より予見可能な勤務形態を求める権利の保障へ

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2023年11月

より安定的な労働時間や勤務日数、契約期間など、予見可能な勤務形態への変更を雇用主に申請する権利を労働者に付与する法律が9月末に成立した。一定の勤続期間を経た労働者や派遣労働者が対象で、雇用主は費用面や事業への悪影響など、妥当な理由がなければこれを却下することはできないとされる。法改正は、詳細を定める二次法の成立を待って、2024年内の施行が見込まれている。

12カ月以下の労働契約は、予見可能性が不足

労働者(予見可能な雇用条件)法(注1)は、雇用の質の改善に関する2017年の専門家レビュー(注2)において指摘されていた「一方的な柔軟性」(雇用主が、柔軟な雇用契約によって生じる仕事や収入の不安定さのリスクを、労働者に一方的に負担させるもの)への対応(注3)の一環として、議員立法により2022年6月に議会に法案が提出されたものだ。労働者および派遣労働者に、より予見可能な雇用条件を雇用主に要求する権利を付与することを目的として、1996年雇用権利法の条文を改正する内容となっている。

労働者(派遣労働者以外)は、勤務形態(work pattern)に予見可能性の不足する部分がある場合に、より予見可能なものへの変更を申請することができる(注4)。変更可能な勤務形態の内容には、労働時間数、週当たりの勤務日数と時間帯、労働契約の期間、その他大臣が別途定める雇用条件を含む。労働者の契約期間が12カ月以下である場合、契約期間に関して予見可能性が不足しているとみなされ、より長期の有期契約や契約期間の上限設定の削除を求めることが、より予見可能な勤務形態の要求となり得る。申請権の付与には勤続年数が要件となるが、具体的な期間に関する規定はなく、今後二次法により設定される(注5)。なお、申請は12カ月の間に2回認められる(注6)

却下可能な理由として、追加の費用負担や業務等への悪影響など

申請を受けた雇用主は、これを適切に取り扱い、申請から1カ月以内に何らかの決定を申請者に通知しなければならない。申請を却下する場合、以下の理由に適合する必要がある。すなわち、①追加の費用負担、②顧客の需要への対応能力に関する悪影響、③採用に関する悪影響、④その他の事業への悪影響、⑤申請期間に労働者が従事可能な仕事量が不足、⑥事業上の改編を予定、⑦その他、大臣が規則により定める理由-である。この義務は、決定より前に雇用が終了した労働者についても適用されるが、雇用主は労働者による契約の終了、あるいは雇用主が正当な理由により契約を終了したことに基づいて、申請を却下することができる。また、申請(あるいは申請の却下に対する異議申し立て)に関して雇用主が設定した面談を2度欠席した場合、雇用主は申請者に通知の上、申請は取り下げられたものとみなすことができる。一方、雇用主が申請を承認する場合には、申請の承認から2週間以内に、申請された勤務形態の変更を反映した(かつ全体として申請時点を下回らない)新たな契約条件を提示しなければならない。

雇用主による違反を疑う場合、労働者は雇用審判所に申し立てを行うことができる。雇用審判所は、申し立て内容に根拠があると認めた場合、雇用主に対して申請の再検討を命令し、労働者に対する賠償額を決定することができる。賠償額の上限は、所定の週数分の週当たり賃金額とされ、これも具体的な週数については今後決定される。

派遣労働者は就業12週間で申請の権利

一方、派遣労働者についても、同様に申請の権利が認められる。単一の派遣先で12週間、同一の業務に従事することを要件として、派遣事業者のほか、派遣先の雇用主に対しても、申請を行うことが可能となる。申請可能な内容や申請手続き等については、原則として労働者と同様とみられる(注7)

同法による雇用権利法の改正は、より詳細な内容を定める規則の成立を待って、2024年内に実施される見込みだが、内容によって施行のタイミングが前後する可能性が示唆されている(注8)。なお関連して、10月には労使紛争の斡旋等を行う公的機関である助言・斡旋・仲裁局(ACAS)が、雇用主による申請の取り扱いに関する実施準則案(注9)を公表し、意見募集を開始したところだ。申請を受けた面談の実施や、変更による影響の評価、決定に関する書面での通知や、却下する場合の理由の説明など、望ましい手続きの在り方についての指針となるとみられる。

参考資料

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