係とか、職場秩序とか、あるいは会社自体の歴史などの理由から厳格な運用ができなかった企業では、課長相当職まではスピードに若干の差はあっても、ほぼ昇進させてきたのが実態だと思います。

川喜多論文でも強調しているように、「企業によってそんなのは違うじゃないか」という論拠になってくる。職能資格制度の運用方法によって、個人間でかなりの格差が累積するとの、賃金プロファイルによる分析結果も出ています。ホワイトカラーのキャリアに注目するとき、職能資格給がどう運用されてきたのか、セットで議論しないと、展望につながらない。

キャリア管理における人事部門からのコントロールの強さは、強くないという議論もあるし、強いという議論もあるが、私は後者を支持します。日本企業の人事部門は、人事考課でも全体をプールして調整を加えたり、昇格・昇進適齢年次者を選んで年次による昇格・昇進を考えたりしており、とりわけホワイトカラーは本社管理で人事部門が調整するのが一般的ですから、その辺はアメリカとかヨーロッパの企業とだいぶ違うと思います。人事部門のコントロールの強さについて、ヒアリングで断片的に聞いたことはありますが、本格的な調査はまだ出ていないと思います。キャリア形成を考えるにしても、これは企業戦略によって随分変わるわけですが、どういう人を育てたいのかによってプログラムは違ってくる。CDP(Career Development Program)が議論されたときにはそういうことが前面で議論されたわけですが、どうもそういうのを全部捨象して、後追い的に結果としてこう企業内で異動してきましたというのをみてキャリア管理の議論をするのは、論点が弱い感じがします。

職務によるキャリアの差

橋元

事務職と技術職の間にかなりキャリアに差があるのではないかということについては、今はどの調査でも大体意識してやるようになっていると思います。そして、かなり差があるというケースもあれば、ほとんど差がないというケースもあって、そう単純にはいかないのかもしれません。傾向としては、異動範囲は技術系のほうが狭く、事務系のほうがやや広くなっています。ただ、事務系も従来ジェネラリストというふうに認識されていたほど、異動範囲は広くないとする認識は広がってきました。ただ、八幡さんも指摘されたように、たとえば運輸業とか金融業においてはかなり異動の範囲は広いということが、(5)日本労働研究機構(1993)でも一応指摘されてはいます。しかし、あまりそういう業種の違いというのが明確に分析されてはいません。データとしては差のあるものが順次出てきておりますので、私も八幡さんが言われたように、業種による差異をきちんと明らかにしていくということは必要だと強く思います。

また、そもそも職務をどうくくるのかというところをもう少しきちんとやったほうがいいというお話がありました。それはおそらくアンケート調査という方式になるとかなり制約を受けるということはあると思うのですが、ただ、この間は比較的そういうことをそれなりに意識して14とか15とかというぐらいまで一応ブレークダウンした形で聞くということでは、従来の職種によるアンケート調査よりレべルがかなり上がって、精度が上がってきたということは言えるのではないでしょうか。アンケート調査という手法からいくと、それ以上の具体化は難しいと思います。それをカバーするには、事例調査の積み重ねが必要であり、アンケート調査でも集計・分析で工夫していく必要があるという気がします。

さらに歴史的な変動の問題をどう考えるかということですけれども、アンケート調査で時系列的にデータを追いかけていくということは非常に難しいわけです。これも、事例によって研究していくしかないだろうと思います。そういう点を考えたときに、今田氏たちがやられた調査(日本労働研究機構、1994)は非常に画期的なものだと思います。この調査では時系列的にも追いかけていて、1975年の前後で異動の違いがあるかどうかということをチェックしています。そして、基本的には違いはなかったということが出ており、だからその事例は問題があるんだという見方もあるでしょうけれども、異動によるキャリア状況そのものには変化はなかったとしています。

それから、この調査は特定企業のデータによる分析ですから、職務の変化というものを当然考慮に入れた職務区分が行われており、そういう意味からもこれはかなり精度が高いということになります。事例が重工業の日本の代表的な企業であるということから、従来型の日本的雇用慣行というものがキャリアとの関係でどうなっているのかということで、大変優れた指摘をされているとは思いますが、たとえば金融業と比較するとどうなるかと考えれば、相当違う面もあると思います。そういう意味でアンケート調査で出てきた違いのある職種および業種でこうしたデータ分析が積み重なっていけば、日本のキャリアと人事管理の調査は画期的に進むと思います。

福原

こういう調査をするときに労働問題研究者であればその専門の立場から調査を当然やっているわけですね。そうすると、企業というのは一定の職位あるいは職務の区分とか、そういうものが必ず固定的に存在しているという前提に立ってみている場合がかなり一般的だと思うのです。しかしながら、企業組織論あるいは組織イノベーションなどの視点をもう少し取り入れた形での調査というのが必要ではないかと思います。

それは、たとえば企業組織、基本的にはヒエラルキー的な組織をべースとして存在しているわけですけれども、今日やはり経済の変動が非常に激しいなかで、実際フラット化している企業組織もありますし、それだけではなくていわゆる企業有機体というか、そういう概念でそのときどきの市場動向に合わせた形で企業の人事構成なども変化させていくというような発想がかなりあると思います。

したがって、キャリアを積みそれをふまえて管理職に昇進していくというとらえ方だけで考えられないようなキャリア形成や人の異動も多分にあると思います。そのあたりの問題に対応できる調査の方法を考えることが、多分今後問われてくると思いますね。

組織ニーズとキャリア形成ニーズのマッチング

橋元

私も強調しましたけれども、人事管理という観点で調査をしていくとそちらのほうがはっきりみえてくるのですね。そうしますと、たとえば川喜多論文もそうでしたし、今田氏の調査でもそうですけれども、要するにそれほど整合性のあるキャリア形成をしているわけではないということが一方で出てくるわけです。

たしかに、ある一定の専門性のなかでの幅広い異動がある部分は存在している。しかし、ではそれがルールとしてやられているのかというと、それは結果としてそうなっている部分もあれば、結果としてもそうならないケースも少なくないということが出てくる。両方が出てくるわけです。今田氏によれば、そうした状況は、結局、組織を維持していく論理といいましょうか、昇進をそれなりに図ることによってやる気を持続させて組織を維持していくことから生じています。3層構造のなかで競争しますが、みんなが昇進し、さらには一部が昇進していきますが、昇進にあたってはその人のキャリア形成から必要になったポストにつくのではなくて、空いているポストとか、組織が拡大したことによって出てくるポストとかについていくことになる。

管理職になって異動がより多くなり、なおかつそれは必ずしも従来のキャリア形成と直接結びつかないようなランダムな異動になってしまうことも多い。それは組織と人員の調整メカニズムが機能してきたことに対応した結果であり、そのことがたしかに高いパフォーマンスを組織に与えることになる。しかし、個人のキャリア形成という観点でいくと必ずしも系統性があるわけではない。そのため、それ以上の昇進が難しいと分かり、組織においてそれが明らかにされたときには、すでに課長層・次長層であるので、その後のキャリア形成は非常に困難になってしまうということを指摘しています。

ですから、組織にとってこういう選抜方式のなかで異動が行われ、昇進をしていくということでパフォーマンスが高くなり、組織が維持・拡大されていくという問題と個人にとってキャリア形成がなされ、その個人のキャリア形成が組織のパフォーマンスとして高くなっていくということとは異なる問題であることを明らかにしているわけです。

八幡

でも、それは一面的すぎる。現実には、たとえば開発担当のエンジニアが購買部門に異動するようなケースでは、本人は希望もしていないし、原価管理などは全然興味がなくても、購買部門に移ったことによって、経験のないチャレンジングな課題を無理やり与えられるわけです。それで、能力も開発され、何年か経ってみたら、専門技術も分かるし、購買管理もできる購買のプロフェッショナルな人材に育っていた。本人の希望は開発畑でずっと活躍したいと思っていて、望んでいなかった人事異動であったとしても、そんなケースは多い。定年後の再就職の場面では、そんな優秀な購買屋さんだったら引っ張りだこになる。そのような組織のパフォーマンスを優先した異動であっても本人のキャリア形成にはつながりうる。

だから、「個人がすべて自分で選択していかないとだめなんだ」という前提に立てば、組織効率と個人のキャリア形成のゴールは一致しない可能性が高い。しかし、それを自己申告制度などを駆使して、どう統合してゆくかが人事労務管理の課題でもある。確かに世の中の動きは、個人のニーズを重視する傾向が強まっているが、組織ニーズとキャリア形成ニーズとのマッチングをどう図るかが重要なのだと思います。

橋元

個人が望むキャリア形成を図るべきとのみ言っているわけではありません。組織にとっても従来のそういうやり方では中高年のキャリアの扱いに対応できなくなってきていることを指摘しています。ですから、組織もそれへの対応を早期にすることが必要になっており、選抜なり、キャリアを選べる時期をもっと早くしていこうという動きが当然出てきているわけです。そうした状況に、能動的に対応しようということになると思います。

複線型人事管理は存在するか

福原

多分そこで複線型人事管理が一つの焦点になってくると思うのですが、モデルとしての複線型人事管理というものは存在しうるのですか。業種によってキャリア形成の仕方は違うという問題はありますし、企業がどういう経営戦略を持つかによってもかなり違うという問題があるわけでしょう。確かにそういう変化に対応し、あるいは中高年の過剰という状況をうまく企業としてクリアしていく、しかも個人のニーズに合わせたキャリア形成というものによって、一般論としての複線型人事管理が提起されています。確かに研究者としては、一つのモデルとしてこういうものがあるというのは提起できるにしても、具体的に企業レベルでそれが実施される段階でこれが同じような形で適用されていくというのはありうるのですか。

橋元

専門職制度の内実を築き上げていくということの重要性は、何年前から強調されているのでしょうか。相当長い期間にわたって強調されていますが、本格的にそれに着手して、モデルになりうるような複線型をつくり、しかも従業員がそれを積極的に受け入れていく状況になっているケースは非常に少ない。相変わらず不足するポストへの対応としての専門職制度的運用という傾向が強い。そういうなかで複線型がいいのか、それとも最初はみんな専門職として処遇し、そこから分かれていくというスタイルがいいのではないか、といったことが議論されており、模索をへて、今後、新制度が次々と打ち出されてくるでしょう。

福原

最初は専門職?

