クラウドワークをめぐる連邦労働裁判所判決

連邦労働裁判所(BAG)は2020年12月、インセンティブ制度のあるプラットフォームを利用して多数の業務を受けていたクラウドワーカーを「労働者(被用者)であり、自営業者ではない」という判断を下した。判決直前には連邦労働社会省が「プラットフォーム・エコノミーにおける公正な労働」と題するクラウドワーカーの保護に向けた重要方針を発表する等、クラウドワークをめぐる議論が活発化している。以下にその概要を紹介する。

判決の背景 ―インセンティブ制度

クラウドワークは、委託者(発注者)が一般大衆(クラウド)に対してデジタル等のプラットフォームを介して、規模の大小はあれ、業務を委託する。例えば、クラウドワーカーはアプリケーションのテストを行ったり、食べ物を配達したり、プログラミング業務を行ったりする。ビジネスモデルによって委託者(発注者)は、クラウドワーカーに相当の忠誠心(ロイヤリティ)を求めることがある。例えば、「できるだけ多くの委託案件を引き受けてほしい」、「一定の時間内に即時対応してほしい(今回の判例では、2時間以内に対応することが求められていた)」と要求する場合などである。そのためプラットフォーム運営者は、継続的に委託を引き受けるクラウドワーカーに対してインセンティブ(報奨・歩合)を提供する制度を設けることが多い。こうした制度の存在が、今回の判決における判断基準に影響した。

判決概要 ―民法611aを適用

原告は、プラットフォームを利用して、小売店やガソリンスタンドにおけるブランド商品の店頭陳列の管理―具体的には、商品の店頭陳列状況の写真を撮り、宣伝・広告に関する質問に答える、極めて小口の仕事(マイクロジョブ)を行っていた。こうした委託は、アプリケーションを用いて行われており、原告とプラットフォーム運営者の間に基本契約は存在していたが、その契約によって原告が委託を引き受けて実施する義務が生じるものではなかった。また、どれだけの委託数を引き受けるかの判断は、原告のみに委ねられていた。しかし実際には、原告はインセンティブ制度によって、できるだけ多くの委託を引き受けるように仕向けられていた。つまり、委託業務を1つずつ処理することで、原告は経験値(Erfahrungspunkte)を積み、一定の経験値を超えると、原告はより好条件の委託を受けられるように設定されていた。その場合、さらに、複数の委託を同時に引き受けることができるようになり、共通のルートで処理可能となることから、原告はより高い時給を得られる仕組みとなっていた。

連邦労働裁判所はこの状況について、「労働関係の特徴を満たしている」と判断した(文書番号:9 AZR 102/20)。その際、ドイツ民法611a条の「他律的な、すなわち、他者の指揮命令によって人的従属関係において働く者は被用者である」という定義が適用された。今回の判断で重視されたのは、プラットフォームの組織構造が、「クラウドワーカーが一連の単純な、段階的に契約で定められるマイクロジョブを継続的に処理するように、設計されている点」である。これによりクラウドワーカーは自分の仕事を自由に形成できなくなっていると判断した。

この判決によって、プラットフォーム運営者には今後、意図しない労働関係のリスクが生じることになる。それは労働法だけでなく(例えば、最低賃金や解約保護など)、社会保険法にも関係する。社会保険料がこれまで支払われていなかった場合には、その後納が必要になったり、例外的には刑法上の責任が生じたりする恐れもある。また、賃金税法上も現在の使用者に対する責任が問われる可能性も出てくる。

連邦労社省による重要方針発表

同判決直前の2020年11月には連邦労働社会省が「プラットフォーム・エコノミーにおける公正な労働」のための重要方針を発表した。方針によると、クラウドワーカーの社会的保護構築のために、プラットフォーム運営者に今後は何らかの資金提供(経済的助力)を求めることが予想される。さらに、労働関係の存在をめぐる争いがある場合、立証責任は将来的にプラットフォーム運営者が負うことになる。ただし、これらは同省の提案レベルに留まっており、今回の判決後も実施されるかどうかは不明である。同様に、どれだけのクラウドワーカーが実際に被用者の権利を請求するかについても、今のところ不明である。

参考資料

  • Frankfurter Allgemeine Zeitung vom 09.12.2020, BMAS(27. November 2020), Law Business Researchほか。

関連リンク先

本判決に関するさらなる詳細をお知りになりたい場合は、以下のリサーチアイを参照して下さい。

JILPTリサーチアイ 第61回「クラウドワーカーは「労働者」か? ─連邦労働裁判所2020年12月1日判決」
労使関係部門 副主任研究員(労働法専攻)山本 陽大

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