ドイツ鉄道運転士組合(GDL)のストライキと公益産業のスト規制

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

ドイツの記事一覧

  • 国別労働トピック:2024年2月

ドイツ鉄道運転士組合(GDL)は1月24日から6日間の予定でストライキを開始したが、27日夜の非公式交渉で労使双方が歩み寄り、ストは早期に終了した。ドイツ鉄道運転士の労使交渉は昨年11月から難航しており、ストライキは通算4回目となる。ドイツ鉄道以外にも、昨年春から公益産業のストライキが頻発しており、保守系野党CDU/CSUの議員等からは公益産業のストライキを規制すべきとの声も上がる。以下にGDLのスト概要と、公益産業のスト規制の概況を紹介する。

GDLのスト概要

史上最長の6日間の予定で開始されたドイツ鉄道運転士労働組合(GDL)のストライキは、途中で両者が歩み寄り、早期に終了した。報道によると、今後は2月初旬から労使交渉を再開し、双方ともに3月初旬までの妥結を目指す(注1)

GDLは主な要求として、「現行賃金を維持したまま(減収せずに)週労働時間を38時間から35時間へ削減」、「月555ユーロの賃上げ」、「インフレ相殺のための一時金3000ユーロの支払い」などを掲げている。

対するドイツ鉄道(DB)は当初、労働力不足を理由に労働時間削減を拒否した上で、計11%の賃上げを提案していた。その後、ストライキ中の1月26日には、3月にインフレ相殺のための一時金を一部支払い、8月から4.8%の賃上げ、25年4月からさらに5%引上げ、26年1月から運転士と乗務員に対して、減収せずに週労働時間を38時間から37時間に削減するとともに、労働時間削減を選択しない従業員に対しては、代わりに2.7%の賃上げを行う案を提示していた。

会社側の提案に対してGDL側は同日、「最も重要な要求は、減収せずに交代制労働者の労働時間を週38時間から35時間に短縮することである」との声明を出した。両者の隔たりが埋まらないまま、GDLはすでに組合員投票を終え、無期限のストライキも可能な状態となっている。

なお、ストライキが実施された場合の損失について、ドイツ鉄道は1日2500万ユーロと推計しているが、ドイツ経済研究所ケルン(IW)は他産業への影響を考慮した上で、1日1億ユーロ相当という巨額の推計を出している。

2つの労働組合

ドイツ鉄道(DB)グループには、18.5万人の組合員数を擁する多数労組の「鉄道交通労組(EVG)」と、同4万人の少数労組「運転士労組(GDL)」という2つの労働組合がある。会社側によると、労働協約の適用はEVGが18万人、GDLは1万人となっている。これは、2015年に施行された「協約単一法(Tarifeinheitsgesetz)」により、同鉄道グループ約300事業所のうち18事業所にしかGDLの労働協約が適用されていないためである。協約単一法は、事業所内に多数決主義を導入することで、労働協約の単一性を確保しようとするもので、1つの事業所で2つの労組が同じ従業員グループを代表する場合、その事業所内で「組合員数が最も多い労働組合の労働協約」だけが適用される。

今回ストライキを実施したのは、少数組合のGDLであるが、組合員の多くが鉄道運転士のため、ストライキを実施した場合の影響はかなり大きくなる。なお、ストライキ実施中でも、事前に労使が署名した最低限の公共サービス維持のための協約に従い、2割ほどの重要な運行は緊急ダイヤで維持される。

ストに対する反応

ロシアによるウクライナ侵攻の影響等でエネルギーや食料品等の価格高騰が続き、ドイツでは賃金と労働条件の改善を求める労働者によるストライキが相次いでいる。昨年春には、地方公共団体と統一サービス産業労働組合(ver.di)や教育学術労組(GEW)の賃金交渉が行われたが、交渉中は各地で、学校、公共交通機関、地方行政、保育園、病院、廃棄物処理などの労働者が参加する警告スト(注2)が頻発した。特に23年3月後半に実施された鉄道職員(EVG)、地方公共交通機関、空港の地上スタッフによる大規模な24時間の警告ストライキによって、ほぼ全ての飛行機、電車、バス、長距離鉄道などのサービスが停止し、市民生活に大きな影響が出た。

このように頻発する公益産業のストライキを背景に、保守系野党CDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)の議員等は、公益産業のストライキを抑制するためのより厳格な立法の必要性を訴えている。CDUのギッタ・コネマン議員は「公共インフラで最も重要なことは、ストライキの前にまず仲裁プロセスを完了させるようにすることだ」と主張する。現行制度は議員の主張と逆に、交渉中に労使が妥協点を見つけられない場合には、まずストライキが実施され、それでも解決しない場合に両者は仲裁に進む。同議員はまた、「ストライキの適切な期間制限」の導入も求めているが、ショルツ首相率いる現政権は、労使自治への立法介入はしないという姿勢を貫いている(注3)

今回のGDLのストライキについて、18歳以上の4124人を対象に行った世論調査(YouGov)によると、59%はストライキに反対しており、34%は共感を示していた。1カ月前に実施されたGDLの別のストライキに対する調査でも同様の傾向が示されており、反対は年配者が多く、ストに理解を示していたのは若年層が多かった(注4)