橋元

全員が専門職になり、そこからマネージャーとなる人も出てくるという形ですね。場合によれば、また戻ってきて専門職ということもありうる。また、ラインは部長のみにして、従来の課長相当職は専門職のプロジェクト・リーダーとして機能させるという動きもみられます。また、これらが組み合わされているケースもあります。現在、こうした動きも含め、新しい人事システムをつくり出していこうという動きがあります。しかし、その辺の調査はほとんど進んでいないのが実情です。従業員の意識は、やはりより上位のラインの管理職へという志向が6~7割と多数を占めています。若年になればもう少し専門職という志向性が出てきますけれども、従業員の意識はそう大きく変わってはいないように思います。

キャリア形成の問題と絡めて考えれば、専門職制度などばかりでなく、キャリアの選択につながる制度、たとえば自己申告制度などの実態調査もまだ非常に少ないですね。制度の事例が紹介されるレベルにとどまっていて、その実態についてはほとんど明らかになっていないと思います。今後はそれらの調査も進められる必要があるでしょう。

キャリア・ルート設定の問題

八幡

キャリア形成の問題を議論するときに、キャリア・ルートの設定が、鉄鋼・造船など重工長大型の成熟した産業で、余剰人員を抱えている場合と、半導体とか、情報機器関連の産業のように、成長中で空席ポストの多い企業では、かなり質的に異なっていることを認識すべきです。何度も不況を経験したり、構造不況業種に指定されたような業種の企業では、高度成長期に大量採用したが、ここ何年も採用を抑えてきた企業が多いので、半導体・情報機器関連とか、スーパーマーケットやソフトウェア会社などのように、人員を急増させている業界とではキャリア形成も質的にかなり違ってくる。

戦前の東大工学部卒銀時計組の人たちには、欧米企業のファースト・トラックと同じように、就職して最初から工場長といったキャリア・パスもあった。今でも一部の外資系企業では、そのようなキャリア組を育てている。それに対して、高度成長期以降に大卒を大量採用し、事業規模も拡大してきたが、安定成長期に成長が停滞し始めたため、採用抑制を続けて、その結果が大量採用時の人たちのダンゴをつくってしまった企業とでは、ホワイトカラーのキャリア問題といっても質的に違うと思います。

人がいなくて、課長が部長や次長の仕事を兼任しているような企業では、昇進していく人の異動の範囲も広いし、短期間で昇進してゆく。構造不況で成長が止まり管理職ポストに空席がない企業では、その下の優秀な人が管理職適齢期になると、ポストが空かないので当面はスタッフ管理職として処遇するといったことが行われてきました。

さきほど橋元さんが強調されていたように、キャリアの組み方は人事管理との絡みで随分違ってくる。ところが、高度成長期に入社した当時の大卒者と、最近採用された人とでは昇進の天井も違うのだが、特定企業だけに注目して分析していると、その辺がみえてこない。つまり、長期でみていくと今度は経済変動とか、企業の成長の要因が強く作用して、キャリア形成の姿がみえにくくなるといった側面がある。したがって、キャリア・データを時代背景まで捨象して基準化し分析することには、かなり抵抗があります。

文献リスト

  1. 産業労働調査所「団塊世代の部長および課長のキャリア形成と仕事に関する調査─ホワイトカラー1600人のワーキング・スタイル」『賃金実務』674号、1992年。
  2. 電機労連企画調査部「事務・技術労働者の移動とキャリア形成に関するアンケート結果報告」『調査時報』電機労連、258号、1992年。
  3. 佐野陽子ほか『多層化するホワイトカラーのキャリア』高年齢者雇用開発協会、1993年。
    1. 川喜多喬「ホワイトカラーのキャリア管理の現状と課題」佐野ほか前掲書。
    2. 鈴木不二一「社内キャリアと職業生活」佐野ほか前掲書。
  4. 日本労働研究機構『大企業ホワイトカラーの異動と昇進』(調査研究報告書No.37)1993年。
  5. 日本労働研究機構『大卒社員の初期キャリア管理に関する調査研究報告書』(調査研究報告書No.44)1993年。
  6. 小池和男『アメリカのホワイトカラー─日米どちらがより「実力主義」か』東洋経済新報社、1993年。
    1. 中村恵「ホワイトカラーの労務管理と職種概念」橘木俊詔編『査定・昇進・賃金決定』有斐閣、1992年。
    2. 「ホワイトカラーのキャリア形成と生産性」『関西経協』47巻9号、1993年。
  7. 日本労働研究機構『組織内キャリアの分析』(調査研究報告書No.58)、1994年。
    1. 労働問題リサーチセンターホワイトカラー労働条件問題研究会『ホワイトカラーの労働条件をめぐる諸問題』1993年。
    2. 笹島芳雄「ホワイトカラー労働研究会報告にみるホワイトカラー労働問題の焦点─賃金制度、労働時間、生産性問題を中心に」『労働法学研究会報』44巻35号、1993年。
  8. 高田一夫「ホワイトカラーの人事管理の変貌」『大原社会問題研究所雑誌』422号、1994年。
  9. 居樹伸雄「新処遇システムの特色と課題─年俸制と実力処遇の試み」『労働と経済』940号、1991年。
    1. 永野仁「企業リストラ時代のグループ経営の進展と人事戦略─出向・転籍の傾向と課題を中心に」『労働法学研究会報』44巻8号、1993年。
    2. 「現下の企業グループ内人材移動」明治大学『政経論叢』61巻5・6号、1993年。
  10. 原田行男「グループ経営と出向制度に関する現状と課題─実態調査からの知見」『Business Research』818号、1992年。

女性労働

論文紹介

福原

女性労働では、キャリア形成・コース別人事制度、管理職への昇進・昇格をめぐる問題、パートタイマーの多様性と共通性に関する議論、そして最後に女性の就業選択に関する調査の4つのテーマを取り上げます。

従来の研究動向をみると、女性のキャリア形成についてはかなりの調査が蓄積されてきました。これに対し、近年、一つは経済不況に伴う女性の就職難の深刻化、もう一つは職場での男女の処遇の平等化が予想に反して進んでいないという二つの問題が指摘され、このなかで調査研究の動向も少し傾向が変わってきていると思います。そういう流れに沿って、以下ではいくつかの調査研究を検討していきたいと思います。

女性のキャリア形成とコース別人事制度

女性のキャリア形成については、脇坂氏の著書をまず取り上げたいと思います。著者はいくつかの業種の課・係からなる職場に焦点を当て、手堅い調査に基づき、女性のキャリア形成のあり方によって職場類型を抽出しています。すなわち、男性独占型、女性独占型、男女同等型、男女分業型、そして最後の二つの中間型(中間型についてもさらに2類型)の五つです。それぞれの類型は興味深いものですが、類型化を基礎にして女性労働を分析していこうという方法も大きく評価できると思います。なぜなら、研究者間の女性のキャリア形成をめぐる議論では、それぞれの研究者が前提としている産業や業種が異なることから、ややもするとすれ違いの議論がなされることがあるし、類型化によりこうした混乱は避けることができるからです。

ところで、こうした類型の違いが生じる理由について、脇坂氏は男女同等型職場についてはイノベーション仮説で説明し、男女分業型職場は統計的差別理論で説明しようとしています。職場の類型化だけではなく、そうした違いの生じた理由にまで深く立ち入って分析をしたという点で貢献は大きい。しかし、その視点は、いずれも企業側が女性労働力に対して統計的差別という認識を持っているか否か、あるいはその認識が変化していくことによって説明しようとしています。実際には、個々の企業や業種の「仕事の質」とコストの視点から女性労働力を活用するかどうかを決定するという側面もあるのではないかと思います。

とはいえ、著書は女性のキャリア形成を職場レベルで観察し、それを類型化するということで、これまでの女性キャリア形成研究の一つの到達点を示していると思います。

脇坂氏は、もう一つの論文でコース別人事制度が女性労働力の活用の面でうまく機能しているかどうかを検証しています。男女いずれも採用時と採用後では潜在能力が変化し、採用時にコースを決定してしまう制度が効率の側面からみて欠点を持つと言っています。そして、それを克服する手段としてのコース転換制度についての調査がなされ、結論として、「コース転換制度は、キャリア・アップの要にとどまるだけでなく、一般職の底上げによって、自ら転換制度の必要性をなくし、全体として昇格制度のなかに解消されていこう」と主張している。同じ主張は、1988年の小池論文(小池・冨田編『職場のキャリアウーマン』)でなされ、脇坂論文は小池氏の主張を調査に即して補強したという関係にあります。

脇坂氏の女性のキャリア・パスについての考え方の基本は、「女性は仕事が充実しているほど定着志向が強くなる」とするものです。また、使用者の統計的差別を克服する手立てとして、一方でイノベーターの存在に期待しつつ、他方でキャリア・パスのための制度の確立(たとえばコース転換制度)を図る必要性が強調されました。

ところで、これに関連して、近年、二つの調査動向があらわれています。一つは、コース別人事制度の欠点をさらに多岐にわたって調査したり、また廃止への動きを検証するもの。もう一つは、女性のキャリア形成に関する議論の前提として、これまで統計的差別理論を前提としてきたが、それだけでよいのだろうかという議論があらわれている。これに関する調査をいくつか拾ってみたいと思います。

中村論文は、総合職を対象とした調査である21世紀職業財団『総合職女性の就業実態調査結果報告書』(1994年)を使って、以下の諸点を発見しています。[1]女子の管理職は中堅・中小企業が多く、係長など管理職位の低いところで多い。しかも学歴の中心は高卒である。[2]総合職は大企業にあてはまる概念であるが、大企業に女性管理職が少ないことは、総合職が女性の有効活用として生かされていない。したがって、[3]コース別管理については、コース別管理制度が女性管理職育成にとって欠点を持っている。すなわち、入社時に不確実な将来の選択をさせることになり、それが総合職を選択する女性の少なさや、予想外の離職を生んでいると分析しています。中村氏は、コース別人事制度の廃止とまでは言わないが、管理職の育成には関連した職務群の経験=キャリア形成が必要であることを強調し、これは脇坂氏の主張と重なります。

大沢真知子論文は、近年の女性の就職難をふまえて、その理由を「女性労働者の景気調整弁的な役割という議論」だけに解消せず、むしろ経済の構造変化のなかで企業の高学歴女性の採用方針に質的な変化がみられる点に注目しています。大沢氏はマクロ的な統計データを駆使して近年の就職戦線の変化を[1]短大卒や高校卒に厳しく、[2]総合職よりは一般職に厳しいと分析し、そのなかに企業の女性採用に質的変化を読み取ろうとしています。そして、日興証券人事課長の話を引き合いに出しながら、従来の一般職の仕事がより専門化することによって総合職と一般職の区別が消滅していくとまで主張しています。企業は女性の大卒の採用に関して少数精鋭主義をとり、他方、これまでの一般職の仕事を非正規従業員に代替させる方向へ向かっているという。コース別人事管理は消滅すると同時に正規従業員・非正規従業員の間の身分差・分断、すなわち女性労働者の二極分化がさらに進むのではないかとみています。

このようなドラスティックな変化が急激に起きるとは思えませんが、コース別人事管理の見直しが一部の企業で始まっており、それが女性労働市場全体の質的変化に影響しているとする仮説は長期的にはあてはまるかもしれません。

次に冨田論文を取り上げますが、彼は「統計的差別理論を越えて」と題する問題提起から論文を始めます。そこでは、統計的差別理論をふまえた、職場における女性の人材育成に関するこれまでの雇用制度の議論を三つに整理しています。すなわち、[1]企業が女性活用を目指した雇用管理をすることが女性の定着率を高める、[2]潜在能力の高い女性労働者を選抜する方法としてのコース別人事制度の合理性を説明し、[3]女性が男性同様に長期勤続することが可能となる制度としての育児休業制度の導入の必要性を重視することになったと。

これらの制度の充実を評価したうえでなお、冨田氏は労働省『女子労働者労働実態調査』(平成2年)によりながら、「企業にとって望ましい女子労働者の勤続年数を実現するために、結婚あるいは出産退職の慣行を使って女性労働者の勤続年数をコントロールしている」事実に注目する。続いて連合総研『仕事と職場環境に関する調査』(平成3年)を取り上げ、「上司」「仕事のやりがい」「人事考課の公平さ」などの職場環境に関し、男子に比べて女子の満足度が低くなっていることを明らかにしている。そのうえで、「仕事のやりがい」に注目して、補助的・定型的業務の女性に対する新しいキャリア・コースの必要性が強調され、これは暗にコース別人事制度への批判を含んでいると思います。

このように、脇坂氏、中村氏、大沢氏、冨田氏それぞれの分析視点は異なるわけですが、コース別人事制度の問題点を指摘し、さらに論者によってはこの制度の廃止まで求める、あるいはその方向へ進むという主張までなされています。しかし、こうした議論は、さきのホワイトカラーのキャリア形成のところで議論になった複線型人事管理とか専門職養成といった議論とどのようにかみ合うのかあるいは整合性を持つのか、この点は今後議論すべき課題として残ると思います。

