労働市場改革をめぐる労使交渉開始:焦点は労働契約改革

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係労働条件・就業環境

フランスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2007年10月

労使による労働市場改革をめぐる交渉が、9月7日からスタートした。労働改革の際に政府と労使全国組織の事前協議を義務付ける「労使対話の現代化法」を前提に、労使対話の優先路線を強調するサルコジ大統領は、労使に3カ月の交渉期間を示した。労使は毎週金曜日に、国内最大の経営者団体であるMEDEF(フランス企業運動)の本部(パリ)で、労働契約や解雇法制、雇用にかかわる公共サービスなど労働市場改革に関して話し合う。なかでも労働契約改革は最重要テーマとされている。

フランスの労働契約は、大きく分ければ、「期間の定めのない契約(CDI)」と「期間の定めのある契約(CDD)」のふたつ。使用者は労働者の適性を確認する目的で試用期間を設定できる。しかし、CDIについては、試用期間は「常識の範囲内」と定められているに過ぎず、業種別労働協約で定められている場合が多い。一方で、解雇規制が非常に厳しく、企業が採用を控える原因にもなっていると指摘されてきた。

こうしたなかで、零細企業の雇用促進を目的として2005年に導入されたのが、新規雇用契約(CNE)である。CNEは、従業員20人以下の企業が対象で、2年の試用期間を伴う期間の定めのない雇用契約。企業は、試用期間中に理由の説明無しに解雇することができ、試用期間後は自動的に標準のCDIへ移行する。CNEの雇用創出効果を主張する政府は、労働契約の改革をさらにすすめたい考えだ(注1)。

複雑な雇用契約の存在が、フランスの労働市場の硬直化を招いているとするサルコジ大統領は、常に労働契約改革の必要性を主張してきた。企業には解雇規制を緩和するとともに、従業員に対しては失業期間中の生活を保障するという内容の労働契約の導入に積極的で、これは北欧諸国で実践されている「フレキシキュリティ(flexsecurite)」の原則に則った考えであると政府は説明している。

サルコジ大統領は「今回、労働契約に関する交渉に着手することは、使用者にさらなる自由と将来予測の可能性を与え、そして労働者の保護を強めることが目的」と主張している。

使用者側は試用期間の延長を提案、労組は猛反発

MEDEFは9月13日、労組側に労働契約改革の具体案を示した。企業のニーズに応えるために、労働契約にかかわる規則の緩和・簡素化を求めるMEDEFは、「十分な長さをもつ一貫性のある試用期間」が必要とし、まず、現在は業種によってばらばらのCDIの試用期間を半年から1年くらいにしたい意向だ。この期間はCNEの試用期間の二年より短いが、現在の実態よりも長い。この試用期間のあとに「経済的有効化期間(periode de validation economique)」の設定も打ちだしている。この二段階の試用期間の導入は、企業の業績悪化等に対応するためであり、この二重の試用期間を経た後で、従来の期限の定めのない契約(CDI)の標準規則に準ずるものになる、とMEDEFは説明している。これはサルコジ大統領がかねてから主張している「単一労働契約」の線に沿った内容といえる。

これに対し労組側は強い反発を示している。CGT(労働総同盟)は「使用者側にだけ有利な提案」だと批判、MEDEFの示す「経済的有効化期間」が長期化し、企業の競争力を保全するという名目による解雇につながりかねないとの懸念を示した。

試用期間の延長のほかに、MEDEFは「ある特定の目的の実現のために結ばれるCDIの導入」も提案している。建設業で行われている工事単位契約のように、プロジェクトの完了をもって契約は終了となり、その期日は予め定められない。CDIといっても、企業にとっては契約終了に関してより融通がきくものとなり、解雇が容易となる。CFTC(フランス・キリスト教労働者同盟)は、「労働者にさらなる不安定性を強いる契約」と強く反発した。

労使の交渉期間は3カ月、政府の介入は避けたい労組

使用者側の提案を受けて、労組側は「MEDEFはかなり急いで『過去との断絶(rupture)』(注2)のテーマに取り掛かりたいようだが、まず取り上げるべきテーマは、労働市場に新たに参入する人や仕事のない若年者の社会統合である」と批判。CFE-CGC(フランス管理職同盟)は、「(MEDEFの提案には)見るべき点は何もない」とし、10カ月に及ぶ予備折衝において使用者側と議論されたことが何ひとつ反映されておらず、労働契約だけをターゲットに据えたMEDEFの提案に強い反発を示した。

年内に労使間で話がまとまらなければ政府が介入することになる。残業規制緩和やスト時の最低限の運行義務付け、移民法改正案(注3)など、法案のスピード審議・可決が続くなか、政府が介入すれば使用者側に有利な労働契約改革の実施も早急に決定しかねない。労組側にとっては、この筋書きはどうしても阻止したいところだ。

関連情報