労働政策研究報告書 No.168
介護人材需給構造の現状と課題
―介護職の安定的な確保に向けて―

平成 26年 5月30日

概要

研究の目的

人口構成の高齢化を背景として、持続可能な医療・介護保険制度等の運営とサービス提供体制の構築、その担い手である医療・介護従事者の確保が喫緊の課題となっている。とくに、介護サービスの担い手である介護人材(介護職)への需要が拡大し、2025年には、介護職が2012年度の149万人(推計値)を大幅に上回る237~249万人程度必要と推計されている。

本研究は、上記の推計と現状の供給量を踏まえ、今後必要となる介護人材を確保するためにどのような取組みが求められるかについての実証的な検討に向けた予備的考察を行うものである。

研究の方法

文献調査、公表統計の整理、介護保険サービス事業所・介護職・介護分野の離職者訓練を実施する介護福祉士養成施設・訓練生を対象とするアンケート調査の個票データの二次分析

主な事実発見

ある一定の介護人材が必要と推計されていることを前提とすると、その確保施策は大きく以下のように分類できる(本研究では、求められる人材の質・量を変化させうる方策については検討していない)。

  1. 新たに介護職として入職する者の数を増やす

    a)学卒就職者からの入職者数の拡大

    • a-1)介護人材養成を目的とする教育機関への入学を希望する学生を増やす
    • a-2)              〃            の卒業生のうち
      介護職として就職する者を増やす
    • a-3)介護人材養成を目的としない教育機関の在学生のうち介護職を目指す者を増やす

    b)他職種からの転職入職者及び無業からの入職者拡大

  2. 介護職として入職した者の介護分野における就業継続を促す

    c)勤務先事業所における定着を促進する

    d)勤務先事業所を離職した場合でも再び介護職を選択するよう支援する

    本報告書では、まず、介護人材の需要と供給について、都道府県別に検討する(第1章・第2章)。介護人材に関する需給の実態分析によると、人口動態とそれに伴う介護サービス受給者数の伸び、サービス提供体制は都道府県別で大きく異なる。また、教育資源の整備状況も都道府県別に違いがあり、需要拡大が見込まれる都市部で少ない。

    つづいて第1の施策のうちb)に関係するものとして、離職者訓練制度を取り上げ、その役割と効果を分析する(第3章・第4章)。2年コースは中高年男性等幅広い属性や職業経験を持つ受講生があり、修了後の介護職就職率及び就業継続率ともに高い。訓練期間中に教育内容、とりわけ実習への満足度を高め、介護の仕事にやりがい感を持てるようにできることがカギを握る。

    第2の施策のうちd)に関係するものとしては、最初に介護職の専門職意識を高めることも有益となる可能性があり、専門性獲得プロセスが仕事満足感や介護の仕事の継続意思に影響を及ぼすかどうかを確認する(第5章)。これによると、学校で専門教育を受けた経験や他職種の経験は介護の仕事の継続意思の強さとあまり関係がない。専門教育を受けたり、職場で経験を重ねたり、資格取得のための勉強をすることは、現状では職場の実情に対する不満感を高めている可能性がある。働き方については、正規職員よりも短時間非正規職員のほうが仕事満足度も仕事継続意思も高い。

    第2の施策のうちc)及びd)に関連して、つぎに介護職の定着促進あるいは事業所が変わっても介護分野における活躍を続けることに貢献する雇用管理等、上記の分析においては考慮しなかった事業所における取組みを検討する(第6章・第7章)。法人内でのキャリア・仕事の展開と就業意識への影響をみると、法人内でのキャリア展開と仕事満足度や就業継続意向には有意な関係がみられなかった。他方、自分や自分の家族が勤務先のサービスを利用したいと考えている者は満足度が高く、就業継続意向や介護の仕事の継続意向が高い傾向がみられた。離職者のうち約4割を占める入職1年目の者をとりあげてその就業意識を高める採用・定着管理をみたところ、(法人や労働時間・勤務地等ではなく)介護の仕事そのものに魅力や意義を感じて入職すること、指導担当者がいること、一人ひとりの能力や希望に見合った個別的人事処遇が行われていることは勤続意向を引き上げる。

