ディスカッションペーパー 21-02
女性の地域移動と就業・賃金

2021年2月24日

概要

研究の目的

本稿は、総務省「就業構造基本調査」(2002年、2012年、2017年)の個票データを用い、女性の就業と賃金に対し、本人以外の家族都合による地域移動が負の影響をもたらす可能性があるかを検証した。

研究の方法

調査データの二次分析

主な事実発見

本稿の分析では、過去1年間の県をまたぐ地域移動に着目し、1年前に有業であった25~59歳の雇用者を分析対象とし、さらに1年前に正規雇用者であった個人に特定したサンプルでも分析を行った。配偶状態によって家族都合による地域移動の理由や必要性が異なると考え、分析は、配偶状態によって分けたサンプルごとに行った。

1年前に有業であった25~59歳の雇用者の移動理由を集計したところ、家族都合で地域移動をした個人は、過去1年間に移動した有配偶女性の67.8%、無配偶女性では10.5%、有配偶男性では3.3%、無配偶男性では2.7%であった。配偶状態と関係なく、男性の移動理由の約9割が自分の仕事の都合であった (1)

計量分析で個人属性をコントロールした結果、1年前に正規雇用者であった女性に関しては、配偶状態と関係なく、家族都合による地域移動は、無業や正規以外の就業につながる確率を上昇させ(図表1)、就業した場合の賃金の低下につながる(図表2)ことが確認された。1年前に正規雇用者であった男性のサンプルでも、就業に関しては、女性の場合と同様の傾向が観察されたが、賃金に関しては、女性とはやや違う傾向が見られた。結婚や家族の介護等「家族の仕事の以外の都合」で地域移動をした場合、男女ともに賃金の低下が見られているが、「家族の仕事の都合」で移動になった場合は、女性と異なり、男性の賃金が地域移動から負の影響を受けることが観察されなかった。「家族の仕事の都合」で移動する男性は、自らの賃金低下につながらない場合に移動を決定している可能性を示唆している。

男女ともに、家族都合による地域移動をした場合、労働市場における経済的地位の低下が確認されたが、家族都合で地域移動をする割合は有配偶女性で67.8%であり、負の影響を受ける個人の多くは有配偶女性であることが伺える。

(1)移動理由の一部は、「就業構造基本調査」の現住地の居住開始年月と就業履歴に基づき、調整した。詳細について、論文の第3.3節を参照されたい。

図表1 地域移動と就業形態の関係(多項ロジットモデル、1年前に正規雇用者)

図表1画像クリックで拡大表示

注:すべての推計では、年次と居住都道府県をコントロールしている。

図表2 地域移動と賃金の関係(OLS、1年前に正規雇用者)

図表2

注:すべての推計では、勤続年数、勤続年数の自乗値、年齢階級、産業、職業、企業規模、年次、市郡規模と都道府県をコントロールしている。

政策的インプリケーション

政策を通じて世帯の地域移動の意思決定に関与するべきではないと考えるが、有配偶女性の地域移動の多くが家族都合によるものであり、地域移動により、就業形態と賃金に負の影響を受けることは、男女間賃金格差に影響している可能性があることを示唆し、これに対して何らかの政策を講じるべきであると考える。有配偶女性の地域移動に伴う無業化に対する政策として、女性への求職情報提供の強化や企業の中途採用を活発化させることが政策として考えられる。転勤制度の見直しやリモートワークを可能にすることで、働き方の柔軟性を高め、有配偶女性の就業可能性や、就業経験の継続性を高めることも具体的な政策として考えられる。有配偶女性の地域移動に伴う賃金の低下に対する政策としては、職種別の労働市場の構築、企業特殊人的資本以外のスキルの蓄積を促進することなどが政策として考えられる。

政策への貢献

働き方改革や女性労働関連政策を検討する際の基礎資料となりうる。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「技術革新等に伴う雇用・労働の今後のあり方に関する研究」
サブテーマ「地域における雇用機会と働き方に関する研究」

研究期間

令和2年度

研究担当者

何 芳
労働政策研究・研修機構 研究員

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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