資料シリーズ No.161
介護人材確保を考える

平成27年10月8日

概要

研究の目的

高齢化のさらなる進展が予想されるなか、持続可能な医療・介護保険制度等の運営とサービス提供体制の構築、その担い手である医療・介護従事者の確保が喫緊の課題となっている。

本研究は、ケアの担い手のなかでも介護サービスに従事する介護職に焦点をあて、その安定的な確保に向けて取り組みが必要となる諸課題について検討することを目的とし、介護人材の確保・育成や能力発揮のための方策について分析を行った。

研究の方法

文献調査、公表統計の整理、介護職に関する既存調査の二次分析、事例収集など

主な事実発見

  1. 介護福祉士の就業継続意向

    (社会福祉振興・試験センターが2012年に実施した「社会福祉士・介護福祉士就労状況調査」の個票データの二次分析)

    介護福祉士資格保有者の就業状況、過去の職場経験、入職経路と職場選択理由、就業継続意向を整理したうえ、過去の職場経験と入職経路、職場選択理由、就業継続意向、職場満足度との関係等を検討した。

    介護福祉士の就業継続に向けては、男女問わず生涯を通じて働き続けることのできる職場環境の整備、採用時において施設・事業所に関する十分な情報の提供、職場における能力開発の充実、さらに人間関係形成やチームマネジメントができる人材の養成が必要である。

  2. 介護福祉士のキャリア移動構造

    (社会福祉振興・試験センターが2012年に実施した「社会福祉士・介護福祉士就労状況調査」の個票データの二次分析)

    過去・現在・将来の希望という3時点での働き方を特定することで、過去のキャリアに関する設問を利用して、介護福祉士資格保有者のキャリアの構造について、直近2年間に起きたキャリア移動と今後2年間に希望するキャリア移動、福祉・介護職の離職理由分布とその後の流出先、未経験者及びそれを含む潜在介護福祉士の福祉・介護職就労希望、潜在介護福祉士の職業選択における重視項目といった観点から検討した。

    福祉・介護職が無職へと移りがちな要因は家族や健康問題等であり、職場を変える要因はさまざまな不満や専門性の追求であり、養成施設での教育経験や過去に福祉職場の経験があることが流入を阻んでいる。入職直後の慎重・計画的なサポート、潜在介護福祉士の中でも無職のままの者への働きかけ、離職要因となる法人・事業所の理念や運営のあり方を明示した採用や実践と理念の乖離解消が重要である。

  3. 介護人材の資格取得意欲と就業意識

    (介護労働安定センターの2012年度「介護労働者の就業実態と就業意識調査」の個票データの二次分析)

    介護福祉士資格の有無と取得意欲に着目し、介護福祉士資格取得者、今後取得を希望する者、希望しない者のそれぞれについて、属性と就業状況、資格取得と働き方やスキルに関する課題意識、現在の仕事への満足感、就業継続意識等を比較検討した。

    資格取得意欲と就業意識に応じた雇用管理として、仕事上の悩みや不満が大きく仕事への満足感が低い傾向にある介護福祉士資格取得者には継続的なフォローアップを、資格取得希望者にはネガティブな経験を乗り越えて資格取得により専門性向上やスキルアップを図る姿勢への支援を、資格取得希望がない者には安定した労働力として長く就業意欲を維持できるような工夫を行うことなどが重要である。

  4. 介護職への参入促進

    (リクルートキャリアHELPMAN JAPANプロジェクト「介護サービス業 職業イメージ調査2014」の個票データの二次分析)

    介護サービス業を就職・転職先として考えるのはどんな人々なのか、介護業界やそこで働く人々に対するイメージ・周囲のもつ印象、介護業界の事実認知度と就職・転職志向、そして介護サービス業を就職・転職先候補として思い浮かべ、実際に就職・転職意向があるのはどんな人々かを整理した。

    専門性が活かせる・成長可能性がある、持続可能な働き方があるといったイメージを持つ者、周囲の人々がプラスの印象を持っていると認識する者が就職・転職先として介護サービス業を視野に入れる傾向がみられるが、そうしたイメージや印象のもとになる情報はテレビや新聞等を通じてもたらされるものが中心で、介護業界やそこで働く人々についての「事実」は十分に認知されていない。事実を知ることにより就職・転職先として検討するように変化する可能性も示唆され、地域労働市場の実態把握とその実情に応じた効果的な情報提供のあり方(対象・内容・チャネル)についてさらなる検討の余地がある。

  5. 先進地域の事例

    都道府県における福祉人材確保対策の例として、岡山県・福岡県における都道府県の行政・社会福祉協議会・事業者・学校関係者等をあげた体制整備と県全体の採用力アップへの取組み、ターゲットを明確にした人材確保で成果をあげる川崎市の取組みを紹介。

政策的インプリケーション

  • 介護の分野で現在働いている介護福祉士の流出防止のためには、職業的満足度(能力開発や給与等)や職場の人間関係・環境の満足度が重要であるが、法人や事業所の理念も離職へと結びつく要因となっている。職場におけるチームマネジメントやマッチングの際の情報提供の工夫が重要である。
  • 介護人材の確保という観点からみると、介護福祉士を増やすだけでなく、資格の有無に関わらず介護の現場を支える労働力の確保も重要である。多様な就業意識を持つ介護職が安定して働き続けることができるよう、個々の介護職のニーズに応じた効果的なフォローアップを行うことが求められる。
  • 介護職への参入促進のためには、介護業界や仕事の実情について的確なイメージを持てるような情報提供や、募集・採用活動のさらなる工夫と活性化が必要である。

政策への貢献

中核的役割を担う介護福祉士の定着と能力発揮、多様な人材の安定的確保、就業希望者の拡大と参入促進といった、介護人材確保の諸課題への政策対応について検討する際の視点を提供する。

本文

  1. 資料シリーズNo.161全文(PDF:4.8MB)

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研究の区分

プロジェクト研究「経済・社会の変化に応じた職業能力開発システムのあり方についての調査研究」

サブテーマ「企業における能力開発・キャリア形成のあり方に関する調査研究」

研究期間

平成26年度

執筆担当者(肩書きは平成27年3月時点)

佐藤 博樹
中央大学大学院戦略経営研究科 教授
堀田 聰子
労働政策研究・研修機構 研究員
本名 靖
東洋大学ライフデザイン学部 教授
三輪 哲
東北大学大学院教育学研究科 准教授
金崎 幸子
労働政策研究・研修機構 統括研究員
小杉 礼子
労働政策研究・研修機構 特任フェロー
門野 友彦
株式会社リクルートキャリア
HELP MAN!○JAPAN グループ
梶田 智行
川崎市社会福祉協議会
川崎市福祉人材バンク

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