ハリウッドの脚本家と俳優のストライキが終結
 ―AIの利用制限などに合意

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2023年11月

ハリウッドの脚本家や俳優らでつくるそれぞれの労働組合が、待遇の改善や動画配信に伴う収益の分配、AI(人工知能)の利用制限などを求めてストライキに発展した労使交渉で、脚本家の労使は9月24日、俳優の労使は11月8日、それぞれ経営側と暫定合意に達した。報酬の引き上げや動画配信の視聴数と連動したボーナスの支給、AIの利用に対する脚本家や俳優の権利の確保、などを盛り込んでいる。

AI代替に危機感

映画産業などのエンターテイメント業界ではコンテンツの提供方法の多様化や、AIの活用による脚本の作成、俳優の映像の複製、エキストラの代替などの環境変化が進む。こうした中、脚本家や俳優らは、自らの仕事がAIに代替されたり、著作権・肖像権が侵害されたりすることへの危機感が高まっていた。このため、労働協約の改定交渉にあたって、組合側は動画配信に伴う作品の二次使用料などとともに、AI技術の進展に対する権利の確保などを求めた。

脚本家の労使交渉は、ネットフリックスやウォルト・ディズニーなどが加盟する全米テレビ映画制作者協会(Alliance of Motion Picture and Television Producers、AMPTP)と全米脚本家組合(Writers Guild of America、WGA)との間で行われた。WGAには1万1,000人以上が加盟し、賃金・労働条件の引き上げや、動画配信に関わる配分の増加、AI(人工知能)の使用制限などを求めた。交渉は決裂して5月2日からストライキに突入した。

一方、俳優組合・全米テレビ・ラジオ芸術家連盟(Screen Actors Guild - American Federation of Television and Radio Artists, SAG―AFTRA、約16万人が加盟)も、AMPTPと交渉を重ねていた。SAG-AFTRAは俳優の声や演技をAIで修正したり、デジタル上で俳優の姿を複製したりする場合に本人の同意を得ることや、公正な対価を払うことなどを要求。7月14日からストライキに突入し、WGAとの「同時スト」の形となった。

脚本家の権利を確保

脚本家労使は9月24日に暫定合意を交わし、同27日未明にストライキは終結した。新たな協定は2023年9月25日から2026年5月1日までの期間とし、以下の内容を含む(注1)

  • 最低報酬の引き上げ(初年度5%、2024年5月2日から4.5%、2025年5月2日から3.5%をそれぞれ引き上げ)
  • 高視聴ストリーミング番組の脚本家へのボーナス支給
  • 1シリーズあたりの最低限のスタッフライターの配置(少なくとも3人の脚本家・プロデューサーを10週間連続で雇用など)
  • AIの使用制限

AIの使用制限に関しては次の事項に合意し、脚本家の権利を確保することとした。

  • ①AIは作品を書いたりリライトしたりすることはできない。AIが生成した作品は、素材とみなされない。つまり、AI が作成した作品を、脚本家の信用や権利を損なう目的で使用することはできない。
  • ②制作会社が同意し、そのポリシーに従うことを条件として、脚本家はAIを使用できる。一方、制作会社は脚本家に AIソフトウェア(Chat GPTなど) の使用を要求できない。
  • ③脚本家に提供した素材が AI によって生成された、またはAIによって生成された素材が組み込まれている場合、会社は脚本家に開示する必要がある。
  • ④WGAは、制作会社がAIをトレーニングするために脚本家の作品を利用することについて、協約またはその他の法律によって禁止されていると主張する権利を留保する。

俳優のデジタルコピーに本人同意と補償を

その後も交渉を続けていた俳優労使は11月8日に暫定合意に達し、ストライキが終結した(注2)。SAG―AFTRAによると、合意内容には、最低報酬の引き上げ(新協定発効時に7%、2024年7月に4%、2025年7月に3.5%をそれぞれ引き上げ)や、動画配信された出演作の成果(視聴回数)に基づくボーナスの支給、同意と補償なしに本人の映像がAIによって複製や改変、使用されないことの保証、などが盛り込まれた。

デジタルの複製(Digital Replica)をつくるために呼び出したエキストラ俳優には、1日分の報酬を支給すること、複製を主要キャラクターとして使用する場合、俳優本人が演じたとすれば費やしたであろう日数に応じた出演料を支払うこと、なども記載されている。

参考資料

  • ニューヨークタイムズ、ブルームバーグ通信、各ウェブサイト

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