出産給付金・育児休暇給付金

カテゴリー:非正規雇用労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2004年11月

背景

社会民主党が1930年代前半に政権の座に就いた際、その家族政策は稼ぎ手としての男性、家庭の守り手としての女性という図式を前提としていた。例えば、主婦には主婦のための休暇を取る権利が認められており、厨房の設計など、家事労働を容易にするための公的活動が実施された。貧困家庭の子供たちには田舎での夏期休暇が与えられた。公共福祉政策、すなわち生活扶助金に基づく社会保険制度が検討・導入されたのは1950年代後半のことである。それによって、労働党は中産階級、ホワイトカラー、学識経験者の政治的支援を集めるに至った。

当時、公共福祉給付金に関する主要財源は所得税であった。健康保険及び失業保険による生活扶助金は、最高で給与総額の90%まで引き上げられ、現在では、健康保険については1カ月当たり2万5000スウェーデンクローネ(SEK)(注1)、失業保険については1カ月当たり2万SEKとなっており、更に政府は、経済状況が好転し次第、増額することを約束している。しかし、現在、景気が回復しつつあるとはいえ、1990年代初めの経済金融危機と不況の影響で必要な上限の引上げが難しい状況が続いている。スウェーデンが保険制度による生活扶助金支給政策を維持するとすれば、その上限を健康保険と失業保険両方とも3万SEK以上に引上げざるを得ない。引上げが実施できないことによって、給与水準の高い労働者が保険料の安い補足的な保険を購入するという状況を招いているが、その原因は、給与水準の高い労働者は、給与水準の低いブルーカラー労働者よりも失業や傷病の危険性がかなり低いことにある。ブルーカラー労働者が補足的な保険を購入するとすれば、失業率と傷病率が高いことから、その保険料は相当高額になるはずである。従って、公的保険制度に関する給付金上限の引上げもしくは公共福祉政策の転換を図る必要がある。

非社会主義政党は、今回の予算審議において、2006年の総選挙に関する共通の方針を固めつつあり、民間保険の活用を奨励し、傷病手当と失業手当を極めて低く抑える政策を掲げることで一致している。政府は、現行保険制度に対する全般的な評価を実施し、その見直しについて検討する国家(王立)委員会を設置した。同委員会の結論は、2006年の総選挙後の2006年11月までに提出される。総選挙で与野党いずれの陣営が勝利しても、定額自己負担の引上げを含め、将来の健康保険制度は国家予算から切り離され、補足的年金制度のように、給付水準は経済成長率に応じて決まることになる。

非社会主義政党が政権を握っていた1990年代初めには、傷病手当と失業保険給付金の上限は給与総額の75%まで低下していたが、現在は80%まで引上げられている。労働組合の多くは、傷病手当を補助する労働協約を定めているが、最近では、雇用手当も補助する労働協約を定めている労働組合もある。それらの手当は課税対象となることから、健康保険と失業保険制度のいずれからも相当の再分配効果が期待できる。

1950年代の福祉戦略の転換には、男女平等の重視、地方政府の新たな役割、労働力の供給増大に関する戦略の転換、女性を巨大な予備軍として認識することなどが含まれる。労働組合は地方政府に対し、託児施設の開設を強く要求する運動を展開した。その後、中央政府は地方政府に対し、必要なすべての家族を対象に託児施設を設置することを正式に義務づけた。それと同時に、出産給付金を育児休暇給付金に置き換えること、すなわち育児に関する責任を母親と父親の間で分担することは当たり前のこととして捉えられるようになった。家事という無報酬の労働の多くが、公共部門における有給労働に姿を変えたことで、女性の労働力参入は急速に高まったといえる。

給付金の実態

妊娠した女性については、労働環境規則に基づき、自分の通常の職務を全うすることが難しくなる場合もしくは妊娠したことによって、その職務を継続して遂行することができないような身体的負担を伴う場合(重い物を持ち上げる仕事や反復作業など)、他の職務に移る権利が与えられる。

他の職務に移ることを希望する場合、雇用主が労働組織を変更できるように、1カ月前までに自分の状態を雇用主に報告する必要がある。職場環境によるリスクが低い職務が見つからない場合もしくは妊娠によって自分の作業処理能力が25%以上低下する場合、最低で50日の妊娠手当(傷病手当に準じる)を受給する権利が与えられる。

最終的に出産給付金に代わる育児休暇給付金が初めて導入されたのは1974年のことである。傷病手当と同様、出産給付金額は育児休暇を取る親の給与水準に応じて決定される。その給付金は課税対象となり、年金計算の基礎の一部となる。