それから、冨田氏の議論に戻るのですが、彼は、企業による恣意的な女性の勤続年数コントロール、「上司」や「人事考課の公正さ」への女性の不満を指摘しながらも、その問題について深く追求していないのが気にかかります。しかし、この問題をとらえようとする調査がいくつかみられるので、次にそれをみていきます。

管理職への昇進・昇格

八代論文の中心的関心は、これまで十分に明らかにされてこなかった人事管理部門の役割を明らかにしようというもので、それに成功していると思います。彼はそのうえで、今後の課題として次の点を指摘しています。女性従業員が管理職に昇進するためには、同一企業に勤め続けることが必要であるが、その可否は人事部門の機能もさることながら、一つは上司の女性に対する行動によるところも大きいと。大手小売業は女性管理職育成の点で相対的に積極的であるが、この業界においても「上司」によって左右されるところが大きいという指摘は興味を引きます。

統計的差別理論を前提とした雇用制度の実施にもかかわらず、昇進・昇格での女性差別が残っており、その背後に「上司」や「上司による女性への査定」の問題が存在すること、それに注目した調査がいくつかみられます。

遠藤論文は、一方で労働者生活にとっての査定の意味を問い、他方では、能力主義の公正性を保証するものとして査定をとらえる考え方への批判として書かれたもので、性と信条についての差別実態を調査しています。

ここでは、このうち性差別についての部分についてのみ言及しようと思います。遠藤氏はケース・スタディにもとづき、女性労働者と男性非労働組合員の間で熟練度または生産性に顕著な差がないと推測されるにもかかわらず「査定分」に差が生じ、それが長年にわたって累積する様子を明らかにしました。

この種の調査は、使用者の差別的意志が査定にあらわれるとしても、それをどこまで数値として把握できるかという点で、慎重でなければなりません。しかし、こうしたケース・スタディにもとづく調査研究がこれまで十分になされてこなかったという点で、この研究はパイオニア的な意義を持つと思います。また、この研究は女性労働者に対する差別を単に統計的差別理論だけでは説明できないことを実証的に明らかにしたという点でも評価できるでしょう。

燈田論文は短いものですが、大企業男性管理者に対しアンケート調査を実施し、その価値観を探っている点で興味深い。男性管理者は「不測の事態に対処できる危機管理者としての能力」や「勇気を持って業務や行動の革新を計画し、部下からの提言を受け入れる」などを管理者能力とみなし、「女性管理者はこれらの能力が男性管理者に比べ劣っている」と考えていることを明らかにした。この調査では、男性上司が女性の部下を管理職に昇進させることに対し、排除の論理があることをきわめてストレートに明らかにしたという意味で興味深いと思います。

以上、近年の女性正規従業員をめぐる調査動向をサーベイしましたが、そこで感じた点をいくつか整理します。

第1に、従来女性のキャリア形成のあり方を探る研究調査が主流でしたが、脇坂氏の著書はそうした流れの一つの到達点を示しているものとして評価できると思います。

しかし、第2に、こうしたキャリア形成に関する多くの調査がおしなべてコース別人事制度の欠点を指摘し、あるいは全体としての昇格制度への転換が主張されていますが、実態として多くの企業でそのような動きが出ているのだろうかという疑問が残ります。

第3に、こうしたキャリア形成を中心とした調査研究に対して、異なった視点からの調査が出てきているということです。すなわち、女性に対する「査定」のあり方や「男性上司」の価値観そのものを改めて問題にするというものです。

そして第4に、従来女性の雇用管理は統計的差別理論を前提にしたうえで提起されたものが基本でしたが、近年はそれとは別な差別の論理があるのではないかという点、すなわち性別役割分業に基づく男性管理者(あるいは広く男性)の差別意識を読み取ろうとする調査があらわれてきていると思います。

パート労働

次にパート労働に関する調査に移ります。パート労働についてはまず労働省が実施した実態調査があります。これは近年では最も包括的な調査ですが、これを素材として、あるいはこれを活用した分析がいくつかなされています。その一つに仁田論文がありますが、ご存じのように、氏のパートタイム労働の類型化とその概念規定をめぐってその後大沢真理氏との間で論争(?)が起きました。このパートタイマー理解をめぐる論争は、直接には労働調査からはずれるものですが、パートタイマーの実態把握・調査のあり方とかかわるものだと思いますので、取り上げたいと思います。

労働省調査は、「事業所が正社員以外でいわゆるパートタイム労働者的扱いを行っている者」を「いわゆるパート」と呼び、「いわゆるパートのうち一般の正社員より所定労働時間が短い者(いわゆるパートのうち短時間労働者)」を「Aパート」、「いわゆるパートのうち一般の正社員と所定労働時間がほぼ同じ者」を「Bパート」と類型化しています。

パートタイマーの働き方はきわめて多様ですが、こうした多様性を実態調査にもとづいて類型化しようとする研究が一つの流れとなっています。たとえば中村圭介氏は1990年に4類型(「短時間短期型」「短時間長期型」「長時間短期型」「長時間長期型」)を提示し、さらに佐藤博樹氏も91年に別な4類型(労働時間と配置業務および技能水準から類型化した「長時間基幹パート」「長時間補助的パート」「キャリアパート・専門パート」「短時間補助的パート」)を提示しました。

さて、仁田論文ですが、ここでは日本のパートタイム労働者が、国際的な常識でのパートタイム労働者と比べ、その定義が異なっていることに注目し、わが国に多い「疑似パート(労働省の言うBパート)」の「パート」性を検討し、他方同じく日本に多い「被扶養パート」に注目してその「労働者性」を問題として取り上げました。すなわち、こうした日本特有のパートタイム労働者の機能・役割を問題にしたと言えます。そして「疑似パート」については分析の結果、実質的な労働供給量と密接にかかわって賃金および賞与が支払われているとして「本来のパートタイム労働者より、一般労働者に類似していると言えそう」と結論づけています。他方「被扶養パート」については100万円の壁という課税制度がパート労働者に「就業調整」という行動を引き起こしているだけでなく、労使双方に能力開発へのインセンティブを与えないとしてその問題点を指摘しました。すなわち、国際的な常識ではとらえられない日本の特殊な側面、「疑似パート」と「被扶養パート」を抽出し、その労働市場における機能を検討したわけです。

これに対し、大沢氏から[1]疑似パートの位置づけ、[2]被扶養パートは本来のパートと言えないか、[3]人びとは「自由な選択」によってパートタイム労働者となるのかという問題提起がなされ、直接に仁田論文を批判の対象に取り上げました。

第1の疑似パートと短時間パートの間の賃金水準の比較方法をめぐる議論については、今後、方法論自体を吟味する必要があります。第2、第3の論点については、両者の間にはパートタイマーの実態把握に対する基本的な視角が異なっていることを指摘するにとどめておきたいと思います。仁田氏の場合、すでにまとめたように国際的に定義されたパート労働者の概念と比較してそれに含まれない「パート労働者」の多様性を指摘し、同時にそれらの「パート労働者」の持つ機能・役割そして問題点を明らかにするという、いわば労働市場の機能的な側面からパート労働者の抱える問題をとらえようとしています。これに対し、大沢氏の場合はパートタイム労働の実態のなかに性別役割分業の再生産過程をみいだそうとし、いわば本質論を展開しています。この論争は、仁田氏の実態分析に対し、大沢氏が批判を加えるという形で展開されたわけですが、大沢氏の問題提起が重要なものであるとしても、仁田氏の議論に対してはきわめて外在的批判であり、また仁田氏の議論の意味が十分にくみ取られていないように思えます。

三山論文は、同じく労働省調査を中心にパート労働を論じたものですが、パート労働者の持つ多様性と共通性という両面についてきわめて要領よく整理されております。

さらに、日本労働研究機構の調査報告書を取り上げます。これは、パートタイマーなどを広く非典型労働者としておさえることがややもすると「典型労働者」に比べてマイナスイメージをもってとらえられがちなのを反省して、「時間給労働者」という概念を使っています。意図は十分くみ取れるのですが、もう一つ説得力に欠けるようにも思えます。

第2章の神谷論文では、「就業調整タイプ」と「非就業調整タイプ」のパートタイム労働者の行動様式が調査分析されています。さきの仁田・大沢論争で問題となった「被扶養パート」の行動が明らかにされ、そのうえで税・社会保険制度の個人単位での適用の必要性が強調されています。

第3章の林論文では、卸売・小売業、飲食店、サービス業等でパートタイム労働者を基幹的・恒常的労働者として位置づける傾向を発見しています。本田論文もまた、基本的にはこれと同じ事実を発見しています。

第4章の野田論文では、このような変化をふまえたうえで、パート労働者に対する雇用管理・労働条件管理が企業への拘束力を強めるという形で展開されていることが明らかにされています。これは、卸売・小売業やサービス業ではほかの業種とかなり異なったパート労働者の働き方が存在し、仁田氏がとらえようとした国際的常識からはずれたパートタイマーが着実に増えていることを示すものだと言えます。

女性の就業選択

最後に女性の就業選択に関する調査を取り上げます。女性の就業選択については、従来ダグラス・有沢法則によって説明するのが一般的だったわけですが、近年ではとくにパートタイマー女性の就業選択は必ずしもこの法則で説明できないのではないかという見解が示されてきております。高山・有田論文は、統計データを駆使しながらこの点を明らかにしたという点で重要な貢献をしたと言えます。

この論文では、女性がフルタイムで働いている世帯は夫の収入が400万円以下の階層に比較的多く、専業主婦世帯は400万円以上の階層が相対的に多かった。これに対し、パートの世帯構成はサンプル全体と大差がなかったとしています。すなわち、フルタイムの就業はダグラス=有沢法則が成立しているが、パートの就業についてはそれが当てはまらず、異なった要因によってパートが選択されている点を発見しています。

このような分析は、高山・有田論文によってようやく始まったばかりではないかと思いますが、今後時系列的な調査研究が必要であることを著者たちも述べており、今後の成果が期待できます。

討論

八幡

福原さんからいくつかのおもしろい問題提起がありましたが、それに関連して意見を述べたいと思います。

一つは、コース別人事管理に絡んで、結果的に、一般職の問題がクローズアップされてきました。つまり、ある意味では、総合職的な仕事にすべてが収斂していってしまうという議論ですが、では、一般職の仕事がなくなっていくのかという点です。たとえば情報化が進んだために、それまで一般職がやっていたルーティン的な事務処理の仕事がなくなってゆく。金融業をみているとそれも実感しますが、しかし、それ以外にも一般職の仕事はいろいろあるわけで、たとえばコピーとりとか、伝票整理とか、営業所で待機していて営業マンとの連絡事務を担当するとか、かなりフレキシブルに対応しなくてはならないような仕事がたくさんある。そうした場合に全員が総合職になってしまうと、その仕事をどうするのかという大きな疑問が出てくる。

テンポラリー・ワーカーに代替されてゆくという感じもするが、その辺がどういう議論なのか、わかったら教えてほしいと思います。

女性のキャリア形成とか、コース別人事管理制度の運用実態をみていくとき、注目してほしいと思うのは、職場レベルでの男女の協業の構造です。これを明らかにした調査は知りませんが、アメリカと比較すると、日本の職場はだいぶ違うのではないかと思います。そういう職場レベルでの、これは調査も分析も難しいけれども、どういう分業関係になっているのかを明らかにすることが重要だと思います。そのなかで性別分業はかなりはっきりした形であるのか、あるいは現実は相当入り乱れているのに性が違うがゆえに査定が違ってきたり、プロモーションで不利に扱われているのか、その辺をしっかり調べる必要があると思います。

それと関連して、さきほど福原さんもご指摘のように複線型人事管理とか、専門職制度との絡みでどうなのかということですが、脇坂論文では職場類型から整理しようとしていますが、どういう職務分担関係にするかによって、質的に随分変わってくると思います。女性独自の専門職といっても、受け皿はあまりないのが現実です。そういうことを考えてくると、大量に増えてくる総合職の女性にそういう選択の余地はどの程度あるのでしょうか。

