2010年労働争議、前年より大幅減
―過去5年で最低水準

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2011年9月

経済社会科学研究所(WSI)によると、2010年の労働争議参加者数は、前年の約40万人から大幅に減少し、約12万人だったことが判明した。労働損失日数も前年の39.8万日から17.3万日と約6割近く減少し、過去5年で最低水準となった。この要因について、WSIは「年初の金属産業交渉で、労働争議もなく短期間で妥結したことが、続く交渉に影響を与えたためではないか」と見ている。

2010年の主な労使交渉

昨年の金属産業の労使交渉は、金融危機の影響が強く残る中で行われ、内容は「賃上げ」でなく「雇用維持」と「職業訓練」に集中した。そのため交渉期間は驚くほど短く、前回協約期限の4月よりはるか前の2月に労使合意が成立した。

その後、約210万人の公務労働者が適用を受ける公共部門の労使交渉でも、所定の手続きに従った紛争解決が図られ、一部6万人規模の警告ストが実施されたものの、大規模なストライキには至らなかった。

秋の鉄鋼産業の労使交渉は、景気―特に鉄鋼産業―の急速な回復の兆しが見られる中で行われた。そうした景気の追い風もあり、1.7万人の小規模な警告ストが実施された2日後には、3.6%という高い賃上げ率で合意が成立した。

近年の労働争議の傾向

労働争議に関するここ数年の傾向を見ると、労働時間延長に反対する公務労働者の大規模ストライキなどが発生した2006年をピークに、年々減少している。

この他の特徴としては、労働組合の組織率低下とともに従来の中央集権的な団体交渉が減り、小規模の労働組合や企業レベルの団体交渉が増加した。その結果、各々が小規模のストライキを実施するなど紛争が長期化するケースも増えている。例えば、建設関連のコンクリート部品を製造するBetonwerk Westerwelle社の企業レベル交渉は合意までに約90日かかり、病院を運営するMZ-Service社でも合意まで約100日近くを要した。

他にも、ここ数年はサービス産業(特に女性労働者が多い育児・介護・医療、教育、清掃)で労働争議が多発している。労働争議参加者の女性割合に関する明確なデータはないが、WSIは「ここ数年の主だった労働争議にはサービス産業の女性労働者が多く参加しており、その傾向は強まっている」と見る。

BAとWSIの発表値に差、増減傾向は類似

表1、および表2は、経済社会科学研究所(WSI)と連邦雇用エージェンシー(BA)が発表した労働争議に関するデータ比較である。

表1.労働争議による労働損失日数の推移(2004-2010年)
(WSI推計/BA公表値)

表1・図

出所:連邦雇用エージェンシー(BA)、経済社会科学研究所(WSI)

WSIデータによると、2010年の労働損失日数は約17.3万日で、前年の約39.8万日から約57%減少した。一方、BAデータでも、2010年は約2.6万日と数値は大幅に少ないが、前年の約6.4万日から約59%減少した(表1)。

表2.雇用者1000人当たりの労働損失日数(年間平均、および2006~2010年の平均)
(WSI推計/BA公表値)

表2・図

出所:連邦統計局、連邦雇用エージェンシー(BA)、経済社会科学研究所(WSI)

次に雇用者1000人当たりの労働損失日数を見ると、WSIデータでは2010年は年間4.8日(年平均)だったが、BAデータではわずか0.7日となっている。2006~2010年の過去5年間の平均は、WSIが19.6日であるのに対し、BAは5.3日となり、やはり数値に大きな差が生じているが、ともに2010年の値は過去5年で最低値となっている(表2)。

このようにWSIとBAのデータは、増減傾向は類似しているが、その数値には明らかな差がある。これは両者の統計手法が異なるためで、ドイツではストライキやロックアウト(注1)の開始と終了を「使用者」が連邦雇用エージェンシーに報告する義務がある。さらに報告された中で公式記録となるのは、基準を満たした一部のみで、「1事業所当たり10人以上の従業員が参加し1日以上続いた場合」、もしくは「人員や期間に拘わらず1事業所当たり100日以上の労働損失が発生した場合」となっている。そのため、よく行われる警告ストのような数時間程度で終わるストライキは公式統計に含まれない。

一方、WSIデータは、主に「労働組合」から提出された報告に基づいている。労働組合から情報が入手できない場合は、報道に基づき実態に近い労働損失日数を算出している。ただ、WSIであっても全ての労働組合や未組織企業レベルの労働争議を把握できるわけではないため、発表の際は「推計」としている。また、労働争議参加人員については、労働組合側と使用者側の発表数値の差が大きいため、労働組合の数値をそのまま使用するのではなく、組合が労働争議中に賃金補償を支払った組合員数などを考慮しながら算出している。

このように、「労使どちらの報告数値を用いるか」、また「警告ストのような短時間の労働争議も含めるか否か」などの統計手法の違いが、両者の数値の差につながっている。

2011年も労働争議は低水準の見込み

WSIでは、2011年も労働争議は低水準まま推移すると見ている。実際に2011年前半の段階で特に大きな労働争議は生じていない。

また、ここ数年の傾向として、主に企業レベルの団体交渉で小規模な労働争議が生じて解決まで時間のかかるケースが増えている。こうした事態を憂慮したドイツ労働総同盟(DGB)とドイツ使用者団体連盟(BDA)の双方は、小規模な労働争議の多発を防止するための規制を求めている。

資料出所

  • eiro:european industrial relations observatory on-line(05 August, 2011), WSI-Arbeitskampfbilanz 2010(Pressemitteilungen 04.05.2011)

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