公益産業のスト規制の概況

ドイツでは公益産業においてスト等の争議行為を規制する法令はなく、判例(Richterrecht)に準拠している。

規制ではなく、争議権保障という観点から基本法9条(注5)が定められており、裁判所が労働争議に関する判決を出す際の規範的な出発点は、9条3項のみという状況にある(注6)。この3項で保護される「協約自治(労働組合と使用者団体による労働条件や経済条件の自律的な決定)」の規定から導かれる結論は、「協約締結を目的としたストライキのみが認められる」ということである(注7)。従って、協約を締結できる労働組合のみが、ストライキの呼びかけ・実施を合法に行うことができ、協約締結能力のない個人や組織が行うストライキ―いわゆる“山猫スト”は違法となる。また、協約の締結を目指さない政治ストも違法である(注8)。このほかスト破り(Streikbrecher)としての派遣労働者の利用は、2017年4月1日施行の労働者派遣法改正によって改めて明確に禁止されている(注9)

判例で整序された争議原則によると、スト等の争議行為は「一般に受け入れられる」ために一連の原則を守らなければならない。一連の原則には、例えば、協定締結のためのあらゆる可能な手段に訴えた後の最後の手段であるべきとする「最終手段原則(letztes Mittel)」、目的を達成する上で不適切、不必要、不均衡なものであってはならないという「過剰禁止原則」などがある(注10)。また、労働協約期間中の平和義務(Friedenspflicht:同有効期間中は、当該労働協約で定められた事項の改廃を求める争議行為を行わない義務)も順守する必要がある(注11)

レーヴィッシュ(1995)によると、連邦労働裁判所判決(1971年4月21日)で示された見解に従って、比例原則(Grundsatz der Verhältnismäßigkeit)に基づき、「争議行為は、公共の福祉を顕著に侵害してはならない。つまり、個人的、社会的、国家的な需要の充足に必要な“最低限の供給”に対して深刻な影響を与えてはならない」と解されている。そして、そのような“最低限の供給”が確保されるべきなのは、電気のほか、ガス・水道、食糧・医療、交通、郵便、電報電話、ラジオ・テレビ、消防、埋葬、ごみ収集、防衛、国内の治安などの領域とされる(注12)

判例で整序された争議原則によると、公益事業のストライキにおける最重要義務は、「公衆の生活に不可欠なサービス(電気や水の供給、病院など)の維持」である。これには生産設備を紛争開始時点の状態で維持するための作業や、また生産工場(溶鉱炉、化学工場)の損傷を防止するために技術的な理由から必要な生産を(おそらく低減レベルに)維持するための継続作業、操業作業、さらには操業停止中における製品と生産工場の損傷を防止するための加工作業等も含まれる。ただし、ストライキの影響を受ける企業のマーケットシェアや、顧客の保全を目的とする作業、製品の追加加工・輸送等は含まれない(注13)

「不可欠なサービス」の具体的な業務内容と範囲は、原則として団体交渉当事者(産別労使)間で決定される(注14)。清水(1975)によると、ドイツ労働総同盟(DGB)の1949年10月の労働争議指導に関する方針Ⅲにおいて、電気・ガス・水道などの公衆の生活に不可欠な給付を行っている事業におけるストライキには、住民への供給を確保するために労働組合自らが「緊急労働(Notarbeit)」を実行することを規定しており、「ドイツの労働組合は伝統的に他国の労働組合以上にスト権行使の限界を意識してきたように思われる」と分析している(注15)

ドイツ官吏同盟協約連合(dbb)の組合員向け冊子(注16)では、「公共分野のストライキ実施に際しては、“第三者の権利に十分配慮することが重要”であり、そのために、事前通告を行ったり、緊急時サービス協約(Notdienstvereinbarung, NDV)を労使で締結したりする」と説明されている。

また、統一サービス産業労働組合(ver.di)のサイトでは、スト実施中には、労使が署名した「緊急時サービス協約(NDV)」に氏名の記載がある労働者のみがサービスに従事し、使用者が一方的に労働者に対して緊急サービスに従事するよう命令することができない(注17)旨の説明がある。地方公共団体使用者連盟(VKA)では、これまでの判例を踏まえて労使で事前に「緊急時サービス協約(NDV)」を締結し、その際はVKAが作成した「協約サンプル」を雛形として活用するよう求めている(注18)

以下に、関連部分の和訳資料を参考として掲載する。

今後の展望(注19)

以上が公益産業におけるスト規制の概況だが、ドイツでは今年に入り、GDLのストライキ以外にも、公益産業におけるストライキが複数起きている。1月30日には、23の州立病院で働く医師の労使交渉が決裂し、警告ストが行われた。また、各地の公共交通機関(バス、路面電車、地下鉄)を運行する130以上の企業で働く9万人を組織する統一サービス産業労組(ver.di)の労使交渉も難航し、2月2日に全国的な警告ストを実施することが発表された。インフレ等を背景として、しばらくこうしたストライキの波は続くものと思われる。

参考資料

参考レート

2024年2月 ドイツの記事一覧

関連情報

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。