次に、パートタイマーの問題では、疑似パートがこれからかなり注目されると思います。というのは、パートタイム労働法では疑似パート(フルタイム・パート)は適用除外されているからです。常用雇用化した疑似パートはみ方によって時間給労働者の問題とみることができる。つまり、実態として正社員と変わらない働き方をしているなら、正社員化して、賃金や社会保険も同じに扱うべきでしょうから、そういう意味で疑似パートの問題はかなり大きな問題だと思います。

就業の多様化が一時随分議論されたわけですけれども、正社員との協業関係で、たとえば派遣労働者・期間工・社外工・契約社員とか、そういう正社員以外の働き方をしているテンポラリー・ワーカー全体に注目しておく必要もある。アメリカで最近ブルーカラーの派遣労働者が増えていますし、日本でも派遣職種の見直しがなされつつありますが、派遣労働者も含めてテンポラリー・ワーカーの労働市場が今後広がっていくとすれば、今までパートタイマーを活用することで維持してきた雇用のフレキシビリティの部分も質的に変化する可能性がある。昭和30年代に臨時工の問題で大騒ぎした時代がありますけれども、身分差別をなくそうということで正社員化して解消したわけで、それと同じようなことが、疑似パートの問題で起こりうるのではないかと思います。

コース別人事管理のゆくえ

福原

一般職の仕事がどれほどテンポラリー・ワーカーなりパートタイマーに置き換えられていっているのかという問題については、たとえば、銀行などでは一時期そういうことが進んでいたと思うんですね。ただ、一般職の仕事すべてがパートなりテンポラリー・ワーカーに置き換えられるものなのかどうか、そこについては議論があると思うのです。そして、多分それはできないと多くの人は考えているようです。むしろ一般職的な人たちがやっている仕事というのは、総合職と違っていてもそれはそれなりに重要だという認識はあると思います。銀行の支店において一つの勘どころになるような仕事をやはり一般職の人たちがやっているという認識はあると思うのです。たとえば窓口のすぐ後ろでお金を管理しているような勤続年数の長い女性は、基本的には一般職ですね。だから、こういう人たちの仕事がテンポラリー・ワーカーなりパートの人たちに置き換えられることはまずないという認識が、結構多くの研究者の間にできていると思うのです。そういう意味で、今後パート化が進展するにしても、あるいは派遣労働が増えていく可能性があるにしても、一般職の仕事が完全に置き換えられることはまずないだろうと思います。

それから、私自身もよくわからないのですが、職場における男女間の協業についてです。たとえば百貨店とかスーパーなどの職場であれば、男性社員はあらかじめ管理職候補という形でやっていきますが、女性は違います。こういう形で日本は一応男女間での分業というか、職位の違うものとしての分業ですけれども、そういう形で始まっているのが多いのではないかなと思います。だから、脇坂氏が言う男女同等型の職場でも、実は今言ったような関係が基本ではないかと思います。その点、どうなのでしょうか。

橋元

今の総合職というのは、要するに男性のキャリアを修正して、企業として体系化し直したうえでつくられているということではなくて、従来、男性がやっていたものを総合職と呼んで、そこに入って頑張る気があれば女性でも入っていいですよという、そういうのが実態でしょう。そうすると、男性とは労働法制上の扱いで違いがあり、生活面で抱える条件の差も大きい女性にとって、いろいろな問題が生じてきたのは当然だろうと思います。ですから、女性の総合職をめぐる問題は、起こるべくして起こってきたと言えるでしょうし、むしろやっと問題になってきたかという気がします。そういう意味で問題は、制度そのものにあるというところが非常に明確になってきたという点で、この間の研究は、実態を正確に分析する方向で進んできていると思います。

八幡さんは職場での協業というお話をしましたが、仮に新しい協業みたいな形がつくられていないにしても、実際に職場で女性が総合職でやろうとしたときに、具体的に起こっている問題というのは、どこまで明らかにされているのでしょうか。キャリアを選択するということにかかわって起こっている問題ばかりではなく、総合職で入っていった女性が、仕事のなかで直面した難しい問題があると思いますが、そうした問題として具体的にはどのようなことが明らかになっているのでしょうか。たとえば営業などが典型だと思うのです。何時までが業務としての接待ですかと管理職が女性社員から言われたときに、非常に困惑したというケースを聞いたこともありますが、そうした場合、仕事そのものの問い直しなり、もしくは女性の働き方についてのいろいろな問題点や工夫はどこまで明らかにされているのでしょうか。

福原

そういう研究はあまりないと思いますね。ところが、女性の就職差別について関心のある女子学生たち、たとえば関西の大学にある女性問題研究会の連合組織が、就職で企業回りをしている人たちにアンケート調査をして、具体的に、採用に当たって女性差別的な実態があったのかどうかを調べ、また就職した女性には、就職先での女性にとって働きづらい条件がどうなっているのかについて調査したものなどがあります。それらは、いくつかの事例を紹介することで社会的問題を明らかにしようとしています。

そういう調査は、研究者も個別の面接調査で拾っていくことはできると思うのです。ところが、それを数値として示し、こんなにたくさんあるんですよという形での積み重ねがなかなか難しい。ひょっとしたらできないかもしれない。したがって、結局、いろいろな調査があるにしても、数値化しやすいものの成果がやはり表に出る格好になっているのではないかという気がするのです。

遠藤氏が書いていましたが、このような差別の問題については、労働法の立場からは問題として提起されています。ところが、経済学という視点からは、そういう問題がなかなか提起されないということを指摘されています。そのことは多分、今言ったようなことと密接に関係する事柄ではないかと思います。

橋元

私は、キャリアそのものの組み方とか、実際に職務能力が高まるプロセスということ自体が、女性が普通に生活しながらやれるようなものとして企業がくみ上げないかぎり、いくら準備しても、これは相当頑張る人しかそこには入っていけないという構造は多分残ると思うのです。

八幡

総合職の女性はまだ企業内でマイノリティですから、マジョリティにはならないだろうが、少なくとも相当の数になって、企業も彼女たちを活用しないとやっていけないという状況になってくると、総合職のなかで優秀なグループとそうではないグループに分かれてくるし、そうすれば現実の問題としてみえてくるものだと思います。量的にある程度増えなければ、キャリア・コースの設定もなかなか難しいと思います。

ただ、脇坂論文で強調されているように、一般職と総合職のコース別人事管理、これはもう終焉に向かっているというような評価でいいのでしょうか。

福原

むしろ、総合職と一般職の間に別のコースを設ける、すなわち新総合職や専門職のコースを設けるというのが普通の流れですよね。そういう意味で、むしろ、広い意味での複線化が女性についても進んでいると考えるべきではないでしょうか。

この流れというのは、明らかにコース別人事制度の精密化と弾力的運用ということになると思うのです。脇坂氏などの言われることと、事態はむしろ逆ではないかと思います。この辺がどうもよくわからないのです。

橋元

対応は今のところ企業によってまちまちだと思います。制度として何とか対処していこうというところは、精密化といいますか、そういう方向に進んでいって、もうそれほど重要な戦力としてみなしていなくて、雇用機会均等法との絡みのみでそういう仕組みをつくったところは、むしろ実効性がないからやめようというふうになっていくというのが実際ではないでしょうかね。

現在、制度としてどのような改善・工夫を図ったらよいのか、という観点からの調査は少ないように思います。制度そのものがなくなっていくだろう、非正社員と正社員とに分かれていくだろう、というみ方が強すぎるかもしれません。

でも、福原さんと八幡さんがおっしゃったように、ずっと働き続ける一般職の仕事というのは残ると思います。企業がそれをどのように位置づけていくのかということは、今、非常に曖昧だろうと思いますが、当面、普通の正社員の仕事として存続するでしょう。それらの多くは、外部の人間には任せられない、内部養成による一定のスキルが必要で、深いキャリアにはならないけれども重要であるという性格の仕事でしょう。これらのどこまでを内部化しておくのか、今後、その見直しは順次進められていくでしょうが、そう簡単ではありません。

これは専門職制度の問題でも同様なことがみられます。専門職、専門職と言いながら、ほんとうに専門職になったら外部化することになります。ですから、企業は、企業の人材としての専門職というのをどこで線引きすればよいのか、どのような専門能力が内部人材として必要であるのか、明確にできないのです。本当の専門職になると企業としては困るのです。そこにどう線を引いていくのか、企業は躊躇しているようにみえ、キャリアを明確にしていけないのです。専門職キャリアの人がどういう仕事を社内でやっていくのか、明確に展望を打ち出せないでいます。他方で、従業員のほうはラインに魅力を感じている。こういうなかで制度の具体化や試行錯誤もあまり本格化しないというのが実情です。同じような問題を、この一般職の非正社員化ということでも感じますね。周辺部分はたしかに非正社員化していくでしょうけれども、企業自身が一般職の仕事をどう位置づけるかということが今後大きな問題になっていくのではないでしょうか。

女性の長期勤続化の影響

福原

全体の流れとしては、女性の勤続年数、これは正規社員、パートの女性も含めてですが、長くなっていますよね。だから、長く勤めたいという欲求を持っている女性が増えていることを、企業が認識することがまず重要ではないでしょうか。

冨田氏が言うように、勤続年数に対する企業側によるコントロールはあっても、それがなかなか効かなくなってきていると思います。そこではとくに、一般職の女性のキャリア形成や処遇についての、企業側の対応が問題になっていると思います。

ところで、話は少し違うのですが、この1~2年は新規学卒女性の就職難の問題が大きくクローズアップされました。これは一つには、経済不況という問題もあるのだろうと思いますが、他方には、全体として女性の勤続年数が長くなったことも影響しているのではないかと思います。企業としては、企業内における男女比率をできれば一定にとどめておきたい。ところが、辞める人がいなくなったので、採ろうと思っても採れない。そういう形で、実は採用にブレーキがかかっているのではないかと思います。

八幡

人事担当者は一般職女性の勤続年数が延びているので、採用枠が狭くなっているという言い方をしています。だから、短大卒は今年はほとんど採らないとか。

福原

勤続年数が長くなることは大いに評価してよいと思います。ところが、そのしわよせが新規学卒者の女性のところに全部かかってきているという今の状況が、もし何年か続くと、これは結構大変な事態になるのではないかと思うのですが。

八幡

一番やりやすい雇用調整のやり方が入り口を抑えることですから、そのやり方は変わらないと思います。ですから、基本的には女性があちこちで活躍して、数が増えてくれば企業も人事管理システムを変質させざるをえない。

事例にありましたが、要するにイノベーター的な企業が増えることがキーだと思います。たとえばリース業では第一線で多くの四大卒女性が活躍していますが、それは、本当は男性社員を採りたかったけれども、新しい業界なので、男性社員で優秀な人材は金融業に流れて採れない。それで四大卒女性に注目したら、女性のほうがずっと優秀な人が入ってくる。そこで、四大卒女性をどんどん戦力化しようという形でやっている会社がリース業に多い。

そういう形で四大卒女性が増えてくると、育児休業制度などの条件整備にも積極的に取り組むといった特徴がみられるが、仕事のやり方は男性社員とあまり変わらない。まだ若い会社が多いので、今後どうなるのか注目される業界だと思います。