当初、給付金付きの育児休暇期間は6カ月であったが、1976年、1978年、1986年、1989年、2002年にそれぞれ7カ月、10カ月、12カ月、15カ月、16カ月(480日)まで延長された。1992年の出産給付金の上限は給与総額の75%(傷病手当と同様)に削減されたが、1996年には再び80%まで引上げられた。就労又は失業中かを問わず、育児休暇を取るすべての親に支給される最低給付金額は1日当たり60SEK となっていたが、2005年1月1日から180SEKに引上げられる。

1990年代には、育児休暇日数は両親いずれか一方のために充てられていた。ある月に育児休暇を取らなければ、その月には育児休暇を取れないことになっていた(父親に子供の世話を婉曲に強制することを目的とする改革といえる)。2002年には、育児休暇の16カ月目は男女平等を重視した育児休暇制度のために充てられるようになったが、そのような改革は男女を問わず広く受け入れられた。

給与総額の80%を上限とする育児休暇給付金は、2006年7月1日には現在の2万5000SEKから約3万3000SEKに引上げられる予定である。その時点で、その上限の適用対象となる親は全体の90%を上回るものと思われる。

勤続年数が短い場合であっても、育児休暇を取る者が解雇されないとする雇用保証は、追加の17カ月目と18カ月目を対象とするものであり、給与水準とは関係なく180SEKという最低給付金額が保証される。給与水準に応じた給付金の上限は、現在の605SEKから880SEKに引上げられる予定である。

育児休暇日数は、子供が満8歳になるまで分散して取得することができる。

育児休暇が保証されたことによって、両親は12歳未満の病気の子供(重病の場合には18歳まで)を世話するために給付金付きの休暇を取り、1年当たり120日を上限に育児休暇臨時給付金を受給することもできる。専門家は、この給付金は悪用される恐れがあるとすでに警告している。親自身が病気の場合でも、その親が、給与水準に応じた2万5000SEKを上限とする病気休暇中の手当に代わって、給与水準に応じた3万3000SEKを上限とする育児休暇臨時給付金の支給を受けるために、病気の子供の世話をするという名目で休暇を取る可能性がある。しかし、それについては健康保険当局が容易に監視できる態勢にある。育児休暇臨時給付金の受給者が同時に託児施設に子供を預けることはできないことになっているからである。健康保険制度の運営には膨大な費用を要することから、18の準民間健康保険基金は2005年1月1日付で、国民社会保険局(RFV)に統合される形で国有化されて行政機関の1つとなった後、極めて厳格な管理を実施する予定である。

家族政策プログラムには児童手当も含まれる。2005年度予算では、第1子に関する1カ月当たりの手当額は100SEK引上げられて1050SEK、第2子については2200SEK、第3子については3600SEK、受給対象年齢は18歳までとなっている。

パートタイム労働について、就学前の子供を持つ親は、自分の労働時間を減らす権利も与えられる。そのような親が1日の労働時間を減らして80%の労働時間で働くことは、極めて一般的なケースとなっている。

問題点

職務に最適の能力を備えている女性であっても、妊娠している女性の場合、雇用主がその採用を控えること、妊娠したことを理由に女性を解雇すること、育児休暇明けに出社した子供を持つ労働者を解雇する場合の口実として、労働組織の変更や仕事の不足を引き合いに出すことなどは、決して珍しいことではない。労働組合の主な課題の1つは、職場と全国の両レベルでの法令遵守を徹底させることである。もう1つの課題は、職場において一般的な賃金引上げがある場合、育児休暇中の労働者を無視して進めないよう監視することである。

労働組合は採用手続きで弱い立場にあり、育児休暇明けで出社した社員が、休暇中に実施された労働組織の変更に伴う仕事の不足を理由に、雇用主から解雇されるような場合、組合員の雇用を保護することが難しい状況にある。労働裁判所にその種の不当解雇訴訟を提起しても勝訴する可能性は極めて低いのが現状である。そのような問題については、公表された雇用保障法(LAS)の改正によって対処することになる。

その一方で、スウェーデンの多国籍企業を含む多くの経営者は、男女を問わず、十分な教育を受けた労働者に対して、育児休暇給付金を最高で給与水準の100%まで補完することで、子供をもうけて育児休暇を取るよう奨励している。

