労働力不足職種リストの縮小、廃止など提案
 ―諮問機関

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2023年11月

移民制度に関する政府の諮問機関は、外国人労働者の受け入れに係る労働力不足職種リストの改定案をまとめた。EU離脱以降、労働者の受け入れ要件が緩和されたことなどを受けて、従来の掲載職種の大半が通常のルートで受け入れ可能であるとして、給与基準の減額措置の見直しを前提とした職種の削減や、リストの廃止を含めた検討を政府に提言している。

給与額の基準緩和を廃止、対象範囲の限定を提言

労働力不足職種リストは、国内で人材不足が生じている職種への外国人労働者の受け入れを容易にすることを目的とした制度だ。政府の諮問機関Migration Advisory Committee (MAC)が、労働市場の需給状況等に関する指標(注1)の分析や、企業や業界団体などからの意見聴取を踏まえて労働力不足職種の案を作成、これを受けて政府が決定する形をとる。EU離脱以前の受け入れ制度では、労働市場テスト(国内における一定期間の求人)の免除や、数量制限に関連した優先的割り当てなどの優遇措置が設定されていた。しかし、離脱後の新制度では、受け入れ要件となる職務レベルの引き下げ(国内の資格区分上で、大卒相当のレベル6から中等教育修了相当のレベル3へ)などと併せて、労働市場テストや数量制限が廃止・停止され、掲載職種に関する優遇措置としては、給与額の基準緩和が新たに導入されることとなった。通常の労働者の受け入れに用いられる「専門技術者」ルートでは、所定の基準額(2023年は年2万6200ポンド)(注2)または職種ごとの実勢給与額(職種内の労働者の上位4分の3がこれを上回る給与額)のいずれか高い額が最低基準として適用されるが、掲載職種についてはそれぞれ80%相当額(実勢給与額の80%と、2万6200ポンドの80%の2万960ポンド)のうち高い額が基準となる。

MACがかねてから、実勢給与額の減額に批判的な立場を示していたこともあり、政府は今回の改定に際して、不足職種の改定と並んで実勢給与額の減額措置の是非について諮問を行った。これを受けて、MACは減額措置の廃止を今回の見直し作業の前提とし、対象職種の範囲を限定することを提言している(注3)。現在の掲載職種の多くは、実勢給与額が通常の下限額(2万6200ポンド)を上回っている(文末付表参照)ことから、リストへの掲載による主な利点を失うこととなるが、MACは、こうした職種の受け入れには通常の専門技術者ルートが十分対応していると述べ、リストの対象外と位置付けた。また併せて、公共部門の俸給基準が適用される保健・教育分野の労働力不足職種リスト(注4)の掲載職種(医師、心理学者、薬剤師など15職種)についても、基準からの減額は認められていないため、同様に対象から除外すべきであるとしている。

一方、実勢給与額が通常の下限額を下回る(減額がなければ受け入れが不可能となる)低賃金職種については、自由な受け入れを認めれば国内労働者の賃金水準の低下や、外国人の搾取の横行につながりかねないことなどを理由に挙げ、不足が生じている職種について保護を弱める理由はない、として消極的な立場を示している。加えて、こうした労働者が被扶養者を帯同する場合、財政コストの増加を招く可能性がある旨を併せて指摘している。

また、政府は諮問に関する通知において、現在の専門技術者ルートにおける職務レベル基準(原則レベル3以上)を下回る職種についても、例外的な掲載に向けて検討対象とすべきとの意向が示唆されていた。MACの提言により、2022年に介護労働者(レベル1~2相当)をリストに追加したことを受けたもので、政府には他の様々な業種からも、レベル3未満の職に労働者を受け入れるルートの設置を求める声が寄せられているという。しかし、MACは今回の見直しの中で扱うべき内容ではないとして、必要であれば改めて諮問するよう政府に求めている。

リストの廃止も視野に

以上のような前提に基づき、MACは業界団体などから寄せられたエビデンスなどをベースに、職種ごとの不足状況や人材調達の困難さ、賃上げなど調達の努力、人材育成の取り組み等を検討し、現行の53職種(専門技術者38職種、保健・教育分野15職種)からは大幅な縮小となる10職種(うち2職種はスコットランドのみ)を掲載すべきとする案をまとめた(図表)。このうち、介護労働者および上級介護労働者については、前回の提言以降も国内における介護労働者の調達に向けた政策対応が進んでいないとの判断から、引き続きリストに残したとしている。建設業や介護業は、法律違反や搾取のリスクが高いと認識されている業種ではあるものの、不足職種としてリストに掲載することによる利益もあるため、そのバランスを考慮したと述べつつ、より根本的な問題の解決には、労働力不足職種リストの廃止または大幅な制度改正を要するとしている。MACは代替案として、リストを廃止のうえ、政府が個別の業種(例えば製造業、宿泊飲食・観光業など)ごとに諮問を行うことや、リストを維持する場合にも、より細かい職業ごとの不足状況に関する評価を省庁横断的に実施し、受け入れの妥当性を検討すること(注5)などを提案している。

一方、もし政府が減額制度を残すと判断した場合には、リストの名称を実際の機能に即して「給与基準減額職種リスト」(Immigration Salary Discount List)に変更することを提案している。

図表:労働力不足職種案
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参考資料

付表:労働力不足職種(2023年8月時点)、実勢給与額と全体の基準額の差
画像:付表
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参考レート

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