四大卒女性が量的に増えて、管理職目前ぐらいになりつつあるというのは最近のことなので、今後どうなるかはまだ予測は難しい。今はちょうど分かれ目だと思います。

パートタイマー問題

福原

パートタイマーの問題についてですが、とくに疑似パートがこれまでも増えてきたし、今後も増えていくと思います。これを的確に把握するには仁田氏が提起したように、パート労働者の定義を明確にする必要があると思います。パートという言葉が乱用されているのが日本の実態でしょう。疑似パートはパートと呼ばないとか、別の名称を考えるとかしないと、議論が錯綜して仕方ないですよね。結局、仁田氏はそのあたりをうまく区分して概念規定した。そのうえで、それぞれの特徴を明らかにしようという作業をしたのだと思います。ところが、それが素直に理解されない状況が日本にはある。パート労働の本質論としての大沢氏の議論に疑問を抱いているわけではありません。しかし、そこから先のパート労働の具体像についての議論は、日本では未成熟であり、それが大沢氏の批判のような形で現れたと思います。

フランスなどのパート労働の概念規定をみると、正社員の法定労働時間あるいは協約で定められた労働時間の5分の1を下回る労働時間制をパートタイム労働時間制と呼ぶ。だから、正社員であっても、育児休業の代わりに一時的にパートタイム労働を選択することが原則として可能です。また、育児休業期間が終わって正社員としてフルタイムで仕事をするようになれば、これはパートからフルタイムに移行しただけの話なのですよね。

八幡

ワークシェアリングで短くなった場合は。

福原

それもそうなのです。

八幡

パートタイマー扱い。

福原

と呼ぶというか……。すなわち、日本とは異なった論理次元でパートタイム労働という言葉が使われているということですね。フランスでは、パートタイム的な就労形態は、経済のあり方とか企業の経営の問題を考えると、それを推進すべきだという立場が主流だけれども、一方で、労働者の諸権利については平等化を進めるべきだという考え方がある。この辺の線引きというか、概念、考え方がはっきりしている。ただし、パートタイム労働に従事している大多数が女性であるという点で、日本と同様の多くの問題も抱えています。

結局、日本の場合、正規雇用でない不安定な雇用形態、しかも女性が従事している場合はすべてパート雇用であるというように流れてしまっている傾向があるのではないかと思うのですが。

八幡

法規制がはっきりしないから、混乱している側面が強い。

福原

そうでしょうね。

八幡

しかし、たとえば社会保険に全員を強制的に加入させるとか、所得税も上限を撤廃して課税するとかすれば、みかけ上は、残業を除いて、正社員時間給労働者と変わらなくなる。そうすると、アメリカとかヨーロッパにはそういう人は大勢いるが、それと同じことになるのか。疑似パートは、今後、整理していくべき大きな課題だと思います。

文献リスト

女性のキャリア形成とコース別人事制度

  1. 脇坂明『職場類型からみた女性のキャリアの拡大に関する研究』岡山大学(経済学研究叢書)、1993年(『職場類型と女性のキャリア形成』御茶の水書房、1993年)。
  2. 脇坂明「女性ホワイトカラーと『総合職』問題」『大原社会問題研究所雑誌』422号、1994年。
  3. 中村恵「女子管理職の育成と総合職」『日本労働研究雑誌』415号、1994年。
  4. 大沢真知子「短大・大卒女子の労働市場の変化」『日本労働研究雑誌』405号、1993年。
  5. 冨田安信「女性の仕事意識と人材育成」『日本労働研究雑誌』401号、1993年。
  6. 日本労働研究機構『女性従業員のキャリア形成意識とサポート制度の実態に関する調査』(調査研究報告書No.21)1992年。
  7. 東京女性財団編『均等法パイオニア女性はいま─女性の就労チェックノート』1994年。
  8. 東京都立労働研究所『若年女子従業員の就業実態と意識』1992年。
  9. 東京都立労働研究所『女性活用に関する企業事例研究1993』1993年。
  10. 21世紀職業財団『総合職女性の就業実態調査結果報告書』1994年。
  11. 東京都労働経済局編『コース別雇用管理等企業における女性雇用管理に関する調査』1994年。

管理職への昇進・昇格

  1. 八代充史「大手小売業における女性の管理職への昇進─人事部門の機能の実態」『日本労働研究雑誌』388号、1992年。
  2. 遠藤公嗣「査定制度による性と信条の差別」『日本労働研究雑誌』398号、1993年。
  3. 燈田順子「なぜ女性管理者が育たないか」『日経ビジネス』1993年3月1日号。

パート労働

  1. 労働大臣官房政策調査部編『平成2年パートタイマーの実態─パートタイム労働者総合実態調査報告』1992年。
  2. 仁田道夫「パートタイム労働の実態」『ジュリスト』1021号、1993年。
  3. 大沢真理「日本的パートの現状と課題」『ジュリスト』1026号、1993年。
  4. 仁田道夫「パートタイム労働の実態をめぐる論点─大沢助教授の批判に答えて」『ジュリスト』1031号、1993年。
  5. 三山雅子「働き方としてのパートタイム分析」『大原社会問題研究所雑誌』408号、1992年。
  6. 神谷隆之「女子時間給パートタイマーの年間賃金─勤続年数別変化とその要因」『日本労働研究雑誌』415号、1994年。
  7. 本田一成「パートタイム労働者の基幹労働力化と処遇制度」『日本労働研究機構研究紀要』6号、1993年。
  8. 鈴木春子・栗田明良「個人対応型勤務制度化の女子パートタイマー─大規模小売店でのアンケート調査から」『労働科学』67巻12号、1991年12月。
  9. 日本労働研究機構『時間給労働者の特性と雇用管理上の問題点』(調査研究報告書No.47)1993年。

女性の就業選択

  1. 高山憲之・有田富美子「共稼ぎ世帯の家計実態と妻の就業選択」『日本経済研究』22号、1992年。
  2. 川島美保「共働き世帯の生活の性別役割意識」『大原社会問題研究所雑誌』411号、1993年。

国際化

論文紹介

八幡

国際化の分野での研究は多いのですが、ここでは「海外現地生産」と「外国人労働」の二つの領域に限定します。

海外現地生産の展開と労働面での対応

海外生産拠点での人事労務管理の研究はかなりの蓄積があります。なかでも、日系企業が日本型の人事労務管理制度をどう修正して現地にどう適用しているかというような議論が、5~6年前まではかなり盛んでした。

現在は、むしろ進出先国での日系、欧米系、現地系といった資本系列別に人事労務管理制度を相互に比較してみるとか、あるいは日本企業の人事労務管理制度を念頭に置いて、ローカル企業での人事労務管理の実態を探るといった研究が出てきている。また、中小企業の海外進出に関連してそこでの問題に注目したような研究が増えてきている。

(1)日系企業の進出と現地社会への影響

守屋論文は、在英日系製造企業の労務管理、具体的にはトヨタモーター・マニュファクチャリング(UK)リミテッドでの生産立ち上げ段階での労務管理・労使協定を調べた貴重な事例調査です。

具体的には、多能工化を図るためにどのように採用し、教育訓練をどのように展開しているのか、また監督者の育成をどう実施しているかなどを紹介している。英国では外部で教育を受けて、各種資格を取得して就職してくるのが一般的だが、それをトヨタ方式に変えた熟練資格の形成が、英国社会でどのような摩擦を起こす可能性があるかといったことを議論しています。 生産立ち上げは1992年末だが、それに先立って、90年6月にマネージャーを、91年2月に保全要員や監視作業要員を、91年8月にはグループ・リーダーを、一般作業員は92年2月にそれぞれ募集採用し、かなりの費用と期間をかけて、それぞれの教育訓練プログラムに従って企業内教育を実施している。

採用基準は、トヨタUKの独自の基準で採用しているが、これが英国の企業とかなり差異があると強調されているが、どう違うのかは不明確である。日系企業以外の外国企業が、グリーンフィールドで生産立ち上げをするケースと比較して議論するのであれば特徴がはっきりする。業種や地域などの条件をコントロールして比較するのは非常に難しいが、トヨタ生産方式の技術的な特性による独自性なのか、トヨタという会社の特徴なのか、日本企業の特徴なのか。あるいはサッチャリズム以降の英国社会の変化と関連して、シングルユニオン協定とか、ノー・ストライキ協定を受け入れやすくしているのか。興味ある話題を提供してくれているが、その辺がはっきりしないのでよく分からない。とくにトヨタUKで働く英国人従業員からの評価はどうなのかといったことも明らかにしてほしい。

ジム・マックウィリアムスの講演記録では、日系進出企業が地域経済および労使関係に与えた影響を紹介しています。

英国北東部には約50社が進出しており、1万3500人の雇用を創出しているが、現地社会にもいろいろなインパクトを与えているという。

一つは、労働組合の労使交渉方式を根底から揺るがした。とくにシングルユニオン協定とか、フレキシブルワーキング(多能工)、あるいはTQCとか、ジャスト・イン・タイムとか、ノー・ストライキ協定だとか、従来の英国企業になかったことを次々と締結していった。たとえば、シングルユニオン協定を結んだがゆえに、英国に伝統的にあった経営協議会方式をより機能的に活用できるような状況をつくり出したという評価です。

TQC、ジャスト・イン・タイム、チームリーダー制とか、人的資源管理的な発想などが従来のショップ・スチュワードの権限・役割を大幅に縮小しつつあり、労働組合は今までと違ったより高い次元で産業界において新たな役割を果たそうという機運を生み出していると言う。

これらは日本企業の直接的な影響だけではなく、保守党政府の圧力とか、その他の要因も絡んで労使交渉がナショナル・レベルから企業・事業所レベルヘと下方分散化する動きをみせているといった変化と対応している。

興味を引いたのは、要するに日系企業が進出して、地域社会にどのようなインパクトを与えているのか。これを純粋に取り出すのは非常に難しいのですが、広い視点から評価しておく必要があるのではないかと感じたからです。

英国でのシングル・ステータス化の動きについては、稲上毅『現代英国労働事情』(東京大学出版会、1990年)の「労働慣行の『柔軟化』と新人事管理」で紹介されているように、英国社会そのものが変化してきている部分だと思いますし、1980年代に大量に進出した日系企業がそれに少なからず影響を与えたのも事実であって、そのような視点から海外進出の問題をみていくことが重要だと思います。

(2)トランスプラントヘの技術移転

トランスプラントヘの技術移転に注目した調査が国際東アジア研究センターの調査です。

東南アジアの日系進出企業への新製品の生産移管のスピードがどの程度かというと、「国内生産子会社と同等」というのが3割ぐらい。「国内生産子会社よりも落ちる」というのが過半数ということで、やや落ちる状況にある。そのときの親会社との人的交流は、3年前に比べると日本人の現地工場への派遣とか、あるいは現地人の日本本社への派遣は大幅に減っている。あるいは期間が短くなっている。それだけ現地人材のレベルが向上してきた。

実際の技術移転上の人材の問題は、技術者の供給量が絶対的に少ないこと、そのうえ、専門的な能力に欠けていること、また、移動が激しく技術移転が困難であるといったことが指摘されている。

東南アジアでのサポーティング・インダストリーはまだ未成熟なので、トランスプラントヘの生産移管は急速に進むが、現地部品調達には、まだしばらく時間がかかる状況にある。したがって、日本からの部品供給が続くので、簡単には空洞化は進まないという感じがします。

(3)特定国内での多国籍企業同士の比較

白木論文は、インドネシアで資本国籍の異なる多国籍企業と現地企業の人的資源管理を比較した研究です。

投資先での操業期間が長期化するとか、現地資本の構成比率が高まるとか、現地人材が管理職ポストの多くを占めるようになるといった形で人の現地化とか、資本の現地化が進めば、資本国籍の違いによる差は弱まるという。それらの要因を念頭に置いて比較すると、明確に特徴があるのは、操業期間の短いNIEs系企業だという。たとえば、経営課題のなかで「労使関係の安定化」を指摘する企業はNIEs系企業に多い。それに対して日系企業・現地企業・欧米系企業はNIEs系企業ほど多くないという結果になっています。また、労使間のコミュニケーションでは、欧米系企業が社内報等の整備など積極的で、これに続いているのが日系企業です。

