UAWと自動車大手3社が暫定合意
 ―4年半で25%の賃上げなど

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2023年11月

労働協約の改定をめぐる自動車大手3社(フォード・モーター、ゼネラル・モーターズ/GM、ステランティスのいわゆるビッグスリー)と全米自動車労組(UAW、組合員数約15万人)との労使交渉は10月30日までに各社で暫定合意に達し、のべ6週間にわたるストライキが終了した。UAWは、各社からそれぞれ「4年半で25%の賃上げ」や、賃金を物価に連動させる「生計費調整(COLA)」制度の復活などの労働条件引き上げを獲得したと評価している。これに連動する形で、ホンダなどUAW未組織の外資系企業でも賃上げの動きがみられる。

初の「3社同時スト」に

UAWは今回の労働協約改定交渉で、(1) 4年間で40%(交渉の過程で36%に変更)の賃上げ、(2) 賃金をインフレ率(物価)と連動させる生計費調整(Cost of Living Adjustment, COLA)の復活、(3)2007年の金融危機以降に入社した従業員の賃金が低いといった「二層賃金制度(Two-tier wage system)」の廃止、(4)退職者の福利厚生の改善、(5)工場閉鎖に対するストライキ権の獲得、(6)有給休暇の増加、(7)臨時工(Temporary Employees)の待遇改善、(8)週32時間への労働時間の削減、(9)ガソリン車から電気自動車(EV)への移行に伴う雇用確保、などを求めた。

交渉は難航し、旧労働協約の期限が切れた9月15日未明から、3州(フォードがミシガン州ウェイン、ステランティスがオハイオ州トレド、GMがミズーリ州ウェンツビル、の各組立工場)で約1万3,000人がストライキに突入した。その後も、交渉に進展がなかったとする会社の工場で、次々とストライキに入る戦略(UAWはStand up strikeと呼ぶ)をとり、その規模を拡大させていった(図表1)。

図表1:自動車大手「ビッグスリー」におけるUAWストライキの推移
日にち ストライキの状況
2023年
9月15日
ミシガン州ウェインのフォード工場、オハイオ州トレドのステランティス工場、ミズーリ州ウェンツビルのGM工場、で合計約1万3,000人がストライキに突入
9月22日 全米20州38カ所の部品流通センターでステランティスとGMの約5,600人がストライキ
9月29日 イリノイ州シカゴのフォード工場、ミシガン州ランシングのGM工場で合計約7,000人がストライキ
10月11日 ケンタッキー州ルイビルのフォード工場で約8,700人がストライキ
10月23日 ミシガン州スターリンハイツのステランティス工場で約6,800人がストライキ
10月24日 テキサス州アーリントンのGM工場で約5,000人がストライキ
10月25日 UAWがフォードと暫定合意
10月28日 UAWがステランティスと暫定合意
10月30日 UAWがGMと暫定合意

出所:全米自動車労組(UAW)ウェブサイト等より作成

前回までのビッグスリーの協約改定交渉では、UAWは3社のうち1社を選んで交渉し、その結果を他社にも適用する戦略を採っていた。2019年はGMで40日間にわたるストライキが実施されている。だが、2023年3月26日に就任した現在のショーン・フェイン会長は3社と同時に交渉する方式へと転換。今回、初めて3社同時にストライキが実施されることにつながった。

暫定合意

UAWは10月25日にフォード、同28日にステランティス、同30日にGMとそれぞれ暫定合意に達した(注1)。各社との主な合意内容は、(1) 2028年4月までの4年半で25%の賃金引き上げ(新協定承認初年度は11%、その後は毎年3%、3%、3%、5%と上昇させる)、(2)生計費調整(COLA)の復活、(3) 「二層賃金制度」の廃止、(4)初任給(Starting wage)の引き上げ(フォード約68%、ステランティス約67%、GM約70%)、(5)最高の賃金水準に昇給するまでの期間を8年から3年に短縮、 (6)退職者の福利厚生の改善、(7)工場閉鎖をめぐるストライキ権の獲得、(8)最大200時間への有給休暇の増加(フォードとGM)、(9)臨時工を一定期間後に正社員化、(10)協定承認ボーナス(5,000ドル)の支給、などである。週32時間労働への削減などでは合意できなかった(図表2)。