    第2の施策のうちc)定着促進をはかることは、働きやすい職場づくりの実現をつうじて第1の施策である新たに介護職として入職する人材を増やすことにも貢献するだろう。最後に従来人材確保にかかる議論において十分焦点を当てられてこなかった「採用」を手がかりに人材確保につながる事業所のあり方を分析する(第8章)。これによると従業員の参加のもとに職場内の安定的な人間関係や業務・職場改善を促し、チームや職場の連帯感を高める取組み、訪問介護員の事務所立ち寄りの推進等をつうじた不安や孤立感の解消は、働きがいを感じる訪問介護員による口コミをつうじた採用のしやすさに貢献する。事業所がそのノウハウや人材を地域に還元し、地域社会に開かれた事業所運営を行うこともまた、人材の質・量確保にあたってプラスの影響が確認された。

政策的インプリケーション

  1. 現在、厚生労働省が介護人材確保における当面の見通しを公表しているが、介護人材の供給構造の推計について、さらに精査が求められる。とくに学卒就職者、転職および無業からの入職者数の根拠の確認が必要となる。このことは介護人材確保施策の優先順位を検討するうえでも重要となろう。
  2. 都道府県における介護人材の需給推計、供給構造及び教育資源の整備状況の把握、需給ギャップの量的把握と対策の検討が求められる。市町村にあっても介護人材需給及び確保策により強い関心を持つことが期待される。
  3. とりわけ都道府県の主体的取組みが重要となり、都道府県における人材確保に向けた対策の検討・実践とその経過のモニタリング・再検討をはかるマネジメントプロセスを推進することが有効と考えられる。
  4. 学卒就職者に関しては、若年人口の減少を踏まえると、介護人材養成を行う教育機関への進学希望者を増やす努力を行うと同時に、入学後に介護職への就職希望を持続できるような仕事へのコミットメントを高める教育内容、あわせて教育効果を高める観点からコース等の規模(定員数)の検討が必要となる。
  5. 介護事業所における人材確保や定着促進に資する雇用管理を明らかにすると同時に、転職しても再度介護職を選択することに貢献する専門職意識を高める要因の検討も重要である。これには専門性の獲得プロセスに加え、事業所や職場のマネジメントが影響を及ぼすであろう。
  6. 以上の諸課題の検討に向けては、一時点の調査だけでなく、同一個人を追跡するパネル調査が不可欠となる。
  7. 介護分野におけるキャリア・アップが推進されている。しかし現状では専門教育、資格取得や職場におけるキャリア展開は必ずしも仕事満足度を高めるものになっていない。介護プロフェッショナルのキャリア段位制度等も活用しながら、事業所全体として介護サービスの質の向上をはかる取組みと連動させながら、一人ひとりの職員との対話に基づきキャリア開発のあり方を検討することが重要となる。
  8. 学卒就職者や転職者、無業からの入職者を含めて、仕事を選択する際に介護職が対象に入るようにする取組みはさらに推進の余地がある。介護職従事者は、入職年代や就業経験のばらつきが大きく、就業意識もさまざまであることから、仕事の内容やその意義について、よりきめ細やかな情報発信が求められる。
  9. 地域包括ケアシステムの構築に向け、介護事業者には地域社会における住民相互の支えあいや組織化の支援といった役割も期待されており、地域社会に開かれた事業所運営が人材確保にも貢献する可能性があるという事実発見の共有と、事例の蓄積、さらなる検討が有効である。

政策への貢献

介護人材確保等にかかる検討の基礎資料となりうる。

なお、本研究の内容は社会保障審議会・介護給付費分科会、地域包括ケア研究会、介護人材確保の推進に関する調査研究事業、介護労働安定センターの介護労働実態調査検討委員会等における委員としての報告・発言にも活用している。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「経済・社会の変化に応じた職業能力開発システムのあり方についての調査研究」

サブテーマ「企業内外の能力開発・キャリア形成のあり方に関する調査研究」

研究期間

平成24年~25年度

執筆担当者

佐藤 博樹
東京大学社会科学研究所 教授
堀田 聰子
労働政策研究・研修機構 研究員
川越 雅弘
国立社会保障・人口問題研究所,社会保障基礎理論研究部長
諏訪 徹
日本大学文理学部社会福祉学科 教授
金崎 幸子
労働政策研究・研修機構 統括研究員
三輪 哲
東北大学大学院教育学研究科 准教授
小杉 礼子
労働政策研究・研修機構 特任フェロー
堀 有喜衣
労働政策研究・研修機構 主任研究員

関連の研究成果

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