「追加的な仕事」とか、「職務範囲の逸脱」への従業員の態度は、一般的には上位職種になるほど柔軟であることがまず確認されますが、同じ職位のなかでは資本国籍による差が大きく、欧米系企業に比べて日系企業はより柔軟である。現地企業は欧米系企業と日系企業の中間ぐらいです。このように資本国籍別に比較することでみえてくる論点がいくつもあり、興味が持たれる研究だと思います。

(4)中小企業の海外進出

東南アジアに進出した中小企業の問題を扱った論文として二つ取り上げます。

足立論文では、中小企業の海外進出で成功の最大要因は人的要因であるとの認識で、周到な準備を経た派遣駐在員の育成と信頼できる優れた合弁パートナーが確保できるかどうかで成否が決まるとの指摘です。

具体的には、操業前に現地のキー・パーソンを実習などで本社で養成し、日本人の責任者もできるだけ早く赴任させる。派遣社員は、進出目的を明確に把握し、信念を持って推進する経営担当者と、技術面から補佐できるベテラン技術者のペアがよい。現地駐在員は現地の言葉に堪能であることが望ましく、健康で、環境的に適応力もあって、職務遂行能力の高い者を選ばなくてはならない。そして、経営の現地化を進めながら、日常的マネジメント業務は速やかに現地人管理者に権限委譲する体制が望ましい。

そのためには、現地人技術者を日本に派遣して、メーカーや市場状況などを観察させ、生産管理や品質管理の向上を実現する努力が必要である。日本人はなるべく常駐させないようにして、トラブルとか新製品導入などのときに短期出張で対応する体制に早急に移行させるというのが足立論文での提案です。

大企業の生産拠点が抱えている問題と共通項が多いのですが、中小企業では国際要員が潤沢でないがゆえに起こっている問題が少なくありません。

伊吹論文では、中小企業の海外進出にとって最もクリティカルな現地人管理者の育成問題を取り上げています。

基幹要員の重要な研修手段である日本への派遣研修修了者の離職率が高水準だが、その転職理由の5割は給与に関連する不満だそうです。それへの対応策として「給与の引き上げ、見直し」「昇進・登用の改善」を挙げる企業が多い。中小企業といえども、日系企業の賃金水準は決して低くないので、賃金を上げたから転職が止まるかというと、疑問であるが、何らかの工夫を必要としている。

中小企業では現地語を仕事のレベルで十分使いこなせるような人材が非常に少なく、意思疎通が十分できないため、幹部候補者が辞めるケースも少なくない。幹部候補者に対しては、日本企業の経営スタイルを十分理解してもらう必要があるわけで、とくに中小企業では、優秀な幹部候補者を確保できるかどうかが、現地経営の成否を左右する。

外国人労働者問題

数年前には外国人労働者への門戸開放の是非について、膨大な論文や評論があり、調査報告書もたくさん出ましたが、その是非についての議論をここで繰り返すつもりはありません。ただ、景況の変化により労働力需要が緩んだこと、行政側の対応に一定の方向性が出てきたこと、いわゆる単純な開放論は社会的なコスト等の面からみて現実的ではないといった社会的なコンセンサスもできたなど、最近の論調は冷静になったと感じます。

(1)外国人の就労実態

外国人就労の全体像を描いているものとして、労働省外国人雇用対策課編の単行本を取り上げました。第3部に外国人労働者の雇用管理に関する大規模調査が紹介されています。従業員50人以上の7万社が対象で、1900社弱の回答を得て、うち外国人労働者を雇ったことのある会社851社で個別に展開された雇用管理の内容について整理しています。

雇用動機、採用方法、在留資格の確認方法、雇用形態、給与水準、各種手当、福利厚生、住宅政策、社会保険の加入状況、安全衛生、苦情処理など、非常に広範に雇用管理の実情を聞いていますので、詳しくは本をご覧いただきたい。ただ、大きく網をかけた調査ですが、50人以上の企業を対象としたため、単純労働者の多い小規模企業が抜けているという弱点がこの調査にはあります。

外国人就労を類型化して理解しようとする注目すべき力作が二つあります。一つは同書の第1部第1章の佐野論文で、雇用契約のタイプとか、労働力属性とか、日本人との協業関係などによって、外国人就労のタイポロジー化を試み、八つのタイプに分けて把握することを提示しています。もう一つが、次に取り上げる稲上論文で外国人労働者の労働市場構造を模型化しています。

(2)外国人労働市場の構造

一番上が部品メーカーまたは1次下請けで働いている人たちで、時給は1500円以上で、ブラジル人等の日系人が多い。そこでは、派遣業者+ブローカーが介在して人を斡旋している。また、かなり激しい労働移動がある。その下が中規模企業とか2次下請けなどの加工・組み立て作業に従事している人たちで、そこでの時給は1000円前後で、アジア人中心の労働市場ができ上がっており、血縁・地縁的なネットワーク、あるいはブローカーが介在して斡旋している。さらにその下が小規模零細企業とか2次下請けなど賃加工をやっているような小規模企業で働いている人たちで、これはアジア人の労働市場になっていて、激しい労働移動を繰り返している。

労働市場の階層性から類型化しており、とくにパートタイマーとか、日本人の期間工たちとの競合関係がどこで起こるかといった点にも示唆を与えてくれる。

これらの研究に沿った関心から行われた大規模調査はまだありませんが、外国人就労を考える場合に基本的なみ方を与えてくれる研究だと思います。

(3)日系人の就労

日系人の就労については、吉免論文でかなり明らかにされています。

就労経路を四つに分けて整理しているが、仲介者たるブローカーが現地国で募集して、その採用活動に応募して、日本の派遣業者によって斡旋されるブルーカラー依存型が全体の6割強を占めており、雇い入れ企業との直接契約は3割強にとどまっています。

日系人雇用サービスセンターでの求人・求職状況等についても紹介されています。最近は不況のため雇用調整事例が出ています。自動車部品製造業の事例では、雇用契約期間満了の際に更新を希望するか、あるいは帰国したいか、転職を希望するか、本人にヒアリングして、希望に応じた対応をしています。なお、帰国者には、渡航旅費の半額を負担しています。

ここに挙がっている事例は恵まれたケースだと思いますが、一般に言われるほどの厳しい条件では雇用調整をやっていないようです。日系人に関しては、労働省から具体的な対策として適正な就労経路の確保とか、適切な雇用管理の確保とか、雇用失業情勢に応じた職業紹介の実施とか、労働相談の実施とかが展開されています。

外国人労働者問題の論文や調査のサーベイをして感じるのは、社会政策的な課題というか、要するに弱者救済的な課題が増えてきたということです。

(4)研修生・技能実習生

次に研修生・技能実習生を取り上げます。まず、日本労働研究機構の調査では、8割の自治体が何らかの形で国際的な事業を展開している。研修生受け入れ事業を実施している自治体は、都道府県レベルでは100%、市では22%、町村では6%です。

1990年の入管法改正に伴う団体型外国人研修生受け入れ事業に自治体が関与することになっていますが、それに伴う民間研修支援型事業を実施する自治体は5%にとどまっている。発案者は商工会議所等の経済団体が主流で、これはその後増えていると思いますが、この調査を実施した時点では年間平均25人の受け入れであった。受け入れ理由は、第1位が技術協力への貢献、第2位が将来の海外進出への準備、第3位が人手不足への対応である。それから研修生の送り出し国は、中国が8割で圧倒的に多いのが特徴です。

このような外国人研修生の受け入れ事業について拡大路線をとる自治体は6割もあり、今後も増えていくことが見込まれている。

島田論文は外国人労働問題を一般読者向けにまとめた単行本ですが、特徴は著者が深くかかわってきた技能実習制度の強化にあります。この技能実習制度は1989年3月に、経済同友会が報告を出しており、その主査が著者だったこともあって、技能実習生プログラムを推進・支援する立場から、そのメリットが強調されている。

特に単純労働者から中級技能者に育成することが重要で、そのために業種別に中級技能者養成のCDPを開発する必要性を強調しており、座学やOJTを組み合わせた具体例を示しています。

日本で研修を受けて帰国し、研修期間中に知り合った日本人と合弁企業を設立して、国際的な分業関係に入ったというようなケースも出ています。当初は単純労働者としての活用に重点が置かれていましたが、予想以上にうまくいっている例も出てきています。

国際的にみても、このような技能実習制度はユ二一クなものですし、この前ベトナムで聞いたら、かなり厳選して送り出しているとのことでした。国によっていろいろだと思いますが、その意義が、本人に十分理解されていなくて、出稼ぎのつもりで来日し、研修に耐えられずに逃げ出すというトラブルも結構あると聞いています。これを定着させ、より効果的に推進するには、帰国後に働ける場をどれだけ用意できるかにかかっている。たとえば実習終了後の帰国者に開業資金を低利で融資するといった仕組みができると、現地での雇用創出の面にも直接的に貢献できると思います。

外国人労働者問題解決の決定打になるかどうかは分からないですけれども、技能実習制度は関心を持続する必要のあるテーマだと思います。

討論

欧米とアジアで異なる進出の影響

福原

海外進出企業の調査について思うのは、ヨーロッパに進出した企業─ここではイギリスヘの進出企業を取り上げていますが─の実態調査とアジアに進出している日本企業の実態調査の質がかなり違うということです。なぜそうなのかということが、一つの大きな問題になると思います。多分ヨーロッパのほうに先行して進出しているせいなのかなと思ったりしますが、その辺がよくわからない。アジアについては、いかに現地化を進めるかという、一種のノウハウみたいなものを提言するという形での調査研究になっているような気がするのです。それに対して、ヨーロッパ、とくにイギリスについては、日本企業そのものが明らかに現地の企業に対して、あるいは社会に対して具体的にどういうインパクトを与えているのかということについての調査という形となっている。この両者にズレがあるのですね。

これは進出先諸国の日本に対する見方の相違によってこういう違いが生まれてきたのかなとも考えられます。たとえば、イギリスについては、稲上氏やマックウィリアムス氏も触れていますが、いわゆるフレキシブル・ファーム・モデルが提起されている。これなど、非常に日本の企業モデルと近いのです。これは要するに今日のイギリス企業のモデルですが、それが日本に近いという意味で、やはり相当のインパクトがあったと思います。ところがアジアについては、どうもまだそこまでいっていない。そのあたりの事情はどのように考えればよいのでしょうか。

また、日系人労働者については、細かい点でいくつかよく分からないことがあります。たとえば自動車の部品メーカーで、人員削減が比較的うまくいったという紹介がありましたね。多分そういう事例はあると思います。とはいえ、これは企業側がそう思っている事例にすぎないかもしれない。ひょっとすると、日系人労働者はそうは思っていないかもしれない。そういう意味では、この種の調査については少なくとも両面からの調査が必要ではないかと思います。

それから、ブラジルやペルーの日系人が、これは自動車だけではないですけれども、最初に入ってきた企業を解雇されるなり、あるいは自主的に辞めるなりして、次にまた職を探しますね。この場合、地方への分散化という事態が進んでいると思うのです。しかも、単に分散化が進んでいるだけではなくて、同時に日系人労働者のネットワークのあり方も大きく変わってきているのではないかという気がして仕方がないのです。簡単に言ってしまえば、当初は一極集中で、そこでの密接なネットワークが多分形成されたのだと思うのですが、地方に分散することによって、地方点在型で、それぞれがかなり密接につながっているという構造変化というのもあると思うのです。日系人の人たちが今後日本社会のなかに定着していくのか、あるいはまた帰国するのかよく分からないのですが、仮に定着するとすると、日本社会にどういうインパクトがあるのかという、その辺の調査も今後必要になってくると思います。