育児休暇法が成立した1974年には、家庭外にある託児施設に預けられている子供の数は全体のわずか15%に過ぎなかった。現在は、1歳から5歳までの就学前の子供全体の80%が公営の託児施設に預けられている。そのような進展は、女性の雇用の増加と労働力率の上昇に伴う動きである。

1976年から1991年にかけて、7歳未満の子供を持つ25歳から34歳までの女性の就業者数は23万5200人から27万4800人に増加する一方、25歳から34歳までの女性就業者数は35万4300人から34万5200人に減少した。25歳から34歳までの男性の就業者数についても、54万9600人から46万4200人に減少した。子供を持つ男性の就業者数について、同期間を対象とした統計資料は明らかになっていない。

女性就業者総数は、1975年の170万人から1990年には220万人に増加する一方、男性就業者総数も、230万人から1990年にはピークの240万人まで増加した。

イデオロギー

しかし、給付金付きの育児休暇日数の延長とそれに伴って増加した公営託児施設は、正社員として働きキャリアを積んでいく親にとっての単なる「子供預かり所」という存在だけにとどまらない。それは、ある種の学校でもあり、子供たちは「子供対象の男性優位性」と称される平等イデオロギーにさらされることになる。公営託児施設は、子供たちを地域社会に適応させる学校としての役割を果たしている。

託児施設で預かる子供たちのグループの人数や職員の能力などは、この制度を成功させるための基本的要素である。政治的方針の異なる様々な地域社会が、質の異なる託児サービスを提供しているが、公的制度の質の高さを維持できるかについては、住民が税金を納めても惜しくないという気持ちになるかどうかで決まるものである。政府は今年の予算編成で、学校と託児施設両方の職員の増員を図る上で地方政府に必要な財源を割当てている。一般政府予算の補助金は、地方政府の意欲を低下させ、地方税収の減少を招く傾向がある。

重要なことは、両親自らが幼い子供たちの教育と託児施設の運営に携わることである。これが現在、ブルーカラーの労働組合が主導する男女平等運動が、育児休暇に関する新方式(育児休暇日数のうち、父親と母親それぞれに対する日数を3分の1ずつとし、残りの3分の1は家族で決定するという方式)の確立を訴えている理由である。父親と母親のいずれかが、その3分の1(現在4カ月)の育児休暇を取らなければ、その家族は、対象となる給付金付きの育児休暇を取ることができなくなる(1990年代に導入された現行の限定期間は、父親と母親それぞれに対し2カ月)。

しかし、スウェーデン労働組合総連合(LO)総会の投票結果を見ると、新方式導入案を支持した組合員は過半数を大きく上回っている。実際、給与水準の低い男性ブルーカラー労働者は、子供が生まれた時点から給付金の支給を受ける権利が与えられているにもかかわらず、現行2カ月の限定期間はもちろん、給付金付きの20日間の育児休暇すら取ろうとしない。給与水準の高いホワイトカラー労働者や専門職労働者は、上限をかなり上回る給与を得ているケースが多いため、財政的負担が大きくなる場合であれ、ブルーカラー労働者よりもかなり高い割合で育児休暇給付金を受給している。子供を持つ男性労働者は現在、有給育児休暇の全日数のほぼ20%を消化している。

託児施設、育児休暇法及び児童手当によって、女性の労働力率は確実に上昇している。しかし、女性の大多数はパートタイム労働を選択するか、労働時間が週当たり40時間以内の労働を引き受けざるを得ない状況にある。労働時間が不安定なケースの多いパートタイム労働を強いられるという状況は、公的部門だけでなく民間部門でも極めて一般的なものとなっている。労働組合は、「権利としてのフルタイム労働、選択肢としてのパートタイム労働」をスローガンに、フルタイムで働けない状況の打開を目指す運動を展開している。現在、そのような問題に対処する法案の作成が進められている。

その一方で、女性が自分の意思でパートタイム労働を選択する場合、様々な理由で、その女性の夫が無報酬の家事労働を分担することを拒むケースや夫に割当てられた育児休暇を取らないといったケースも少なからず見られる。育児休暇制度を評価していた青年社会主義者同盟の前代表が率いる全国委員会は、2005年初めに提出予定の報告書の中でLO方式を提言する考えだが、2006年の総選挙前に、その問題に関する政府案が提出される可能性は低い。

非社会主義政党が次回総選挙で勝利して政権を握るとすれば、法律改正については、家族を対象とした公営託児施設を減らし、給付金を増やす方向、すなわち「ママは子供と一緒にお留守番」と称される方針を含む、個別的な解決策を模索するために、児童手当を増額する方向に向かうものと思われる。

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