ディスカッションペーパー 22-02
『賃金構造基本統計調査』、『就業構造基本調査』を利用した労働投入計測の精緻化
概要
研究の目的
SNAベースで労働生産性やTFPを計算する際の労働の質指数の作成・データの提供。
研究の方法
『賃金構造基本統計調査』、『就業構造基本調査』の個票データを用いた分析。
主な事実発見
- TFP(全要素生産性)の計測に必要となる労働投入としては、就業者数や総労働時間ではなく労働投入指数を用いることが標準的だが、国民経済計算(SNA)には労働投入指数が掲載されていない。本稿では、SNAベースで利用可能な労働投入指数を『賃金構造基本統計調査』や『就業構造基本調査』の個票を利用して計測した。
- 労働投入指数を計測するには、労働者を労働サービスの質の違いに基づいて適切な属性グループに分割する必要がある。ここではBosler et al. (2016) の方法に準拠し、日本において労働の質指数を計測する上で最も適した属性分類を探索した。その結果、性・地位(一般労働者、短時間労働者、自営業主)別に、年齢6区分・学歴2区分・勤続年数6区分・企業規模4区分に分割する場合を「最適区分」とした。
- 「最適区分」の他、5つの属性区分を設定し、各ケースの労働投入指数を推計すると、2018年では約6.5%ポイントの幅が存在することがわかった。この幅を就業者数で換算すると、最小のケースと最大のケースでは約420万人の差に相当する。
- 属性の区切り方によって幅が生じる労働投入指数を使い、労働生産性やTFPを計測すれば、それらの値にも幅が生じる。1994-2018年の労働生産性は、SNA(総労働時間)ベースでは1.30倍上昇したが、「最適区分」では1.16倍と、より低い上昇にとどまることがわかった。
図表1 労働生産性指数(1994年=1)
- 同様に、TFPについても区分によって0.29~0.45と大きな幅が生じる。
- 「最適区分」による労働投入指数とJIPデータベースを用いて、1995年から2018年の成長会計を行うと、時短の影響で2010年までは、労働時間の寄与がマイナスで推移していたが、2015-2018年には短時間労働者の増加により寄与が増加している。労働の質の寄与は一貫して低下しているが、それ以上に資本の寄与の低下が激しい。また、TFPは、リーマンショックを含む期間(2005-2010年)を除き、ほぼ一定である。
図表2 日本の成長会計(最適区分による)
- 労働投入の測り方次第で、労働生産性やTFPの計測結果に大きな幅が生じることから、生産性に関して議論する際には、適切な区分による労働投入指数を用いることが重要である。
政策的インプリケーション
労働生産性向上に関連する政策を検討する際に、労働投入の測り方によって、労働生産性やTFPの計測結果に幅が生じるため、どのような労働投入指数を利用するかについては慎重に検討する必要があることを示した。
政策への貢献
労働生産性向上に関連する政策を検討する際の基礎資料の提供。
本文
研究の区分
プロジェクト研究「技術革新等に伴う雇用・労働の今後のあり方に関する研究」
サブテーマ「技術革新、生産性と今後の労働市場のあり方に関する研究」
研究期間
令和2年~3年度
研究担当者
- 高橋 陽子
- 労働政策研究・研修機構 副主任研究員
お問合せ先
- 内容について
- 研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム
※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。
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