八幡

先進国と途上国では、かなり違うのではないかというご指摘だったのですが、やはり人材確保の難易度がかなり違う。たとえば経営者クラスでも、先進国では、かなり優秀な人が中途採用で採れるという現実もあります。ところが、途上国では、採って採れないことはないとは思いますが、適材はもともと少ないので、日系企業の多くは新規大卒者を雇って、内部で養成する形が主流になっている。米国とか、英国でしか聞いたことがないのですが、そういう部分では途上国とは対応は違っている。つまり、先進国では最初からある程度の人の面での現地化が進んでいるので、むしろ、日本側が、どうやってイニシアティブを取っていけるのかで、せめぎ合っている部分が結構ある。その意味では、東南アジアとはだいぶ違ってくるというのはおっしゃるとおりです。

そのような事情もあって、地域社会に与える影響にまで視点を広げていく必要があると思っています。

ここで取り上げた研究が行われた数年前には、先進国での日系企業の労務管理行動をテーマとする研究もたくさんありました。在米日系企業・在欧日系企業について、とくに雇用差別の問題や異文化コミュニケーションの問題などがありますが、最近は注目すべき成果があまりないので、カットしました。

それから途上国では、現地化の問題がかなり前面に出てくるが、まだ研究が少ないと思います。たとえば日系企業が進出して現地社会にどのようなインパクトを与えているかというような視点から、とくに下請け中小企業に関しては、かなりテーマが多いのですが、未開拓の分野であり、一部先駆的な研究があるにすぎず、あまり進展もみられない。これからの課題だと思います。

それから外国人労働者の雇用調整絡みの話ですが、これはご指摘のように、紹介されているケースは公共職業安定所の担当者が事業主からヒアリングした結果ですので情報は限られている。外国人を対象に、求職や転職の事情を直接聞くとか、生活面でどのようなマイナス面の影響を与えたのかを調べる必要があると思います。

日系人の再就職先が、地方に分散しているというのはご指摘のとおりだと思います。求人情報は、東京・上野と名古屋の日系人雇用サービスセンターに集まり、県を越えるような広域職業紹介はそこで行われていますが、公共職業安定所管内求人については各面で職業紹介することになっている。しかし、職安を経由しない求職活動については把握しきれていないと思います。

福原

それは関東についてということですか。

八幡

全国ベースで求人情報を集めて、その求人情報を各職安に流しており、日系人の求職者が職安にくると、その相談に応じてあげて、求人情報も提供したりしている。これはほかの調査で、福井県を訪問したときに職安の方に伺ったのですが、愛知県の自動車部品メーカーで働いていたが、職安を通さないで、個人的なつてで福井県の繊維会社に再就職しているケースがあり、雇用保険に加入しているので、再就戦が決まるとその手続きのために職安にきて、そのような人が管内で働いていることが初めてわかる。つまり、全国ベースで日系人の就業動向を個別的に把握しているわけではないのです。

福原

これは兵庫県の地場産業の話ですが、同じような事例があります。最初きた日系人労働者がいつの間にかブローカーになって、次から次へと日系人労働者を入れてくるというようなことですね。もう一つは民間企業の派遣会社がいつの間にか日系人労働者の派遣専門会社を持っている。そういう形で、日系人労働者や企業がブローカー的な役割を担うというケースが増えてきているように思います。

進出企業と現地化

橋元

海外進出の現地企業および現地化の問題をみるとき、われわれ自身が前提にする知識がまず違うために、欧米と東南アジアとでは随分異なった見方をしていると思います。

欧米への進出や現地化については、ある種のイメージを前提にみているようです。欧米については、制限的労働慣行や労働組合の強さも含めて前提とする条件を想定していて、そこにどう日本がうまく適合するかというイメージで考え、実際に企業もそういうことを念頭に置いて進出地域を選び、そしていろいろな条件をつけて、それを受け入れてくれるところに出ていく傾向が強かったわけです。したがって、調査も、そこでどううまくやれたかという観点から進められてきたのではないでしょうか。しかし、それにとどまらず、八幡さんが指摘されたとおり、日本企業の進出・現地化がどのように周囲に影響を及ぼしているのかというようなところまで、もっと明らかにしていくべきであると思います。

それに対して東南アジアの場合は、前提となる働き方や慣行があまり明らかになっていなかったこともあり、日本企業がそこに入っていって、どのようにそこのレベルアップを図ったかという観点でどうしてもみてしまうという状況があるように思います。

しかし、欧米であろうと東南アジアであろうと、基本的な方法論としては同じでなければおかしいはずだという気がします。そういう意味から、改めて海外進出企業および日本企業の現地化問題をめぐる研究の方法は、今の時点で反省される必要があるのではないかと思います。

それを考えたときに、欧米での、とくにイギリスでの話が出てきたわけですか、非常に気になっていることは、日本企業がやろうとしたことがそのまま日本的なやり方を持ち込んだわけではなくて、ある程度地元の状況を前提にしながら、ある意味ではすでに加工して持ち込んだわけですが、それはどこを加工したのかということと、ではその加工がどのように現地化のなかで変容しているのか、という点がもっとクリアになっていく必要があるだろうと思います。その解明は、今後の日本の企業経営のあり方なり、日本の労働慣行のあり方を考えていくうえで、非常に重要な問題を提起するはずであるという気がします。

制限的労働慣行が非常に濃厚であった地域や労使関係が日本とはかなり異なった形であったところ、これは経営の仕方もそうでしょうけれども、そういうところで、新しい技術なり新しい生産体制をつくっていくときに、どのように旧来の社会的な仕組みと折り合いながら、どういうルールや慣行ができてきたのか、それはヨーロッパでは社会労働基準として新たにEUレベルで定着していく可能性も持っています。そのことは、日本がこれまでいろいろ抱えてきたもの、たとえば労働時間の長さだとか、過度に職務配分が曖昧であるだとかいうようなことを反省していく契機にもなりうると思います。また、今後の国際化を考えたときに、日本が国際労働基準をどのようにつくりあげていくのか、それに関与していくのかということのうえで、非常に重要な参考になるでしょう。日本にとっては、これはある意味ではきわめて重要な経験となっていると思うのです。

そういう観点から、地元にどういう影響を及ぼしたかということも、単なる一方通行ではなくて、双方向の問題として、そこでどういう働き方がつくられてきているのか、経営の仕方がつくられてきているのかということをもっと明らかにしていくべきだろうと思います。これまでのそういう研究は、ジャパン・アズ・ナンバーワンの雰囲気のなかでどうもやや一方通行的な視点が暗黙に前提とされているような気がしてなりません。

東南アジアの場合は非常にはっきりと出ていると思うのですが、しかし欧米と違って移動率の高さという形でシッペ返しを受けるわけです。そうした事態に直面して、ではどうするかということで、ある意味では欧米の場合以上に、リアルな問題として適応の仕方への工夫が迫られているという側面が現在はあるようです。それについても、実はよく分からない点があります。たとえば移動先がどこなのか、日系大企業なのか、それとも地元の中小企業なのか、地元の大企業なのか。その辺はどうなのでしょうか。

八幡

それはいろいろですとしか言えません。

橋元

たとえば日本では、進んで中小企業に移るということは考えにくいですよね。労働条件が悪いですから。

八幡

いや、でも大体の場合は、昇進が絡んでいるから移動するわけです。日本で研修を受けて、戻ってもせいぜい監督者です。それが、「マネージャーにするからこい」という感じで引っ張られる。

橋元

中小企業でも高い労働条件で移るのですね。

八幡

同じでは移らないでしょう。

福原

プロモーターというか、仲介する人たちというのは多いのですか。

八幡

アジアではあまり聞かないですね。

橋元

1910年代に日本で引き抜きの防止協定を三菱重工と呉の海軍工廠と川崎造船所が結びましたが、そのようなことがあるのですか。

八幡

それが以前はシンガポールでそういうことをやっていたわけですが、マレーシアから、今はタイの特定の工業団地ではそういう話が出てきています。急速に経済発展が進みますから、熟練労働者が逼迫してしまう。

さきほども欧米とアジアの違いという議論がありましたが、つくづく感じるのは、アジアでの労働調査が少ないことです。最大の原因は発展途上国で労働の専門家が非常に少ないことで、雇用創出効果の大きな中小企業分野での雇用問題に関心を持つ労働研究者は一段と少ない。

まだまだそういうレベルですが、経済面での国際化が急速に進んでいるのですから、日本の労働研究者も研究交流を積極的に進めなくてはならないと思います。やはり、現状では途上国の研究者の考え方には旧宗主国の影響が強く作用しています。シンガポールやマレーシアは英国から、インドネシアはオランダから、フィリピンはスペインやアメリカから影響を受けているし、ベトナムは社会主義国であっても、意外にフランスの影響が残っている。だから、一つ一つの国の歴史をふまえたうえで、地元の労働事情を調査するというスタンスが肝要かと思います。

英国については過剰なくらいにいろいろな情報が入ってくるけれども、同じヨーロッパでも、イタリア・スペイン・ポルトガルの労働事情を調べたものはあまり紹介されていない。言葉の制約が大きくて、どうしてもアングロサクソン系の情報に偏っていて、それ以外の国の事情は、あまり入ってこない。研究者はもう少しバランスよくみていく必要があると思います。アジアでも、その国の伝統的な企業での労務管理や労働慣行を聞くと、結構特徴があると思います。

それから、さきほど日本企業が進出する場合に、労働慣行も含めて、日本のシステムを事前に修正して持ち込んでいるのではないかというご指摘がありましたが、それはそのとおりです。しかし、こういう研究をやっている人たちの問題意識のなかにあまりそれがない。つまり、日本の企業の実情をわかっていて、かつそれと比較しているのだという視点から現地で具体的にどう修正していくかという議論を展開してくれると分かりやすいのですが、致命的なのは日本の企業をよく知らないで日系進出企業だけを調査対象に選んでいることです。

日本の企業だけを研究対象にしていれば1回で終わるけれども、両国の企業をみないとわからないということで、労多くして成果の出にくい分野であることもあるのでしょうが、本格的な研究が少ないですね。

労使関係の安定度

橋元

白木氏の論文のなかで労使関係の安定度という点では欧米系企業のほうが非常に安定しているということが書かれておりましたけれども、これはどういうことでしょうか。

八幡

これは欧米企業の労使関係が安定しているのではなくて、要するに経営課題として「労使関係の安定」をどの程度重視しているかという質問なのです。安定の実態ではありません。

NIEs系の企業では、賃金や労働条件を理由に、山猫ストが起こったりして、労使紛争が多くて対応に困っているので、そういう意味で一生懸命対応を考えているということです。

日系企業は無意識のうちに労使関係の安定を非常に重視するが、欧米系企業は意外とドライに構えているということだと思います。

福原

労使関係のコミュニケーションについて、欧米企業がかなり重視しているというお話でしたね。

八幡

情報伝達に関しては、いろいろな手段を使って流しています。

福原

たとえばその企業内に労働組合、あるいは労働者の代表組織みたいなものをつくってというような、制度的充実ということですか。

八幡

それはそうです。途上国で最も難しいのは、まず労働組合の有効性を経営者と従業員に理解してもらうことだと思います。従業員が労働組合というものを十分理解していないケースが多い。たとえば組合の委員長になって、自分が不満に思っていることだけを要求として突きつけて、全然職場からの意見を吸い上げてこないとか、信じられないことが起こる。だから統制もできないといったケースもある。

福原

日系企業やヨーロッパ系企業がアジアヘ入った場合、アジア諸国での労使関係の安定化とか、そのための制度的な形成ということに対するインパクトはあるのですか。それともやはり日本がヨーロッパヘ行って、ノンユニオンを通したような対応でいくのですか。

