最低賃金、2024年4月より11.44ポンド

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2023年12月

政府は11月、来年度の最低賃金の改定額を決定した。2024年4月から、成人向けの額は前年より9.8%増の11.44ポンド、また18-20歳向けは14.8%増の8.10ポンド、16-17歳向けは21.2%増の6.40ポンドとなる。物価の上昇や人手不足などを背景として賃金水準が大幅に上昇する中、政府が掲げる平均的な賃金水準の3分の2への引き上げを達成するため、これまでで最大の引き上げ幅となった。

高い賃金上昇率を上回る引き上げ

法定最低賃金制度は現在、成人(23歳以上)向けの「全国生活賃金」と、これを下回る年齢層に対する「全国最低賃金」として、年齢層別に3種(21-22歳、18-20歳、16-17歳)およびアプレンティス(見習い訓練参加者)向けの計5種類の最低賃金額で構成される(図表1)。政府の諮問機関である低賃金委員会が、経済や雇用、賃金水準の動向などを勘案の上、毎年の改定額を検討している。

低賃金委は、委員会の提言を受けて政府が予定していた全国生活賃金の適用対象年齢の引き下げ(23歳から21歳へ)を前提に、2024年4月の改定額として、全国生活賃金について9.8%増の11.44ポンド、全国最低賃金の18-20歳向け額を14.8%増の8.10ポンド、16-17歳向け額を21.2%増の6.40ポンドとすることを提案、政府はこれを承認した(注1)。対象年齢の引き下げに伴い、従来の21-22歳向け額は廃止される。既に、16-17歳層向け額とアプレンティス(企業等における見習い訓練生)向けの額が2022年以降同額に定められていることから、最低賃金額は2024年4月以降、3種の水準にまとめられることになる。

図表1:最低賃金額の推移(単位:ポンド)
画像:図表1

注:全国生活賃金は2016年4月、25歳以上向けの新たな最低賃金額として導入された。これに伴い、従来の全国最低賃金(21歳以上)は21-24歳に対象が限定された。その後、全国生活賃金の適用年齢は、2021年4月に25歳から23歳に引き下げられ、さらに今回の改定で21歳となる。また、アプレンティス向けの額は、2022年に16-17歳向けと同額に引き上げられた。

今回の改定案には、物価上昇や人手不足などを背景とした国内の賃金水準の大幅な上昇が大きく影響している。成人向けの法定最低賃金である全国生活賃金は2016年の導入当初から、2020年までに統計上の時間当たり賃金額(中央値)の6割に引き上げることが目指され、達成後の現在は、さらに中央値の3分の2への引き上げを2024年4月までに行うことが新たな目標として掲げられている。このため導入以降、コロナ禍直後の2021年を除いて、ほぼ一貫して平均賃金を上回る上昇率が維持されており(図表2)、今回の改定でも、目標の達成に必要な水準への引き上げを検討する必要があった。

低賃金委員会によれば、中小企業や低賃金業種を中心に、企業の間では年々の最低賃金額の改定によるコストの上昇や、これを価格に転嫁した場合の需要減少などへの懸念が聞かれたとしている。ただし一方で、労働市場は全体としては堅調であり、求人も減少してはいるものの、依然としてコロナ禍前より高い状況にあること、また低賃金部門でも雇用や労働時間による調整の動きは見られないことなどを挙げ、政府目標の達成に向けた改定を決めたとしている。加えて、若年層向けの改定率についても、雇用が好調であることや、全国生活賃金との水準の乖離などを理由に、大幅な引き上げを提案したと述べている。

図表2:平均賃金額、最低賃金額の上昇率の推移(単位:%)
画像:図表2

出所:(平均賃金)’Labour market overview, UK:November 2023新しいウィンドウ’、(消費者物価指数)’CPI ANNUAL RATE 00:ALL ITEMS 2015=100新しいウィンドウ

低賃金層の賃金水準への影響

統計局が11月に公表した、労働者の賃金水準による分布に関するレポート(注2)のデータからは、ここ数年低下してきた最低賃金額近辺(ピーク部分)の労働者の比率が2021年以降ほぼ横ばいで推移しており(注3)、この間、最低賃金額に近接する上位の賃金水準において労働者の比率が上昇していることが窺える(図表3)。最低賃金額の引き上げが進むに従って、より賃金の高い層との賃金額の差が曖昧になりつつある可能性が推測される(注4)

なお、統計局は11ポンドと12ポンド近辺にそれぞれ見られる比率の高まりについて、民間の非営利団体が実施する「生活賃金」(living wage:2023年4月時点で、ロンドンで11.95ポンド、それ以外の地域で10.90ポンド)の影響の可能性を指摘している。

図表3:時間当たり賃金額による労働者比率(単位:%)
画像:図表3
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注:表示額の上下20ペンスの労働者比率を平均したもの。なお、賃金額は時間外賃金を除く。

出所:Office for National Statistics "Low and high pay in the UK:2023新しいウィンドウ

生活賃金も10%の引き上げ

生活賃金は、最低限の生活水準を維持するために必要な生活費に基づく賃金額を算出して、雇用主に支払いを求める運動で、市民団体や教会、労働組合などが参加して設立されたLiving Wage Foundationが推進を担っている。最低賃金制度とは異なり、雇用主は自主的に参加することで「生活賃金雇用主」としての認証を受けることができる。Living Wage Foundationによれば、認証雇用主は現在およそ1万4000組織で、労働者46万人が生活賃金の適用を受けているという。

生活賃金額は、住居費や物価の格差を考慮し、ロンドンとそれ以外の地域で異なる額が設定されている。10月下旬に発表された今年の改定額は、ロンドンで時間当たり13.15ポンド(1.20ポンド、10.0%増)、ロンドン以外で10.90ポンド(1.10ポンド、10.1%増) 、前年に続き例年を上回る改定率となった。改定額の算定を担ったシンクタンクResolution Foundation(注5)は、大きな理由として生活費の高騰を挙げるとともに、算出方法の変更にも言及しているている。従来は、成人についてフルタイム就労を前提としていたが、一人親や、子供を持つ非主稼得者の労働者については現実的な仮定ではないとの判断から、こうした層についてはパートタイム就労を新たな前提として算出を行った結果として、改定率がさらに上昇した(注6)としている。

参考レート

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