資料シリーズNo.236
若年者のキャリアと企業による雇用管理の現状
「平成30年若年者雇用実態調査」より

2021年3月26日

概要

研究の目的

若者のキャリア形成の状況と、企業による若者の雇用管理の現状を把握し、課題を探索する。

研究の方法

厚生労働省による「平成30年若年者雇用実態調査」を統計的手法により二次分析する。

【調査対象者】
事業所調査:全国の常用労働者5人以上の事業所から、産業・事業所規模別に層化無作為抽出した9,455事業所 (有効回答率 55.3%)。
個人調査:上記の事業所に就業する15~34歳の若年労働者を無作為抽出した19,889 人 (有効回答率 66.4%)。
【調査方法】
郵送調査。平成30年10月1日現在の状況について回答。
【分析方法】
事業所調査:ウェイトバック後の値を用いる。
個人調査:各回答者のデータに、その勤務する事業所による事業所調査への回答データを紐付けした「統合データ」をウェイトバックせず用いる。

主な事実発見

  1. 若年正社員の転職希望理由のうち「賃金」「仕事が合わない」「労働時間・休日・休暇」は、性別や望ましいと思う職業生活を問わず回答率が3割を超える普遍的理由である。転職希望理由を長期勤続型の職業生活を望む「不本意転職希望層」と転職・独立型の職業生活を望む「ジョブホッパー層」とで比べると、前者は後者より「ノルマや責任が重すぎる」(女性は「健康・家庭の事情・結婚等」も)の回答率が高く、現職への採用経緯別にみると、男女の中途採用者(他社の正社員からの転職者)・男性既卒採用者(無業や非正規を経て初めて正社員へ採用された者)では「労働時間・休日・休暇」、女性の中途採用者では「人間関係」の回答率がより高い(図表1)。

    図表1 若年正社員の転職希望理由(MA, 性、キャリア展望類型別)

    図表1画像

  2. あらゆる属性の若者において、職業生活を構成する9要素のうち「賃金」への満足度が際立って低く、属性によっては「教育訓練・能力開発」「人事評価・処遇」についても同様の傾向がある。概ね多くの職業生活構成要素について、正社員より非正規社員、正社員の中では25~34歳の年長層、非大卒者(特に専門・高専・短大卒)、既卒採用者、男性生産工程職、女性専門技術職、中小企業で働く者の職業生活満足度が特に低い傾向がある(図表2)。

    図表2 若年正社員の学歴ごとの職業生活満足度の平均値(性、採用経緯別)

    図表2画像

***p<.001 **p<.01 *p<.05 ※中途と既卒の区別は暫定的なもので今後精査が必要になる可能性がある。

※「満足」=5「やや満足」=4「どちらでもない」=3「やや不満」=2「不満」=1と得点化し平均値を算出。
  1. 初めて正社員として勤務した会社等を勤続3年未満で辞めた場合、3年以上勤続後の離職に比べて「人間関係」や「仕事が合わなかった」という理由を挙げる人が多く、この傾向は勤続1年未満での離職で顕著である。勤続1年未満離職者の離職理由を平成25年調査と比べると、男女とも「人間関係」を挙げる者が大きく増え、健康上の理由を挙げる者も増えた。
  2. 調査時点である平成30年10月は、前回調査(平成25年10月)と比べて経済が活況にあったため、初めて正社員として勤務した会社等を離職した人の調査時点における正社員比率は平成25年調査より全般に高まっており、特に20歳代までの男女では10%ポイント以上増加した。ただし、初職での勤続期間が1年未満で離職した場合、男性では学歴にかかわらず調査時点における正社員比率は相対的に低く、この傾向は平成25年調査と変わらない。

政策的インプリケーション

  1. 「不本意転職希望層」は男女とも「ノルマや責任が重すぎる」を転職希望理由に挙げる傾向があり、負荷が過剰な業務内容が本来ならば職場に定着したかもしれない若年正社員を離職させる要因になっている可能性がある。また女性のみ「健康・家庭の事情・結婚等」を挙げる傾向があり、若者のキャリア形成過程に発生するジェンダー格差に一層の注意が必要である。さらに、新卒採用以外の経緯で入職した場合は「労働時間・休日・休暇」「人間関係」等の勤務先の雇用管理と関連する理由も挙げる傾向がある。若者の早期離職問題は「新卒採用者」に注目が集まるが、新卒採用システムから外れた若者に対する支援も同様に強化していくべきである。
  2. 職業生活満足度が低い者は転職希望率が高く、「潜在的離職リスクが高い層」とみなして対策を講じる必要がある。特に「仕事の内容・やりがい」「雇用の安定性」「人間関係・コミュニケーション」への満足度が低い者の転職希望率は著しく高い。ただし「雇用の安定性」については、新卒採用された男性には「職場環境・福利厚生の充実」を、既卒採用された女性には「女性の活躍に向けた支援」を定着対策として実施すると、不満があっても勤続する可能性が示唆された。「仕事の内容・やりがい」「人間関係・コミュニケーション」については、本調査が調べた「職場定着対策」の中には転職希望抑制効果を期待できるものが見いだせず、新たに探索する必要がある。
  3. 本調査は、コロナ禍以前の平成30年に実施した調査であるが、この時点でも人間関係の悩みが新入社員の離職理由として増えていることは注目すべきであろう。現在は新型コロナ感染症蔓延の影響を受け、新入社員の受け入れ態勢を整えることがより難しくなっていると思われ、これまで以上に新入社員の人事管理にはきめ細かな配慮が必要であろう。
  4. 若者自身のキャリア選択を理由とする離職は、初職に比較的長く勤務した者に多くみられる。一方、勤続1年未満で離職する者は人間関係や健康上の理由などネガティブな理由をあげる傾向が増している。さらに、勤続1年未満で離職すると正社員への移行が比較的困難になる傾向は男性では依然として続いている。若者の安定的なキャリア形成のためにも、早期離職の原因となりうる雇用管理の改善を引き続き支援していく必要がある。

政策への貢献

若年労働者の能力開発や職場定着にむけての支援対策、および若年労働者を雇用する事業主に対する雇用管理改善支援対策を立案する際の資料を提供する。

本文

本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

プロジェクト研究「多様なニーズに対応した職業能力開発に関する研究」
サブテーマ「若者の職業への円滑な移行とキャリア形成に関する研究」
サブサブテーマ「若年者の雇用の質とキャリア形成のあり方に関する研究」

研究期間

令和2年度

研究担当者

岩脇 千裕
労働政策研究・研修機構 人材育成部門 主任研究員
久保 京子
労働政策研究・研修機構 人材育成部門 アシスタントフェロー
小杉 礼子
労働政策研究・研修機構 研究顧問

関連の研究成果

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