八幡

基本的には組合はないほうがいいと考えている経営者はかなり多いと思います。それでうまくいっていればよいのですが、逆に山猫ストとか、サボタージュなどをバラバラにやられるとか、あるいはいろいろなクレームが多くの職場から同時にきたりしたら経営側は対応しきれない。それなら、組合があったほうがよいという選択ですね。しかし、職種別で個々の組合がバラバラに闘争を組まれたら困るということで、なるべく一本化してほしいとの考えです。

シンガポールは、イギリスの影響を受けていますので、CA(Collective Agreement)改訂の労使交渉のときに、地域事務所からセクレタリーがきて同席し、企業内の組合役員と会社側の協議に参画する。そのような場面で、操業期間の短い企業ではセクレタリーがイニシアティブを取るケースも多い。しかし、設立後何年も経つ企業では、企業内の組合役員が育ってきているし、CA改訂を何度も経験して、かつ会社側との日常的な協議の機会も多いので、CA改訂の交渉でも地域事務所からセクレタリーがきて同席するがあまり□を出さないように変わってくる。企業側も企業内の組合役員の意見を尊重して、日常的に相談や協議を行う体制をとっていますので、産業別組合でありながら実質的には個別企業の事情に柔軟に対応する体制ができています。

福原

東南アジア諸国の現地企業と労働者あるいは労働組合の関係は、ヨーロッパに比べて、政治的色彩が比較的強いという特徴がありますね。そういう問題が多分現地企業のなかでは、かなりストレートに表面化するのではないかと思います。そういう状況に対して、たとえば日系企業なり欧米企業は、政治的なものを企業のなかに持ち込まないでおこうという方向性を追求すると思うのです。それが伝統的な労使関係の枠組みと違うものをつくる一つの契機となるのではと思うのですが。

八幡

ダイレクトにそれへの答えにはならないのですけれども、マレーシアでのことですが、古い工業団地で、金属関係の比較的過激な組合が組織している地域があるが、増設予定のあった工場を穏やかな組合が組織しているような地域に移してしまった。企業側もそういう対応はやるかもしれない。そうすると逃げられては困るから、少し柔軟に対応しましょうと、今度は組合の側が少し変わってくるという面があると思います。

福原

まだそういう研究や調査をやろうというところまでいっていないのが現状だと思うのです。

人材育成の問題

橋元

労働力の質と量の問題で、日系企業が苦労しているということは、転職の問題を含めて分かります。ただ、トランスプラントの技術移転ともかかわって、もう一つ重要なことは、日本で言うところの下請け企業の問題ですね。中堅中小企業の労働者が開業して事業者として育ってくるという側面もあるかと思うのですが、そういう点はどの程度進んでいて、その辺での調査はどうでしょうか。

八幡

まだ少ないですけれども、タイやマレーシアでは、一部そういう調査があります。アジア経済研究所でも数年前にASEAN各国の中小企業の大がかりな調査をやっていますが、総花的な調査にとどまっており、起業家がどのようなセクターから供給されてくるのかといった関心からの本格的な調査はまだ少ないと思います。

橋元

さきほどの話を聞いていて、ちょうど昭和40年代に日本の下請けを自動車メーカーが一生懸命育成していくというイメージを抱いたのですが、日本でそれがうまくいったのは、大量の労働供給がその時期にあったということが背景にあります。企業が雇用労働力を確保する以上に労働力が供給されたわけです。そういう点では、基本的な条件はわりと似ているという印象を持っていたのですが、最近はかなり逼迫してきているとも言われておりますが……。

八幡

まだ大学進学率が低い国が多いうえに、理科系に行く人は非常に少ないので、なかでもエンジニアが非常に逼迫している。タイでは理科系出身者の多くは卒業すると自分で会社を始める人が多く、民間企業に就職する人が少ないので、いっそう取り合いになってしまう。

橋元

日本の場合は、高専とか工業高校というのが当時は非常に重要視され、また実際にそこに非常に有能な人材が行っていましたね。

八幡

タイでもうまくやっている会社は、工業高校の先生に「優秀な学生を紹介してほしい」と依頼して、その代わり高給で優遇するという形で優秀な人を採用して、内部で養成する形にしている。そういうふうに大卒者の採用はあきらめて、工業高校卒業者を育成すると割り切っている会社もいくつかあります。

橋元

そうすると、とくに東南アジアの研究の場合は、労働市場の問題とか、労働力供給の問題をかなりトータルに分析しながら、現地化の問題をとらえていかないといけない。企業が必要とする労働力だけではなくて、産業として現地化していけるという構造をつくるためには、もう少しグローバルな人材問題を考えないといけないということですね。

八幡

そうです。各国でマンパワー・プランニングがあるし、いろいろ提言もありますが、労働市場の問題をトータルに調査・分析するという視点が必要だと思います。

外国人労働者のための制度づくり

橋元

外国人労働力の問題について、少し申し上げたいと思います。これまでの調査なり、この間取りまとめられてきたものというのは、基本的には日本の好景気がまだ維持されていた時期のものがほとんどです。外国人労働者が不況過程でどのように動いたのか、さきほど話がありましたが、どういうネットワークがつくられたのか、またどの程度定着をするのかということも含めて、かなり大きな変化がおそらく平成3、4年あたりに起きているのではないでしょうか。そのあたりのデータは、多分今後出てくるとは思いますが。

福原

さきほど橋元さんが、不況のなかで日系人が分散化しているという話をされましたけれども、外国人労働者が、今はいわば出稼ぎ、あるいは還流的移民という形での導入期の段階ですね。ところが今後定着が進んでいく、しかもその定着化の過程というのは、単に単身者だけあるいは夫婦だけではなくて、さらに第2世代が生まれてくるという状況まで想定する必要があります。ここまで想定した形で、日本政府が日系人に対して、きちんと制度的な保障なり枠組みを考えているのか非常に疑問ですね。

一方ではヨーロッパの事例を引き、ヨーロッパでは外国人労働者の定住化が進み、それがヨーロッパ社会に大量失業の問題をはじめいろいろな社会問題を引き起こしたから外国人労働者は入れないと言いつつも、日系人が現に入ってきており、これから同じような局面に立ち至ると思うのです。その部分を一方で一般論としては外国人労働者を入れないということを言うことによって、結局その視野から制度的な保障などがスポッと抜けてしまいかねないという不安が私にはあります。

八幡

少しだけ触れましたけれども、外国人労働者問題については次第に社会政策的な対応が強まってきたというニュアンスです。社会保障も含めて、最低限の部分を整備せざるをえないでしょう。

橋元

そうですね。その対応にはかなり地域差があると思います。地域ぐるみで日系人を積極的に受け入れていったところでは、学校に専門教師を特別に配置するような対応が進んでいます。ただ、そうしたところでも中学校までは対応できても、高校がはたして対応できるかというのが非常に大きな問題になりそうです。もうここ2~3年のうちに中学卒業生が出てきます。そうなったときに、今の日本のシステムでは高校に合格できないだろうと言われています。高校に特別枠まで設けて対応するようになるかどうかは、義務教育ではないだけに簡単にはいかないでしょう。そうした問題は、積極的に取り組んでいる地域でもようやく問題になり始めた状況です。

ほかにも病院などの問題がありますが、地域によっては相当手厚くやっているケースもありますから、そうした実態が明らかになり、いろいろな地域のモデル・ケースとして提供されるようになってくると、ある程度のミニマムみたいな対応策というのが確立していくのではないでしょうか。

文献リスト

海外現地生産の展開と労働面での対応

  1. 守屋貴司「在英日系製造企業の労務管理─トヨタ(UK)の労務管理・労使協定を中心として」『産業と経済』第7巻第2号、奈良産業大学、1992年。
  2. ジム・マックウィリアムス「イギリス進出日本企業の地域経済・労使関係に与えた影響─イギリス北東部を中心に」『産業労働』31号1993年夏。
  3. Mitsuhide Shiraki “A Comparative Analysis of the Human Resource Development and Management of Multinational Corporations in lndonesia with Reference to Industrialization"(白木三秀「インドネシアにおける多国籍企業の人的資源開発・管理の比較分析」)『国士舘大学政経論叢』、平成6年第3号(通巻89号)。
  4. 『技術水準からみたASEAN5カ国の投資環境に関する実証的研究─ASEAN進出日系機械メーカーの技術競争力』国際東アジア研究センター、1993年。
  5. 足立文彦「中小企業のアジア進出─成功の条件と失敗の原因」『商工金融』1994年7月。
  6. 伊吹六嗣「現地人管理者の育成と人的資源の内部蓄積」『企業診断』39巻10号、1992年10月。

外国人労働者問題

  1. 労働省外国人雇用対策課『外国人雇用管理の最前線』日刊労働新聞社、1993年11月。
  2. 稲上毅、桑原靖夫、国民金融公庫総合研究所『外国人労働者を戦力化する中小企業』中小企業リサーチセンター、1992年5月。
  3. 吉免光顕「日系人のわが国における就労の現状と対策」『季刊労働法』1992年夏号。
  4. 日本労働研究機構、『地方自治体における外国人研修生受け入れ事業─現状と課題』(調査研究報告書No.61)1994年。
  5. 島田晴雄『外国人労働者問題の解決策』東洋経済新報社、1993年。

今後の研究テーマ

八幡

一見、それぞれが独立した研究領域であるかのようにみえますが、議論を重ねるうちに、論点は一定の共通項に収斂してきたと言えましょう。つまり、変転の時代にあるという時代性であり、原点に立ち返って、幅広く考える時期にあるという点です。

そのような観点から最後に今後期待する研究テーマ一覧を提示することにします。

今後期待する研究テーマー覧

ホワイトカラーの人事管理分野

  1. キャリアの分析道具として、職種・職務区分の内容を再検討すること。業種や組織規模等を考慮したうえで比較可能な区分をつくること。
  2. 業種や企業規模、職種・職務区分によるキャリア形成の違いを調査すること。
  3. 企業組織や人事管理の推移と職務編成の変化およびキャリア形成への影響を調査すること。
  4. キャリアのあり方を特徴づける人事施策とその規定要因を明らかにし、近年の動向を解明すること。
  5. 主要な産業における特定企業の異動・昇進データによる包括的事例調査。
  6. キャリアに対する労働者のアンビバレントな意識の構造と要因、そのニーズの内実の調査。
  7. 複線型人事管理・専門職制度・自己申告制度などの実態調査。

女性労働分野

  1. コース別人事管理の多様化とその運用の実態。
  2. 一般職女性の職務構成上の位置とキャリア形成の実態。
  3. 女性労働者に対する処遇と査定の平等化の進展状況。
  4. 擬似パートの労働実態とその国際比較。
  5. 女性の就業選択理由の多様化の実態。

国際化分野

(1)海外現地生産の展開と労働面での対応
  1. 日系進出企業が現地の労使関係や労働慣行に与えた影響は、途上国と先進国ではかなり異なるだろう。また、進出企業だけではなく、日本企業の経営方式、日本の労働組合のリーダーの思考や行動様式などの知見をベースにしたうえでの国際比較の観点が重要。発展的な課題としては、市場経済化が進む社会主義国で日系企業が現地社会に与える影響。
  2. 進出してから長期間経ている企業を対象とする製品転換、リストラ、場合によっては撤退などの場面で労働面でどのような対応がなされたか。
  3. 中小企業経営者のキャリア形成の国際比較、途上国での研究はきわめて少ない。
(2)外国人労働者問題
  1. 技能実習生の実態調査
    国内での状況と帰国後の状況、国内では効果を上げるためにどのような工夫がなされてきたか、また帰国後に研修受け入れ企業とどのような関係を維持しているか、現地での仕事をするうえでどの程度効果を上げたか。
  2. 長期滞在の外国人労働者の社会的影響
    学校、自治体の支援体制、生活保護、帰国支援などの実態。