また、(6)退職者の福利厚生の改善について、UAWは金融危機の2007年秋より後に入社した従業員に対して、それ以前に入社した従業員と同様に確定給付年金を支給するよう求めていた。だが、この要求は実現できず、従業員の確定拠出年金401(k)への拠出額を、現在の給与の6.4%から10%へと引き上げることでの合意となった。

図表2:自動車大手「ビッグスリー」とUAWの交渉における主な妥結結果
UAW要求内容 フォード ステランティス GM
賃金の40%引き上げ 4年半で25%(初年度11%)引き上げ 4年半で25%(初年度11%)引き上げ 4年半で25%(初年度11%)引き上げ
生計調整費(COLA)の復活
二層賃金制度の廃止
退職者の福利厚生の改善
工場閉鎖に対するストライキ権
有給休暇の増加 最大200時間に増加 × 最大200時間に増加(勤続20年以上対象)
臨時工の待遇改善 新規採用者を9カ月後に正社員化 新規採用者を9カ月後に正社員化 新規採用者を9カ月後に正社員化
週32時間労働への削減 × × ×
雇用確保(EV関連工場の組織化、閉鎖工場の再稼働など) テネシー州などに設立予定のEV工場の労働者をUAWとの労働協約の対象に イリノイ州の工場を再稼働。EV用バッテリー工場を新設 バッテリー製造工場(合弁事業)の労働者をUAWとの労働協約の対象に

注:○は最左欄の要求内容をUAWが獲得、×は獲得できず、あるいは不明、を意味。△の内容は記事本文参照。

出所:全米自動車労組(UAW)ウェブサイト等より作成

UAWは「過去22年間の賃上げの合計より、今回の上げ幅のほうが大きい」と暫定合意を評価し、ストライキの終了を宣言した。ストライキの日数はフォードで41日間(9/15-10/25)、ステランティスで44日間(9/15-10/28)、GMで46日間(9/15-10/30)に及んだ。参加した組合員数は、3社合計で22州の8つの組立工場、38の部品流通センター(parts-distribution facilities)の約4万5,000人に達した。暫定合意の内容は、各地のUAW組合員の投票を得て承認、発効する。

現地報道によると、会社側はストライキによって、フォードで13億ドル、ステランティスで32億ドル、GMで8億ドルの損失が生じた。フォードは賃上げにより、自動車1台あたりの平均で、人件費が850~900ドル増加するとしている。

電気自動車関連工場や外資系企業にも波及

ステランティスとの暫定合意では、稼働停止中のイリノイ州ベルビディアの組立工場を再開するとともに、同州にEV(電気自動車)搭載用バッテリーの製造工場を合弁で新設することとした。稼働停止で転勤した従業員が当地に戻る権利を得るとともに、当地に残った組合員を「一時解雇」の状態とし、再就職までの間、補完的失業手当(SUB:Supplemental Unemployment Benefits、企業が一時解雇者に対して、失業保険に上乗せする形で支給する)や医療保険の対象にする。

フォードとの合意では、テネシー州などに建設予定のEV製造工場にUAW組合員が希望して異動することや、これらの工場の従業員がUAWの労働協約の対象になることとした。

GMとはウルティアム・セル社(韓国LGとの合弁)の電池工場の労働者が、UAWの労働協約の対象になることとした。同社はオハイオ州ローズタウンにバッテリー(ウルティアム)の工場があるほか、テネシー州スプリングヒルとミシガン州ランシングに電池工場を設置する予定にしている。

UAWは外資系企業も組織化のターゲットにしている。ブルームバーグ通信によると、ホンダやトヨタ、ヒュンダイ、テスラ、日産、BMW、メルセデス、スバル、フォルクスワーゲン、マツダらの従業員に対して、同労組への参加を呼びかけている。こうした中で、ホンダは一部の米国従業員の給与を11%引き上げると発表した。UAWが大手3社との交渉で合意した初年度の引き上げ率と同水準であり、その妥結内容が波及した形だ。このほか、トヨタが2024年1月から組立工の最高時給を9.2%引き上げ、ヒュンダイがアラバマ州とジョージア州の工場で、2028年までの4年間に時給を25%引き上げることも報じられた。いずれもUAWの組織化を防ぐ取り組みの一環とみられている。

参考資料

  • CNBC、全米自動車労組(UAW)、日本貿易振興機構、ニューヨークタイムズ、ブルームバーグ通信、ロイター通信、各ウェブサイト

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